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| 『魑魅魍魎会議・前夜』 DEEPBLUE様より |
■魑魅魍魎会議・前夜■
「……つーわけだからさ。君、えっと、カツヤ君? ちょっと行ってぱっと済ましてきてくんないかな」
ウデは良いが頭と根性の悪い師匠に呼びつけられて、オレはまったくもって突然に日本行きを申し渡されていた。
「色々言いたいことはありますが、まずはそろそろオレの名前くらい覚えて下さい、先生。そんな名前の双子の弟はいません」
「出来るでしょ? うん、まーほんと楽勝。だいたいあれ、あそこのアレは代々君んとこのお家がやってたって言うじゃない。義務よ義務。かっこ良く言うと運命。ユアディスティニー」
「いや待って下さいよ。オレまだ見習いで、ロクな魔法知らないんですけど。調停者ったって、目の前でそんな妖怪変化どもに妖怪大戦争されたら止められませんよマジで。むしろ喰われる。骨まで余さず」
「いや大丈夫大丈夫。契約とかあるし、一応手出しとか出来ないことになってるから。まあ、建前としては。うんまあ、たしかに前例が無いわけじゃないけど」
「大丈夫って言葉の意味を辞書で引いて、ノートに百ぺん綴ってもらえますかね先生」
「心配なら、君の使い魔達連れてけばいいじゃない。でもね、あれ、前から言いたかったんだけど、ナマイキだよね君。まだ見習いのくせに、あんなに高等なの4匹も連れてさ。僕なんかアレよ。黒猫一匹飼うのに、10年もかかったよ。10年。弟子入りしてから。死んじゃったけどさ、馬車に轢かれて」
「いや、だってあいつら爺さんの遺産っていうか遺品ていうか……みかん箱に入れて捨てちゃうわけにもいかないですし……」
ていうか、使い魔交通事故にあわせる魔術師ってどうよ。
「あんまり悔しいから、この前つい君の文通相手の彼女に、君のパソコンから『君とは遊びだった』ってメール送っちゃったよ。ごめんね、本当」
「あんたかあれーっ!?」
洒落にならないカミングアウトに、声を張り上げてしまうオレ。
思わずクソジジイの黒ローブの襟首掴んでしまうオレを、一体誰が責められようか。
「反省してるよ。反省してる。ほんと一時の気の迷いっていうか。最近欝気味でさ、病院通ってるのよ。ストレスってやつ?」
「魔術師が現代医学頼るな! 薬ぐらいてめえで煎じろ! ていうか、あの後のフォローに国際電話代幾ら使ったと思ってやがんですか!?」
「なんだよ、君こそそんな現代科学に頼りきって。カラスくらい飛ばせるでしょ?」
「彼女は一般人。伝言相手が魔術師じゃなけりゃ、そんなんただ回りでカーカー鳴いてる薄気味悪いカラスです」
「まああれよ。魔術師が現代科学使っちゃいけない法はないですよ。僕らだって、魔術師である前に一人の現代人なんだから」
「当年とって200歳の爺に現代人名乗られたかないですけど、それはもういいです。話を戻しましょう」
「じゃあ、行ってくれるんだね? アレよ。ついでに、久々に彼女にでも会ってきなさいよ。そしてしっぽりと。はてはずっぽりと。ええっちょっとそんなことまで!?」
「……おい、妄想すんなジジイ」
「達也君て意外と鬼畜なんだね」
「果ては妄想と現実を混同か、ジジイ」
「でも、牛乳使うのは良くないよ。ぬるま湯にしときなさい」
「……てめえひとの恋人捕まえて、脳内でどんなプレイさせてやがるコラ!?」
「あー暴力駄目よー暴力反対ー」
「……ともかく。協会からの手紙読みましたけど、これ先生への依頼でしょ? オレがまだ未熟だから、代わりにオレの師匠のあんたにお願いしてるんでしょコレ? それを本末転倒にオレに押し付けるってどうなんですよ?」
「えーだって、僕行きたくないもんあんな腐れド田舎。シュリケンとかセップクとか、マジ危ないし。写真とかも嫌いなのよ僕。撮りまくってるんでしょ? みんなして往来で」
「あんたが、非常にわかりやすく屈折した日本イメージを抱いていることはよくわかった」
「あと僕、忙しいのよ来週。ほんと多忙。あれだよ、来週『ゴルドラック』の再放送の最終回。観なきゃまずいでしょ、人としてさ」
