山靴通信

2005年11月1日号(毎月1日発行)

坂本竜馬は霧島山に登った。
竜馬は目前の高千穂の頂をスケッチする。
姉様に山登りの面白さを伝えたいためである。
その手紙文によると、
「妻と両人づれにて、はるばるとのぼりしに、
(中略)
此所にひとやすみして又はるばるとのぼり、
ついにいただきにのぼり、
かの天逆鉾を見たり」

司馬遼太郎『竜馬がゆく』(文春文庫)より

#199
『常陸の海岸を歩く(その9)』


 このところ運動不足でもあり、久しぶりに常陸の海岸を歩くことにしたのだが、あいにくの曇り空である。山歩きではないし、少々の雨なら傘をさして歩くことにした。鹿島アントラーズのクラブハウス近くにある高松緑地運動公園に駐車した。ここからが前回(『山靴通信』#197)の続きとなる。鹿島湾を囲むように工場群ができているため、このあたりの海岸線は歩けない。歩く人もいない、海も見えない工場わきの、自動車がひっきりなしに通る道路を行くので、海岸のそばを歩いている感覚がまるでない。
 石碑に出会った。それによると、昭和19年特別攻撃隊櫻花隊が近くの神之池で訓練を行い、その後九州最南端の鹿屋に移り、そこから出撃したという。特攻の発祥の地とある。傘を地面に突き立ててこの案内板を見ながら、今のイラクに思いを馳せた。
 持参した昭和62年発行の地形図にある道路が通行止めになっていて、迂回せざるをえない。立派な道路がどうして通行止めになったのか不思議であったのだが、あとで最新の地図を見ると、居切という地域がそっくり消失していた。地面が掘り進められて港の一部と化していたのだった。迂回した反対側にもゲートがあり、警備員が寒そうに立っていて、時折入っていく工事用車輌を見守っている。古い地図にある寺や神社はなくなっているし、居切の集落もないのであろう。ゲートの反対側にはもう使われなくなった道路が草におおわれていた。

今はない居切の方角を望む

今はない居切の方角を望む

 傘を手にして歩く姿は奇異に映るのだろうなと思いながら歩いていくと、鉄道線路に列車が止まり、たくさんの人が集まっている。何事かと訊いてみると、今や荷物を運ぶだけになってしまった鹿島臨港線が営業20周年を記念して一日だけの臨時旅客列車の運行を行うイベントであるという。ここ神栖駅とサッカースタジアム駅を35分ほどで走る。鉄道マニアが盛んに写真を撮っている。この『常陸の海岸を歩く』では鉄道に縁が深い。出発点に戻るために鉄道を利用している。すでに廃止になった日立電鉄にも乗ることができた。今回のコースには近くに鉄道線路が敷設されているが貨物専用なので鉄道は利用できず、長い距離を歩いて駅に出なくてはならない。このイベントを事前に知っていれば、廃線を走る電車を利用できたのであったが。
 風が強くなり、少し雨が降り出してきて、傘をさして歩く。昼時になり、雨宿りを兼ねてラーメン屋に飛び込んだ。この辺りには飲食店が少ないからだろうか、たいそうな込みようだ。相席となり、醤油ラーメンを注文したが、このような店にしてはと言ったら怒られるが、上等な味のラーメンであった。

一日だけ賑わう神栖駅から

一日だけ賑わう神栖駅から

 やっと神栖の南浜にたどりついたが、防波堤のコンクリート壁が立ちはだかっていて海は見えず、時折寄せる大波が砕け散る水しぶきが見えるだけ。観光目的であろう、壁画が一面に描かれているが、すでに十数年経っているため、絵具も剥がれている。しかし色あせているからこその味わいも感じることができる。

