◆はじめに
私達修復家にとって、取り扱う作品や資料の記録を取るという事は、文章、画像とその形式を問わずとても重要である。記録を取る目的としては、処置前後の状況を明確に記録する事で、事前事後の比較ができるようにするのが主な目的であるが、記録をつくることによって、後でいつでもその情報にアクセスすることもできる。とくに画像記録は、私達のような専門家以外の人々にとっても、視覚で容易に確認ができる手段として、またその説得力とでもいうか、言葉や文章よりもなお理解が容易いこともあって、非常に有効な記録方法と言えるだろう。
このページでは、祐松堂が日頃より行っている写真撮影方法を紹介する。私達修復家は場合によって、さらにシビアで高度な撮影方法をとることもあるが、ここではあくまでごく基本的な撮影方法で、日頃私達が利用する器材や、その取扱いを中心に説明しようと思う。本来、私は写真の専門家ではないし、HPのキャパシティーと私の文章表現力の限りもあるので、そこらはぜひ御容赦を願うとして、さらに写真技術を追求したいと思われた方は、ぜひ専門書などを開くなりして欲しい。
◆撮影の目的と手順を考える
まずはじめに、なぜ写真を取るかと言うことになる。先記の通り主な目的は処置前後の状態を記録し、その双方の差を読み取れるようにすることである。
次にこの目的を達成するため、撮影する対象をしっかりと観察し、そこにある損傷、問題点をしっかりと確認する。問題点が明らかになれば、後の修復処置にもある程度の予測がつくから、撮影するポイントをおおまかにつかむことができる。現場では、あらかじめ医療現場で使われるカルテのようなものをつくることもあるので、これも撮影計画に役立つ。
◆撮影器材を用意する
撮影にどうしても必要なのがカメラとレンズ、そしてフィルム。カメラは撮影目的、状況に応じてレンズの交換ができる一眼レフカメラが良い。レンズについては50ミリ程度の単標準レンズと接写(マクロ)の2本あればまずはほとんど間に合うだろう。フィルムは基本的にISO(ちょっとまえにはASAと言っていた規格)100のカラーネガフィルムを使う。ISO高感度フィルムは、暗い場所でも早いシャッターで撮影出来、手ブレの防止にはなるが、細密な写真をと売ることを目的とした撮影には適さない(プリントを引き延ばすほどに画像が荒れているのがよくわかる)。
撮影はとにかく細密な情報を得られるようにすることを基本にする。写真は、カメラの絞りによって、その出来上がる画像の精度、シャープさが変わる。簡単に、絞る(f11,16,22と値が大きくなる=レンズ内部の光の入る穴が小さくなる=ピントの合う範囲が広く深くなる)とシャープな画像が得られ、解放に近付ける(f4,2.8,2と値が小さくなる=光の入る穴が大きくなる=ピントの合う範囲が狭く浅くなる)とぼんやりとした画像が得られるようになると覚えておくと良いだろう。
ただし、撮影をする時は絞り込むほどにフィルムにあたる光の量が少なくなってしまうので、遅いシャッタースピードでの撮影が余儀無くされるため、三脚とレリーズ(リモコンでも良い)は必要。
1.カメラとレンズ
35ミリ一眼レフカメラ、レンズの交換出来るもの。レンズは50ミリ程度の標準レンズおよび50または100ミリ程度のマクロレンズ(100ミリ程度のモノは作品に接近せずに撮影出来るメリットがある)。
◎28または35ミリ程度の広角レンズ
広角レンズは大きな作品を撮影する場合、または撮影場所が狭く、撮影の対象まで必要な距離が確保できない場合に有効。広角レンズを利用した場合のデメリットとしてディストーション(画像の歪み)が出る
◎デジタルカメラの利用
最大のメリットはパソコンの利用による簡便かつ広範囲な利用が可能であること。悪条件下の撮影を行っても撮影後パソコンによる画像調整ができる。
デメリットとしては加工が容易いことから信ぴょう性が低いこと、またデジタルプリントの保存性はいまもって十分では無い。画像は、カメラ(ハード)の性能に左右されるほか、記録媒体とフォーマット陳腐化、PCのグレードアップが早いことなど問題点は多い。
2.露 出 計
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ごく基本的な物でOK。最近はカメラの内臓式(反射式/モノに当って跳ね返って来る光量を計るタイプ)露出系の精度が上がっているが、単体の入射式(モノが受ける光を計測するタイプ)露出系を使うことによって背景の影響を受けずにより正確な露出で写真撮影ができる。デジタル式が使い易い。 |
