映像化された宮部みゆき作品


TV「茂七の事件簿3 ふしぎ草紙」
 
  「茂七の事件簿3 ふしぎ草紙」公式サイト
  
 http://www.nhk.or.jp/drama/archives/mo3/

  宮部みゆきの「茂七の事件簿3 ふしぎ草紙」についてのコメント


 「茂七の事件簿 ふしぎ草紙」の第3シリーズとして、NHK総合テレビで2003年7月11日(金)から8月8日(金)にかけて「茂七の事件簿3 ふしぎ草紙」が放送されました。第1話「片葉の芦」(『本所深川ふしぎ草紙』)、第2話「敵待ち」(『堪忍箱』)、第3話「鬼は外」(『オール讀物』2003年2月号)、第4話「迷い鳩」(『かまいたち』)、第5話「ならず者」(『堪忍箱』所収の「砂村新田」)の全5話で、 放送時間は毎週金曜日21:15〜21:58でした。 なお、原作が足りなくて今回のシリーズは5話だけになってしまいましたが、茂七ドラマシリーズのプロデューサーの加賀田透が『時代劇マガジン』2003/vol004号でつぎのように述べています。

 「このパート3で終わりではなく今後も、この茂七シリーズを続けていきたいと思っているのですが、宮部さんの原作が少なくなってきているのが悩みのタネです。もし、連続ドラマが無理なら、単発スペシャルという形でもいいから、なんとか、茂七ファミリーの行く末を追いかけていきたいですね。」

 脚本は金子成人、演出は加藤拓、音楽は坂田晃一、語り手は春風亭小朝で、主なレギュラー出演者はつぎの通りです。

、高橋英樹(岡っ引きの回向院の茂七)、淡路恵子(おかつ 茂七の亡妻の母親)、星野真里(お絹 茂七の一人娘)、あめくみちこ(お京 茂七の亡き妻の妹で旅籠屋の女将)、
本田博太郎(梶屋の勝蔵 地回りやくざ連中を束ねている)、伊崎充則(茂七の手下の糸吉)の従来のレギュラー陣に新たに千葉哲也(茂七の手下の音次)とMEGUMI(「ひさご」で働くおすが)とが加わりました。

第一話「片葉の芦」(『本所深川ふしぎ草紙』)
第二話「敵持ち」(『堪忍箱』)
第三「鬼は外」オール讀物』2003年2月号)
第四話「迷い鳩」(『かまいたち』)

第五話「ならず者」(『堪忍箱』所収の「砂村新田」)

              
第一話「片葉の芦」(本所深川ふしぎ草紙』)
 やまもものコメント yamamomo01@nifty.com


 すし屋の主人の近江屋藤兵衛(柴俊夫)が殺された。彼は性格のきつい人物で、店じまいすると残った酢飯を全部大川に捨てていたという。そんな藤兵衛に反発していたのが一人娘のお美津(松尾れい子)で、父の藤兵衛が死んだことに対しても、「これで近江屋を悪く言う人はなくなるわ」と言うほどであった。そんなお美津に当然疑いがかかる。だが、蕎麦屋の職人・彦次(高岡蒼佑)は、お美津がそんなことをする人物とは思えない。なぜなら、彼が貧しかった少年時代、お美津にお店の残り飯を恵んでもらっていたからだ。しかし、そのことを知った藤兵衛はお美津を叱りつけ、彦次には「捨てる飯を食べる犬と一緒でかまわないのか」と言ったという。茂七(高橋英樹)は、藤兵衛が殺された夜、近江屋に身を隠すようにして立ち寄っていた下駄屋の娘・お園(岡本綾)を探し出し、彼女から意外な話を聞かされる…。

 今回のTVドラマ、原作にとても忠実に作られており、じっくりと深く描いており、なかなかよかったですね。藤兵衛(柴俊夫)の「恵む方は気持ちがいい。しかし、それでは恵まれた方は駄目になっちまう」という言葉がとても説得的に描かれていたように思います。

 茂七一家の家庭劇もなかなか楽しかったですよ。お京(あめくみちこ)がお絹(星野真里)だけに下駄を買ってきたので、おかつ(淡路恵子)がむくれる場面があります。おかつは茂七に八つ当たりし、自分のために下駄を買ってくれないと言い、さらに「死んだ娘の婿だからと息詰めて暮らしてる」なんてことまで言い出しますので、茂七が思わず「どこが息詰めてんだよ」と言ったのには吹き出してしまいました。



