●No.579 モーツァルト:ピアノ協奏曲全集(シュミット(pf)、マズア/ドレスデン・フィル)。(2004/10/08)

 もう10年ほどもむかしになりますか、モーツァルトの音楽で「頭がよくなる」という文句で、ふだんはクラシックに馴染みのないひとたちの間に、この作曲家がブームになったことがあります。たぶん、そうしたテレビ番組の特集の影響からだったのでしょう。最近、また、そのモーツァルトが流行になっております。CD店にはオムニバス盤が並んでいます。ところが、それらのコピーに注意してみると、ひとむかし前のブームとは、意味が若干違うのですな。「療法」「セラピー」という文字が盛んに見られます。

 頭のよさでヒトより抜きん出よう、そうすれば道も開けようという思惑が、先のブームの折には感じられもしました。ところがそれよりこのかた、日本の経済は低迷をつづけ、凶悪犯罪の報道も日常のことになるほど、人心も荒ぶ世のなかになってしまった。そうした推移をこのコピーの違いに認められる気も、私にはします。頭がよくなってヒトに勝とうとか欲得づくではないのだ。殺伐とした、いまの私の心を潤してくれるだけでいい。ため息をつき、うなだれるひとのそんな声が、聞こえてきそうでもあります。

 けれども、モーツァルトを聴いてみたい、という動機としては、むしろ、いまのブームのありかたのほうが健全であるとも思います。「頭がよくなる」という俗っぽい功利的な想いではなくて、不健全に陥る世相のなかで、渇望する気持ちから止むにやまれず芸術に惹かれる想いというものは、まったくの純心から出ている。「頭がよくなる」に比べて「いやし」という語はネガティヴにも響くけれど、それを切望する気持ちがあるうちは、その個人や社会に、健全さと救いがまだ残されていると、私は感じもします。

 道学総論の枕はさておき、モーツァルトをこの機に聴くのなら、チマチマした企画の高価なオムニバス盤ではなく、ドン!と、ピアノ協奏曲の全集など、いかがでしょう。私の愛聴するのは、機知に富む精細なクリスチャン・ツァハリアス(EMI 8枚組)のものと、質朴ながら華のあるアンネローゼ・シュミット(edel 10枚組)の2種。いずれも、恐ろしく安い値で出ております。価格のことをとやかく言うのも功利主義みたいですけどね。優れた音楽に廉価でふれられるのは、また格別、心の潤いになるものですワ。

●参考CD

○モーツァルト:ピアノ協奏曲全集
・シュミット(ピアノ)、マズア指揮、ドレスデン・フィル(独edel 0001502CCC 10枚組)
・ツァハリアス(ピアノ)、ジンマン指揮、バイエルン放送響、他(仏EMI 5 72171 2 8枚組)

※上記の全集が、ウェブ上で見つけられません。シュミット盤は2590円で、ツァハリアス盤は3700円で、私は購入しました。1枚物として、参考までにシュミットの21、26番のカプリングをあげておきます。

○モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467、同第26番ニ長調「戴冠式」K.537
・シュミット(ピアノ)、マズア指揮、ドレスデン・フィル(日コロムビア) →♪amazon.co.jp

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モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番&第26番
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