「それは原題『グレンダイザー』と申しまして、あなたのおっしゃる腐れド田舎の日本の作品です」
「うそ!? いや嘘でしょ? 日本の絵見たことあるもん、ヒロシゲとか。僕のマリヤは、あんなヒョウタンみたいな顔してないよ。だいたい、日本の話ならキャラがチョンマゲしてるはずでしょ?」
「どうでもいいですが目の前のオレがその日本人だって意識して発言してるかこの腐れアングロサクソン」
「まあいいよ、いいよそれは、君がそう信じてるなら。じゃあ頼むね。向こうさんには、僕から連絡しとくからさ」
「いや、しかし……」
「所詮田舎だからさ、大したのいないよ。狐とか狸とか、そんなんばっかしだからさ」
「でも、最近カトリックの始末屋があそこに飛んだって噂が……」
「あ?ああ、あれ。何かさ、アカシャの蛇の転生先が見つかったんだって。なんであんな田舎にねえ」
「……さきほど大したのいないって言ったその口であっさりと何おっしゃってますか貴方」
「大丈夫だよ、心配性だね君も。君行くのトーキョーでしょ?アレはもっと地方の町だって言うからさ。だいたい、そんなの集会には出てこないし。来たら怖いよね。アハハハハ」
「じゃあ、他には。何か無いですか。ていうか、あるんでしょう?あらいざらいぶちまけやがれコラ」
「んーまあ大した騒ぎはないよ、イナカだしね。あそこのバクダンて言えば海の底の"ナイン・テイルズ"だけど、今のところ結界の中で大人しいもんだし」
「それだけじゃないでしょ。宗教組織がいくつか、危険団体として協会に監視されてるでしょ」
「ああ、"FARGO"とか"イダリ"とか……あと、なんだっけ? "ファントム・ソサエティ"って宗教だっけあれ?まあ、モノホンの能力者飼ってるみたいから一応、ってことでしょ?どこにでもあるって、そんなん」
「あんまりどこにでもあってもらっても困るんですが」
「……あー。そういえば、ちょっと牛種と竜種が日本で喧嘩始めたって話は聞いたけど」
……それは大宇宙レベルの一大事だ。
「……あんた、黙示録級の大問題を何あっさりと、お昼にみのもんたが言ってましたって感じの口調で」
「だってどうにも出来ないもん、僕には。協会がなんか対策立ててるでしょ、きっと。竜王の覚醒に刺激されて、ついでに日本のチンピラ龍族も色々目ぇ覚ましてるらしいね。一匹はたしか、町ひとつ洪水で沈めかけたところで牛種の系の術者にブチ殺されたって話だけど。あーでも大丈夫だよ。元凶の竜王達は、もう日本出ちゃってるらしいからさ」
チンピラでもドラゴン相手は嫌です。せめて、ドラゴンスレイヤーみつけて熟練度255にしてからでないと。
「ほら、新聞見たでしょ君も? 原子力空母が空飛んだってさ、あれだよ。アハハハハ」
「笑い事かボケジジイ」
「でも本当、何でこんな遠くに住んでる僕に頼むんだろうねえ協会もさ。いくら君預かってるって言ってもさ。いい迷惑だよね本当にさ。あっちには、"オレンジ"とかいるらしいじゃない?なんで地元の人に頼まないのかね本当にさ。いやだいたいね……」
「…………あー、えと……じゃああの、失礼します……」
いつも通りの愚痴独演ショーになりかけたのを察したオレは、早々に部屋を立ち去ることにした。
というわけで。どうもオレは、魔術師的に色々と剣呑な日本に帰省して、妖怪変化どもの集会を仕切らねばならないらしい。そういうのって、鬼太郎とそのオヤジがやってくれてたんじゃなかったのか。
止む無く、オレは爺さん譲りの使い魔達に、我が秘術をもって日本への随行を命ずることにする。俺一人じゃ心もとないし。
この場合の秘術とはつまり、成年男子のファイナルベント。
土下座だ。
「というわけで、マジ頼む。オレを守ってください」
ここまで使い魔に卑屈な術者というのも、ちょっと思いつかないですよ我ながら。
「止むを得ないな。了解した杉本達也、スペードの名において、君を補佐する」
ありがたくも、一肌脱いでくれるらしい。トカゲなだけに。
「ダイヤノナニオイテ。オレモマモッテヤルゼ。アンシンシナ」
「え。イナゴも脱皮ってするの?」
「……スルガ、ソレガナニカ?」
了
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