上野真さんのピアノを、初めて私が聴いたのは、2002年2月のことで、私の住む郡内のホールのことでした。ドビュッシー、フォーレなどもあったけれど、クセナキス、メシアン、マクミラン、ヒンデミットなど、いわゆる「現代音楽」を中心に並べたプログラムで、「都会でもマニアなひとしか聴きに行かんような曲目やん。こんなもん、この田舎でやったら、暴動が起きるで」と、そのチラシを見て心配したものです。もちろん、相当な技量の求められる作品群でもあります。「このピアニスト、どういうひと?」
プロフィールを読むと、数々のコンクールの入選歴を経て、現在は京都市立芸術大学で教えているとある。コンクール歴というのは、私はあまりアテにしません。それより何より、丹波の山奥で「現代音楽」のリサイタルを開く挙に出る人物に、私の天邪鬼な好奇心が著しくくすぐられて、冷やかし半分の気持ちで出かけたのでした。その日の私の興奮は「ゆらのあな」にも書いたので省略しますが、おそらく「現代音楽」にふだん縁のないおばさんまでが、「魂消て」いたことを付け加えておきましょう。
何度か、大学気付でファンレターを書いていたので、ピアニストご本人から、CD発売のお知らせをいただき、リストの「超絶技巧練習曲集」を、買い求めました。この曲も、そのライヴを私は聴いたことがあります。卓越した技量と、冷涼に澄み渡った響きのなかに、深く思索したあとの高めた想いをサラリとおいた音楽に、陶然とさせられたものでした。今回の録音では、さらにその彫琢の陰影を深めたように思われます。組曲ではなく、12曲に厳しく貫くテーマを具えた一大叙事詩を聴くふうです。
風貌からも、話し振りからも、何よりそのピアノに、理知的な印象の感じられる上野真さんですが、音楽だけの学究肌に収まるかたではなく、広い教養に通じられた、慎ましく優しいお人柄です。このCDの解説も、ご自身で精細に書かれていて、「自分の在り様に対して作品が余りに豊かであり、今後の課題がいかに多いのかを思い知らされた感がある」との一文があります。丹波の山奥での「現代音楽」のことは、未だ謎めいたままだけれど、またこの地でのリサイタルをお待ちいたしております。
●参考CD
○リスト:超絶技巧練習曲集、ショパン/リスト編:「私の愛しき人」、シューベルト/リスト編:「水車屋と小川」
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