山靴通信

2005年7月1日号(毎月1日発行)

君知るや 山の道
立ち渡る霧のうちに 騾馬(らば)は道をたずねて
嘶(いなな)きつつ彷徨(さまよ)い 広き洞(ほら)の中には
いと年経たる龍の ところ得顔に棲まい
行き帰る白波の 岩より岩を伝う
彼の懐かしき山の道を
彼方へ
君と共に行かまし

ゲーテ(森 鴎外訳)『ミニヨンの歌』より

#190
『天狗角力取山』


 山仲間と安達太良山で遊んだ翌日は、その南西の方角にある川桁山に向かった。ただし、川桁山が今回の目的ではない。隣にある天狗角力取山に登るのである。天狗角力取山は朝日連峰にもあり、私が山を始めた頃に登ったことがあるが、ここは会津の天狗角力取山である。藪山であろう。
 林道は山奥まで通っているが、歩くことを楽しみに来たのであるから車を利用した安易な山登りはしたくない。そこで川桁町に近い観音寺から出発した。梅雨が間近な季節である。雨が降りそうでもないし、晴れてくるようでもない曇り空である。観音寺川に沿った林道、昨夜の雨を受けた草木は元気がある。
 3台の車が駐車してある林道終点を過ぎると、ここから沢沿いのゴロ石道になる。タケノコ採りの人が下ってきた。重そうな荷を背負って下向きに歩いてきたので、すれ違うまで私の存在に気付かなかった。驚いて恐縮している地元の人は、「山登りですか。お気をつけて」と言ってさらに下っていった。あたりを見渡すと、なるほどネマガリタケが顔を出している。
 道がきつくなり、ぬかるみの急坂を過ぎると鞍部に出る。ここが川桁山と天狗角力取山の分岐点だ。左手はしっかりした登山道であるのに対して、右は藪が行く手を阻んでいる。蔦の絡まる藪に突入。尾根に沿って登っていけば、ほどなく山頂に着く距離であるのだが、なにせ藪が深く、湿度が高くて蒸し暑い。しかも急な登りにネマガリタケを掻き分けて進むのだが、これが手ごわい。踏みつけると竹は滑る。蔦が私の手足を捕らえて放さない。あそこが山頂であろうと、行くと山頂らしくない。さらに先が山頂らしくみえる。こんな藪の中が山頂だったのかとあきらめかけたが、もう少し進んでみようと最後の藪漕ぎ。するとそこは最近刈り払われた、新しい山名標識が取り付けられた山頂であった。

手前のピークが天狗角力取山

手前のピークが天狗角力取山

 流れ落ちる汗を気にせずに一気に飲むビール。足元に顔を出しているネマガリタケには何者かが齧った歯型がついている。熊でもいるのか。じっとしていて鳥の鳴き声を聴いていたら寒くなってきたし、霧で展望もないし、熊さんが出てきても困るので戻ることにした。
 藪山の下りは、藪山の上りよりは楽だが、相変わらず蔦は私を捕らえようとするし、ネマガリタケはスキー板のように私を滑らそうとする。登ったコース通りに下ったつもりでも、少しずつ逸れてしまう。軌道修正しながら進むと藪に覆われた林道跡らしき所にでたので、この藪道を行くとすぐに鞍部に着いて一安心。
 せっかくだから、というのは間違った考えだ。せっかくだから川桁山にも登ってみよう、と思ったのがいけなかった。紫八染(ムラサキヤシオ)の花と噛柴(タムシバ)の白い花にだまされた。急登が続き、藪山でたっぷり汗をしぼられた身体にはこたえる。何年か前にも登ったことがあるのだが、すっかりこのコースを忘れていたので、行けども行けども頂には着かない、と思ってしまう。こうしてたどり着いた川桁山の山頂では霧で展望が無かった。

天狗角力取山の山頂

天狗角力取山の山頂
 
#191
『常陸の海岸を歩く(その6)』


 梅雨に入ったと思ったら、すぐに梅雨も一休みとなりました。今日は常陸の海岸歩きです。家に帰ったら、今年一番の暑さでしたとテレビのニュースで云ってましたが、本当に暑い日でした。鹿島臨海鉄道は鹿島アントラーズのサッカー場を通る鉄道で有名ですが、普段は乗客が少ないローカル線です。そんな人影のない涸沼駅から歩き出したのですが、まだ朝7時なのに日差しは強く、すぐに汗が吹き出しました。黒いビニールで畝を覆った畑には、薩摩芋やじゃが芋や大根がすくすくと育っていて、どれも美味そうです。前回は黒土が目立っていたのに、今日は一面緑の畑になっていました。思いがけない暑さに茹だっている縞蛇君を驚かしたりしましたが、小一時間ほど畑の中を歩いて上釜の海岸に出ました。海岸は浸食防止の護岸工事によってコンクリート堤となっていてがっかりしましたが、滝浜の海岸からはずっと砂浜を歩くことができるのでご安心を。海辺には浜昼顔が一面に咲いていました。誰も見向きもしないような、どこの海岸にもある花ですと書いていて、人間様だけが注目しないのであって、蜂はせっせと浜昼顔の花蜜を集めていたのを思い出しました。

