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今回の本は…
強い蟻博士が愛した数式
緋の城漂泊の牙
もしも…あなたが外国人に「日本語を教える」としたら新編 帯をとくフクスケ
外国人力士はなぜ日本語がうまいのかそんなバカな!
「レ・ミゼラブル」の100人青春ドラマ夢伝説


強い蟻
松本清張・文春文庫
 久しぶりに清張を読む。主人公は水商売から大手光学企業の役員夫人に収まった40目前の女性。あからさまに「全財産は私のもの。パパに遺言書書いてもらわなくっちゃ」と知人愛人に言ってしまうほど強欲。彼女がどうにかして旦那の財産を手に入れようとする話と、愛人が起こした裁判に絡んでまた新しい愛人を作ってしまう話と、どんでん返し。
 最初は正直な人物だなと思ったけれど、読んでいくうちにこれでもかと強欲ぶりが露わになるので、ひっくり返されたときはちょっとすっとした。清張が最後まで調子の良い人間を描くわけがないので、ひっくり返るだろうというのは予想できることだけど。
 彼女は世の中の規範から外れてはいるが、罪は犯していない。本能的な嗅覚でそういう危ない橋は渡らないように、世間的には貞淑な妻であるように、計算して頑張っている。
 その頑張り具合が最後にちょっと悲しくなる。強い蟻は世の中にたくさんいる。


博士が愛した数式
小川洋子・新潮社
 第1回本屋大賞を受賞。平積みに惹かれて購入。確かに数学の話はたくさん出てくる。でもそれは別に数学的に何かを追求するために出てくるのではなくて、「数の不思議さ」や「数の気高さ」を表すためのエピソードになっている。数学を避け続けてきた自分にもそれは伝わってきた。
 偏屈な博士のもとに派遣された家政婦さんが主人公。最初はこの舞台設定は外国なのかと思ったら日本人だった。誰も具体的な氏名が出てこない。
 博士は偏屈なのだけれど、数に人生を捧げている。それに自分が大切だと思ったことは頑固に貫き通す。事故による記憶障害によって少し哀しい色も帯びているけれど、これは人が人を信頼する話なのだなあと思う。
 登場するそれぞれが相手を思いやる過程が丁寧に描かれていて、読み終わった後に何だかホッとする小説。


緋の城
木崎さと子・
 研究者である夫のフランス赴任に伴って10歳の息子と一緒にパリに住み始めた主婦が主人公。一人の女性、というよりは主婦というのが一番ぴったり来る。この物語が始まる以前にもパリに住んでいたことがある設定なので、パリの街並みや通りについて詳しく記述されている。
 パリについてほとんど知らない自分が読んでもいろいろな景色が浮かんでくる。重厚で石や壁に囲まれた人工的、でも歴史を持ち合わせた魅力ある街。
 小説は借りたアパルトマンの曰くありげな謎かけと、出てくる人物たちの描写で成り立っている。おそらく作者自身の体験を基にして書いている。
 でも自分はこの話にあまり魅力を感じなかった。パリという舞台設定がなければ、長所を見つけづらい。主人公は自ら仕事を持つことなく、時間と経済的余裕を手に入れて、なおかつ関わる人たちに独りよがりな妄想や感情を後先考えずにぶつける。意に反して、という言い訳を小説内でしながら、結局主人公は自分のことしか考えていないことが丸見えになっている。息子のことすら抜け落ちている。
 なぜか(唐突なので本当になぜか)小説は書かない、それは自分の本業ではない、と主人公に繰り返し言わせているのを、小説として人に読ませる趣向はどうなんだろう…。


漂泊の牙
熊谷達也・集英社
 緻密な取材と資料に基づいたミステリー。なのだと思う。舞台は東北、オオカミと、山と深く関わりながら生きてきた人たちが絡まった事件とその解決。
 自分が全く知らない分野を取り扱っている話は、その具体的な事象を読むだけでも面白い。そうか、日本にはこういう人たちもいて、こんな職業もあって、こんな事情も生まれるのだなと。
 ただミステリーとしては犯人が最後に親切に教えてくれすぎる気がする。話してくれないと終結しないし誰も原因がわからないまま終わってしまうのだけれど、なんか、もう少しうまい話運びで納得させてほしかったなあというのが正直なところ。
 読み終わった後に付いてる参考文献のリストで圧倒される。


