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お客様の中にも、メニューをひと通りご覧になった後、開口一番
「ラーメン」とおっしゃってみたり、「何にすればいいんだ?」
と、私に聞くなよ〜!レベルの困ったお客様は、沢山ですが、
心に残るお客様は、「熱燗のお父さん」のようにマスターに戦いを
挑むお客様。それはオーダーがバラバラで、忙しい夜の事でした。
料理をお待ちの常連様が、「入り口に、妙な感じのじいさんが、
ずっと立ってる」と、小声で厨房の私に声を掛けてくれました。
私 :「あいにくお席が満席でして、空くまでお時間がかかり」
お父さん:「(私の話中なのに)そうですか、ありがとうございます。
こんなジジィでもよろしいんですか」
私、こんな忙しい時に、また変わった人が来たよ〜と思いながら、
私 :「ですから、席も満杯で、お時間がかかる・・・」
私が話している横で、常連様がニヤけながら、自分の席を半分に
分けてくれる。お父さん、すかさず私を払いのけ、その席に座る。
※常連様の後日談:何か起こりそうで、どうなるのか見たかった。
私 :「ご注文はお決まりですか?」
お父さん:「お嬢さんには分からないだろうなぁ・・・」
その返答に、私は半ば呆れ、マスターを呼ぷ。
お父さん:「マスター!このジジィ、スパゲティが食べたいのです」
マスター:「何のスパゲティにしましょうか」
お父さん:「マスターに全てをゆだねる所存です!」
お父さん、瞑想。10分、20分と時間が経つにつれ、お父さんの顔が
般若の形相に。私は一刻も早く、何でもいいからスパゲティを作って
くれと、マスターに念を送る。暫くして、料理完成。作ったのはなんと
「スパゲティグラタン」。なんだよ〜、ナポリタンとか、もっとスパゲ
ティ全面に出した料理にしなよ〜!スパゲティグラタンなんて紛らわし
い物作ったら、あのお父さん何か言うよ!と思いつつ、お父さんの元へ。
案の定、料理を出すなり、お父さんは超激怒。
お父さん:「おい!」
私は、そーら来た。と思い、マスターを呼ぶ。
お父さん:「私はスパゲティを頼んだんだ。何だねこれは」
マスター:「ええ、ですから『スパゲティグラタン』ですよ」
お父さん:「グラタン?!私はそんなのを頼んだ覚えはない!!」
マスター:「お客様がお任せとおっしゃったので。作り変えますか?」
お父さん:「もぉういい!これ以上待ったら、餓死する」
暫くすると、「ズォォ〜!! ズォォ〜!!」とそば屋でよく聞く音が。
私が客席を見ると、そのお父さんが、物凄い勢いでグラタンを食べてる。
そして、あっという間に間食。さっきまでの形相が嘘のような仏顔に。
お父さん:「マスター、許して下さい。これは・・・おいしかった」
私はどうでもいいから、これ以上面倒はさけたい一心で、笑顔でお会計。
お父さんは、快く会計を済まし、私に話し掛けてきました。
お父さん:「お嬢さん、ところでここは・・・何処かね?」
私 :「はい?ここは野毛ですよ。駅で言うと桜木町駅ですけど」
お父さん:「野毛?知らないな。浅草じゃないのか?浅草はどっちだ?」
私 :「どっち?!えーと、まず電車に乗るのをお勧めします」
なんだ、お父さん・・・、ただの酔っ払いだったのか。私、かなり脱力。
私は丁寧に駅の行き方をお父さんにご説明し、お父さんは素敵なくらいに
反対方向へ向かって行かれました。
お父さんがお帰りになり、最後まで見届けていた常連様は大ウケ。
お父さんとは、もう二度とお会いする事はないでしょう。