迷探偵 水島茂実の珍推理[1]
| 問題編 「茂実、茂実ー。ちょっと待ってよ」 私――水島茂実を呼ぶ声が聞こえる。声の主は親友の佐倉萌。小学校の時からの腐れ縁だ。 この春高校に入学した私だが、彼女も何故か私と同じ高校を受験したようだ。彼女の学力ならもっと高いレベルの高校に入学できるというのに…。 まあ、そんな事はひとまず三光年彼方においておくとして、ここで私の自己紹介をするね。 私の名前は、水島茂実。とりあえず十五歳。背は高くないけど、太ってはいない。小柄で華奢な体格。顔はまあ、美人と言っても良いかな。自分で言うのもなんだけど。それに私は頭が良い。といっても普通の学業とかいうのは全然駄目で、そうね、興味のあることならすぐに憶えてしまう、ってタイプね。どこかの銀河の提督も、他の科目はほとんど赤点ギリギリだったけど戦略研究は九十二点だったから、それと似てるわね。 だからかどうか解らないけど化学とか物理とか、そういう理系関係は結構好きで得意だったりする。あと国語は嫌いだけど、読書は好き。なぜだろう? で、私に話しかけてきている佐倉萌ってのは、眼鏡に三つ編みっていう典型的なタイプ。まあ顔はそんなに悪くないから、時代劇の悪代官風に言うなら、研けば光る事間違いなしってことになるわね。あ、これ水戸黄門の代官の科白。 紹介はそんな所で良いかしら。 じゃあ、さっさと本編にGO。 「茂実、誰と話してたの?」 「ん? 気にしないで、そんな事。それより何?」 校門の所で呼びとめられた私は、下校の邪魔をされたと思い、いささかご立腹だ。これから家に帰って、ドラマの再放送を見ようと思っているのに!! ただでさえ掃除当番で帰るのが遅れているから、苛立ちは大きくなってしまう。 「大変なのよ、茂実」 「何が大変なの?」 「だから、大変なのよ!!」 だから何が大変なのよ!! 私は苛々してきた。 そんな私の心情などお構いなしに、彼女は私の腕を無理矢理掴むと、 「とにかくこっち来て…」 と言いつつ、運動場の方に私を強引に連れていった。 運動音痴な私としては、走るのは嫌なのだが、彼女の方が何故か力持ちなので逆らえない。 彼女に連れてこられたのは、女子更衣室の横だったが、連れてこられて何が大変なのか一目で解った。地面にわずかではあるが血痕があるのだ。騒ぎを聞きつけた野次馬たちが現場に駆けつけている。その中には当然、更衣室の中で着替えていた面々もいるだろう。 「何があったの?」 ドラマの事は十光年彼方に置き忘れた私は萌に尋ねる。これは久々の難事件の匂いがするのだ。ドラマなんかにはかまってられない。 「男の子が顔を殴られたのよ」 「顔面を殴られた!?」 素っ頓狂な声で、私はオウム返しに尋ねた。萌は頷くと、更衣室の脇にある草むらを指差した。目を凝らして見てみる。おお、あんな所に…。 「あの鉄パイプが凶器なの」 側まで寄ってみて鉄パイプをよぉっく観察する。それは少し凹んでおり、血痕が付着している。 …そう言えば、肝心の被害者の姿が見えない。どこに居るんだろうか、と萌に訊いてみると、被害者――蓬沢衛也は保健室の運ばれたらしい。あ、あれで、ヨモギザワって読むの。私のクラスメイト。先生たちもなんて読むのか解らなくて、出席をとる時に困ってたのを憶えてるわ。 それにしても凄い惨状ね。血痕は更衣室の窓と壁――正確に言えば窓の下のあたり――にも付着している。その真下にはブロックが置かれてるけど、そこにもちょっと付いてる。 「ねえ萌。なんで蓬沢、殴られたの?」 「女子更衣室を覗いてた奴が居るんだけど、そいつをたまたま見つけたから、蓬沢君、殴られたの」 なるほど、蓬沢、部活で男子更衣室に入るか出るかした時、偶然除き魔とでくわしたって訳ね。 「とりあえず、保健室に行きましょ。あいつから話を訊きたいから」 今度は私が萌の手を引っ張って行った。かと思えば、保健室に到着した頃には立場は百八十度変わっていた。…ちょっと悔しいじゃない、もう! ま、そんな些細な事は忘れて、私は大きな声で「失礼します」と言うと、保健室に足を踏み入れた。 ミステリにはお馴染のリノリウムの床を静かな動作で歩きながら、私はベッドの方に近寄る。保険医と生活指導の先生が椅子にかけて、蓬沢に何か色々と質問している。 私の存在に気づいた生活指導の先生――大木先生が露骨に嫌そうな顔を見せて、 「なんだ、野次馬か。それならさっさとここから出ていけ」 と、私を追い出しにかかる。ちなみに保健室の外には、大木先生に追い出されたと思われる生徒が数人、たむろしている事を書いておく。 