2003年2月1日号(毎月1日発行)
先月(1月)は栃木県黒磯市から入った、
板室温泉に近い深山湖へ二度行きました。
ある目的があって行ったのですが、
詳しくは『山靴通信』の今月号をご覧ください。
今月号はその話ばかりです。
#113 『雪に埋もれた那須三斗小屋宿』
那須の三斗小屋宿は廃村である。往時は栄えていたことが、会津中街道としての道ばたに今もある石灯籠からも推察できる。夏には涼しい風が吹く。その様子は『山靴通信』の2002年7月号(#93)で紹介した。雪の風情も格別であろうと、冬の三斗小屋宿を訪れてみたいと長いこと思っていた。しかし、なかなか実現しないでいた。一度は沼原湿原からクロスカントリー・スキーで試みたが、雪が深く、スキー技術も未熟で、タイムオーバーで断念した。今年こそと、正月休みの最後の日に、今回は深山湖側から挑戦したが、吹雪のために途中で引き返したのであった。

沼原湿原への分岐
その一週間後は快晴であった。深山湖畔の地下発電所展示館わきに駐車して、金属エッジの無いクロスカントリー・スキー板を履いて林道を歩き出した。自動車の轍や氷結した雪に難儀しながらも、林道奥深く分け入り、車止めの鎖を越えると、そこにはふわふわとした、踏み跡のない、なだらかな雪の道が延びていた。もったいないのでできるだけゆっくりとスキー板を進め、時折頭を上げてあたりを眺めては何ということもない幸せをかみしめる。

雪の三斗小屋宿
流石山が見下ろす三斗小屋宿は、すっかり雪の中に静まり返っていた。墓石も道祖神も、石灯籠もわずかに残る家屋も、廃校跡という標識も、すべてが雪を戴いてじっと耐えているようだ。昔はこんな雪の中で、迎える旅人も途絶えて、人々はひたすら春が来るのを待ったのであろうか。子供達は何度も何度も同じ本を読んで過ごしたのか。
帰路は滑るように下った(スキーだから滑るのは当然だが)、と書きたいところだが、エッジのないスキー板は思うように曲がってくれない。数度ひっくり返ったが、それでも下るのは楽だ。駐車場に戻ったら、キャンプするという二人組の仲間に入れてもらった。月と星に見守られて、時々花火のような火の粉の飛ぶ木炭の焚き火(*)で暖をとりながら泡盛を飲んで、山談義はいつまでも続いた。

雪は寒かろ
(*)キャンプ用の焚き火道具を使うと、雪の上でも簡単に焚き火ができる。地面まで熱が伝わることもないようで、下の雪が融けて焚き火台が不安定になることもない。気温は氷点下であったろうが、大きな木炭を燃やしていると寒さを感じなかった。
#114 『コンビニの純天使』
吹雪のために三斗小屋宿まで辿り着けなかったことは『山靴通信』#113で書いたが、この日の朝に昼食を調達するために黒磯市にあるコンビニに入ったのだった。
おにぎりの棚の前に立って選んでいたら、5歳くらいの女の子が近付いて来て、何か言っている。私に向かって言っているようなので、その女の子の顔をみたら、転んだためであろうか顔に擦り傷を作って、ところどころ赤くなっている。「これ、買ってもらったの、これ買ってもらったの。二つも買ってもらったの」と言って、一所懸命にその喜びを私に伝えようとしている。手に持ったものは、おまけ付きのチョコレートの小箱のようである。「これ、買ってもらったの」とまた言ったら、後ろから母親が来て女の子をレジに連れていった。何か言ってあげればよかったなと思っていたら、その女の子はレジのアルバイトであろう女店員にも、「これ買ってもらったの」とまた話している。店員は、「よかったね」と言ってニコニコしている。会計を済ませると、その女の子は、「ありがとう、バイバイ」と店員に言って、母親と店を出ていった。女店員はもう一人の女店員に、「かわいい子だね」と話している。
女の子の、あまりにも他人を警戒しないで、率直に喜びを表現する純真な心に驚いた。もしかしたらその女の子は、そうは見えなかったが心に悲しい病気を持っているのかもしれない。しかし私には天使のように思えた。その日はその時のことを思い出すと、いつも心が暖かくなった。
#115 『鬼が面山』
三斗小屋宿を訪れた翌日も上天気でした。
その日は鬼が面山を越えて沼原湿原を経由し、
その後、麦飯坂を下って昨日の分岐点を通る、
周回コースを行く計画でした。
深山湖に面してジグザグに登っていく林道は、
気分のよいスキー道です。
その林道が終わって急登になると、
笹薮に足をとられ、
所々つぼ足で登ることになりました。
発電所の貯水タンク施設を越えて、
鬼が面山(1262.1m)に立つことができました。
しかし、これから幾つかのピークを越えて、
沼原まで行くには、
また薮との格闘が要求されます。
ここで断念しました。
猿に見送られて、
同じ道を戻ったのでした。

林道から大倉山を望む
こがらしや
何に世わたる
家五軒
蕪村

また3月1日にお会いしましょう。Have a nice day
暮篤(ぼとく)
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