小説目次


『〜幻獣辞典/訳者覚え書き〜』
こあとる著
<MAIL>





 

 ホテルの部屋に戻ると、メザがごそごそやっていた。

「何やってんだ、メザ」
「おお、キミか。実は金が無くなってきたので金策をね。
 ――ほら、コレだ」
「……鉢植え……?」

 ガーデニング?
 にしちゃそっけねえ鉢植えだ。葉っぱが何枚か出てるだけ。

「それを売るってか。そんなん買わねえぞ誰も」
「いやいやとんでもない。別の使い方があるんだよ。
 さ、コレを思い切り引っこ抜いてくれたまえ」
「引っこ抜くのか?」

 ぐい、と俺に向かって鉢を差し出す。
 まあこんなものを抜くってだけなら、

 ずぼ。








 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。








「…………………はっ。何だ今のすげー声」
「おおっさすがは不死身の体。カウントセブンで復活だ。
 さあファイティングポーズを取れるか、取れるかーッ!?」

 …………。

「またテメエ俺を使ってロクでもないコト」
「ああっレフェリーの胸ぐらを掴んだ挑戦者っ。コレはイケマセンコレはイケマセン時間が無くなって参りましたので本日のところはコレで皆さんサヨウナラ。
 ……ハッハッ友よ何でそんなに剣呑な顔をして私に」

 (※しばらくお待ち下さい)


■『アルラウネ』の巻■


 (※お待たせいたしました)

「――で。この気味悪ィモノは一体何なんだ」
「(※しわがれた喘鳴とともに)……うぐぬぬぬぬ……次回はスポーツは芸術だと力説するオックスフォード大学の」
「とっとと吐かねえとチャンピオンに挑戦したケネス・クラーク男爵どころじゃ済まねえぞ」
「いや、つまりアルラウネなのだよそれは」
「アルラウネ?」
「ドイツの伝承にあるものでね。絞首刑台の下にだけ生えるヒトの形をした植物さ。
 引っこ抜くと絶叫を発して、その時一番近くにいてそれを聞いた生き物を殺してしまう――」
「てめ、この、やっぱりそーゆーオチか。
 またくだらねえ実験だったら今度こそ俺にも考えが」
「いや待ちたまえ待ちたまえ。ちゃんと今回は即物的で現世主義的で実利的だぞ。
 そいつを引っこ抜いた後で湯浴みさせ、金糸を織り込んだ白布で包むんだ。
 伝承によると、一日三枚の金貨を生んでくれるとか」
「……ほう。なんかモノスゴクインチキ臭いが、そういうことならな」
「そうだろうそうだろう。では早速だがコレも頼む」

 仕切り部屋のカーテンを開けると。

「……いつの間にこんなに」
「これだけあれば一日五十枚は固いッ。さあっ、どんどん引っこ抜いて金の市場も暴落だっ」
「抜けってんなら抜くけどな……いやなんか気が乗らねえつーか」
「そう言わず。騙されたと思って」
「お前のそのセリフはシャレにならん」

 仕方なく引っこ抜くことに。
 で。

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「……なあ、ひとつ聞きたいんだが」
「何かね?」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「……俺ひょっとして、スゲエ割喰ってねえか」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「気にしない。何せキミは別に死んでいるワケではなく」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「そういう問題じゃなくてだな、引っこ抜くたびに意識が遠のくのは」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「いくらなんでも、」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「気分のイイモノじゃ、」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「おいメザ、」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「何かね?」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「お前今、引っこ抜いたか?」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「いやとんでもない。私ではホントに死んでしまうのだ」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「じゃあさっきから何で別のところで声が」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「ああそれだったら、キミが引っこ抜いて放って置いたヤツが勝手にひょこひょこ歩き出して」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「なにっ。勝手に歩き出すのかひょこひょこ」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「おー、おー、しかも勝手に仲間を鉢から引っこ抜いて。
 なるほど植物には効かないのかあの絶叫。参考になるなあ」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「参考ってオマエそーゆー。
 つーかテメエ、何ひとりで部屋の外に出ようとしてやがるか。待てコラ」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「ちょっと用時を思い出しました。失礼ですがまた日を改めて」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「いきなり敬語になってんじゃねえっ。逃がすか」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「離してくだされ武士の情けでござるッ」「此処はイタリアだ馬鹿野郎っ」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「おいっメザなんかまとわりついて来るぞコイツらっ」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。

「さて問題。只今何匹目?」
「現実逃避してんじゃねええええええええええっっ!!?」

 ぎあ――――――――――――――――――――――――――――――――っ。








「おい」
「いろんないのちがー。このほしーにーいきてーいるー」
「この状況をどうやって打開すんのか考えてんだろーなテメエ」

 ……エラク頑丈な蔦でもって簀巻きに。
 周りでぐるぐる踊ってるのはアレか。謝肉祭か何かか。

「きょうもーはこぶーたたかうふえるーそしてーたべーられーるー」
「…………………俺らがな…………………」








 ――アルラウネは引っこ抜かれた後、生きてるのか死んでるのか。
 残念。シェイクスピアもトマス・ブラウンも書いてくれてませんデシタ。ちっ。

 つーかアルラウネと言えばピクミンだと思ってしまうのですが、如何(※逆だ)。

【幻獣辞典】訳者メモより。








 まあ、何とか死の淵からは生還できたのだが。
 オチとしては。

「……金貨?」
「時代に併せてくるとはなかなかどうして、彼らもイキじゃないか」

 一匹当たり3ユーロ。

「レート合ってねーだろそれはつーかそもそも思いっっ切り割に合っとらんわああああああああッ!!!」
「この不況の世の中、楽して儲けるネタなんて無いと言うことだね」

 叩きのめしておきました。
 明日こそいい日でありますように。
 嗚呼神様(※届いてマセン)。


 了



小説目次