●report5. 山口華楊 作 『鮎図』
厚塗りされた岩彩日本画・描画層(絵の具)の剥離損傷修復
作 品:絹本著彩色 掛軸装
作 者:山口華楊
装幀形態:大和表装
本紙寸法:W605×H444ミリ
全寸法:W667×H1425ミリ
*上記寸法は処置前の寸法、表装された状態で計測した(付廻し、糊代下は計測していない)。
◇厚く塗られた絵の具の深層剥離と料絹全体に茶褐色の斑点状汚損が発生していた。
【作品構成】
本作品は、料絹(二丁樋)に膠を接着剤として、天然顔料による描画が施されている。周囲に大きく空間(余白)を取り、熟練した筆さばきによる描線、絵の具の滲みやぼかしを巧みにつかい、単純な構成ながら繊細で、確かな技量をうかがわせる作品である。絵の具の塗厚は、とくに蕗の葉を表したあたりに緑色の絵の具が厚く、鮎を表したあたりは薄い。
【修復前の状況】
本作品上に発生していた極めて深刻な問題として、厚く塗られた絵の具層の深層からの剥離が所々に見られた(部位としては、蕗の葉を表した部分と鮎を表した部分に少量用いられた白色の顔料)。この損傷原因としては、もともとの作者の製作方法によるもの(膠の用法、不足、あるいは早期的に絵の具を厚く盛ったか?)と、本作品の装幀形態が掛軸装であることから、その特性として、収納時に小さく『巻く』ことによって、乾燥後、硬化して堅くなった絵の具にストレスを与え、破壊を進行させた可能性がある。
加えて、画面上には、茶褐色の小さな斑点状の汚損が所々に発生していたが、これらについては、作者が制作時に用いた定着剤(ドウサ/膠と明礬を混ぜた定着材)の変質、化学変化と、黴などの菌類の介在を疑うことができる。表装は、経年時の自然な劣化に加えて、長期の展示や取扱いによる汚損、折れが認められ、光による破壊損傷として、表装裂地の糸の朽けや変退色が見られた。
処置前、作品は、二重箱に収納されていたが、その外周、内部には黴や汚損が発生していた。内部に発生した黴は、密閉製の高い桐箱に、湿度を多く含んだ作品を収納した結果によるものと考えられ、箱外部の黴は、周囲の環境によるものと推測することが出来る。本作品の損傷状況を見るにあたり、過去、高い湿度環境下に長く置かれたことは疑いない。高い湿度環境は、描画部の剥離損傷の一因としても、湿度による画絹の伸長が固化した絵の具との間にズレを生じさせ、絵の具層の剥離進行を促し、早期的な剥離損傷に導く可能性が高い。
収納箱の内部は黒褐色に変色していた。箱の中には、『防虫香』が作品と共に、数多く収納されていたが、あるいは、以前に異種の薬剤(防虫剤)の利用があり、このガスの混合〜化学変化によって、内部の汚損が発生した可能性も伺える。
*修復中の調査により、肉眼で確認できる絵の具の剥離損傷部分以外にも、描画部分の絵の具は、全体に定着力が低下していることが判明した。
◎山口華楊 明治32年〜昭和59年(1889〜1984)
京都生まれ。12才より西村五雲に師事、絵を学ぶ。後に絵画専門学校に入学、在学中より文展に出品。卒業後帝展出品、昭和2年、3年に特選を取る一方、五雲塾晨鳥社展にも作品発表を続けた。昭和17年より母校の教授となり、戦後は京展、日展の審査員をつとめた。昭和56年文化勲章受賞。
絵画・美術工芸品・文化資料の保存修復 中塚祐松堂
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