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物心つく前から母の背中に負ぶさって、お客様と触れ合って
いた私(自分の意志ではないけど)。
“はじめてのおつかい”よりも“はじめての出前”の方が早く
クリア。小さかった事もあって、両親からよりもお客様からの
お駄賃が私の懐を温めて下さいました。
そんな思い出話はこれくらいにして、私が最も好きなお客様の
年代があります。そう、このコーナーを見てわかるように、
オジサンである事はまちがいないのですが、特に70代以上の
おじいちゃんの方(お一人様だと尚ゴキゲン)。
だからこのお客様がいらした時も、私はちょっと嬉しかったです。
そのおじいちゃんは、もう1人のちょっと元気のない男性を連れて
お見えになりました。
「いやぁ、久しぶり」おじいちゃんは嬉しそうに私に声を掛けて
くださいました。
なーんか、見覚えがあるよなぁ。この人。元気のない人も以前に
元気ないなぁ…って心配しながら料理出したような気もする。
あやふやな記憶でしたが、せっかく声を掛けてくださった事だし
「本当に、お久しぶりでしたね。お元気でしたか?」と無難な
ご挨拶をし、お席にご案内しました。
席につくなりお客様は「ハンバーグライスを2人前とおいしい
ワインを2杯、ライスは大盛り…ねっ」と元気にご注文。
ワインはちょっと高めのでしたし、ライスも大盛りだったので、
財布も胃袋も元気なおじいちゃんだなぁと思いました。
暫くすると店内がにわかに慌しくなった為、そのおじいちゃん達
にその後接する機会もなく、お会計となってしまいました。
「いやぁ、美味しかった〜。いつも違うのを飲もうと思うんだ
けど、やっぱり最後はあのワインを頼んじゃうんだよ」
とご機嫌に話し掛けてくれたので、やっぱり私の記憶は正しかった
んだ。よかった〜。とホッとしました。
会計待ちのお客様がいらしたのに気づいて、おじいちゃんは
「あぁ、お金を払ってなかったね、キムラのポイントカードあるよ」
とおっしゃり、鞄から財布を取り出されました。
…暫く財布の中を確かめるおじいちゃん。…ん?どうしたんだろ?
不安な表情の私と、連れの元気ない男性。
突然おじいちゃんの温和な顔が、般若のような恐ろしいお顔に豹変し、
連れの元気ない男性に向かって怒鳴りました。
「おい!!お前忘れたろう!言ったろ、棚の上の金を入れとけって!」
元気ない男性はボソッと「んー、どうしたー?財布忘れたのか…?」
ピント外れな返事。
そんな事をしている間に会計を待つお客様は、続々と増えています。
背中に汗をかきながら、お二人のやりとりを見ていましたが、耐えられ
ず、後回し。結局後から御代をお届けいただく事に。
おじいちゃんはすまなそうに連絡先を置いて行かれ、
「本当にすまないねぇ、この歳になると免許もカードも持たないし、自分
が何処の誰かを証明するものがないなんて…。本当に惨めだよ。
近くの○〇カプセルホテルならこの名前を出せば身元がわかると思う」
がっくりと肩を落とされたおじいちゃんを見て、私は心が痛みました。
そうだよなぁ、私も運転免許は持ってないし、カードも忘れっぽいから
持って歩いたりしないし(持っている意味ないじゃん)、頼りになるのは
現金だけなんだよなぁ、お金を入れてくるのを忘れたら…自分がどこの誰
って証明するもの何もないよ…。
何度もお辞儀をして帰ってゆくお二人を見送りながら私は、便利になった
世の中で生きてゆく不安や、孤独を感じました。
その日…おじいちゃんは来なかった。夜は足元が危ないから、仕方ないね。
その翌日…じいちゃんは来なかった。用事があったのかな、明日は来るよ。
その翌々日…来ないよ。じいちゃん。もしや風邪でもひいちゃったのかなぁ。
この頃から私は「だまされてんだよ…」と心ない言葉を浴び始める。
<皆の心ない疑い発言の一例>
「元気のない男性はお金を出そうとしなかったのは何故か」
「いつも来てるのにポイントカードが1個しか捺印してないのは何故か」
「何故自分じゃなく、頼りなさそうな人(元気のない男性)に現金を入れる
のを頼んだか、外出するまでに一度も財布を見ないのは怪しい」
・・・しずらいけど、連絡先に電話してみることに。
「トゥルル〜…おかけになった電話はお客様のご都合により…繋げません…」
おじいちゃん、電話代払うの忘れちゃったのかな…
年末最後の営業日…来ないよ。………。私を非難する皆の発言がMAXに。
ちがーうぅぅ!!
おじいちゃんは、今のっぴきならない事件に巻き込まれてんだ!…きっと。
明日は来るさ…明日来なくてもいつか。く、くるよ。
きますよね? …誰か…言ってくれ