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 『海外ミステリを読む』(7)

      レイモンド・チャンドラー (1888ー1959)(7)

      (主人公)私立探偵 フィリップ・マーロウ
      (舞台となる街)ロサンゼルス
      (主要作品)
          「大いなる眠り」(1939)
          「さらば愛しき女よ」(1940)
           「高い窓」(1942)
            「湖中の女」(1943)
           「かわいい女」(1949)
           「長いお別れ」(1953)
           「プレイバック」(1958)
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   「長いお別れ」(後半)

                 清水俊二訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)
    
       私立探偵フィリップ・マーロウは、ふとした友情から見も知らぬ酔漢テリー
       を二度も救ってやった。その後、テリーは一度離婚した百万長者の娘のシ
       ルヴィアとよりを戻したが、浮気なシルヴィアの為に苦しんでいた。そして、
       ある朝彼女は人魚のような全裸の死体で発見された。テリーは三度目の
       救いを求めてマーロウのアパートを訪れた。
             ( ハヤカワ・ミステリ総解説目録より)

    ギムレットを飲みながら話し始めたマーロウとリンダ・ローリングですが
      話が核心に触れるにつれ、仲たがいします。

  『「その通りですよ、ローリング夫人。まさにその通りです。同じことを検事局
     の人間からも、ギャング仲間からも、もぐりの医者からも言われました。言
     葉は違うが、意味は同じでした。手を引きなとね。僕はある人間に頼まれて、
     ここへギムレットを飲みに来たんです。僕をよく見なさい。死体置場へ片足
    を突っ込んでいますよ」
   彼女は立ち上がって、軽く頷いた。「ギムレットが三杯、ダブルで、酔ってい
    らっしゃるのよ」
   私はテーブルに金を余計に置いて、彼女のそばに立ち上がった。
    「あなたも一杯半飲んだんですよ。なぜそんなに飲んだのですか。やはり、あ
     る男に頼まれたからですか。あなたも少々舌がまわりすぎましたね」』

     次にマーロウは招待されたウェイドの邸宅でのカクテル・パーテイに 出向き
     ます。ウェイドはマーロウに言います。

   『いてくれるだけでいいんだ。月に千ドルでどうだ。僕は酔っぱらうと危険にな
    る。危険な人間にはなりたくないし、酔っぱらいたくもない』

    だが、マーロウは断ります。

   それから1週間後の夜11時、ウェイドから電話がかかり、ひどい状態なの
    ですぐ来て欲しいと言われたマーロウは今度は車を飛ばして行きます。

  『車を門の中に乗入れると、家中の灯りがついていて、アイリーンは開け放
    された玄関にタバコを口にくわえて立っていた。私は車から降りて、彼女の
    そばへ行った。スラックス姿に襟のあいたシャツを着ていた。彼女は落着い
    た態度で私を見た。』

    ウェイドはどこにいるのかとマーロウは尋ねます。

   『彼女はまじめな顔つきで私を見た。それから指で示しながら言った。
   「向うの方のどこかにいますわ。道路のわきか、垣根に沿っているやぶの中
     に」
   私は体を乗りだして、彼女の顔を覗き込んだ。
   「なぜ捜さなかったんですか?」
    私はやっと彼女がショックを受けていることに気がついた。振り返って芝生の
    方を見たが、何も見えなかった。垣根の近くが黒い影になっていた。
  「私は捜しませんでしたわ」と彼女は落着いて言った。「あなたが捜 して下さい
    な。私はもうたくさんです。これ以上は堪えられません。あなたが捜して下さい」
   彼女は向うを向くと、ドアを開けたままにして家の中に入った。一ヤード程歩く
    と、くずれるように床に倒れ、動かなくなった。』