第二話「敵持ち」(『堪忍箱』)
 やまもものコメント yamamomo01@nifty.com


 板前の加助(浅野和之)に突然災難が降りかかる。居酒屋の扇屋の亭主が病で倒れたので、この亭主に恩義のある加助は扇屋を手伝うことになったのだが、そのためにその店の女将・お鈴(奥貫薫)との関係を疑った勇吉(松田直樹)という男から「お鈴から手を引け」と脅されることになる。加助の身を案じた妻・おこう(根岸季衣)は、長屋に住む傘張り浪人の小坂井(三浦浩一)に用心棒を頼むが、ある夜、加助は扇屋からの帰り道に殺された死体を発見し、役人から下手人の疑いを掛けられる……。

 出演者みんなとても好演していました。前半では、茂七が加助の身に降りかかった災難のその裏にあるたくらみを解明し、後半では傘張り浪人の小坂井の過去が語られます。私の印象では、後半の浪人の小坂井の話は少し引っ張りすぎのような気がしました。もう少しさらっと流した方が余韻があったような気がします。


第三話「鬼は外」(『オール讀物』2003年2月号)
 やまもものコメント yamamomo01@nifty.com

 盛り場で茂七は身寄りの無い少女・お花(宇野あゆみ )を見つけて保護します。このお花には似顔絵を上手に描くことが出来るという特技がありました。同じ頃、小間物問屋・松井屋のお金(山下容莉枝)とその主人が茂七のところに相談に訪れます。松井屋の主人・喜一郎が急死し、里子に出されていた喜一郎の双子の弟・寿八郎(松重豊)を呼び戻したが、この人物が寿八郎の偽物ではないかというのです。それで、茂七は寿八郎に直接会うことにします。寿八郎の話によると、お金が寿八郎に彼の妻子との関係を切ることを迫り、それを寿八郎が拒否したことから、彼が小間物屋の身代を狙った偽物ではないかと疑いだしたとのことです。寿八郎は、自分は偽物などでは絶対なく、叔母のお末(東海林愛美)ならばそのことを証言できると主張します。それで、茂七はお末のことを調べはじめ、このお末がいまは久一(山本龍二)という男と所帯を持っていることを知ります。ところが、そのお末の家にかつて松井屋の近所に住んでいた糸問屋の娘のおるい(蜷川みほ)がいることが判明します……。

 原作の「鬼は外」は『オール讀物』2003年2月号に掲載されたものですが、その内容についてはほとんど記憶にありませんでした。それで、TVドラマ化されるというので読み直しましたが、お金の寿八郎への対応があまりにもひどいというか道理が通らなさすぎますね。だから、寿八郎がお金のそんな無茶な要求を断固拒否すればそれでお仕舞いという気持ちがして、その後のストーリー展開にあまり興味が持てませんでした。それから、物語の後半で明らかになってくる久一とおるいの話にもほとんど共感は持てませんでした。

 今回のTVドラマ化されたものを観ても、やはり原作を読んだときと同じ感想を持ちました。ただ、似顔絵を描くのが上手な孤児のお花は、そのこまっしゃくれた感じがよく出ていて、なかなか印象深かったですよ。


第四話「迷い鳩」(『かまいたち』)
 やまもものコメント yamamomo01@nifty.com

 大川で身元不明の水死体があがりました。その身元調べのために日本橋界隈を歩いた茂七は、お初(沢松綾子)とお清(喜多嶋舞)のもめごとに遭遇し、二人の仲裁をすることになります。お初は、姉と一緒に一膳飯屋を商っており、人には見えないものが見える不思議な能力を持っており、店先を通ったお清の袖にしたたる血が見えたのです。しかし、お初以外の誰にもそれは見えないために掏摸の疑いを掛けられ、幸い茂七の機転で助かったのです。お初のもめごとの相手のお清は蝋燭問屋・柏屋のお内儀でした。同心の山村新五郎(桐山浩一)たちの話によると、柏屋では女中(名前はお常で、桜川博子が演じていました)が一人失踪しており、主人の宇三郎は理由のわからない病に罹っており、彼の世話をしていた女中たちが次々と辞めているそうです。その柏屋から茂七の家に仲裁のお礼として酒樽が届けられたので、茂七はそれをお初の家に持っていきます。そのときに、お初はめまいがして酒樽を取り落とし、その酒樽から真っ赤な血が流れる幻覚に襲われ、「助けて、助けて、人殺し」という女の声が聞こえてきました。その翌日、大川の水死体の身元が判明しました。 圭太(藤間宇宙)という実直な桶職人で、長屋では鳩を飼っていたそうです。茂七がお初と共に柏屋を訪ねたところ、お初はまたもや不思議な幻覚を見てしまいます。また、茂七は柏屋の庭先で圭太が飼っていたと思われる鳩を見つけます……。