ちなみに私は彼らのお仲間になる気はないので、超然とした態度で大木先生に挑んだ。萌はというと、オロオロと私と大木先生のやり取りを見ながらも、どこか楽しんでいそうな感じがするのは私の思い過ごしではないと確信している。そんな奴だ、彼女は、うん。 「蓬沢が殴られたと聞いて、黙ってられるわけないわよ。それに先生も知ってるでしょ、私の推理力。ホームズもデュパンもポアロも真っ青の推理力を!」 とりあえず私が知ってる名探偵の名前を三つほど挙げてみる。 「……っ!」 大木先生は何も言い返さなかった。 実は私、この学校に入学してから二度ほど事件を解決している。一度目は入学三日目の事。とある生徒のお金が盗まれたの。その時何故か容疑者扱いされた萌えを助けた事から、今までもなつかれて困っていたというのにより一層なつかれてしまったという訳。 トホホ。 ま、そんな事は今度話すとして、今は事件事件。 「ねえ、蓬沢」 ベッドで寝こんでいる蓬沢に話しかける。意識はあるらしく、彼は私の方に視線を移した。大木先生は追い出しを諦めてくれたらしく、黙って腕を組んでいる。 「ねえ、あんたが殴られた時の事、詳しく話してくれない」 「うん。俺が体操服に着替えて更衣室をでると「キャーッ」って悲鳴が聞こえたんだ。で、その方に行って見ると、男に殴られたんだ、鉄パイプで。正確に言うと、殴られた場所は更衣室の横側」 更衣室の側面や裏側は、死角になっているから、覗きは見つからないと踏んでいたが、覗いかれていた女子生徒が気づいて悲鳴をあげ、慌てて逃げようとして蓬沢を殴った。 蓬沢の話を要約すればこういう事になるのかしら。 確認すると彼は力なく頷く。 「で、蓬沢。その男の顔は見なかったの?」 当然の質問をしたが、それはあまり意味がなかったらしい。ま、これで誰か見ていたら、私の探偵としての立場がなくなるから、見てない方が良かったりするけど。見てたら読者もシラけるだろうしね。 「ううん。見たけどいきなり殴られたからね。詳しく憶えてないんだ。まあ、俺の知り合いではないって事は確かだけど」 この話を聞いた大木先生はいたく満足そうだ。多分私が事件を解決できないと思ったからだろう。何故か私はこの先生に嫌われている。ま、嫌うのは勝手だけど、事件は解決させてもらうのよね。 とりあえず、私が事件を解決するまでに得た情報を後二つほど書いておくね。 一つ目は覗かれていることに気付いた女子生徒の証言。 「覗かれてることに気づいたけど、でも、でもでも顔は見てないわ」 と、なんとも頼りなくて役に立つとは思わなかった。 次に、蓬沢が見たと思われる覗き魔の特徴から捜し出された男子生徒の証言。 「俺、覗いてませんよ。そんな下らない事してる暇あったら、エロ本でもっと美人の裸を見てますって」 この生徒、二年の柊昌男とか言う奴だけど、気に入らない。ちょっと顔が良いからっていう事が偉そうだ。私は注意深く彼を観察したんだけど、残念、返り血の類はなかった。 …。 ……。 ………。 …………。 解決編(反転してください) 私は考えた。 といってもそれは事件の真相についてではない。どうやって事件の真相をみんなに伝えるか、その演出について考えたのよ。 カッコ良く名探偵調でいくのか、それともおふざけモードで行くのか。 とりあえず、黒ずくめではないから、証明を絞って暗転って訳にはいかない。古畑の真似は無理だ。という事で私が取った方法は。 「謎は全て解けた」 である。数年前にヒットしたらしいマンガの科白ね。私はこれがドラマ化されても見ていない。だってテレビの推理ものってほとんど面白くないんだもん。 まあ、とにかく私の科白で、回りのみんなは全員驚いたわ。佐倉萌、大木先生、保健室の先生、そして蓬沢。 一番最初に口を開いたのは、萌だった。 「どういう事なの、茂実」 「だから犯人が――この事件の謎が解けたのよ。だから事件関係者――といっても、後は柊昌男と覗きに気付いた女子生徒(彼女の名前は里村真央というらしい)だけだけど――をここに集めて」 とりあえずそういうと、萌は急いで保健室から出ていった。そして校内放送によって二人が呼ばれ、関係者が全員集まった時、私は推理を展開すべく口を開いた。最初の言葉は夢水清志郎の教え通り、「さて――」から始める。 「さて――、今日起こった事件ですが…」 というと、保健室の外から「ヒューヒュー」という口笛と、「お、待ってました」という声とパチパチパチという拍手が聞こえる。私が推理をする時、外野はいつもこうやって茶化して来たりするけど、結構私はそういうのが好きだ。 