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鹿児島市の木市の始まりについて 鹿児島市の風物詩ともいえる木市は、現在は春と秋に鹿児島中央駅近くの甲突川河畔の市民広場で開かれています。私が現在のマイホームを建てたとき、その前庭の空間を埋めるため、毎年いつもこの春と秋の木市に足繁く通って沢山の苗木を購入したものでした。 この鹿児島の木市の始まりについて、木市の会場に掲示されていた説明文にはつぎのようなことが書いてありました。
また、串間俊文『鹿児島の園芸植物』(春苑堂出版、1995年9月)は木市の基礎がどのようにしてできあがったのかをつぎのように記述しています。 「島津家の別邸である磯庭園が造られたのは一六五〇年からで、京都から呼び寄せられた庭師によって作庭技術や植木の管理技術が鹿児島市の吉野に住む人々に伝えられたので、植木の生産がこの地域に生まれ、やがて木市の基礎ができあがっていく。」 さらに「南日本新聞」1998.05.25の記事では木市の始まりについてつぎのように紹介しています。 「鹿児島市の春の木市は、明治の中ごろ、吉野村の植木栽培農家によって始められた。田が少なく、畑作地だった吉野村で植木を手掛ける農家は多く、そのはしりは仙巌園(磯庭園)の造園工事を手伝った雀ケ宮の人たち。工事に呼ばれた京都の庭師たちの仕事を手伝ううちに、見よう見まねで庭造りの技術を覚えたといわれる。 その後結成された吉野植木組合が本格的な市を開くようになり、松山通りや御着屋、照国通りと場所を移しながら、大正時代に国道10号沿いの館馬場に腰を下ろす。館馬場の木市は、第二次世界大戦で中断を余儀なくされたものの、一九四八(昭和二十三)年に市を再開。空襲で焦土となった鹿児島市に緑をもたらす原動力となった。 一九六〇(昭和三十五)年に植木園芸組合、観賞園芸組合、育苗園芸組合、盆栽植木組合の四組合が鹿児島市木市振興会を設立。館馬場の木市は最盛期を迎える。福岡の業者も参加するなど、照国神社前から、多いときは長田陸橋の手前まで店が軒を並べた。 (中略) 市民に長く親しまれた館馬場の木市も、車社会の到来によって幕を閉じる。横断者の交通事故や無断駐車が増え、警察の出店許可証が出ないなど、道路使用の制限が厳しくなった。六五年春を最後に、甲突川河畔の市民広場へ移転が決まった。 館馬場最後の市は、名残惜しむ客らでにぎわい、それまでで最高の人出を記録した。」 なお、長く木市が開かれていた国道10号線沿いの館馬場(やかたのばば)という道路は、かつて「館」と呼ばれていた旧鶴丸城の石垣こ沿って通っている大通りのことです。 |
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| 北原智恵子の「反撥」に描かれた館馬場の木市 北原智恵子の『雪花火』(近代文藝社、1983年8月)所収の短編小説「反撥」には、高校の教師となった主人公の「わたし」が日曜日に図書館(鹿児島県立図書館のことと思われます)で調ごとをした帰り、同僚の樋口と出会い、近くで開かれている木市に誘われて一緒に見物する様子がつぎのように描かれています。なお、現在の鹿児島県立図書館は城山町7-1にありますが、1979年以前は現在の鹿児島県立博物館の建てられている場所(城山町1−1 )にありました。
―奥さんはどんな方なのでしょう― わたしも樋口の家に近づきになって、いろいろ教えてもらいたいとおもった。わたしも女としては長身の方だが、樋口とならぷと、わたしの頭の先は樋口の肩のあたりでとまってしまう。 ―二人でこんなところをのんびり歩いたりしてはいけないのじゃないかしら― わたしは何度もちゅうちょしながらも、ロにだすことをはばかった。そのくせ樋口と歩くということが、長いあいだの願いだったような錯覚すら覚えた。木市には屋根にとどくほどの針葉樹から、サボテンのような片手にのせられるほど小さな鉢植までぎっしりと並んでいた。 樋口はことば数のすくない人のようだ。だまって木を見てあるく。ときどきわたしの存在に気づいたようにはなしかける。だがそんな樋口と歩くことに気づまりを覚えるどころか、かえって安らぎを感じるのだった。 季節の草花に包まれてふんわりとやわらかいふんいきを楽しみかけていたわたしは、知らぬ間にその空気のない場所に来ていることに気づいた。樋口はそうしたわたしに気づいていないのか、それとも気づかないふりをしているのだろうか、青いにおいのなかにひたりきっているようにみえる。 わたしは樋口については、同僚という以外は何も知らない。ただそれだけの知りあいなのに、こうしていっしょにこの町の植木市のなかを歩いている。すれちがう人々のなかには生徒たちがいるかもしれない。だのにわたしはそれらのことについて無関心だった。ときには樋口が肩をならべて歩いてくれていることすら忘れ、吹かれる風のままに身をゆだねていた。それでもちっとも退屈を感じない。いつしか蓮の花の咲きかけた堀ばたの道を歩いていた。」
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