   マーロウはアイリーンを抱上げて長椅子に寝かせてから、外に出てウェイドを
    捜します。彼はアイリーンが指差した辺りで、頭にべっとりと血をつけて倒れて
    いました。マーロウはウェイドを肩にかついで、やっと家の中まで運びます。ウ
    ェイドとは仲の悪い、医者のローリングがかけつけて応急処置をしますが、二
    階まで運ぶのを手伝うことを拒否して帰ってしまいます。そこで、外出から戻っ
    たメキシコ人のハウスボーイのキャンデイに手伝わせて二階まで運びます。

   『彼は靴を脱がせた。私達はウェイドの服を脱がせ、キャンデイが緑色と銀色が
    混じったパジャマを捜し出してきた。ウェイドにパジャマを着せて、ベッドに寝か
    せ、毛布をすっぽりかけた。まだ、汗をかき、いびきをかいていた。キャンデイ
    は頭をゆっくり振りながら悲しそうに見下ろしていた。
  「誰かがついていなければいけない」と、彼はいった。「服を着替えてくる」
  「お前は寝てていい。僕がついてる。用があったら呼ぶよ」
  「間違いがあったら承知しないぜ」と、彼は静かな声で言った。「分ったな」
   彼は部屋を出て行った。私は浴室へ行って、濡れた布れと厚いタオルを持って
    きた。』

  やがて、気がついたウェイドはマーロウにこう言出します。

   『「思い出したことがある。頼まれてくれないか、マーロウ。つまらんことを書い
  た。アイリーンに見られたくないんだ。カヴァーがしてあるタイプライターを見て
  くれ。破いて貰いたいんだ」
  「いいとも。思い出したことはそれだけか」
  「アイリーンは心配ないのか。ほんとに大丈夫なのか」
  「心配はない。疲れてるだけだ。考えるのはよせ。僕が訊いたのがわるかった」
  (中略)
  「アイリーンに見られたくないことを書いたんだが…」
  「さっき聞いたよ。君が眠ってから始末をする」
  「ありがとう。君がいてくれるので助かる。ほんとに助かるんだ」
  また、沈黙が続いた。目蓋が重そうになってきた。
  「人を殺したことがあるのか、マーロウ」
  「ある」
  「いやな気持だろう」
  「殺すのが好きな人間もいるよ」
  眼がふさがれた。そして、再び開かれたが、何も見てはいなかった。
  「どうして好きになれるのだ」
  私は返事をしなかった。目蓋が再び閉じられた。劇場でゆっくり幕が閉る時の
   ように時間がかかった。いびきが聞え始めた。私はしばらく待ってから、電灯を
   暗くして部屋を出た。私はアイリーンの部屋の前で足をとめて、耳をすました。
   何の物音も  聞こえなかったので、ノックはしなかった。ウェイドの様子を知り
   たがっていたとすれば、彼女の方から訊きに来るはずだ。』

  そのあと、階下に降りたマーロウは書斎に入ります。

   『私は考えるのをやめて、タイプライターの覆いを除いた。問題の黄色い紙が
    数枚、そこにあった。アイリーンに見せないように私が破いてしまうべきもの
    だ。私はそのとき、紙を長椅子に持っていって、酒を飲みながら読んだ方が
    いいということに気がついた。書斎の隣りに簡単な流しがついていた。私は
    背の高いグラスを洗って、酒をたっぷりと注ぐと、腰をおろして、読み始めた。』

   どう考えても酒を飲みながら読んだ方がいいとは思えませんが、アル中のチ
    ャンドラーにはそう思えたのでしょう。
   読み終わったマーロウが書斎のテラスに出て、「少しも動かない無色の湖を
    見つめながら、思いをめぐらせて」いると、突然、銃声が聞えます。

