5.小説・詩

<重松清>
「ビタミンF」
重松清/新潮文庫/\514
七つの短編で、家庭を持つ中年男性に元気を提供、との主旨らしいが、どうも胡散臭くあざとい。万引き、親子の断絶、擬似不倫、仕事での部下との行き違いなどもっともらしく取り上げるのだが、上っ面だけ深刻ぶって結末はハッピーエンド。世の中そんなに甘くないよ、と言いたくなる。根性の入っていない作り物だな。けれど、これが直木賞を受賞しているのだから、レベル低いわ。
「かっぽん屋」
重松清/角川文庫/\571
読み終わってのスッキリ感が少ないけれど、著者の原点を示す短編集。注文があるから作る小説と、著者はインタビューで話しているけれど、やはりその個性は抗えない。同じように注文で書く、大沢さん勝谷さんの書くものは突き抜けた面白さや娯楽性が素晴らしい。変に気取らないで叙情性豊かに作品にのめりこんで書けば面白いのに。
「定年ゴジラ」
重松清/講談社文庫/\695
自分が50歳になったことは抜きにしても、面白い。開発から30年を経過して、年老いたニュータウンで定年を迎えた、年老いた企業戦士たちを見守る作者の目が優しい。生きるのはほんまにしんどいです。

<すなおの世界>
「ミミズクとオリーブ」
芦原すなお/文藝春秋/\1700
ブックオフで100円購入。小説家の主人公と、難事件解決に異常な冴えを見せる素人探偵の妻の生活を描写。能天気な夫と貞淑で明晰な妻の組み合わせがコミカルに書かれていて、気楽に読めて楽しい。厳格で滑稽な妻の父も、無邪気な友人も良い彩りになっていて、映画化すると面白いと思うのだが。まあ、事件があまりにもご都合主義で解決するのは、もう一捻り欲しいところだ。
「東京シックブルース」
芦原すなお/集英社文庫/\743
四国から、東京の大学の独文科に入学した葉上容一の青春記。ちょっと女性にもてすぎるのが嘘っぽいが、確かにあの時代と、若者像を上手く表現している。ついつい引き込まれ、朝まで読んで読了してしまった。
「雨鶏」
芦原すなお/角川書店/\1500
先の見えない学生時代を、男っぽい友情にほのかな恋情を絡めて、暖かく描いた青春賛歌。俺の学生時代にそっくりだ。芦原さんの描く主人公は淡々として親近感を感じる。
「松ヶ枝町サーガ」
芦原すなお/文春文庫/\524
簡潔なホンワカとした文体で、昭和30年代の少年時代を描く。野球、パッチン、駄菓子屋の婆さん、ぐうたら亭主にまめな母ちゃん。10歳の野球少年ツーちゃんが踊るように生きている。
「さんじらこ」
芦原すなお/毎日新聞社/\1900
怠惰な小説家、樫森泰助のさんじらこ(散らかり放題?)な数日間を描いたメルヘン。新聞小説の欠点か、端折ってハッピーエンドに持っていった感があるが、それもよし。芦原すなおは楽しい。