 この第四話 で茂七と霊験お初が顔合わせをするというので、放映をとても楽しみにしていました。原作の「迷い鳩」(『かまいたち』)に登場するお初は、『震える岩』『天狗風』で活躍する霊験お初の初期のプロトタイブ(原型)ですね。長編時代小説で活躍するお初ちゃんは、ちょっとおきゃんで明るい性格の娘のイメージです。しかし今回のTVドラマでは、自分の見る幻覚に恐怖し身をすくめる姿しか描かれていなかったのがちょっと残念でした。茂七と若い娘らしい会話もしてほしかったですね。

 圭吉とお常が鳩を使って心を通わせていた話は印象的でした。お常が川越で療養している圭吉に送った手紙に、「会いたい、看病したい、鳩につかまってそこに飛んでいきたい」と書いてありましたが、この手紙にはほろっとさせられましたね。一方、柏屋のお清が「夫婦でしみじみと話すこともなかった」と言っており、宇三郎とお清は夫婦として一つ屋根の下に住んでいながら、心を通わせる鳩さんがいなかったようですね。



最終回「ならず者」
(『堪忍箱』所収の「砂村新田」)
 やまもものコメント yamamomo01@nifty.com

 茂七は、市太郎(遠藤憲一)という男の行方を追っていました。市太郎は傷害事件を起こしていたのです。同じ頃、通い奉公に出ているお春(尾高杏奈)は、奉公先の砂村新田近くで一人の男に「おまえ、お春ちゃんかい?」「おっかさんにそっくりだな」と声を掛けられます。その男は自分のことを市太郎と名乗り、お春の母親であるお仲(松田美由紀)の消息を聞きたがり、「おっかさんを、大事にな……」と言い残して立ち去っていきました。お春は、そのとき通りかかった知り合いの人間から、市太郎が羽織の紐を喧嘩結びにしていたことを指摘され、そんな人間はならず者に違いないと言われます。お春は、自分の母親がならず者と言われるような人間と知り合いだということを知ってとても不安になり、母親にも言えず一人心を痛めます。数日後、その市太郎の死体が三十三間堂で発見されます……。

 この最終回の「ならず者」の原作は『堪忍箱』に収録されている「砂村新田」です。この「砂村新田」について、「『茂七の事件簿』シリーズと時代小説を語る!」と題されたインタビュー(『時代劇マガジン』2003/vol004号収録)で宮部みゆきは、「喧嘩結び」という羽織の紐の結び方があることを知って書いた作品であると語っています。やくざや巾着切りなどがいざというときに手でほどかなくても羽織を引っ張るだけでほどける結び方だそうです。

 原作は、そんな喧嘩結びをしているようなやくざな男の心の裡にそっと秘められていた純情が描かれています。お仲と幼なじみだった市太郎は、お仲が他の男と所帯を持つと知ったとき、自分のようなやくざな男と関わり合いを持っていることを他人に知られたらお仲に迷惑が掛かるだろうと判断し、お仲にこれからは絶対に声を掛けないと言って別れています。その約束をこの市太郎は最後まで守って独り寂しく死んでいきます。そんなやくざな男の幼なじみの女性に対する優しい心遣いと純情が読者の胸を強く打ちます。

