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『D&D&D』 第9話 間宮らいか著 |
「こりゃ凄まじいね」
ミキは、誰にともなくつぶやいた。
その部屋には、血の臭いが充満していた。
『堕したもの』『腐肉喰らい』『生屍人』『骸骨兵』それらの死体が部屋中に散乱していた。
それらは圧倒的な力で解体されていた。そう、まさしくそれは解体だった。
四肢をちぎり取られた者や、頭を握りつぶされた者、臓腑を引きずり出された者までいる。
死体は見慣れていたし、ミキ自身もかなりの数の魔物を切り倒してきた。しかし、その無造作とも思える破壊の跡には、さむけすらおぼえた。
圧倒的な力を持った何者かが、この城の地下から魔物たちを一掃しようと乗り込んできたのだろうか?
地下に入ってすぐの所では、かなりの数の魔物が強力な魔力の炎で、抵抗する間もなく焼き尽くされていた。それこそ、街を一つ火の海に出来るような火力だ。
それきり何の障害もなく、ドアを開けたらこの有様だ。
すくなくとも、人間離れした魔術師と格闘家をふくむパーティーが魔物を蹂躙しながら先行しているようだ。
魔物が襲ってこないのはいいが、素直に喜ぶわけにはいかない。
ミキは抜いたきりここまで使う必要の無かった剣を腰に戻した。先日、武器屋に持ち込んだ物とは違い派手な装飾は施されていない。しかし、その刃は魔法で強化されている。あくまで実用本位な品だ。
ミキの装備は実用重視な物ばかりだ。
小型な円形の盾は、バンドで腕に固定されている。これで盾を構えていないときは両手が使える。
ブーツは革製で、すねとつま先、かかとにそれぞれ鋼鉄で補強が施してある。軽さと防御力を両立させ、なおかつ蹴りに殺傷力を持たせてある。
彼女自身にも無駄という物があまりない。細身の身体は多少筋肉質ではあるが、それも鍛えたというよりは、戦闘を繰り返すことで自然についた筋肉だ。
つややかな黒髪は無造作に首の後ろで束ねてある。
左の中指にはめられた指輪が唯一の装飾品にみえるが、これすら身体機能を活発化させる魔法の品だ。
ミキの目的はこの城に手つかずで眠る宝を持ち帰ることだ。そのためには無駄と呼べる物は厳禁だった。
無駄な持ち物は一度に持ち帰れる物を減らすし、無駄な動きは体力の消耗をよび、探索の時間を減らす。
そして精神的な飾り、つまりプライドや虚勢も大きな無駄だ。
強がって判断を誤れば命を落とすことになるだろう。
そんな彼女のセオリーが、これ以上先に進むことをためらわせる。
先行している者たちが、魔物を倒しこの国に平和を取り戻すというような崇高な目的を掲げているならいい。しかし別の目的を持っていた場合、いくら魔物相手と言えどもここまで容赦ない連中だ、出会ってしまったらどんなことになるか解らない。いったん引き返して様子を見るべきか?
その場に立ちつくしてしばらく思案する。
「ま、いいか」
それがミキが出した答えだった。
ミキは慎重ではあったが、それ以上に楽観的だった。何時までも考えていてもしょうがないし、引き返してみても地下の様子は分からない。自分の目で確かめるしかないのだ。
そうと決まれば行動は早い。
再び剣を構え、慎重に次の部屋へと続く扉に手をかける。
扉を開いたところで、ミキは意外な者に出会った。
『堕したもの』の一団だ。
『堕したもの』は別に珍しい魔物ではない。むしろ浅い階層ではもっとも頻繁に出会う魔物だろう。
しかしミキの中に、前の部屋の惨状から次の部屋も似たようなものだろうという先入観があった。
そこから来るわずかな隙が、ミキの反応を鈍らせる。
『堕したもの』達は物音に気づいていたのだろう。扉を開けると獣のような叫び声を上げ、一斉に躍りかかってきた。
ミキは軽く舌打ちすると、突き出された短剣をかわし身を沈める。
その体勢から回し蹴りの要領で正面の敵の足を払い、よろめいた敵に下から剣を突き上げる。
『堕したもの』は呻くような声を出して絶命した。
それを確認する間もなく、剣を抜きざま後ろに転がる。
鎧が派手な音を立てるが、いくらかの距離を稼ぐことが出来た。
ミキの動きは止まらない。
立ち上がった次の瞬間には、手近な敵を盾で殴りつけていた。
盾で殴られてひるんだ敵の首筋に剣を叩きつける。
『堕したもの』の首筋からどす黒い血が噴き出し、今度は声もなく崩れ落ちる。
残りは三匹。
残った三匹の『堕したもの』はミキを囲んだきり動けなくなった。
不意をついたつもりが、あっという間に二匹の仲間が倒され迂闊に手が出せずにいるようだ。
しかしミキは、一瞬たりとも動きを止めることなく次の敵に斬りかかっていく。
ミキの剣技は、剣技と呼ぶにはあまりにも邪道だった。剣を振るう間に蹴りが入ってみたり、盾で殴り倒した上でかかとで踏みつけたりと、きちんと剣を習った者はまずやらないようなことをする。
しかしその戦い方は、ミキの一番の特長であるスピードを有効に使うためだった。
攻撃を始めたら絶対に止まらない。トリッキーな攻撃で相手に反撃の間を与えずに切り伏せる。
ミキはこの戦い方で今まですべての敵を倒してきた。
いわば戦いの中で身につけた、剣術というよりは戦闘術だ。
さらに二匹をあっという間に切り倒す。
すると最後の一匹が逃げ出した。
全く無防備に背中を向けて走り去る姿は、滑稽でもあり哀れでもあった。
それにほだされたわけでもないが、ミキは後を追わず彼らが潜んでいた部屋の物色を始めた。
その部屋は、他の部屋同様閑散としていた。
部屋の隅に粉々になった木箱が一つ。おおかた爆薬が仕掛けられていたのだろう。
迂闊にもたいして調べもせずに箱を開けようとした者が居たのだろうが、死体がないところを見ると運良くかわしたのか、『腐肉喰らい』に骨も残さず食い尽くされたのか、いずれかだろう。
どちらにしろ箱の中身らしき物は、何処にも見あたらなかった。
ミキは嘆息すると次の部屋に進もうとする。
しかし扉まであと数歩というところで、その足が止まる。
「なめるな!」
一声叫んで振り向きざまに剣を突き出す。
渾身の力を込めた一撃には、確かな手応え。
ミキの剣に串刺しにされているのは、先ほど逃げ出した『堕したもの』だった。
奴らはいつもそうだ。
ミキはうんざりとした気分で剣を引き抜く。
かなわないと見ると一目散に逃げ出すが、隙を見せると後ろから忍び寄り襲いかかってくる。
知能は低そうだがそう言うところは実に狡猾だ。
「人間も似たようなものか」
ミキは自嘲気味につぶやくと次の部屋へと姿を消した。
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