もしも…あなたが外国人に「日本語を教える」としたら
荒川洋平・スリーエーネットワーク
 日本語教育、というような大上段に構えたものではなく「日本語をプレゼントすることならみんなできる」という、日本語教育としては入門の手前ぐらいの話。
 実際に3人の「突然日本語を教える必要に迫られた」モデルを設定して、2日の準備期間に何をしたか、当日どう進めたか、それと彼らのやり方で何が良くて何が悪かったか、が具体的に書かれている。その設定が「ありそうだ」と思わせるものであり、彼らの試行錯誤も「やりそうだ」と思わせるものであり、彼らの失敗も「やりそうだ」と思わせるものなので、興味深くあっという間に読んだ。
 自分は今、主に授業を受ける側にいる。で、何人かの先生に習ってみて、やっぱり上手い先生と下手な先生がいる。上手いと思う先生の条件は、そういえばここに書いてある土台をしっかり固めているように思う。すなわち、学習する言語の音をしっかりと聞かせてくれることと、学習者に十分に発話の機会を与えてくれること。それと、学習者のその日の状態に合わせて臨機応変であること。
 教える側に立つと独りよがりになってしまって、教えている自分に酔ってしまうのが一番危ない。
 どうやって教えるか迷ったら、目の前にいる学習者が何を知りたいと思っているのかをベースに考えること。なるほどねえ。


新編 帯をとくフクスケ
荒俣宏・中公文庫
 図像解説のエキスパート、荒俣氏の文庫。アートでも美術でもない、飾りや付録を取っ払ったその場にある「図」そのものだけを見て解読する。
 普段何気なく見ている図像ほど、いろいろな意味や歴史を収斂した豊かな「記号」であることがわかる。当たり前だと思っていたものが、実は潜在的な差別や区別を表していたり、描かれた文化や考え方を思い切り反映していたり。写実画として数百年前に描かれていた魚たちがなぜ現実とかけ離れているのかを解説する段では「見えないものが見えてしまう」人間の想像力の凄さを感じる。
 話しかけるような文体で書かれているので、荒俣氏の特別講義を収録した本を読んでいるような。たまに論理が飛んで文章と文章の間が何を意味しているのかわからなくなるけれど、その飛び方にも荒俣氏の図像に対する愛情が溢れていて微笑ましい。


外国人力士はなぜ日本語がうまいのか
宮崎里司・日本語学研究所
 言われてみれば謎の「外国人力士はなぜ日本語がうまいのか」。プロ野球の助っ人外国人選手や、他の競技で日本のチームに入っている外国人選手はずっと日本語をしゃべらない。しゃべれない。それに引き替え、外国人力士は自然な日本語をマスターして、顔が東洋系の人だと外国人だとわからない場合もある。それはなぜか。日本語教育に携わった筆者が、誰もこの視点から考えたことがないのに気づいて、研究しようと思い立つ。
 実際に来日して日本語を話せるようになった力士本人や、部屋の女将さん、兄弟子、応援している近所の人々などに力士がどういった過程で日本語を体得したかを探っている。これは日本語を習得する外国人だけではなく、外国語をマスターしたい日本人にも通ずるものがある。
 読んで思ったのは、格好良く外国語をマスターする道はないのだなあということ。日本語の海に飛び込んでいって、半分溺れかけながらみんな覚えていく。日本のしきたりやタニマチとの付き合いかたから「日本人としての振る舞い方」を学ぶ。野球の外国人選手と違って、彼らはそれに体を染めていかなければこの世界で生きていけないから。何人かの力士は「ハングリー精神」を様々なものを吸収するための大きな力として取り上げている。確かになあ。
 うっすらと「そうじゃないかな」「でもやらないといけないのかな」と感じていたことが、この本には「そうです。やってください。」と明記されていた気がする。