   『彼の部屋から争う音が聞えたので、急いで飛込んで見ると、アイリーンがベ
    ッドにおおいがぶさってロジャーと争っていた。黒く光る拳銃が空中にさし上
   げられ、大きな男の手と小さな女の手がそれを握っていた。ロジャーはベッド
   に座りこんでいた。彼女は薄いブルーの部屋着姿で、髪が顔におおいかぶ
   さっていた。拳銃を両手で掴んだと見ると、ぐっと力を入れて彼の手から奪い
   取った。たとえ、彼が酔いから覚めきっていなかったとはいえ、私は彼女がそ
   んな力を持っていたことに驚いた。(中略)
  重くて、扱いにくい拳銃だった。撃鉄のない、二段うちのウェブリーだった。銃
   身は温かかった。私は片腕で彼女を支え、拳銃をポケットに落して、彼女の
   頭ごしにロジャーを見た。誰も何も言わなかった。』

  アイリーンは拳銃を取上げて、どうしてこんなことをしたのかと問詰めます。
   ロジャーはナイフを持った人間が襲ってきたので撃ったと答えます。それを聞
   いたマーロウはこう言います。

  『いい加減なことをいうな。君は自殺するつもりだったんだ。夢なんか見やしな
   い。自分が情けなくなったんだ。ピストルは引出しには入っていなかったし、枕
   の下にもなかった。起きあがって、ピストルを取ってきて、またベッドに潜り込
   み、すべてを清算しようとしたんだ。奥さんがかけつけた。それが目的だったん
   だ。同情して貰いたかったんだ。ほかに目的はなかった。奥さんと争ったのも
   芝居だろう。君がその気になれば、奥さんが君からピストルを奪えるはずがな
   い。』

  そのあと、マーロウはもう大丈夫だからとアイリーンに部屋に戻らせ、ロジャー
   に薬を与え、彼が眠りに入るまで、そばについています。 そしてロジャーが眠
   ると、部屋を出ます。

   『階段を降りようとして、ふと見ると、アイリーンの部屋のドアが開いていた。部
    屋は暗かったが、月光が戸口のすぐ内側に立っている彼女の姿を浮び上が
   らせていた。』

  マーロウは部屋に入り、ドアを閉めます。彼女はマーロウの腕の中に倒れこ
   み、「ベッドに寝かせて」と呼吸を荒くして迫ります。

  『彼女は両腕を私の頸にまわした。あらい呼吸が喉で鳴った。そして、体をくね
  らせ、低いうめき声を出した。これでは誰だって殺される。私は種馬のように興
   奮した。自制心がなくなっていた。このような女にこのように持ちかけられたこ
   とはめったにないことだった。キャンデイが私を救った。かすかな音が聞えて、
   とっさに振り返ると、ドアの把手が動いていた。私は彼女をふり放して、ドアの
   ところにとんだ。ドアを開けて、外に飛出すと、キャンデイがバルコニーから階
   段を駆け下りて行った。彼は階段の中途で立ち止り、私を振向いて、白い歯を
 見せた。』

  そのあとはもうアイリーンの部屋には戻らずに、書斎に入り、酔いつぶれるま
   で一人でウィスキーを飲みます。そして、翌日、ロサンゼルスの自宅に帰り、
   二日酔の頭を抱えている所に、リンダ・ローリングから電話がかかり、話があ
   るから事務所まで来てと言われます。
   事務所に行くと、リンダは父が会いたいそうだから家まで来て欲しいと言いま
 す。リンダの父ハーラン・ポッターは政界や財界にも顔の聞く大金持です。マー
  ロウはリンダの運転手付きの車に乗って、ハーラン・ポッターの屋敷に行き、彼
  に会います。すると、ハーラン・ポッターはマーロウにこんなことを言います。

