従業員の独り言          


「社会見学」
ある日、ふと思いついた事。
「もしかして、自分の天職って、他にあるんじゃないんだろうか?」
思いだしたら止まらない。勢いで自分の天職探しの旅に出ました。
よし!今までの私とは全く関係のない仕事に挑戦してみよう!
意気込みだけは上々。

@人の役に立つ仕事をしてみたいという観点から仕事を探してみる。
  目に留まった仕事→ 『育毛アドバイザー』。
  育毛アドバイザーと全く共通点のない職歴にも関らず、面接まで通過。
  店内に入った瞬間、なんだかいい香りが漂い、リラックスするような
  音楽が流れ、受付にとっても綺麗なお姉さんが笑顔で迎えてくれた。 
  「まるでエステサロンみた〜い。」ただ面接に来ただけなのに、なぜか胸が
  ときめく私。気分はすっかり育毛に来たセレブ(ここは男性専用だろっ)。
  「こちらへどうぞ」と女神のようなお姉さんにいざなわれ、個室で面接。
  面接官の方とも話しが合い、マイクロスコープで自分の頭皮を覗いたり
  してみる。非常に汚れていた。自分の毛髪の将来に不安を抱く。
  出発前は、私の天職って育毛アドバイザーなのかもしれないと思って
  いたのに、帰宅時にはすっかり育毛についてアドバイスをされたい側に
  なっていたのでした。 

A人の役に立つ仕事をしてみたいという観点から仕事を探してみる。
  目に留まった仕事→ 『ブライダルエステの受付』。
  全く関係なさそうな職歴書&履歴書にも関らず、面接まで通過。
  しかし、その店の所在地まで着いていたにもかかわらず、挙動不信だった為
  玄関の警備員さんに呼び止められ、足止めをされる。面接の予定があるかを
  受付で確認を取られたりするのに時間がかかり遅刻(そんなに怪しかったか?)。
  もう駄目だと思ったけど、面接はしてもらえた。
  ただ、オシャレして出掛けたのにもかかわらず、警備員さんに職務質問された
  のがとってもショックだった為、面接の間の事は全く覚えていない。
  ここで仕事するようになったら、毎日職務質問されるんじゃないかという不安
  を抱き、断念。

B人の役に立つ仕事をしてみたいという観点から仕事を探してみる。
  目に留まった仕事→ 『実験用動物(犬、モルモット等)の飼育』。
  履歴書を送付する直前に気付く。  
  『あ、私って犬が怖いじゃん・・・。』
  駄目じゃん。

C人の役に立つ仕事をしてみたいという観点から仕事を探してみる。
  目に留まった仕事→ 『毛皮・貴金属等の販売』(徐々に観点から離れてくる)。
  『売る事も大事ですが、お客様との会話が一番大事。』という、ホントに〜?
  と疑問を投げかけたくなるようなキャッチフレーズに惹かれ、応募してみる。
  全く関係なさそうな職歴書&履歴書にも関らず、面接まで通過。
  一体どんなお店なんだ?と、面接1時間前からお店を視察。
  店の外観…とても人通りの多い都内の大通り、ただその店の周りだけは何故か
  人が避けているような、人を寄せ付けないようなオーラを発している。
  店のショーウィンドーには、毛皮に豹柄の彩色がほどこされたド派手な毛皮が
  どうだ!と言わんばかりに飾られている。その威圧感。昔、博物館で見た鎧を
  見る時と同じ気がした。「毛皮を豹柄にする…け、毛皮毛皮じゃん。」
  その鎧のような毛皮の隣には、目が覚めるような緑色に染色された毛皮が
  鎧毛皮と負けない位のオーラを発していた。しかもその緑毛皮をまとったマネキン
  が被っていたのは、これまた目が覚めると言うか、眩しくて目が潰れそうなレモン色
  のベレー帽が・・・。「物凄いコーディネートだ。」その姿はまるで、『のり』。
  昔チューブに入っていて、手でしぼって使ってたやつ。レモン色のベレー帽は言わず
  と知れたのりのキャップ。うん、まさにそれだ。
  私は面接を受けに店内に入店することはおろか、もうこれ以上店内を直視する事
  さえままならなくなり、電話で面接を勘弁してもらおうとしました。
  しかし、もしかしたら店内には普通のアイテムがあって、私の想像する普通の毛皮
  があるのかもしれないと思い直し、ほとんど潜入調査みたいな気持ちで入店。
  入ってみた。うっ、鋭い視線を浴びる。その視線の先には怪しげな美しさの青年が。
  まるでホストのようだ。しかも声を掛けても無視された。かなり敵視されている。
  しょうがなく声高に挨拶し、奥にいた唯一の女性に取り次いでもらう。
  よりによって、そのホスト風の青年の真ん前の椅子に座り、青年の視線から逃れる
  ように店内を見回す。「あぅ・・。普通の毛皮がない・・・」
  店内には色とりどりの毛皮がひしめき合っていた。中でも真紅の毛皮が人気らしく
  あの殉職シーンを回想させるような毛皮がいくつも並んでいる。
  貴金属の中で一番印象深かったのが、蜘蛛をかたどった金のブローチ。そんなに
  詳しく作らなくてもいいのにという位精巧な作りで、今にも動き出しそうな素敵な
  アクセサリー。
  ・・・。もう嫌だ。ひたすら半眼、浮き腰で時間が経つのを待ちました。
  イヤな汗が背中をツーと流れ、シミになりかけた頃に面接官の方が来られました。
  面接官の方の話も全く耳に入らず、ただココから離れたいという一心で
  「今までは千円単位の品物を扱っていたので、ゼロが3つも4つも違うこのような
  高級品を扱うのは、やっぱり自分には無理なようで…」とか、頭に浮かぶありったけ
  のネガティブな発言を連発しました。しかし、「大丈夫ですよ。売るといのには魔法
  があって、それをしっかりお教えします」と、面接官の方はそれを上回るポジティブ
  な発言を連発してくれました。
  かれこれ1時間半が経過。私はぐったりして店内を出ました。
  さすが平均年齢60代の女性と5,6時間話す事を仕事にしている人だ。次から
  次へと話題が絶えず、ポジティブに洗脳されそうになった。
  辞める理由を全て否定され、何だか訳わかんないけど、仕事してみようかなぁと
  いう気持ちになり、その夜旦那に相談してみました。
  「お客さんの8割は旦那に秘密にして買ってんだろ、旦那にバレたらどうすんだ?」
  「人見知りのくせに、客と何時間(平均3時間)も話せんのか?共通の話題ないだろ」
  「ホスト風の青年に意地悪されるぞ。間違いない」 
  「はっきり言って、怪しい!何で普通の仕事を探さないの!(キレ気味に)」
  と反対され、洗脳がかっていた私はやっと我に返りました。
  でも、ちょっとホスト風の青年と戦ってみたかったし、“売れる魔法”って言うのも知り
  たかったような気もしましたが。

この他にもいくつかの仕事に目が留まり、面接してもらったりして10種程の仕事の内容
を知りましたが、自分にしっくりくる仕事はありませんでした。
というか、最後の方は何だかすっごく疲れ、もう天職なんかどうでもよくなってきていました。
「今の仕事が天職とは言わないけど、合ってるみたいだし、これで良し!不況だしね。
 探すのはヤメヤメ!今の仕事バンザーイ〜」
と、妥協にも似た気持ちで納得しました。