平成九年二月五日宣告


判 決

本籍    埼玉県****市**** ***番地**
住居    同  上

職業    *** 
氏名    ****
生年月日  昭和**年**月**日

右の者に対する業務上過失致死被告事件について、当裁判所は、検察官*****出席のうえ審理し、 次のとおり判決する。

主   文

被告人を禁錮一年に処する。

理   由

(罪となるべき事実)
被告人は、平成八年五月三一日午後九時五分ころ、業務として普通乗用自動車を運転し、埼玉県岩槻市大字本宿三九四番地の一先の 交通整理の行われていない交差点を蓮田市方面から大宮市方面に向かい右折するに当り、同交差点入口付近において一時停止した際、 右方道路から進行してくる八向亮(当時十七歳)運転の自動二輪車を右方約六六.一メートルの地点に認めたのであるから、 同車の通過を待って右折発進すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、同車より先に右折できるものと軽信し、時速約二0キロ メートルで右折発進した過失により、同車に自車右側部を衝突させて同人を路上に転倒させ、よって同人に脳挫傷等の傷害を負わせ、 同年六月一日午前七時二九分ころ、同市本町二丁目一0番五号所在の丸山記念総合病院において、同人を右傷害により死亡するに 至らしめたものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官及び司法警察官員に対する各供述調書
一 ****の司法警察員に対する供述調書
一 司法警察員外一名作成の現行犯逮捕手続書
一 司法警察員作成の各実況見分調書(三通)
一 司法警察員作成の各写真撮影報告書(二通)
一 医師****作成の死亡診断書
一 関東運輸局埼玉陸運支局長作成の自動車検査証謄本
(法令の適用)
被告人の判示所為は刑法二一一条前段に該当するが、所定刑中禁固刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を 禁錮一年に処することとする。
(量刑の事情)
本件は、被告人が、夜、普通乗用車を運転して、岩槻市本宿の交差点を右折するに際し、一旦停止して右方道路から来進してくる 被害自動二輪車を認めたにもかかわらず、自車が先に右折できるものと軽信して、右折発進したため、右自動二輪車に自車右側部を 衝突させて、その運転者を路上に転倒させ、これに脳挫傷等の傷害を負わせて、翌朝死亡するに至らせたという業務上過失致死 の事案である。

本件事故の直接の原因は、被告人が被害者の車両が交差点を通過する前に右折できると軽信したことによるものではあるが、 そのような判断ミスを犯した誘因は、法律上酒気帯び運転には至らなかったとはいえ、被告人が飲酒運転していたことにあったであろう ことは、被告人が一旦被害車両を視認してから、これと衝突するまでの間、その衝突の危険に全く気付かなかったということからも 明らかである。

そして、被告人の述べるところによっても、はじめに被害車両を右方に視認した際の被害車両までの距離は66.1メートル であったというのであるから、これを仮に現場の指定制限速度である時速四0キロメートルで走行すれば、被害車両が到達する までわずか五.九秒しかないから、次いで左方の車両の確認しただけで右方を見ず、被害車両の走行速度等その動静を確かめる ことなく、直ちに発進したことの過失の重大なことは言うまでもない。

被告人は、約一〇年前に飲酒運転により処罰されたことがあり、また、約一年半前にも酒気帯び運転により追突事故を惹起して 処罰されたことがあるという身でありながら、本件時、仕事を終えて同僚らと、午後六時ころから会社の食堂で缶ビールを 飲み、自らは三五〇ミリリットル入り一本半くらいを飲んだ後、同六時半ころから八時二〇分ころまで、居酒屋で生ビール 大ジョッキ二杯程度を飲酒したのであるから、勤務先でも飲酒運転を厳しく禁止されていたというのに「気を付ければ大丈夫 だ」などと考えて乗り出したということも合わせ考えと、飲酒運転に対する安易かつ無反省な態度と法軽視の態度とが認められる というべきである。

本件直前、飲酒していなかった同僚から自宅まであとわずかの場所に送り届けられたのに、自宅には戻らずジュースを 買おうとして、付近に駐車していた自車に乗り込み、わざわざ敢えて自宅とは逆方向に乗り出したというのであるから、 必要性、緊急性等の全く認められない本件運転動機に酌むべき事情も見いだし得ない>

加うるに、被告人は、かくして飲酒運転に及んで、現場交差点において、優先道路を来進する被害者の自動二輪車を 認めながら、その動静を注視することなく、前記のような状況で自己が先に右折できるとの軽率かつ独りよがりな 判断によって被害者の進路を妨害して衝突事故を惹起し、飲酒運転の危険性を現実のものとして、尊い人ひとりの 命を奪う結果となったのであるから、その過失の内容・程度の点においても、犯情の点においてもまことに悪質というほかはない。

また、本件事故により、大学進学を控えて両親から将来を期待されていた十七歳の高校生が死亡するという重大な結果が生じており 、夢未だしとなった被害者の無念は言うに及ばず、長年手塩にかけた最愛の息子を奪われた遺族の悲嘆も察するに余りある ばかりか、被告人に真摯な反省の情が見えないとして遺族の反感を買ったためもあって、示談の成立も見ていない点も 看過できない。