  『マーロウ君、時間を節約するためにはっきり言おう。君は私がすることに干渉
   している。そのとおりであったら、やめてもらいたい』

  『マーロウ君、電話を一つかければ、君の鑑札は取上げられるよ。私に楯をつ
   くのはやめる方がよろしい』

  マーロウは「お話はよく分りました」とだけ言って、立去ります。

  それから1週間後、ロジャー・ウェイドが電話をかけてきて、「今日 昼飯をどう
   だ。一時ごろ、来れるか」と誘うと、マーロウは「行けるだろう」と答えます。
  マーロウがウェイド邸に行くと、アイリーンは外出して留守で、キャンデイもサン
   ドウィッチを作ると、今日はお休みの日ですからと言って外出してしまいます。
   マーロウと二人切りになったウェイドはウィスキーを飲み始め、次第に酔って
   マーロウに絡みだすのです。マーロウは奥さんが帰るまではいるから用があ
   ったら呼んでくれと言って、そんなウェイドを部屋に残し、出て行き、台所やテ
   ラスで時間を潰します。
  アイリーンが戻り、鍵を忘れたと言ってマーロウにドアを開けてもらい、中に入
   ります。アイリーンが着替えに二階に行った隙に、マーロウは酒の壜を片付け
   ようと思って、書斎に入ります。

   『フランス窓を閉めたので、部屋の中は息苦しく、ブラインドを下したので、薄暗
    くなっていた。空気が異様に重苦しく、気味が悪いほど静かだった。ドアから長
    椅子まで16フィートとはなかったが、長椅子の男が死んでいることが分った。
   彼は横向きに寝ていて、顔を椅子の背に向け、片方の腕を体の下に曲げ、も
    う一方の腕が両方の眼の上にかぶさっていた。胸と椅子の背のあいだに血が
    たまっていて、その中にウェブリーが落ちていた。横顔は血だらけだった。
   (中略)
    書いたものでもないかとそのへんを見まわした。デスクに原稿の山がのってい
    るだけで、そのほかには何もなかった。自殺者はいつも書き置きを残すと限っ
    てはいない。(中略)
   銃声は聞えなかったが、私が湖の岸で波乗り板の男がカーヴを切ったのを見
    ていた時に拳銃が撃たれたのだろう。確かに、何も聞えない程の激しい音だっ
    た。ロジャー・ウェイドが何故そんな時を選んだかは分らなかった。特に選んだ
    のではなかったかも知れない。偶然、スピードボートがカーヴを切った時間と一
    致したかも知れない。私にとっては気に入らない偶然だったが、私が気に入ろ
    うが、気に入るまいがそんなことに関心をもつものはなかった。』

   マーロウが部屋を出て、耳をすますと台所で物音がするので行ってみるとアイ
    リーンが青いエプロンをかけて立っていました。話しているうちに何か異変が起
   ったと察した彼女は書斎に駆け込み、夫の死体を発見すると「服が血で汚れる
   のも構わずに」彼の頭を抱しめます。マーロウは部屋を出て、一番近くの保安官
   事務所に電話します。近くを巡回していたらしい代理保安官が6分後に駆けつ
   けます。その代理保安官がアイリーンに「撃ち殺されたといいましたね。誰かが
   撃ったという意味ですか」と聞くと、彼女はマーロウが殺したんだと思うと答えま
   す。だが、検死審問でも自殺という判断が下されます。

   このあとはラストの謎解きが始るわけですが、いうまでもなく、自殺ではなく、殺
   人です。ですが、いつものように犯人の指摘はしません。ご自分でお読み下さ
    い。

   この小説は色んな読み方が出来る小説だと私は思っています。一番分りやす
    いのはギムレットを小道具に使った、友情というテーマですが、その他には小
    説家ウェイドを登場させたことでチャンドラーは何を描きたかったのかを探る読
    み方です。ウェイドを画家や彫刻家ではなく、小説家に設定した裏にはチャンド
  ラーの何らかの意図があった筈です。一つ間違えば作品がガタガタになる危険
  を犯してまで、小説家を登場させた意味を考えながら読むということも出来るの
  です。