<その他>
「深追い」
横山秀夫/新潮文庫/\552
場末とも言うべき三ッ鐘警察署に勤務する7人の男たちの生活を描いた警察小説集。筆者の文章は達者で、人間味も分かっているのだけれど、如何せんこの人の文体と構成は短編には向かない。実生活を切り取るキレが無く、コツコツと積み上げる長編にしか向いていない。短編では詰めが甘く欲求不満が残るだけだ。
そういえば、映画「クライマーズ・ハイ」の原作者なんだ。長編を読んでみるかな。
「神狩り」
山田正紀/ハヤカワ文庫/\560
情報工学の研究者、島津は古代文字の解読から、神との闘争に命をかける運命となる。分かるけれど、さすがに30年前の文章は古い、まだるっこしい、けれどこのテーマを上手く使えば良い小説にはなる。すがやさんのおすすめなのはよく分かる。
「建てて、いい?」
中島たい子/講談社/\1300
三十半ばの独身女性が、家を建てようと決心し、困難を乗り越えて実現に漕ぎ着ける。文章は達者だし、面白味もあるので楽しみな作家だ。しかしこの一編は、短編小説としては切れがなく落ちも完結していない。長編の第一章という雰囲気だ。第二章が書けるのか、長編として完結できるのか、楽しみだ。 このレベルで書き散らし、チヤホヤされて喜んでいては駄目だがなあ。実体験と筆力と強い意志が要求されますよ。
「県庁の星」
桂望実/小学館/\1300
一年間の研修で、県庁からスーパーへ来た野村聡と、そのスーパーでパートとして長年働く敏腕パートのおばちゃん二宮泰子。良い設定でそこそこ面白い。ただ作者の実体験不足と筆力の無さのため、感動まで高揚しない。
「藤十郎の恋・恩讐の彼方に」
菊池寛/新潮文庫/\476
所収の「忠直卿行状記」を読みたくて買ったのだが、全部面白かった。昔、読んだモノが多かったが、今読むと登場人物の心理や著者の意図がより分かって来た。歳の功だろうな。
「神はサイコロを振らない」
大石英司/中公文庫/\590
かつて忽然と消息を絶ったYS−11が、十年後に突然羽田空港に帰還した。タイムスリップがもたらす愛と悲劇。「love actually」のように上手く脚色すれば、映画の原作にピッタリだ。
「凶気の桜」
ヒキタクニオ/新潮文庫/\552
軽薄な風調に憤り、渋谷で奪還強制排泄を繰り返す無法集団ネオ・トージョー。ヤクザと関わりを深めるにつれてそれぞれに壊れていく三人の若者の運命は。若者を描くよりも、老境の会長、青山を描く方が生き生きしている。著者がいくら若ぶってもやはり年代が出るということか。
「都立水商!」
室積光/小学館文庫/\600
処女作。都立高校に水商売の専門高校が出現。この設定だけで○。笑わせる泣かせる、面白い小説。ただ、軽い説明っぽい文体とご都合主義の設定はいまいち。映画にすると面白いだろうなあ。
「どすこい警備保障」
室積光/アーティストハウス/\1400
面白い。著者は話の設定を探すのに一生懸命で、引退した相撲取りが警備会社をやる、というアイデアが出た時ニンマリしただろうなあ。アイデア勝ちですな。文章も軽快で読みやすい。出来ればもう少し濃い文章で、感動的にして欲しいなあ。ちょっと軽すぎ。
「血族」
山口瞳/文藝春秋/\1400
小説としては面白みがないし、ノンフィクションとしては詰めが甘過ぎ、人類学のレポートとしては話にならない。でもこれが菊池寛賞 ? 本当は甘ったれのボンボンが年取って来て、母恋しさで中途半端な探索をした、という程度。もっと徹底しろよ。
「粗忽拳銃」
竹内真/集英社文庫/\667
戸梶圭太の毒と疾走感はない。立川談四楼のハチャメチャな生命力も無い。しかし、ふんわかとした暖かさとやさしい読後感が心地よい。前座の噺家、流々亭伝馬が下北沢で拳銃を拾い、三人の仲間、自主映画の監督、売れない劇団員、紅一点の見習いルポライター達と繰り広げる青春ドラマ。
「猫背の王子」
中山可穂/集英社文庫/\419
演出家で看板役者の王寺ミチルの、演劇にかける意気込みと生き方が独白風に描かれている。自主映画の脚本候補として推薦されたのだが、好みではない。頭でっかちで、実生活に即した表現が出来ていないし、この程度の出来事を深刻ぶって書かれると、何だかなあ、と白けてしまう。これでも売れ、文庫本化されるのだから、単に私の好みの問題か。
「女たちのジハード」
篠田節子/集英社/\1990
適齢期前後の四人のOLの自分探しの毎日をねちっこく描写している。最初、臭くて嫌だなと思ったが、読み進むうちに彼女たちに感情移入してきて、読み終わると頑張れよと応援したくなった。企業社会や人間についての知識や洞察が少し浅く、人生そんなに甘くないよと言いたくなるが、楽しめます。
「あ・うん」
向田邦子/文春文庫/\419
太平洋戦争を控えた世相を背景に、月給取りの男と軍需景気で羽振りの良い社長の友情物語。と書けば面白そうだが暗い。文章力、構成力は認めるが、如何せん救いがない。月給取りの妻が絡む三角関係が骨子となる日常は、私には地獄絵図と感じられる。向田さんの傑作と言われているが、私には合わない。
「タスクフォース」上下
門田泰明/光文社/各\1500
メーカーの経営戦略室長が、部下や大学の同級生である警部の協力を得ながら、企業と家庭の危機管理を体得していく。マイクロマシーンをめぐる米露の特殊部隊の暗躍、企業の内幕、友情などお膳立ては出来ていて、それなりに面白いのだが、筆者の構成力・筆力が付いて行かず中途半端に終わっている。大長編小説にしなくては。
「櫂」
宮尾登美子/新潮文庫/\705
文章が上手い、思想もストーリーも練り混まれている。小説を使って、お人形さん遊びをしているような緻密な文体。しかし暗くて最後まで読めなかった。三分の二あたりまで読んだら我慢できなくて、その後は飛ばし読みしてしまった。好みの問題ですね。
「タクシー狂躁曲」
梁石日/ちくま文庫/\580
本屋でつい買ってしまった。「タクシードライバー日誌」より在日文学色が濃い。ユーモアが有ると、解説に書いているが、私には何処がユーモアなのか理解に苦しむ。大昔の私や私小説みたいに、悲壮がるのが鼻につく。懐かしく取っつきやすいのだけれど。
「タクシードライバー日誌」
梁石日/ちくま文庫/\500
悪くは無いんだけど、もうこの類の悲壮がる私小説は卒業だな。俺の人生の方がよっぽど小説になるよ。もっと面白い出来事や素晴らしい筆力が無ければ。読後の爽やかさに欠けるのは、筆者の人生観のなせる技か。
「群星、梁山泊に翔ける」
谷恒生/河出書房新社/\2000
水滸伝は大好きで、入院を期に読んでみたが、著者の力量不足で面白くない。文章力・構成力・娯楽性に欠ける。訳本を再読してみようかな。
「鬼道の女王卑弥呼」上下
黒岩重吾/文藝春秋/各\1456
この時代は好きだし面白いのだが、筆者は史実に引きずられて、想像力の翼を開ききれなかったのが残念。奔放に書き上げれば、もっと面白くなっただろう。
「ベスト&ブライテスト」全3巻
D.ハルバースタム/サイマル出版会/\1700?
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<詩>
「このみちをいこうよ」
金子みすゞ/JULA出版局/\1200
金子みすゞ童謡集。七五調が心地良い。日本語には合うなあ。この人の感性、言葉の見つけ方は独特で、「今夜はお空がいそがしい」や「それでわたしのさみしいは、何を貰うたらなおるでしょう」というフレーズにはドキッとする。
保谷果菜子の舞台「金子みすゞ いのちへのまなざし」を、築地本願寺で見たのはもう四年も前だった。「大漁」や「見えないものもあるんだよ」という詩は絶品だ。物事を一面だけでなく、多方面から見られるのは才能だな。悲しさ、わびしさが漂うのだけはつらいものがあるけれど。

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