何年か前のこと、ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(Hildegard von Bingen 1098〜1179)の音楽が、ブームになったことがあります。40歳のころに幻視を体験し、後に預言者として尼僧院をビンゲンというところに作りました。それ故に、この名があります。書き残した音楽も、神の声の霊示としてなされたものでした。喩えがまずいのですが、恐山のイタコに似ていますな。イタコは死んだひとの霊を呼んでくるので預言とは違いますが、オカルティックな能力を具えていたところは似通いましょう。
余談になりますが、イタコに対して「なぜマリリン・モンローが日本語で話すのか?」とか、言質を取られそうになって答えられない場面になると、途端に苦しみだすといったツッコミが定番としてありました。後者の理由は私は知りませんが、前者の言語の問題については、まず、霊がイタコに宿るというのは、文字通りスピリッツということらしい。それが霊媒者の回路を介して言語化されるわけで、イタコが日本人であれば日本語となってしゃべりだすのは当たり前のことだという、イタコの弁でした。
ともあれ、そういうオカルトな話を信じる信じないは別として、その朗唱には、誰しもを敬虔な気持ちにさせられるであろう、不思議な空気が漂いますね。ポリフォニックな絡みなどもない、形は単調な音楽なのに。「アノニマス4」による女声4人の歌唱によるCDなど、夜中にひとり聴いていると、自分がいまこの世にいるのか「ついさっき私は死んで、背中に羽根が生えて天に召されるところなのではないか」という奇妙な気分になる。天国に行けるつもりで書いている、いまの私の文章が不遜ですか。
言葉はよくわからないのですが……ラテン語なのでしょうけれど、これ、輸入盤ですから、訳が付いていないのですね。けれども、言葉はわからなくても問題ないでしょう。その裡にあるものが、聴く者の霊性に直に作用しながら……なんて言ったら、「先にアンタがマリリン・モンローでさんざん茶化した『イタコの論理』を逆さにしただけではないか」とツッコまれてしまうでしょうか。それはまず、皆さまそれぞれの検証を俟つことにいたしましょう。「羽根で背中が鯖折になって、痛くて眠れなかった」とか。
●参考CD
○ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:11,000の処女殉教者[聖ウルスラの祝日の聖歌]
・アノニマス4(仏harmonia mundi HMU 907200) →♪amazon.co.jp