大木先生は露骨な顔を見せ外野を追い払おうとしたが、それは残念、失敗に終わった。ううん、残念じゃないわねえ。 おっと、話がクリスティの小説に出てくる中年小母さんのように脱線してしまうところだったわ。危ない、危ない。 「で、今回の事件でハッキリしている事は二つ。一つは女子更衣室が誰かに覗かれていた事。もう一つは鉄パイプで蓬沢が殴られた事」 一同は頷く。例外といえば柊だった。彼は仏頂面でこちらを見ている。 とりあえず私は続ける事にした。私は他の推理小説の名探偵とは違って、解決編でもったいぶった推理をして行数を稼いだりなんかしない。だから次の言葉はいきなり事件の犯人の名前だ。 「で、ここから解る犯人なんですけど、それは蓬沢、あなたよ。ビシィッ!!」 私が犯人を指摘する時の癖。それは犯人を指摘して指差す時、「ビシィッ」という効果音を自分で言う事だ。某ゲームソフトのヒロインの真似だけど、誰も知らないみたい。まあ、そのヒロインは「犯人はヤスよ、ビシィッ」って、やばいネタバレをするんだけど。 おっとっと、また話が脱線するところだったわ。 「な、なんで俺が犯人になるんだ。俺は被害者なんだぞ」 彼の主張が正しい、と言わんばかりに頷く大木先生。しかーし、蓬沢は被害者ではないのです。 「いいえ、彼は被害者ではありません。むしろ加害者です」 「え、という事は、蓬沢君が誰かを殴ったって事? あ、そうか、殴られた人は今頃プールに沈んでいるのね」 …なんとも想像力のたくましい娘なんでしょう、萌って。 「違うわよ、萌。加害者って言うのは、覗きのって事よ。彼が覗きの犯人だったのよ。そして除きの最中に里村先輩にそれを見つけられて慌てた彼は、近くに落ちていた鉄パイプで自分の顔を殴った。もちろん指紋が付かないように服越しに掴んだと思うけど」 「じゃあ、覗きを誤魔化すために、彼は自分の顔を殴ったって言うの?」 いつもは物静かな保険医――神尾先生が口を開く。はい、その通りです、と私は頷いた。ここで犯人お決まりの科白、「だったら証拠を見せてみろよ」と言うのがなかったら話を進めにくいんだけど、と思っていると、嬉しい事に犯人――蓬沢は「だったら証拠を見せてみろよ」と大声で叫ぶように言ってくれた。うーん、ナイス犯人。あなたのような人物が一番犯人役に適しているわ。 「血よ」 私は言った。キョトンとしているのは私以外全員だったが、真っ先に我をとり戻した萌がその意味を尋ねてきた。 「だから、更衣室の窓と壁についていた血よ。あれはどう考えても、覗きを行なっていた者の血としか思えない場所に付いていたんだから。悲鳴を聞いて逃げ様とした犯人が、蓬沢が駆けつけるまで窓のところに立っていたなんて、どう考えてもおかしいわ。それにね、殴られた場所もおかしいの。蓬沢は顔面を殴られてるのよ。普通だったら、頭を殴られるんじゃない?」 「そう言えば、そうね」 呟くように言う神尾先生。犯人、蓬沢は顔面蒼白だ。 「でも、なぜ蓬沢君は自分の顔を殴ったりしたの?」 ナイス。良い事を訊いてくれました、神尾先生。それにもちゃんと理由があるのよ。 「それを言う前に言っておきたいんですけど、窓や壁に血ついている血と、地面の血って、場所が離れていると思いません? 地面の血が殴られた事による出血。それでは窓の血は一体何なのか? 答えは簡単。それは鼻血よ。彼は除き行為で興奮して勢いよく鼻血を出したのよ。ちょうどその時、里村先輩が覗きに気づいて悲鳴を上げたの。 で、このままでは拙いと思った蓬沢は、時分の顔を鉄パイプで殴った。これが真相よ」 ちょっと、後日談を書いておくね。 あの後蓬沢は停学処分をくらったわ。そして彼は「エロ夫」という単純明快なニックネームで呼ばれることになった。 ちなみに窓の血は蓬沢のもので間違いなかった。これは私が父さんに頼んで調べてもらったから間違い。 えっ、父さん? 私の父さんって警官なの。階級はお約束の警視ってわけ。 それじゃあ、次の事件で逢いましょう。 後書き どうも富山です。 バカミス、書いてしまいました。 思いついたその日に書き上げました。 文章が軽いので書くのが楽でした。まさに日記感覚で、書いていて楽しかったです。 大きな矛盾もバカミスには全く関係ないから。多分、だけど。 えっと、ミステリを読んでいると、何故かリノリウムの床ってのが結構出てくるのですが、どうしてなんでしょうか? 素朴な疑問、でした。 評価、求めたりします。 好評なら、水島茂実ちゃんの第二作目を書きます。 |
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