山靴通信

2003年10月1日号(毎月1日発行)

先月号は休刊しましたが、
今月号は早めに準備を始めたこともあり、
余裕をもって9月末の締め切り日を迎えました。
月末の締め切りというのは自分で決めたことですが、
これがあるおかげで今日まで『山靴通信』を続けてこられたと思っています。
もちろん、このホームページを見てくれる皆さんがおられることが
継続できた第一の原動力であることは言うまでもありませんが。

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#131 『GPSを使う』

山を歩いていて道に迷ったことは、誰でも一度や二度はあるでしょう。その時、どうするでしょうか。整備された登山道を歩いているときなら、来た道を戻り、道標を見つけて、あるいは見覚えのある地形を見つけて正しいルートに戻ることができるでしょう。しかし、道なき藪山を歩いている場合には、予定していた正しいルートに戻る(出る)ために、地図を開いてどの方向に進むべきかを考えます。その時に問題になるのは、現在位置が地図上でどこなのか、ということです。

すべての道迷いの根源は、この“現在位置を知る”ということに帰着するのです。現在自分がいる位置を間違えると、とんでもないことになることがあります。特に現在位置が正しいと思い込んでしまうと最悪の結果が待っています。私はこの思い込みで予想外のところに出てしまい、何度も長い林道歩きを強いられたのでした。

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。現在位置を知るための道具がGPS(Global Positioning System、全世界測位システム)で、カーナビゲーションとして利用されているのは皆さんご存知の通り。これを手のひらサイズにしたGARMIN社製ハンディGPS(etrex VISTA日本版)というものを入手しました。使用目的は、もちろん山登りの道具としてなのですが、どういうわけか山に行く機会がなく、もっぱら小旅行や散歩のときに使っていました。

現在位置はハンディGPSの液晶画面の地図上に矢印として表示されるとともに、自分が北緯何度、東経何度の位置にいるか、がわかります。GPSを手にして歩くと、歩いたコースが軌跡として地図上に記録されます。ある地点を登録すれば、どこにいてもナビゲーション機能により登録した地点までの直線距離が示され、その地点に向かう方角を矢印で教えてくれます。街中で使っているかぎりは面白い玩具なのですが、はたして山の中での使用感はいかがなものでしょうか。実際に登山に使った感想は、『山靴通信』#133と#134で報告しましょう。

ハンディGPSの液晶画面
ハンディGPSの液晶画面(筑波山あたり)


#132 『つげ義春の温泉』

驚いた。あの鄙びた温泉が、一部の人にはよく知られた存在であったとは・・・。

つげ義春という漫画家がいる。小学生の頃、その漫画を読んだ記憶がある。今となっては変わった作品であったという印象しか残っていない。子供には面白くない漫画であったようだ。ところが、どういうきっかけか忘れたが、きっとそれは赤瀬川原平あたりの文庫本を読んだのがきっかけだったよ うな気がするが、最近つげ義春に興味がわき、「血管をネジで止める」という奇妙な内容の作品『ねじ式』を読んでみたいと思っている。この辺の本屋にはつげ義春の本など置いていない。出張のときに立ち寄った上野駅の本屋にもなかった。

そんな折り、高野慎三著『つげ義春を旅する』(ちくま文庫)という本を近くの本屋で見つけて読んでいたら、つげ義春の作品に『二岐渓谷』というのがあるのを知った。秋の終わりに、旅に出た義春が台風の迫り来る日に、会津の二岐渓谷の老夫婦が営む谷底のわびしげな温泉宿に泊まった。そこで義春のバナナを盗んだ猿が台風の中で濁流の中に逃げ遅れているのを目撃し、翌日の台風一過に山の様相が一変していた、というのがこの作品のあらすじであるが、これも読んではいない。

この温泉宿が「湯小屋旅館」であり、これこそ私が二岐山に登ったあと入湯した温泉である。下山後、温泉で汗を洗い流そうと小奇麗な旅館を訪ねたのだが、入浴だけの客はだめだと断わられ、そこで教えてくれたのが「湯小屋旅館」であった。たてつけの悪い戸を開けて、薄暗い中に入って声をかけたら障子戸が開いて主人が出てきた。入浴料は五百円だというので、五百円玉を一つ主人の手に渡した。奥の部屋では、泊り客らしき二人と宿の女主人が炬燵に入って談笑していた。壊れそうな木造の通路を通ると脱衣所に出たが、これもいかにも古びている。湯船は大きくない。石鹸も何もない。しかし湯は透き通り、誰もいない湯に手足を伸ばすと、登山の疲れも消えていくようだった。渓流脇には露天風呂があり、これがまた良いものであった。二度目に二岐山を訪れたときもこの温泉に入れてもらった。

このような印象深い温泉であったが、つげ義春ファンには良く知られている温泉であることを知った。驚くと同時に、あの温泉が懐かしくなってしまった。もちろん、再び二岐渓谷を訪ねることがあれば、湯小屋温泉に入るつもりであるが、老夫婦が営む旅館であるので、いつまで営業できるのかという、余計な心配をしているところである。

つげ義春
つげ義春『海辺の叙景』より(模写)


