チャイコフスキーの6つある番号付きの交響曲のなかで、最も元気がよくて、華やかさのあるのがこの第4番ですね。メル友のフォン・メック夫人からの経済的な支援を受けながら、作曲者のいちばん脂の乗っていた時期に書かれた作品です。もっとも、この支援はチャイコフスキーが、この富豪の未亡人に対して「逆援交」をして得たものではありません。ふたりの会ったのは偶然の1回だけ、作曲者は男色として知られますし、純然と芸術を愛好するパトロンと音楽家との健全な関係であったのでしょう。
元気がよく華やかとは言っても、第2楽章の気だるいメロディを始め、激しい楽章においても冒頭の運命の主題を挟みつつ展開する部分では、慟哭する声も聴かれます。この表情のコントラストをいかにクドくなく、精妙なニュアンスで彫り込むかで、音楽の深浅が決まってしまうところはありましょう。作曲者のプライヴェートな心情のかなり直截に現われたロマンティックな交響曲だけに、指揮者がド演歌調に溺れ込んでしまうと、単にコテコテの喧しいだけの演奏に終わってしまう。結構な難曲と思います。
最近、マゼールが1960年にベルリン・フィルを指揮したDeutche Grammophonの録音が、国内盤にて世界初CD化され、これがこの指揮者らしい造形へのクールな制御の効いたなかにも、まだ新進気鋭であったパワフルな棒からヒタヒタと伝わる身の引き締まったものを聴かせます。既にカラヤンの楽器としてテリテリのブリリアントな音色に染まっていたベルリン・フィルと思いきや、この年弱冠30歳にあったマゼールは、この名器を完全に掌中におさめ、垢抜けした清涼な音楽を造り上げている。
マゼールもいまではすっかり大家ですが、近年の無難に落ち着いた演奏よりも、30歳のころの爽快な演奏が私には好みです。チャイコフスキーの4番と同時に、ブラームスの3番の交響曲も発売されました。同じくベルリン・フィルと組んだ、1959年の録音です。これもまた、長らくその優れた演奏を好事家の間で伝えられながらも、ようやく世界初CD化されたものです。最も元気がよく、華やかさのあったマゼールを聴く喜びがありますね。この時代に28歳でベルリン・フィルを指揮した才能を窺わせます。
●参考CD
○チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調作品36
・マゼール指揮、ベルリン・フィル(日ユニバーサル(原盤Deutche Grammophon) UCCG-3714) →♪amazon.co.jp
○ブラームス:交響曲第3番ヘ長調作品90、悲劇的序曲作品81
・マゼール指揮、ベルリン・フィル(日ユニバーサル(原盤Deutche Grammophon) UCCG-3713) →♪amazon.co.jp