●No.562 ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」(ライナー/CSO)。(2004/06/16)

 暑気払いには北欧のヒンヤリした合唱曲でもと思いますが、斬れ味鋭い演奏でベートーヴェンの「運命」を一杯、グイッと聴くのもいいものですよ。ええ、「運命」というタイトルは、作曲者が秘書のシントラーに「運命はかく扉を叩く!」と語った、という逸話によるもので、日本だけに通用するものだということは、少しクラシックに親しまれたかたには知られたところ、「だから『運命』とは、断じて私は呼ばん!」というかたも、少なからずいらっしゃるとも思います。私も、むかしはそんなことを書いていました。

 不断の弛まぬ努力を信条に掲げているベートーヴェンにあって、「運命」なんて予定調和な天の声を受け入れるふうなタイトルがイカンという。しかしいまは、「運命」という語に、命を運ぶ主格は、神と己自身であって、その丁々発止の駆引きのなかで切り拓くニュアンスを、私は感じるわけです。例えば「宿命」という、予め余儀なく宿された逃れようのない命、被創造物の人間たる存在に自由意志の余地はない、と観るのとは違う。「いいではないか、ベートーヴェンの『運命』!」とも思うわけです。

 さて、斬れ味鋭い「運命」、ベートーヴェンの交響曲第5番ですが、私の好むものは、ライナー指揮、シカゴ響の1959年の演奏です。もう、半世紀近くもむかしのものですが、RCAレーベルの技術は、同時期のEMIなどに比べて優れていて、腰のしっかりした音で入ったステレオ録音なのですね。シャープでクールだけど、恐ろしく緊迫した、マッシヴなパワーを放つ「運命」。クラシックの超有名曲のこの交響曲から、「ともかく1枚、ひとに薦めろ!」と言われれば、私はこのライナー盤を挙げるでしょう。

 ところで、シントラーの伝える逸話に戻りますが、どうもこの秘書は主人の音楽から受ける自分のイメージを、さも作曲者が語ったように言うヘキがあったそうです。「シントラー、見てきたような嘘を言い」とは、故・武川寛海氏の句でしたか。だから、「運命はかく扉を叩く!」というのも、眉唾な話のようです。いずれにしても、あまり具体的なプログラムをこの音楽に求めるべきではないとは、私も思いますが、しかし、ベートーヴェンの哲学と言いますか……え!私の蘊蓄が暑気を上乗せしてますか!

●参考CD

○ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調作品67、第7番イ長調作品92、序曲「コリオラン」作品62、歌劇「フィデリオ」序曲作品72b
・ライナー指揮、シカゴ響(米BMG 09026-68976-2) →♪amazon.co.jp

※第7番、序曲2つも、優れたものですワ。

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ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」&第7番
ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」&第7番