  『君の前にいる人間がつまらない稼業をしているつまらない存在なんだよ、マー
  ロウ。作家はみんな下らない人間だが、僕はその中の最も下らない一人だ』

  ウェイドにこんな台詞を吐かせたチャンドラーの真意はどこにあるのかなどと考
  えながら読むのも一つの読み方です。

  さらにもう一つの読み方は結婚している男と女の愛ー「不倫」をテーマとして読
   むことです。このテーマはチャンドラーの作品にはこれまでなかったもので、彼
   の後継者と言われるロス・マクドナルドではこれが主なテーマとなります。
  一つには時代がこのテーマを選ばせたということでしょう。この作品は1953年
   発表ですが、ロス・マクドナルドのリュー・アーチャーが登場する作品の中の「動
  く標的」(1949)「魔のプール」(1950)「人の死に行く道」(1951)「象牙色の嘲笑(195
  2)といった初期の傑作はすでに発表されているからです。チャンドラーがこれら
  の作品を読み、読者が現実のアメリカを捉えた、ロス・マクドナルドが描くような
  [家庭の崩壊]をテーマにした作品を要求していると読んだのかも知れません。
  このような様々な読み方が出来るのも、この作品が傑作だからだと思います。
  私はこの作品がチャンドラーの最高傑作だと思っています。

  [この作品の中の名文・名台詞]

 『(彼は)結婚したときは37でした。女について大抵のことは知っている年齢で
  す。大抵のことと言ったのは、女について何もかも知り尽くしている人間はい
 ないからです』

 『我々は世界で一番きれいな台所と一番光り輝いている浴室を持っている。しか
  し、アメリカの一般の主婦はきれいな台所で満足な食事を作ることが出来ない
  し、光り輝いている浴室は大抵の場合、防臭剤、下剤、睡眠薬、それに化粧品
 産業と呼ばれている信用だけに頼る商品の陳列所になっている。我々は世界
 で一番立派な包装箱を作っているんだよ、マーロウ君。しかし、中に入っているも
 のはほとんどすべてがらくただ』

 『「一億の財産を作るのにきれいな方法なんかあるもんじゃないよ」とオールズ警
  部は言った「あの男自身は手がきれいだと思っているかも知れないが、どこかに
  ひどい目にあっている人間がいるし、地道に商売をしているものが土台をひっく
  り返されて、二束三文で売り渡さなければならなくなっているし、罪のない人間が
  職を失っているし、株式市場でいんちき相場が作られているし、大衆にはありが
  たいが金持には具合が悪い法律を誤魔化す為に利権屋や一流弁護士が10万
  ドルの手数料を貰っているんだ。大きな財産は大きな権力に結びついていて、大
  きな権力には不正がつきものなんだ。それが世間のからくりさ。どうにも仕方が
 ないのかも知れないが、いい世の中とは言えないよ」』

 『私の気持は星と星の間の空間のように空虚だった。家に帰りつくと、強いカクテ
 ルを作って、居間の窓を開けてその前に立ち、ローレル・キャニオン・ブールヴァ
 ードの車の音が地鳴りのように伝わってくるのに耳を傾け、はるかかなたに街の
 灯が輝いているのを見つめた。遠 くの方から、警察自動車か消防自動車のサイ
 レンが聞えてきて、やがてまた消えていった。完全な静寂という瞬間はほとんどな
 かった。一日24時間、必ず誰かが逃げ去ろうとしているし、誰かが捕えようとして
 いるのだ。多くの犯罪をはらんでいる夜の中で、誰かが死に、誰かが手足を失い
 、誰かが飛散るガラスで傷を負い、誰かが自動車のハンドルか重いタイヤに押し
 潰されているのだ。人々が殴られ、金を奪われ、頸をしめられ、暴行を受け、殺さ
 れているのだ。あるものは空腹にたえかね、あるものは病いに悩み、あるものは
 退屈し、あるものは孤独か悲嘆か恐怖のために心の平静を失い、あるものは怒
 り、あるものは悲しみにくれて泣いているのだ。他の都市と比べて特に邪悪にみ
 ちているとは言えないし、豊かで、活気があって、誇りを持っているが、打ちひし
 がれて、空虚にみちている都市だった。』

 『僕は今年42になるまで、自分だけを頼りに生きてきた。その為にまともな生き
 方が出来なくなっている』

  

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