●report3. 花登筺 作 揮毫散文
原稿用紙に揮毫された作品に発生したフォクシングとセロテープ痕の除去
修理前の作品の全景写真(表裏)
作者名:花登筺
制作年:不明
作 品:散文を揮毫1.色紙 寸法:w240 x h270 x t1.5 mm
2.原稿用紙裏に揮毫 寸法:w385 x h260 mm◎作品と旧装幀の特徴
作品は色紙(しきし)と原稿用紙の裏面に揮毫された散文。土肥の温泉旅館に訪れた折に製作されたものらしい。
色紙の作品は、既製品を利用したもので、揮毫された料紙の下には再生紙製の灰色の厚紙が張られ、金箔の押された紙で縁取りされていた。色紙背面は、とりの子紙様のやや黄色身かかった紙が張られ、砂子による装飾が施されていた。
原稿用紙は、花登筺の特注品のようで、揮毫された裏面、本来の用途としての表面には、朱色の罫線が引かれ、作者自身の名前が印刷されている。◎修復前の損傷状況
両作品ともに、画面全体に散在する茶褐色の斑点状の汚損が認められた。加えて、色紙作品は、その四隅を押されて出来たと思われる小さな折れや変型が認められると共に、料紙の表面の一部がささくれ立っていた。さらに、画面状に印肉と思われる小さな汚損を認めた。
原稿用紙の作品については、左端裏面に幅1センチ、長さ3センチ程のセロファンテープが張られており、この部分はわずかに変色し、その接着剤が料紙の表面に滲み出している状態であった。この原稿用紙に揮毫された作品は、長期間小さく折って、畳んで収納していた模様で、強い折れ筋が発生していた。なお、両作品共に、※PH値はおよそ4.5〜5であった。
原稿用紙裏面にあったセロテープ痕◎作品の修復作業
1.調査、採寸、写真撮影
装幀を含めた作品全体、本紙の状態を調査、観察、記録し、写真撮影を行った。2.作品の分離解体(色紙)
色紙作品の背面の厚紙を除去した。裏面より加水し、少しずつ厚紙を分解剥離させていった。なお、作品周囲に縁取られていた金箔押紙もすべて除去した。3.墨跡、落款の定着補強
以後の洗浄作業に備え、希釈した膠水を墨跡、落款部分に塗布した。4.セロテープの除去
原稿用紙の裏面に張られたセロファンテープの部分にわずかに熱を加え、まずセロファン樹脂を除去。その後、料紙繊維に残存する接着剤を有機溶剤で溶解させ、強制吸引装置で除去した。
5.水洗/前洗浄
強制吸引台上に作品を置き、作品表面より浄化水を噴霧器で加え、水に溶解する酸性、汚染物質等をできる限り除去することを目的として、前洗浄をおこなった。6.脱酸性処置1
水酸化カルシウム溶液に作品を浸漬し、酸化した作品本紙を中和した。処置後のPH値はおよそ中性の7.5。7.洗浄処置/薬剤洗浄
十分に乾燥させた作品を、調整した次亜塩素酸カルシウム溶液に浸漬し、茶褐色の汚損を除去した。8.水洗と中和処置
作品中に含浸した薬剤を洗い流すべく水洗を十分に行い、さらに酢酸水溶液中に作品を浸漬して薬剤の中和を行った。中和処置後、さらに水洗を行った。9.脱酸性処置2
最終処理として、水酸化カルシウム溶液に作品を浸漬し、。処置後のPH値はおよそ中性の7.5。10.乾燥
処置を終えた作品に含まれた水分を、サクションボックス上で十分に吸い取り、さらに吸い取り紙に挟み加圧して乾燥させた。なお、この処置によって、原稿用紙に発生していた折れ損傷も改善された。11.写真撮影、報告書作成
修復完了後の作品の写真撮影を行った。本報告書の作成をもって今回の修復作業を終了する。なお、色紙に装丁してあった作品は現在未表装。原稿用紙の作品ともに、今後の保存、管理方法を検討中。
修理後の作品の全景写真
※PH値
酸性の度合いを示す数値。中性は7.5。これより数値が小さくなるとより強い酸性、大きくなるとアルカリ性を示す。とくに最近、紙資料の劣化原因として大きな問題となっているのが酸性劣化である。これは、製紙の際に紙資料に含まれる滲み止め剤が主な原因とされており、多くの場合、放置しておけば褐色に変質、硬化していずれ灰のようにポロポロと崩れ果ててゆく。貴重な資料の保存の為に、世界各国の保存修復機関がこの対策に取り組んでいる。
絵画・美術工芸品・文化資料の保存修復 中塚祐松堂
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