一休さん


「えーいっ! うるさいうるさい!」
 いつもの様に、足利将軍は一休に怒声を浴びせる。例によって、とんち対決に負けたのである。
(おのれ、一休! いつか必ず、お前をやっつけてやるぞ)
 そう心に誓いながら、今まで一度も彼に勝てない将軍様。参謀役の桔梗屋(ききょうや)も役に立ちそうもない。桔梗屋の立てた作戦は、一見成功しそうに見えるが、とんでもない落とし穴がいつもある。要するに、抜けているのである。
 翌日、その桔梗屋が例によって次なる作戦を携えて将軍様のもとにやってきた。
「将軍様、一休さんをやっつける良い方法を思いつきましたよ」
「何、それは本当か、桔梗屋!」
「ええ、本当ですとも、将軍様。少し耳を貸して頂けますか」
 例によって、桔梗屋が自分の考えた悪知恵を、将軍様に耳打ちする。
「――と、こう言うのはどうです?」
「おお! それは名案じゃ! これであの一休めをやっつけられるぞ」
 やはり例によって、桔梗屋の作戦には穴があるのだが、それを将軍様と桔梗屋は知る由もなかった。
 
 
「一休さーんっ!」
 安国寺(字はこれで合っていると思う)へと続く階段を駆け上がりながら、新右衛門さんが大声で一休さんの名前を呼ぶ。もちろん例の効果音を忘れてはならない。
 新右衛門は安国寺の門をくぐり、庭掃除をしている一休さんの姿を見つけると、彼の所に駆け寄った。
「どうしたんですか、新右衛門さん」
「どうもこうもないでござるよ、一休さん」
 その場で一休に耳打ちする新右衛門。それを聞いた一休は声を荒げる。
「えーっ! 将軍様が月の兎を見せて欲しい、ですって!?」
「そうなんでござるよ。どうせまた、一休さんを困らせる嫌がらせに決まっているでござるが…」
 一休は思案する。月の兎なんて見せる事はできない。どうすれば、どうすればそれをクリアできるのか。
「どうでござるか、一休さん?」
 一休の思案を妨害するがのごとく、新右衛門が話しかけてくる。
「そんな、無茶ですよ。大体、月に兎なんている筈ないですよ」
「そこを何とか、何とかならないでござるか。このままでは将軍様と桔梗屋にいい笑い者にされてしまうでござる。拙者はそんな事嫌でござる」
 と、新右衛門は自分に与えられた任務が、一休の監視、という事をすっかり忘れて、彼と親しんでいる。まあこの事は、殆どの視聴者、読者が知らない――もしくは忘れている――事だろうし、作中の将軍様や新右衛門の態度を見る限りでは、当の本人たち――もちろん制作者も――も忘れている、と疑わずにはいられない。いや、きっと忘れているに違いない。
 そういえば一休は天皇家の一族――彼の母親はどう見ても公家――の筈であるが、それも忘れ去られているであろう。まあ、当初の暗いイメージは視聴者受けしなかったから、キャラクターの性格が少しずつ変えられていったのだろう。まるで漫画の一巻と最終巻の主人公の顔が全然違うのと同じように。
 新右衛門の言葉に一休はもう一度考えてみる。例の座禅を組みながら頭の上で指を回して、ポクポクチーン、というやつだ。
 そして閉じていた目を開ける。
「何か思いついたでござるか、一休さん?」
「ええ、良い方法を思いつきました。それも今回はなぜか二つも」
「二つも!?」
 新右衛門は驚きを隠せないでいる。いつもならここから例の音楽が流れてきて、将軍や桔梗屋を懲らしめる事になるが、今まで懲らしめ方が二つ出てきたという記憶はない。それが今回は二倍おいしい事に。
 ニヤニヤと笑う新右衛門に一休は問いかけた。
「何が可笑しいんですか、新右衛門さん?」
「あ、いえ、何でもないでござる。それより一休さん、どうやって将軍様を懲らしめ――いえ、将軍様の要求に応えるのでござる?」
 上の方で、桔梗屋の作戦には穴がある、と書いた作者だが、あれを書いたのは随分と昔の事なので、そのプロットをすっかり忘れていると言うのが現実であった。
 いい加減な作者で、一休は相当困った事になってしまったのだ。
 それはさておき、一休が思いついたのは、普通の兎を「月の兎です」と偽るのと、「それならば月へ連れて行って下さい」というのだった。以前、「屏風の中の虎を夜中に暴れるから、それを捕まえて欲しい」と言われたとき、彼は「それならば、虎を屏風から出してください」と将軍様にいっている。まあ、その時と同じ手だ。
「ホントにそんなんで大丈夫でござるか?」
 一休の考えを聞いた時の新右衛門の第一声がそれであった。
「大丈夫ですよ、新右衛門さん。私に任せてください」
 と、胸を叩いて自信を示すのだった。
 しかし一休は忘れていた。足利義満――これで字は合ってるかな?――が室町幕府第三代将軍にして、南北朝を終結させた人物なのだ。その人物に屁理屈を述べようものなら、命がいくつあっても足らないという事を。アニメに出てくるギャグキャラではないもだ、彼は。
 そして作者も忘れていた。この物語り当初の将軍様はどう見てもギャグキャラにしか見えないという事を…。
 その日の夜、一休さんはその短い生涯を終えた。

  後書き

 どうも富山です。
 作中にあった、「上の方で、桔梗屋の作戦には穴がある、と書いた作者だが、あれを書いたのは随分と昔の事なので、そのプロットをすっかり忘れていると言うのが現実であった」と言うのは本当の事です。
 今日、偶然この書き掛けを発見したのですが、どういうオチだったか全く憶えておりません。ごめんなさい。
 おそらく今回のやつと大したレベルの差はないでしょう。内容は違っていても。
 読み返して見て、面白くないな、と自分でも思います。
 どうやらこういった路線は他人に一任した方が良さそうですね。

 酷評、受付中(笑)。


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