All Rights Reserved, Copyright(C) 2000.4.17 by Yasusi Suzumura
(野並皮膚科)
アトピー性皮膚炎の病態,バリア障害とステロイドと漢方の関係
アトピー性皮膚炎の治療として,脱ステロイドを主張する人たちのホームページには,
ステロイドがだめな理由として,次の2つがよく記述されています。
(1)ステロイドは単に症状をおさえているだけで,根本的な治療となっていない。
(2)ステロイドを連用すると,副腎皮質の機能が抑制される。
|
私は,これらの主張に説得力を感じません。特に(2)は科学的に正しくありません。
以下にその根拠について述べてみたいと思います。
まず,(1)について考えてみます。そもそも「単に症状をおさえる」ことが何故だめ
なのかという素朴な疑問があります。ステロイド外用薬によって,症状がおさえられて
快適な日常生活がおくれるのであれば,それはそれでよいのではないかと思われます。
このことは,他の病気の治療法と比較してみると,さらにはっきり理解できます。イン
スリンは単に血糖を下げるだけであり,糖尿病の根本的治療にはなっていません。しか
し,インスリンが糖尿病の根本的治療となっていないからといって,糖尿病の治療にイ
ンスリンを使用すべきでないとは誰も主張しません。高血圧の場合も同様です。降圧薬
は単に血圧を下げるだけであり,高血圧の根本的治療にはなっていません。慢性の病気
の多くの治療薬は,症状・検査所見をコントロールするだけであり,根本的治療にはな
っていません。従って,「単に症状をおさえている」にすぎないから,ステロイドを使
用すべきでないという主張には説得力がありません。
次に(2)について考えてみます。この問題を科学的に議論するには,(A)副腎皮質
の機能低下をどのように測定するか (B)ステロイド外用薬の強さ,1日使用量,使
用期間を明確にする必要があります。多くのホームページでは,これらの点については
言及せず,単に抽象的なことを述べているにすぎません。何かいいかげんな本に書いて
あることを,自分で十分に検証せず,そのままうのみにして書いているように思えて仕
方がありません。
まず(A)についてですが,副腎皮質の機能低下のスクリーニングとしては,血清コル
チゾールの測定が一般的です。この検査には保険適応もあり,副腎皮質の機能低下が疑
われる場合は,病院・医院で検査してもらうことが可能です。
(B)の条件を明確にして,血清コルチゾールの低下の有無を調べた論文の1部を紹介
します。
対象患者:主に成人,36人。ステロイド外用薬の強さ:VeryStrong 使用期間:4〜12週間
結果:1日使用量10g未満では血清コルチゾールの低下を認めなかった。
|
「成人の場合,ランクVeryStrongのステロイド外用薬,1日使用量が10g未満であれ
ば,副腎皮質の機能低下は生じない」という見解が皮膚科では一般的です。1日にステ
ロイド外用薬を10g使用するということは,2週間で140g使用することになりま
す。これは非現実的な使用量と言えます。また,このような大量のステロイド外用薬の
使用は,保険で認められていません。従って,ランクVeryStrongのステロイド外用薬に
よる通常の成人アトピー性皮膚炎の治療では,副腎皮質の機能が低下することはまずないと
言ってよいと思われます。ただし,ランクStrongestのステロイド外用薬の場合は,1日
使用量が10g未満でも,血清コルチゾールが低下したという報告があります。ランク
Strongestのステロイド外用薬は,全身にぬるようなことはせず,治りにくい所に部分的
にぬる程度にとどめておく必要があります。私自身は,成人アトピー性皮膚炎にステロ
イド外用薬を使用する場合は,その使用量を通常は2週間で30g以下にしています。
漢方薬などを用いてアトピー性皮膚炎が良好にコントロールされるようになると,使用
量を徐々にへらすことが可能となります。2週間で30g以上のステロイドを何か月も
使用しているのに,一向に症状に改善傾向が認められない場合は,医師をかえた方がよ
いと思われます。
参考文献
1)西日皮膚 46:1170-1179,1984
2)西日皮膚 44:602-610,1982
3)臨皮 34:889-892,1980
ステロイドの強さ
Strongest 最も強力 デルモベート軟膏,ジフラール軟膏
VeryStrong かなり強力 リンデロンDP軟膏,マイザー軟膏
Strong 強力 リンデロンVG軟膏,ボアラ軟膏
mild 中程度 キンダベート軟膏,アルメタ軟膏
week 弱い コルテス軟膏,プレドニゾロン軟膏
以上で脱ステロイド派の人たちの主張は,かなり怪しげなものだということが,おわか
りいただけたと思います。しかし,何か釈然としないものを感じられる方も多いのでは
ないでしょうか? アトピー性皮膚炎の患者さんのなかには,その人の体験的事実とし
て,「ステロイドをぬっているのに,一向によくならない,むしろ悪化している感じが
する」という主張をする人もいるかもしれません。「ステロイドをぬり続けている場合
に,時に徐々に悪化する場合がある」というのは,私自身の医師としての体験的事実で
もあります。では,何故ステロイドを連用すると,アトピー性皮膚炎が悪化する場合が
あるのでしょうか?