そんなバカな! 遺伝子と神について
竹内久美子・文春文庫
 動物行動学を専攻していた筆者の真骨頂ともいえる遺伝子論。というか、この人は何を書いても真骨頂か。週刊文春での連載もついつい読んでしまう。
 今までの「種の保存」が生物の目的なのではという仮説をひっくり返して、生物の体は遺伝子のためのただの乗り物であり、種ではなく遺伝子自体が子孫を残したくって生物の行動を決めている、という説を書いている。厳密にはこの人がそれを発見したわけではなくて、世界の学者の中で突飛な考えをする人たち(と当時思われていた人たち)が述べていることを、竹内流に、素人にもわかりやすく、面白く書いてある本。
 生まれたてのヒナがピーピー鳴くのは「柔らかいヒナがここにいますよー」と天敵に知らせるためで、親鳥はそれを黙らせるためにせっせと餌を運ぶ=ヒナは親から餌を得ることができる、とか、喘息が子供の頃によく出てくるのは親に「子供を保護しなければいけない」という気持ちを起こさせるための遺伝子の戦略であるとか、「生物性善説」みたいなものからは離れているけれども興味深い話がいろいろある。
 ってことは、現代にアレルギー体質の子が増えているのも、以前より親が子を大事にしなくなったせいで遺伝子が「気づけー、世話しろー」と叫んでいるから?


「レ・ミゼラブル」の100人
萩尾瞳・キネマ旬報社
 鹿賀さんのインタビューのところだけ拾い読みをしようと思った。けれど、ついつい最初から読んでしまった。
 ミュージカル『レ・ミゼラブル』の日本公演は、それまでにないオープン・オーディションで全キャストを決定した。プロで有名な人もいれば全くの素人もいて、それを1年間の基礎訓練から時間をかけて大きな舞台として作り上げた。それからすでに17年、キャストは何度かオーディションを繰り返して新しいキャストを入れ、劇はまだ続いている。
 なので『レ・ミ』の舞台に立った人は本当に数百人という単位になっている。この本には97年までのキャストのうち、103人の話や情報が載っている。
 掲載の順番が主役級からでないところが、『レ・ミ』本らしい感じがする。この劇は主役級もアンサンブルも対等、というかアンサンブルがいないと成り立たない。
 人によって『レ・ミ』の捉え方も様々。これで人生が変わってしまった人もいれば、何も変わらなかったと言う人もいるし、すでに役者業から離れている人もいれば、ずっと舞台に立ち続けている人もいれば、『レ・ミ』を「卒業」してあえて違う舞台を選んでいる人もいる。
 同じ舞台をロングランで毎日やっていると埋没してしまいそうな気がして数年で「卒業」を選んだ人がかなりいた。鹿賀さんはその毎日が「毎回新鮮」だとして14年務めた。生涯の親友を得た人もいたけれど、人間関係に悩んで離れた人もいる。
 関わった人が多い分だけ、この劇の意味も広い。劇という枠からはみ出しているのをひしひしと感じた。


青春ドラマ夢伝説 あるプロデューサーのテレビ青春日誌
岡田晋吉・日本テレビ
 このサイトでも一押しの刑事ドラマ『ジャングル』の生みの親であるプロデューサーが、今までの仕事を振り返って書いた本。テレビ草創期の海外ドラマ吹き替えがこの人の最初の仕事だったらしい。そこからいわゆる「青春ドラマ」を作り出し、後年『太陽にほえろ!』『あぶない刑事』などの刑事ジャンルを確立させ、それを卒業するまで。
 なにせ『ジャングル』の話が公共の電波に乗ったり公共の出版物に載ったりすること自体が少ないので、知らせを聞いてすぐに購入。でもまあ『ジャングル』に割かれたページはほんのちょっとだった。想像していたけれど、やっぱりなあ。でも鹿賀さんが演じた刑事には思い入れがあるというくだりが救い。
 一テレビマンの奮闘記としては面白かった。ドラマにまつわる裏話がたくさんある。そのドラマを知っている人や思い入れのある人は楽しく読める。
 初めの頃は著作権も制作手法もメチャクチャで、かなり手作りな感じのものを電波に乗せていたらしい。だいたいの常で、書いている本人はかなり誇らしげであるのだけれど、ロケ先なんかの住民の人は迷惑していた部分もあるのでは。
 『ジャングル』は視聴率としては成功しなかったけれど、『太陽にほえろ!』よりも馴染んでいる人がいるんだよ、ということは知らせたくなった。再放送もDVDも出ないし。1年半も放映してたのに。愚痴になってきた。



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