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『D&D&D』 第10話 こあとる著 |
最後の『骸骨兵』が、倒れた。
『兵長』を含めた一団だった。その名の示すとおり人間の骸骨によって造られた、魔術的な存在だ。
何らかの原因で死んだ人間の死体から骨のみを摘出し、魔術的な儀式を施す結果としてできるのが、『骸骨兵』と呼ばれるものである。その強さは与えられた魔力や手にする武器よりも、材料となった素材によって上がるという。
素材。すなわち死因である。
その材料となった人間が、いかにして死んだのか。どんな死を迎えた者の骨を、材料として使っているのか──それがこの存在の強さに深く関連している。
痛みによって、死んだ者。
痛みは痛みでも、強烈な激痛に長時間襲われて悶死した者。
炎、もしくは何らかの熱によって焼け死んだ者。
とてつもない恐怖によって狂死した者。
『骸骨兵』となるべき儀式を施される過程で、どういうわけか死者の骨はその死因によって凶々しく染まる。あたかも、死の寸前の苦痛を伝えるかのように。
悶死した者は、くすんだ黄。焼け死んだ者は、燃える炎の赤。
そして狂死した者は、闇のような黒。
その色が濃くなるほどに兵士の戦いは鋭く、力強く、苛烈になる。色が濃くなるほどに兵士の骨は硬く、頑丈になる。ふたたび同じ死を迎えることを厭うかのように。
ジャミルの前に転がる骨片の色は、黒。圧倒的な恐怖に、心と命の両方を押しつぶされたものだった。
黒の『骸骨兵』の強さは、際だっている。身体を構成する骨は鋼のように硬質になり、手にした武器を振るう力は人間離れした破壊力を産み出す。訓練された兵士でも、到底かなうものではない。
本来黒の『骸骨兵』は造ることが難しいとされる。魔術的な手間はともかく、素材となる死体が滅多に見つからないからだ。
「狂気の末に自殺した者では、材料にならない。あくまで凄まじい恐怖によって、生命をすりつぶされた者でなくてはならんのだ。そんな死者がどれだけいるか、考えてみるがいい──」
『評議会』で教えを受けていた頃、ジャミルの師事していた導師はそう言った。
しかしここには、驚くほどの数の黒の『骸骨兵』がいた。かつては宮廷に仕えていた者か、あるいはレオリックに忠誠を捧げた騎士たちかは知らず、恐怖に命を奪われたということを示す者たちが。
──いや、無理もない。
ジャミルは黒く染まった骨片を手の平でもてあそびながら、考える。
ここで起こったことを思えば、職業、性の別なく、狂い死にするのも当然だ。彼ら──または彼女らにとってはそれほどの恐怖だったに違いない。
だが。
──ここで問題なのは、これだけの数の『骸骨兵』をどうやって造っているのか、ということだ。
誰が、とは考えない。考えるまでもないからだ。
ジャミルの記憶にある限り、このトリストラムで『骸骨兵』を造り上げることができるほどの魔術師などひとりしかいない。
ラザルス・ザ・アークビショップと、呼ばれた男。
ジャミルが生徒として『評議会』に列席していた当時でも、この儀式を行えるのはほんの一握りの人間だった。
理由は魔力の高さの問題ではなく、制作過程における儀式が非常に特殊なためである。通常の魔術とは、展開方式が違うのだ。
もともと『骸骨兵』の制作方法が確立されたのは、『生屍人』の発生に端を発する。
今よりはるかに昔、地上に地獄の魔物たちがあふれた時、同時にあるひとつの現象が各地で共通して起こった。
強力な魔物の出現と前後し、墓場から次々と死んだはずの人間が甦ったのである。それも意志無く歩き回り生者を襲う、命を失ってから永い年月にさらされた姿そのままの怪物として。
『生屍人』と名付けられたその新しい魔物は当時の魔術結社によって徹底的に調査分析され、幾度にも渡る魔術師たちの議論の結果、その出現理由と条件が特定された。
強力な悪魔が出現する際、その悪魔の周囲に常に発生し続ける局地的な地獄の『波動』、もしくは空間の現出が地上の定理そのものを歪める。その定理の歪みが、魂のすでに去った『器』にふたたびねじれきった魂を呼び戻す──これが魔術師たちの出した結論だった。
すぐに『生屍人』への対策が見当され、対抗呪文が研究されだしたが、その一方でこの奇妙な現象をより深く研究する者もまた現れた。
呪文と儀式によって一定空間上で擬似的な『波動』を構成、地上の定理を故意に歪めて死者を動かす。後に禁忌の呪文として弾圧されながらも、体系づけられるほどに発展することになるネクロマンシーの、これが始まりであったのだ。
その儀式の詳細はジャミルも知らず、しかし、その儀式に要する魔力の高さは推測できる。ここに出現する『骸骨兵』の数から考えると、一体一体造っているとはとても思えなかった。
──やはり別の方法を取っている………か?
何度か検討を繰り返した考えを、まとめてみる。
──儀式上もっとも手間がかかる部分があるとすれば疑似波動の構成だが、要は必ずしも『疑似』である必要はない……。
疑似波動を構成して定理を歪めたあと、その状態で波動を魔術的処理を施した本体に固定させる。そうすることによって初めて『骸骨兵』は地上でも活動できるようになる。
それでは、仮にその場所が本来の地獄の波動に満ちているような場所であったとしたらどうだろうか。基本的な部分で『骸骨兵』が、『生屍人』と同じ原理で動いているとしたら?
「それほど強力な魔物を、この地上に召喚した?」
言葉に疑問を乗せてみる。やはり違和感があった。
『解体屋』は確かに強力な魔物だったが、それでもこの城すべての『骸骨兵』を動かし続けるだけの波動を出すとは考えにくい。
「やはり『通路』があると見るべきだろうな」
そう、もっと簡単な方法がある。地獄の波動をこの世界に現出させる、簡単な方法が。
通路とジャミルは言ったが、どちらかといえば『穴』だろう。この地上と地獄とを一直線につなぐ、どこまでも降りていくような巨大な深い穴を開ければいいのだ。
穴から吹き出た地獄の波動は、魔物たちの廻りに渦を巻いて集う。そして、死者たちを動かす。
何よりその穴の底に、ジャミルの求める者もいるに違いないのだ。
──ならば、その穴を見つけよう。いや、その前に。
もうひとつある。『骸骨兵』たちが極めて統制された動きをすることだ。正確に人間のみを識別しての侵入者の排除、各階層の要所の防衛にと、その動きは無駄がない。
──『兵長』がいるということは、さらにその上……すべての兵を統率するものがいるはず。
おそらくは、魔術による命令系統のネットワークが張られているはずだった。動きに無駄がないように、命令に矛盾が生じないように。
それを断てば、『骸骨兵』の統率は乱れる。術式の組成方法によっては、無力化さえ可能かもしれない。
『骸骨兵』を率いる『兵長』、そしてそのすべてを一手に統率する存在──ジャミルはさして難しくもなく、その答えを見つけだした。
凶王、レオリック。
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