ステロイド外用薬の連用は,皮膚のバリア機能を低下させる危険がある!
|
というのが現在の私の考えです。私がこのように考える根拠は次の2つです。(A)
ステロイド外用薬の連用は皮膚を萎縮させる。(B)ステロイド外用薬は,皮膚の血
流を減少させる。どのような細胞でも,何らかの原因により萎縮すれば,その機能は
低下します。バリア機能は皮膚の機能の1つですから,皮膚が萎縮すれば当然バリア
機能も低下すると考えるのが自然です。また皮膚の血流が減少すれば,皮膚への栄養
補給は低下し,その機能は低下し,バリア機能も低下することになります。なお「ス
テロイド外用薬の連用は,皮膚のバリア機能を低下させる危険がある」という考
え方は,現時点では皮膚科での定説にはなっておらず,あくまでも私自身の個人的見
解にすぎません。しかし,いずれこの考え方が正しいことが広く認知されることにな
ると私自身は考えています。
では何故,皮膚のバリア機能が低下すると,アトピー性皮膚炎は悪化するのでしょう
か?
現在,アトピー性皮膚炎の原因としては,次の2つが考えられています。
(1)環境抗原,食物抗原などに対するアレルギー
(2)皮膚の機能異常(主にバリア機能障害)
|
皮膚のバリア機能が低下すると,ダニなどの環境抗原が皮膚に侵入しやすくなります。
抗原が皮膚に侵入して,はじめてアレルギー反応が生じます。逆に言うと,バリア機
能がしっかりしていて,抗原が皮膚に侵入できなければ,アレルギー反応は生じない
ことになります。ステロイド外用薬を使いはじめた初期の時点では,まだ皮膚の萎縮
はないため,ステロイドのアレルギー反応の抑制という機能のみが作用し,症状は改善
します。また,ステロイド外用薬により皮膚の炎症が抑えられるため,皮膚の機能は
改善し,その結果バリア機能も改善するため,初期の段階ではステロイドは好循環を
もたらします。しかし,ステロイド外用薬を長期にわたって連用すると,徐々に皮膚
は萎縮しはじめ(外見上萎縮は認められなくても,先行して機能だけが低下するとい
うことも現実にあるかもしれません),皮膚のバリア機能が低下し,より多くの抗原
が皮膚に侵入し,その結果より強いアレルギー反応が生じることになります。このよ
うな状態になってしまうと,ステロイドは,一方で火を消しながら一方で火に油を注
ぐという,いわばマッチポンプになり下がってしまったことになります。これでは,
いくらステロイドをぬっていても,よくなるわけはありません。ステロイド外用薬の
効果には臨界点が存在します。この臨界点を見極めることがアトピー性皮膚炎の治療
上最も大切なポイントと言えます。
さて,最後にアトピー性皮膚炎の治療について考えてみたいと思います。アトピー性
皮膚炎の治療法は大きく次の3つに分類されます。
(1)アレルギー反応の抑制 ステロイド,抗アレルギー薬,免疫抑制薬
(2)皮膚のバリア機能の改善 スキンケアー
(3)抗原の除去 徹底した掃除,防ダニふとん,食事制限など
|
今までの西洋医学でのアトピー性皮膚炎の治療では,ステロイドや抗アレルギー薬な
どによるアレルギー反応の抑制という点に重点がおかれすぎていたように思われます
。最近注目されているプロトピック軟膏も,その薬剤の性質は免疫抑制です。一方,
スキンケアーの重要性を主張する医師が増加していることも事実であると思われ,こ
れは大変よい傾向であると言えます。アレルギー反応の抑制とバリア機能の改善は,
治療の両輪でなければなりません。さらに言えば,バリア機能の改善が治療のメイン
であり,アレルギー反応の抑制はその補助であるのが望ましいと考えられます。
では,のみ薬によってバリア機能を改善することは可能なのでしょうか?
残念ながら西洋医学には,バリア機能を改善するのみ薬は存在しません。のみ薬とし
ては,アレルギー反応を抑制する薬ばかりです。これに対して,東洋医学(漢方薬)
では,皮膚の機能を高める(あるいは失われた機能をとり戻す)ことによりバリア機
能を改善させるのみ薬が用意されています。漢方薬を用いると,バリア機能の改善と
アレルギー反応の抑制を両立させて治療することが可能となります。このことが,私
がアトピー性皮膚炎の治療として漢方薬が最も優れていると考える最大の根拠なので
あります。
[BACK]