壁画その1

壁画その1

壁画その2

壁画その2

壁画その3

壁画その3

 壁画が終わると待望の砂浜(日川浜)に出た。アスファルトでできた道やコンクリートの壁ばかり見てきた目には気持ちがなごむ景色である。漂着したゴミが多いのが気になるが、波の音を聴き、砂の上を歩くのは気が休まる。これも長時間無機的な人工物の中を歩いてきたからこその感慨であろう。
 この砂浜は次回の楽しみとして、本日の最終目的地である下総橘駅(成田線)に向かった。再び工場の道を行き、常陸利根川、利根川、黒部川を越える長い橋を渡り、日が暮れて薄暗くなった頃にようやく下総橘駅に着いた。無人の駅舎のベンチに腰をかけて銚子から来る電車を待っていると、今回は海には縁遠い面白味のないコースではあったが、それなりに変化があって楽しめたかなという思いになっていた。さて、『常陸の海岸を歩く』は次回で最終回となる。

海鳥ばかりの日川浜

海鳥ばかりの日川浜
 
#200
『ぞろ目探訪2題』


 緯度と経度の数値がぞろ目になる地点をみつけるという、世界的なゲームがあります。これまでもこの『山靴通信』で何度か報告しましたが、まだ飽きずにいます。今回はつくば市と福島県の塙町にあるぞろ目地点に歩いてたどり着きました。
 最初のぞろ目は、北緯36.11111°、東経140.11111°という1の数字が10もある地点です。つくばの洞峰公園から雨傘を片手に歩き出しました。つくばエクスプレスの駅を越え、筑波大学のキャンパスを通り抜けて、たどりついたらそこは携帯電話の販売店の駐車場でした。

11111のぞろ目地点

11111のぞろ目地点

 そのぞろ目地点はどのような所かを想像すると楽しいのですが、実際にその地点に立つと予想していたものとは違っていることが多いようです。それでもぞろ目地点に立てるだけでも良しとしなくてはなりません。工場の中であったり、田圃の真ん中であったり、車がビュンビュン通る道路の中央であったりして、望むぞろ目地点に立てないことも多いのです。どこか外国のようにも見える上に掲載した写真のように駐車場がぞろ目地点であるというのは、とても喜ばしいことなのです。

11111と11111

11111と11111

 次のぞろ目地点は『山靴通信』にふさわしい山の中です。秋の一日、シモンさんとNさんとI女史の4人で八溝山に連なる支尾根の一つを歩いて楽しみました。下の地図をご覧ください。QuintupletsN5-E2 (N36°55′55.5″、E140°22′22.2″)とQuintupletsN5_E2 (N36°55.555′、E140°22.222′)が5555522222のぞろ目地点です。破線の山道をたどっていくと大笹山(875.1m)に至ります。この大笹山の登頂も今回の目的のひとつでしたが、時間切れで断念しました。まあ、山頂に立つだけが山歩きの楽しみでもないし、今の季節には紅葉の美と茸採取の楽しみがある。さて、地図のQ01地点からぞろ目地点QuintupletsN5-E2をめざしたのですが、皆さん、私たちはどのようなルートを選んだでしょうか、当ててみてください。

ぞろ目地点探訪地図

ぞろ目地点探訪地図

 私はQ01から尾根に取り付くことを考えていたのですが、そうするとぞろ目地点に近付くためには尾根から急崖を下らなければなりません。シモンさんが沢をつめようというので、そのほうが素直なコースなのでそうしました。Q01地点から北西に延びる沢を見てください。その沢を行き、大きな沢分岐を右折して、さらに沢を時計回りにつめるとぞろ目地点に行き着きます。森の中は人工衛星からの信号を捉えにくく、そのため位置精度が悪いためにむずかしいのですが、どうにかぞろ目地点QuintupletsN5-E2の証拠写真を撮ることができました。
 このぞろ目地点から北側の尾根に登り、Q02のピークから尾根伝いに北に向かいました。上の地形図にはありませんが、その後は665m、671m、589mのピークを踏む尾根周回コースを歩いて、もう一つのぞろ目地点(QuintupletsN5_E2)に行きました。今回の山歩きでは、クリタケ、ムキタケ、ムラサキシメジ、ヌメリツバタケモドキ、ナラタケなどの茸が採れたことを最後に付け加えておきます。

午後2時17分のGPS(QuintupletsN5_E2地点)

午後2時17分のGPS(QuintupletsN5_E2地点)
 

また2005年12月1日にお会いしましょう。Have a nice day

暮篤(ぼとく)

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