このごろ街なかで、ホルストの組曲「惑星」の「木星」の旋律に日本語の歌詞を振った歌が、有線で流れているのを聴きます。平原綾香さんという歌手のデビュー曲「ジュピター」というものらしく、よく売れているのだそうですね。こうしたポップスから入り、オリジナルの「惑星」を聴いてみようと考える若者がいてもいいと、私は考えもするのですが、「クラシック」という分類だけで、多分に敬遠されてもいましょう。聴けば、「わぁ、元の曲のほうが、カッコええやんか」と感じられると思うのですけれども。
そこで、世間に迎合して、原曲の「惑星」の話題をと思ったのですが、しばらく前に、メータとC.デイヴィスの盤のことを書いたばかりです。趣向を少し変えて−「編曲」というテーマでは、むしろ適当かとも思いますが−、冨田勲がシンセサイザーを用いてアレンジしたものを、今回はご紹介します。1976年の録音。発売当初、センセーションを巻き起こした盤でした。当時、目新しい電子楽器であったシンセサイザー。機能を知っていても、音楽的に使いこなすためには、やはり才能が求められました。
冨田勲について、当時の私には「リボンの騎士」の主題歌の作曲家というイメージしかなく、冒頭のロケット発射の効果の部分だけ聴いて、「アニメの作曲家が珍奇な楽器を使っただけの、こんな邪道なモン聴けるか!」と遠ざけていました。いま思えばこれは、「クラシックなんてオカタイ」と遠ざける、先の話の裏返しの偏見にすぎません。まともに通して聴いたのは、ずいぶんと後年でした。いまでは、極上のエンターテイメントでありながら、冨田の宇宙観を現した、独創的な傑作だと思っています。
オルゴールの「木星」の主題に始まり、同じくオルゴールのそれに還りついて閉じる、冨田のそのアイデアを聴くとき、金子みすず(1903-1930)の「蜂と神さま」の童謡詩を、私は思い出します。「蜂はお花のなかに、お花はお庭のなかに、お庭は土塀のなかに、土塀は町のなかに、町は日本のなかに、日本は世界のなかに、世界は神さまのなかに、そうして、そうして、神さまは。小ちゃな蜂のなかに。」ポップスを聴く若者も、クラシックを聴く私も、その宇宙のどこかで対位する旋律なのでしょう。
●参考CD
○ホルスト/冨田勲(編曲):組曲「惑星」
・冨田勲(シンセサイザー)(日BMG) →♪amazon.co.jp
○ホルスト:組曲「惑星」(原曲)
・メータ指揮、ロスアンジェルス・フィル、他(独Decca 467 418-2) →♪amazon.com、→♪amazon.co.jp
・C.デイヴィス指揮、ベルリン・フィル、他(日ユニバーサル) →♪amazon.co.jp
※閑話:当時、シンセサイザーはたいへん高価なものでした。日本人では、冨田勲さんに次いで桂文珍さんがこの楽器を買われています。これを取り入れた創作落語をしているのを私も観た記憶があります。操作をする間、噺が間延びしてしまい「これはあかんで」と、子供心に思ったことも憶えています。後日、自著のなかで文珍さん自身この試みの失敗を述懐しているのを読みました。また、数百万円(当時の)でそれを買った2、3年後に、さらに高性能なものが数万円で売られていたそうです。
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