 TVの茂七シリーズの脚本を担当しる金子成人は、『堪忍箱』の新潮文庫の解説で、この短編に言及して、「今直ぐにでも脚色したい」とコメントしていましたが、今回のTVドラマでも原作のやくざな男の心情がよく再現されていたと思います。なお、原作と同じようにTVドラマでも、お春は市太郎から声を掛けられたことを母親に黙っていることにしますが、それを茂七の「秘密にしておこう」という忠告にお春が従ったように手直ししています。茂七がなせそう忠告したかというと、もしお春が市太郎に声を掛けられたことを母親のお仲に伝えたら、お仲が必ず泣き出し、そのためにお春の父親が不審を抱くことになり、みんなが辛くなるだろうと判断したからです。これはこれでなかなか説得的だったと思います。



宮部みゆきの「「茂七の事件簿3 ふしぎ草紙」についてのコメント

 なお、「『茂七の事件簿』シリーズと時代小説を語る!」と題されたインタビュー(『時代劇マガジン』2003/vol004号収録)が2003年5月に大沢オフィスでおこなわれ、彼女は茂七シリーズと時代小説への思いをいろいろ語っています。それで、ここでは「茂七の事件簿3 ふしぎ草紙」関連の発言のみを紹介させてもらうことにします。

 第3回目の茂七シリーズとして放映される全5話中でどんな作品を楽しみにしていますかとの質問に対し、宮部みゆきはつぎのように答えています。

 「『鬼は外』(第3話)は、今年のお正月『オール讀物』に掲載させていただいた新しい作品なんですね。それだけにこの作品は楽しみですね。また、『敵持ち』(第2話)という作品は、浪人とはいえ武家が出てくるという、私にしては珍しい作品なので、どんな感じになるのかなと。」

 また、『本所深川ふしぎ草紙』収録の「片葉の芦」は茂七が初めて登場する短編作品なんですが、同短編作品をドラマ化した「片葉の芦」(第1話)について宮部みゆきはつぎのように語っています。

 「なんといっても第1作目ですし、今読み返すと小説が文章も言葉もまだ硬いんですよね。それにストレートな謎解きものなので、これまでドラマには脚色しにくいのではなかったのかなと。ですから、今回でよかったかなと思っています。」

 また、霊験お初シリーズの主人公のお初が登場する「迷い鳩」(第4話)についてもつぎのように語っています。

 「それも、あとから作った『震える岩』などのシリーズではない、初期の、プロトタイブですね。ですから、私としてはこのプロトタイブのお初なら、〈霊験お初)にこだわったかたちで映像化になるよりは、(茂七)シリーズの中で活かしてもらったほうが、よい作品になるのではないかと思いました。やはり、別作品の主人公ということで、大変気を使っていただいて、この作品に関しては改めて『〈迷い鳩〉を使っていいですか』という打診をしていただいたんですね。(中略)私としては、まずこのドラマでお初ちゃん、またはお初ちゃんのような女の子が出ても、出てこないにしてもかまわない。もし出てくるなら、この作品のお初ちゃんだったら、むしろドラマのカッコイイ茂七親分と対で使ってもらったほうが幸せかもしれない。『震える岩』とか『天狗風』のお初だと、これは長編ですし、個性が立ってますから、組むことは難しいかもしれませんが、まだこのプロトタイブの段階ならば、むしろ楽しいお初ちゃんになると思いましたし。」

 今回のシリーズの最終話「ならず者」は、『堪忍箱』収録の「砂村新田」が原作で、この『堪忍箱』の文庫版の解説を書いているのが、TVの茂七シリーズの脚本を担当している金子成人でした。同解説のなかで金子成人は、茂七の脚本にしてみたいと思ったのが『砂村新田』であったと書いています。そんな「砂村新田」のTVドラマ化について、宮部みゆきはつぎのように述べています。

 「小さいお話ですからね。もともと〈喧嘩結び〉という羽織の紐の結び方があるんだ、ということを知ったことで書いた作品なんですが、必ずしも短編として完成度の高い作品ではないという思いがあったんですね。ですから、金子さんの解説を拝見して、これを脚本にしたいと書いていただいて、そう悪くはなかったんだなあ、と思ってホッとしました。ただ小説だと原稿用紙にして40枚ぐらいで、たいして長いお話ではないですから、これを45分間のドラマにすると、膨らませなければならない部分もありますし、多分かなりのご苦労があったと思うんですよ。説明してしまえば、なんてことはないお話ですから。それは、やはり小説とドラマの脚本の違いですね。それに、これは演じる方にもかなり負担の掛かるお話かなと。それほどドタバタのあるお話ではなので…すいませ〜ん、という感じですね。」


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