山靴通信 2006年6月1日号(毎月1日発行)






ワラビとコシアブラを採りまして、それを天麩羅にして食べますと、

口の中は春になり、お酒も手伝っていつになく饒舌になり、

こうして夜は更けていくのでしたが、翌朝は雨の音で目を覚まし、

キノコのような、トム・ソーヤーの秘密の隠れ家のような、山の上のキャビンに寝たことを思い出し、

それでもそのままじっと横になっていたら、いろいろつまらないことも考えてしまうので、

手足や体の力を抜いて無我の境地をめざしたのでした。


でも、それはとても無理でしたので、ごそごそとキノコの階段を下りました。




#211 『ぼとく山の山名標識』



シモンさんから、ぼとく山の山頂に「ぼとく山」という山名標識が掛けてあったという情報を得たので、どなたが掛けてくれたのか知らないがうれしくなり、すぐにでも行って確認したかったのだが、足を怪我して医者から山歩きを禁止されていたのでそれもままならない。「ぼとく山」は展望に優れる隠れた低名山であると私が山仲間にいったら、それではその山を「ぼとく山」としようということになった。今では秋田に行ってしまった、なんどさんが茨城にいたころだから、これはずいぶん前のことである。そのうちにインターネットを通してこの低名山も知られるようになり、地元ではこの山は「おかめ山」と呼ばれていることもわかったのだが、まさか「ぼとく山」の標識が掲げられるとは思いもしなった。足の怪我も癒えたので、回復後の最初の山と決めていた「ぼとく山」に登った。久しぶりの山歩きで何だか息が切れると思ったら、この日は初夏のような陽気で、いくら低山とはいえ自転車で海辺から登山口まで行き、しかも水だけで朝から何も食べていないのに山登りまでしてしまったのでシャリバテと相成った始末。それでもたどり着いた山頂で念願の標識と対面して感動しきり。竜神峡に架かった鯉幟を写真におさめたり、標識をスケッチしたりして、新緑の中を抜けてくる五月の薫風に吹かれていたら疲れも忘れて山は極楽となりにけり。

ぼとく山でのスケッチ

ぼとく山でのスケッチ




#212 『常陸の県境を歩く(その1)』



常陸の海岸を歩いて、これが思いのほか面白かったのだが、これも終わってしまって気が抜けた。それでは茨城の県境を歩いて常陸の海岸歩きの出発点である勿来まで歩いてみよう、茨城県を一周してみようと思っていたら足を怪我してしまい、歩くこともままならないことになってしまった。地図を見ると、茨城の県境は銚子からは利根川に沿っているが、古河で利根川を離れ、下館あたりから山の中となる。前半は川岸を歩き、後半は低山の尾根筋を歩くことになり、海岸歩きとは違った面白さもあるだろうと、地図とにらめっこしてコースを考えながら足の怪我の回復を待ったのであった。

茨城最南端の利根川河口にて

茨城最南端の利根川河口にて


リハビリを兼ねて、さあ歩くぞと銚子に出かけた。利根川河口の風力発電のプロペラは今日もだるそうに回っている。風が冷たいので両手をポケットに入れて歩き出したのだが、銚子大橋を過ぎる頃には体も温まってきた。利根川の川岸は護岸工事のコンクリート堤となっていて、海岸のように水辺をあるくことはできないし、コンクリートの凸凹は歩幅に合わずにまったく歩きにくい。ところどころコンクリート堤がないところが出現するが、ここは葦のようなものが生えている泥地帯で歩くことはできない。蜆獲りをしている人がいて、それを眺めて休んでいたら、向こうも変な男が歩いていると怪訝な様子でこちらを見ている。世の中、悪い人間が増えているのか、人を見たら泥棒と思えというような風潮がはびこってきてきて、住みにくくなってきましたな。

利根川で蜆獲りしている人を撮影したのだが・・・

利根川で蜆獲りしている人を撮影したのだが・・・


この日は田植えの真っ盛り。利根川に沿った田圃は水を張って、川の水があふれたようでもあり、湖ができたようでもあり、春の一日の風物詩。そんなあぜ道を親子連れが自転車でやってくる。遠い昔にみたような、ノスタルジックな心象風景。こんな道を、あんな自転車でガタゴトガタゴト、そんなこともあったよな。田圃では気の早い蛙が鳴いている。

すれ違うときに写真を撮らせてもらいましたと頭を下げたら、このお父さんも分かっていたように会釈を返してくれた

すれ違うときに写真を撮らせてもらいましたと頭を下げたら、
このお父さんも分かっていたというように会釈を返してくれた


海岸歩きの時には波が砕ける音があるので、人工的な音は聞こえてこないのだが、川岸歩きではいろいろな音が聞こえてくる。その中でもうるさいのがガソリンが発する音であることがわかった。自動車ばかりでなく田植え機も、田に水を入れるポンプも盛んに音を発している。ガソリンがなかったころはさぞかし世の中は静かだったろう、自然の音に満ちていたろう、と思った。日が傾きかけたころ、見覚えのある橋が見えてきた。あの橋を渡ると今回の終着点のJR成田線の下総橘駅である。川辺で魚釣る人がいて、私が幸運をもたらしたのか近付いたら鯔のような大きな魚を釣り上げた。

この兄さんはこのあとすぐに大きな魚を釣り上げた

この兄さんはこのあとすぐに大きな魚を釣り上げた


下総橘駅から電車で銚子駅に戻り、駅前で土産を探して一軒の店に入ってみたが、いろいろな土産物があるので店頭にいた主人に銚子の名物は何かと訊いたら、それはなんといっても鰯だ、鰯の角煮だと言うので、鰯の干物一箱と角煮を二袋買った。銚子大橋を歩いて渡るのは決死の覚悟がいるということが前回の海岸歩きのときにわかって懲りていたので、今回はタクシーを奮発して出発点の波崎の河口まで戻ったのたが、こんな乗客はこれまでいなかったとみえて、駅前のタクシーの運転手に河口にある風力発電塔の場所を説明するのに骨が折れた。



#213 『山開きの御前ヶ岳』



南会津の御前ヶ岳に登ろうと畑小屋の登山口で身支度していたら、すぐそばの民家の兄さんが電動車でやってきて、「ずいぶん早いね。他の人はまだなの?」と話しかけてきた。一人で来たと答えてみたのだが、どうも話がかみ合わない。さらに話をしてみて、納得できた。今日は昭和村主催の山開きだという。登山記念のバッジがもらえたり、山菜汁などのおもてなしもあるとのこと。それならと、9時開始の山開きセレモニーに参加することにした。あいにくセレモニーが始まる頃には風雨が強くなっていた。本日の山開きの記念登山は中止にするとのアナウンスに、集まった30名ほどの登山者は残念がることもなく、記念のバッジを頂戴した。セレモニーが終わったら、雨も止んで雲が切れてきたので私は登ってみることにした。山の神ルートは立ち入り禁止になっていて、御前ルートを往復したのだが、急斜面の岩場に息がきれた。頂上にはまだ雪が残っていた。山頂に着いたらほどなく雨が降り出した。まったく久しぶりの雨の中の山歩きとなったのだが、ブナの新葉は雨にも映えて、気分よく歩くことができたのであった。

御前ヶ岳山開き記念バッジ

御前ヶ岳山開き記念バッジ




また2006年7月1日にお会いしましょう。Have a nice day

暮篤(ぼとく)



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