| ◆ | 深更にパソコンに向かいながら、自分の中から出てくる言葉にじっと耳を傾ける。気がつけば居眠りをしかけている。顔を洗ってまたコンソールに向かう。何かを書き始めるよりも、いかに書き終えるかを考えるほうがずっと難しい。手さぐりで探し回るうちに、ふと浮かんだ言葉。どこかで見たことのある懐かしい響き。記憶という海は、目に見えぬ糸で思わぬ事柄同士がつながっているものらしい。深夜に紡いだ織物は、果たして昼の光の下で見てもほころびがないものだろうか。不安と共に、朝を迎える。 |
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映画『夕凪の街 桜の国』を家族で観る。友人に教えられて原作に出会い、強く惹きつけられた。原画展に行き、作者の姿を遠くから拝見した。当時ちょうど出張があったので、作品の舞台になった場所を訪ね歩いた。公開を心待ちにしていた。最初は原作から飛び出したような風景に内心で歓声をあげていたが、やがてこみあげるものをこらえるのがつらくなった。存在感のある俳優らによって演じられる映像からは、観ている私の心をゆさぶる何かが放射されていた。 しかし今回、この思い入れは映画鑑賞にはマイナスにはたらいてしまった。そのことに気づいたのは、観終わったあとだった。現実と原作と映画。どれも同じではないと判っていたつもりで、実は判っていなかった。映画に正面から向き合えていなかったことに気づいて、製作者や出演者に対して申し訳ないという思いがこみ上げた。 次にこの作品を鑑賞する時には、きっとまっさらな気持ちで向き合おう。 |
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