被告人が、事故直後から、たとえば、飲酒検知の際、飲酒量をコップに二、三杯で、これを夕方五時から六時の間に、会社で 飲んだなどと虚偽を述べていたことに照らしても、その刑責を減じようとする態度が見て取れるから、犯後の情況にも 芳しくない点があるので、遺族の被害感情に厳しいものがあるのももっともというべきである。
被告人の刑事責任には重いものがある。

したがって、他方、被告人が本件事実を認めて一応の反省の弁を述べていること、本件時被告人の身体におけるアルコール 保有量は処罰の下限域を下回っており、また、飲酒後三〇分は休んだことが認められるから、酩酊の程度はさほど高くは なかったと思われること、被害遺族に対しては、被告人側から賠償額の提示がなされており、その額自体については、 不満のないことが窺がえること、被告人の生活態度には特に問題は認められないこと等の事情も認められるが、これら 被告人に有利ないし酌むべき事情を十分考慮に入れても、被告人に対し、その刑の執行を猶予すべき情状があるものと までは認めることができず、主文掲記の実刑に処するのはやむを得ないところである。

よって、主文のとおり判決する。

平成九年二月五日

浦和地方裁判所 第三刑事部

裁判官  *******   印




平成九年六月十六日宣告
平成九年(う)第***号

判   決

本籍   埼玉県岩槻市*****
住居   同    右
会社員             ****
昭和**年**月**日生

右の者に対する業務上過失致死被告事件について、平成九年二月五日浦和地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官****出席の上審理し、次のとおり判決する。

主  文

本件控訴を棄却する。

理  由

本件控訴の趣意は、弁護人****、同****が連名で提出した控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。
論旨は、要するに、量刑不当の主張である。
そこで、所論にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて検討する。

本件は、被告人が、普通乗用車を運転して、T字路交差点を右折するにあたり、右方道路から直進してくる被害者運転の自動二輪車を認めたのであるから、その通過を待って進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、先に右折できるものと軽信して進行した過失により、同車を自車右側部に衝突させて同人に脳挫傷等の傷害を負わせて死亡するに至らしめたという業務上過失致死の事案である。
被告人は、幅員の狭い道路から歩車道の区別のある明らかに広い道路へ出て右折しようとしたのであるから、優先道路を進行してくる被害車の動静を特に慎重に注視した上で右折を開始すべきであるのに、これを怠ったもので、その過失は重大である。
その上、被告人は平成六年十一月、酒気帯び運転で追突事故を起こし罰金刑に処せられた前科があるにもかかわらず、本件当日、仕事を終えてから会社の食堂や居酒屋でビール缶入り一本半及び大ジョッキ二杯くらいの飲酒をし、事故から約一時間十分後の飲酒検知時には呼気一リットル中に〇.二ミリグラムになっていたとはいえ、酒気が残っていることを認識しながら運転しているのであって、無反省かつ法軽視の運転態度は非難されなければならない。被害者には、優先道路である直線道路を進行していたもので、落ち度はない。

所論は被害者が制限速度四十キロメートル毎時とされている道路を時速八十キロメートルを超えて進行して来たもので、被告人の過失は極めて軽いと主張するが、その根拠として主張するところはいずれも推測の域を出ないもので、所論は採用できない。
仮に、被害車が制限速度をある程度超えていたとしても、本件のような道路状況では、被害車の速度等の確認は容易であったと認められるから、その速度がどの程度であるかを含めてその動静を注視、確認すべきであり、それをしないまま安易に発進している運転態度は、まさに無謀というべきであり、過失の程度が極めて軽いなどと言うことはできない。また、所論は、被害者は、被告人車の後ろを通過して、衝突を避けることが容易であったとも主張するが、実況見分調書等関係各証拠によって認められる現場の状況などからすると、被害者は、運転していた自動二輪車の急制動措置をとり、制御困難な状況に陥って衝突したことがうかがわれるのであって、その原因が被告人の本件過失による運転行為にあることも明らかであるから、右所論も採用できない。

被害者は、大学進学を予定していた高校三年生で、本件によって将来を絶たれたのであり、その結果は誠に重大で、被害者の無念の情は察するに余りあるのみならず、将来に期待をかけていた息子を失った両親の悲嘆の情は極めて大きい。本件後の被告人の配慮を欠いた態度が遺族の感情を害し、そのためもあって示談の成立に至っていないことも看過し難いところである。これらの点からすると、被告人の刑責を軽くみることはできない。

そうしてみると、被告人が、本件を反省していること、道路交通法違反以外には前科前歴がないこと、会社員として働きながら農繁期には父親と農業には従事するなど真面目に社会生活を送っていることなど、所論が指摘する被告人のために酌むべき事情を考慮しても、被告人を禁錮一年に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとは認められない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
平成九年六月十六日
東京高等裁判所第*刑事部

裁判長裁判官   ****  印
裁判官      ****  印
裁判官      ****  印