浜昼顔

浜昼顔

 サーフ天国です。いくら気温は高くなったといっても、海水はまだ冷たいのに皆さん熱心ですね。初心者のサーファーは浅瀬でサーフボードに乗る練習をしていますが、教える人も一所懸命。女性サーファーも背丈よりも長いボードを持って、海に向かって行きました。私も一度くらいやってみたいな、とまたぞろ好奇心がわきましたが、あなたには他にやることがたくさんあるでしょう、という天の声が聞こえてきました。はい、その通りです。

サーファーたち

サーファーたち

 今日歩いた海岸は遠浅になっているからでしょうか、波が寄せ、波が引いても海水は砂に吸い込まれず、砂浜が濡れたようになっていて、斜めから見ると鏡のようになり、人影が砂浜に写ります。さらに靄がかかっているので、幻想的な景色です。波の音というのは、音としてはうるさいと思うのですが、うるさいと思わないのはどういうわけでしょう。海から生まれた生物には、波の音に郷愁を感じるからでしょうか。それとも寄せては返す、あのリズムがうるさいと感じさせないのでしょうか。

季節はずれの海水浴場

季節はずれの海水浴場

 大竹海岸は良質の海水浴場として知られています。しかし今の季節は寂しい。夏には大音響で流行の歌を流すであろうスピーカーも今日は無言です。海の家も戸が閉まっています。コンクリートの壁に書かれたメニューを見ても注文することはできないのです。

海辺のメニュー

海辺のメニュー

 鹿島臨海鉄道の大洋駅まで歩いて、今日も予定通り歩き通すことができました。常陸の海岸歩きも今回で6回目となりましたが、目的地の銚子まで残り3回であろうと踏んでいます。GPSで記録した、これまでの踏破コースを下図に示します。赤とオレンジの交互の色で日ごとのコースを描きました。だんだん暑くなってきて、次回からは登山靴はやめて裸足で海岸を歩くことにしようかなと思っているところです。

海辺のメニュー

今日までに歩いた常陸の海岸コース(カシミール3Dによる)
 
#192
『GPSぞろ目探訪(竪破山の巻)』


 シモンさん、カプランさん、カプラン夫人と一緒にGPSのぞろ目探訪に行きました。今回のぞろ目地点は天竜院近くにある北緯36°44′44.4″東経140°33′33.3″の地点と北緯36°44.444′東経140°33.333′の地点です。天竜院から竪破(たつわれ)山まで10kmほど歩きました。早朝に雨が降って心配しましたが、梅雨の季節ながらそれは杞憂でした。

ぞろ目探訪ルート図(カシミール3Dによる)

ぞろ目探訪ルート図(カシミール3Dによる)

 最初のぞろ目地点は杉林の中でした。ここの杉は手入れがよいのか、あるいは杉の種類が違うのか、明るくて気分のよい森を形成しています。首尾よくシモンさんと私はGPS機器のぞろ目表示を写真にとりましたが、カプランさんは断念しました。こんな男3人の様子を、女性のカプラン夫人の目にはどのように映ったでしょうか。下の写真は、熱心に数字が揃うのを待つ、ぼとく君の姿であります。

ぞろ目地点にて

ぞろ目地点にて

 次のぞろ目地点は予想と違っていて、伐採跡の杉植林地帯でした。野薔薇の茂る藪の斜面を下り、そしてまた登るという、まったく茨の道でしたが、空は開けているので、ここでは3人ともぞろ目地点に立ち、証拠の写真を撮ることができました。
 632.2mの三角点で弁当を食べてから、さらに境界線に沿って竪破山まで歩きましたが、1リットル持参した水は竪破山に到着するころにはすっかりなくなっていました。低山はすっかり夏になっていて、今年初めて蚊に刺されたのでした。

 

また2005年8月1日にお会いしましょう。Have a nice day

暮篤(ぼとく)

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