#133 『日留賀岳』

塩原温泉郷にある日留賀岳(1849m)に登ったのは、残暑の9月中旬であった。前夜はウドウ沢林道で車中泊した。翌朝はGPS受信機を作動させて5時半に歩き始めた。谷あいの地形のために人工衛星を捕捉できない。小山氏宅が登山口になっているが、大根を洗っている家族の方に挨拶をして玄関にある登山者名簿に記帳し、手書きの登山地図をもらった。

竹林を過ぎ、石碑があるあたりでGPSを見ると衛星が捉えられるようになっていた。送電線鉄塔に出たら、そこはシラン沢林道であった。ここでGPSにウェイポイント(現在の位置)を登録した[下記の地図の「あ1」地点]。比津羅山の山腹を巻いて作られた落石の多い林道を30分ほど進むと林道終点に至る[あ2]。ここから本格的な登山道となるが、ここで腹ごしらえした。

日留賀岳
日留賀岳(黄線はGPSによる軌跡)

カラマツやブナの中の急登が続き、北アルプスの徳本峠越え以来の山歩きなので、汗が吹き出るばかりで調子がでない。平坦になり、木の鳥居[鳥居]を過ぎ、小さな金属製の鳥居を見て、最後の急登で日留賀岳山頂に着いた。霧が出て展望がないのは残念であるが、誰一人にも出会わない静かな山歩きができたことに満足していた。一瞬だけ男鹿山塊が姿を見せてくれたが、霧は晴れてくれないので下山することにした。

小山氏宅でもらった地図によると、日留賀岳山頂まで4時間、下り3時間の長丁場。いつまでも続く下り道にうんざりした頃、林道終点[あ2]に近づいたことをGPSのナビゲーションは教えている。登録した[あ2]地点まで残り50mとなったので、ここで道に迷ったことにしてGPSのナビゲーションのみを頼りに歩いてみることにした。登山道は無視して、無いものとする。斜面を登り、藪をかき分け、無視した登山道を横切り、GPSの矢印の方角に進んでいく。しばらく進むと深い谷に出た。GPSの矢印はこの谷を下り、向かいの崖をよじ登るように指示している。迂回することも考えたが、危険のない谷なのでGPSに従ってみたのだが、余計な運動を強いられてしまった。それでも目的の[あ2]地点に到達することができた。

このGPS試験の結果から、GPSのナビゲーションだけを頼りに歩くのは問題であることがわかった。地形図を見ながら、GPSの示す方角と尾根の張り出し具合や、谷筋の様子を同時に把握して、できるだけ高低差のないルートを選択しつつ歩くことが肝要である。目的地までの直線ルートを教えてくれるGPSは、“未熟で愚直な、山谷の険しさをものともしないガイド”と心得るべし。地点[あ1]からは気分転換のためにシラン沢林道を下ったのだが、高原山と塩原町の温泉宿が見えてきた。日中は夏のように暑くても、陽が傾いた頃の風は秋のそれであった。

日留賀岳
日留賀岳(GPSデータとカシミール3Dで描いた)


#134 『筑波山GPS山行』

なんどさんのホームページ(http://member.nifty.ne.jp/nando-room/)にある筑波山ハイキングコースを参考にして、GPSを片手に筑波山を歩きました。ホームページの「m3梅林コース」で男体山自然研究路まで登り、男体山山頂を経て自然研究路を一周し、これもホームページにある「m4峠コース」で出発地の市営駐車場に戻る予定でした。下の2枚のカシミール図を見て下さい。赤いGPS軌跡が切れていたり横にはみ出しているのは、GPSが衛星を捕捉されなかったためです。

筑波山
筑波山(赤線はGPSによる軌跡。GPSデータとカシミール3Dで描いた)

m3コースは、なんどさんがホームページに書いているように「静かに歩きたい人向き」の山道でした。m3コースを登り、自然研究路を一周して展望台からm3コースに戻り、m4峠コース(上図の黄色の丸点)に進むつもりでしたが、m4への分岐点を間違えてしまいました。ここが分岐点であろうと思い込んでしまったのが失敗の原因でした。それは上の図を見れば明らかですね。m4峠コースを「下から登るなら何も迷うようなところはないが、上から下るときは入り口を知らないと難しいですね」と、あとで地元のハイカーが教えてくれました。間違えてはしまいましたが、GPSナビゲーションをたよりに道なき斜面を下り(上の図の赤い線の通り)、m4の隣の尾根から梅林に至る自動車道に問題なく出ました。

[後日談] 9月28日につくば市に行く用事があったので、ついでにm4コースを確認してきました。梅林から自動車道を行き、峠に出ると青いビニールの紐がm4登山道入口であることを教えてくれました。m4コースはしっかりした登山道でした。展望台まで登ってみましたが、やはり分岐点を間違えていました。分岐点には、木の幹に赤ペンキで「峠30分」と書いてあります。ここを左に下るのがm3コースで、赤ペンキの案内通りに下って行くのがm4コースです。前回の失敗は、赤ペンキの案内を見ていながら、ここを分岐点と気付かなかったことと、さらにm3コースを下ったところの明瞭な分岐点をm4へのそれと思い込んでしまったことが原因でした。今思い出してみると、間違えた分岐点からは明らかに谷に下るような道でした。これは上の右図を見ても分かる通り、一旦谷に下ってから尾根に向かっています。


地ビールの
泡(バブル)やさしき
秋の夜
ひゃくねんたったら
だあれもいない
(俵万智)

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また11月1日にお会いしましょう。Have a nice day

暮篤(ぼとく)

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