●No.585 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ[全6曲](スーク(vn))。(2004/12/21)

 「J.S.バッハの無伴奏のヴァイオリンやチェロの曲を相手に、お酒でも舐めながら、しんみり自己のなかへと内省する時間を持ちたいとか。それもいいけれど、少し、深刻になってしまいそうです」と、私は先に書きました。深刻という心理状態は実に厄介なものです。作家の藤本義一さんのよく言われることばに、「真剣にはなっても、深刻にはなるな」というものがあって、私は日頃それをよく肝に銘じています。実際、深刻に陥って生まれるものは、自分の将来へのネガティヴなイメージばかりなのですワ。

 そうは言っても、ひとり部屋にこもって、深刻に陥ったことの経験のないひとなど、私も含め、いないであろうと思います。そこでそうなる前に「ひとり笑い」の術を私は用意しておく。自嘲とは違いますな。ショーペンハウエルの「随感録」(秋山英夫訳/白水社)に、こんな一節があります。「彼らがひとりきりでいるとき笑えないのは、空想力が欠けているせいであり、精神一般に活性さが欠けているためなのだ。動物はひとりでいても群れをなしていても笑わない。」また、動物は深刻に悩んだりもしないものです。

 「人間ぎらいのミュソンがひとりで笑っていたとき、ある男に不意打ちをくらった。どうしてひとりでいるのに笑っているのか、とこの男がたずねると、――『だからこそ笑っているのだよ』という返事が帰ってきた。」この話、私、大好きです。深刻もまた空想力豊かな産物、それを突き放して見て、ひとり笑う。人生なんて一場の夢、また一場しかない夢。いまはどうも、自分は低調な役柄を演じている時期らしいな……なんて考えてみる。バッハの無伴奏ヴァイオリンと差し向いに、しばし深刻になってのち、笑う。

 大バッハのこの曲には、そうしたカタルシス効果があると、私は思います。ああ、効果なんて書くのは不遜ですな。深刻さを相対化させてくれる、自身の鏡のような趣も、この傑作にはありますね。心許せる、大切な相手です。ヴァイオリン一丁でそれを為すのが、また粋なところです。このごろは、スークの弾いた涼しく端正な音色ながら、瑞々しく歌い込むもの、また、ツェートマイアーによる精細な線で斬れ味鋭く、緊張を終始維持するものを、私は好んで聴きます。他にも優れた演奏の盤は多くありますね。

●参考CD

○J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ[全6曲]
・スーク(ヴァイオリン)(EMI 7243 5 73644 2 3 2枚組) →♪amazon.co.jp
・ツェートマイアー(ヴァイオリン)(TELDEC 3984-21035-2 2枚組) →♪amazon.co.jp

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Bach: Sonatas & Partitas [FROM US] [IMPORT]
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バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全集
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