●report4. 法橋了琢 作 『天台大師座像』
作品と装幀部分を共に描画によって表現した作品の修復
作 品:絹本著彩 『天台大師御画像』(描き表装)1幅
作 者:御絵所 法橋了琢(表装裏に記載あり)
装幀形態:描き表装(仏式/真-草)
◇修復前の写真、全体に描き表装の形態を持つ。画面を拡大したものは左上より斜光線を当てて撮影したもの。画面の折れ、皺、変型等が良く見て取れる。
◎作品構成概要
本作品は、基底となる材料を絹織物とし、膠を接着剤とした天然顔料によって天台大師の座像が描画されている。本作品の特徴としては、作品の装幀となる掛軸装の部分も、同じ料絹上に描画して表現している『描き表装』の型式となっている。なお、作品裏面、左下には『御絵所 法橋了琢』の揮毫と、二つの押印があった。
描き表装の形態は、仏式表装(真-草の型式)を表し、下地を暗緑色に塗り、群青、緑青、紅色の雲模様を描いた総縁(柱と天地)にあたる部分と、白地に金泥で牡丹を描いた中廻りと風帯によって掛軸装を表現している。
本来の作品となる部分は、上部に金泥と胡粉によって雲を表し、帳の下に、周囲に大きく空間をとって倚子に座した天台大師を描いている。天台大師像は、その纏う衣服の細部に至るまで細かな筆致で描画されている。
旧収納箱は、蓋に『天台大師御画像』と揮毫され、内部には両端に小物入れ(お香入れか)が設けられていた。◎修復前の損傷状況
経年時の自然劣化によって、料絹自体が朽け、硬化、脆弱化している。さらに、今日までの展示、収納時における取扱いによって、様々な物理的損傷(擦れ、追衝、折れ、亀裂)
を与えて来たことと共に、黴等微生物の発生と、その劣化等を原因とする汚損、加えて、小さな虫喰い損傷、その排泄物の付着を確認した。とくに彩色のない天台師像の周囲の料絹は、所々に糸の解れ、小さな亀裂、折れ、裏面の裏打紙の剥離による水泡状の浮き上がりが認められた。修復前の目視観察による調査では、左右の側端を除いて(擦れなどによる絵の具の流出、剥離が目立った)、作品上には顕著な絵の具の剥離は認められなかったが、画面上にあるすべての絵の具の定着状態を調べたところ、予想以上に定着力が低下、脆弱化していることが分かった。
表装(掛け軸の装幀となる部分)表した部分には、特に天地、八双と、軸棒の付け根に大きな亀裂破損があった。裏面は、全体に裏打ち紙の糊離れが進行し、水泡上の剥離損傷が認められた。裏面の上部には、破損した八双の部分に、粘着テープによる補修痕が認められ、現在このテープは残存しないが、褐色に変質した接着剤が残存し、画面にも影響をおよぼしている。八双に取り付けられた吊鐶(展示用吊金具)は、一部が大きく変型している。作品は全体に大きく変型し、天地、左右辺は歪み、直線ではなかった。
◎修復中の発見等
1.旧裏打は、総裏打、肌裏打の二層のみであった。
2.旧肌裏打紙を除去したところ、描画部分は、料絹の裏面からも彩色が施されていた(裏彩色/うらざいしき=表面からの彩色をより鮮やかに見せる為に裏面からも絵の具を塗る技法)。
旧裏打紙の除去作業中、描画されている箇所は裏面からも彩色されている。3.絵の具に覆われていない(何も描かれていない空間部)部分については、処置前の目視観察において確認出来た箇所以外にも、旧裏打紙を除去後、料絹のちいさな亀裂や糸の遊離などが所々に発生していることが分かった。
4.取り付けられていた旧軸棒は、縦半分に割った形で、二つの材を組み合わせて一本の軸棒として利用されていた。
◎修復の目的と指針
本作品は、経年劣化の進行に加え、生物被害、物理的な損傷を受けており、全体に脆弱化し、描画部分、絵の具層の定着も弱かった。汚損が激しかった為、美観の向上には洗浄処置が必要であったが、作品の損傷状況を踏まえ、すべての処置は作品の保全を第一として、作品に対して出来るだけ穏やかな方法を検討して作業を行った。
今回の修復処置では、第一に定着力の低下した絵の具層の定着力強化すること。第二に糊離れ、剥離進行した旧裏打ち紙の除去と新規裏打ちによる『締め直し』作業によって、作品全体の基本的な強化、安定化させることを主な目的とした。
◎法橋了琢法橋了琢
木村喬久(木村了琢)/名は廣俊、字は仲父、鳳郭と號する。京都の仏画 師、後に法橋に叙せられた。 宝歴十年没(1760)。
絵画・美術工芸品・文化資料の保存修復 祐 松 堂
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