3.光 源
デイライトタイプ Flood(光軸が拡散するタイプ)500ワット 2灯から4灯、自然光に近い。必ずデイライトタイプのフィルムと合わせて使用する(正しい色再現が出来ない)。キャプション
●デイライトランプ
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●ライトスタンド
ランプを装着したところ
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●スライダックス*
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*スライダックス(電圧調整期)
家庭用電源は施設の配電や配線によって不安定になることがあり、スライダックスを通すことによって安定した電気がライトに供給出来る(光量も安定)。高電圧をかけるためか消耗も早く、高価で(1灯当たり3,000円程度)であるが、スライダックスの利用は電球の寿命も伸ばす様に思われる。
4.背 景
中間色=グレーにする。大形のカメラ量販店で購入可能 背景の光反射による露出、色調が左右されにくい(私は洋服生地販売店で購入したグレー色の布を利用している/町田十字屋だったか? 黒い背景で撮影することを好む修復家もいる)。
5.フィルム
基本的にISO(旧ASA感度)100のカラーネガフィルムを使用する。受像粒子が細かくより詳細な情報が得られる、プリントとして引き延ばした時に有効。プリントの利用を目的とするならば一般のカラーネガフィルムがよい(露出の有L効域が広くプリント時にある程度の調整ができる/失敗が少ない。安価でもある。)。作品ごとにフィルム1本を使い切るようにして、処置前後で2本使う(あとで整理がラク)。スライドに使うポジフィルム(リヴァーサル)は露出設定が難しいが色再現性が高く、光学機器を利用した発表会などでは活用出来る。モノクロームフィルムは耐久性が最も優れているので長期保存に耐える。
6.三 脚とレリーズ(シャッターリモコン)
撮影はできるだけ絞り込むことを優先する。結果としてシャッタースピードは遅くなる(私は1秒程度/f11〜16程度をメドに撮影している)。購入する時の基準としてはある程度の重量がありしっかりしたもので容易に転倒しないものを選ぶ。撮影時は三脚の足を開いて三角形の頂点を作品側に向ける(作品側には転倒しにくくなる)とよい。
三脚と共に、遅いシャッタースピードでの撮影が必要な場合は、カメラへの振動を避けるためにレリーズ(シャッターリモコン)を利用すると良い。
8.ファインダールーペ
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ファインダー(カメラののぞき窓)に取り付ける拡大レンズ。最近のカメラ、レンズはオートフォーカスが主流になっているが、対象物や撮影条件、カメラ、レンズの性能によって、微妙な誤差が生じる。マニュアルモードでファインダールーペを使えば、より精密なピント合わせが可能。視力の弱い人にも有効な道具。 |
◆撮影準備から撮影まで
1、撮影場所のセッティング
作品を撮影場所の設置する時は周囲を整理整頓して作業空間を確保すること。できる限りの安全を保ち転倒や落下、不用意な接触等事故のない様に最新の注意を払うことを忘れないこと。また、撮影後はまず作品を速やかに収納、片付けること。この後、作品を設置する背面に幕を張る(幕の色はグレーもしくは黒が良い/光を反射するものはダメ)。
光源の設置、設定も撮影対象に余計な光や熱を与えぬ様にあらかじめおこない、撮影位置の光量が平均になるようにしておく。光源はおよそ作品の高さ合わせ、撮影対象に左右より向かっておよそ45度の角度に置く(影などが出来にくい)。続いて部屋を暗くして写真用のライトのみを点灯。露出計を撮影対象の設置位置(この時点でも作品は設置しない)に持って行き、作品が置かれる予定の中央、天地左右の少し離れた位置(周囲)を4箇所ほど計測し、この数値が平均になるように光源の位置を調節する。この時、露出計に自らの影を入れないように!

3、露出の設定と計測について
露出はシャッタースピードと絞りの組み合わせによって決まる。また、簡単に、絞り数値をできるだけ大きくすればシャープな画像が得られる。目標とする数値は絞りがf11〜f16。露出計の絞り値をf11〜f16にセットして計測したシャッタースピードを記録しておく。
4、カメラの準備
フィルムをカメラに装填し、しっかりと取り付け、カメラと作品の高さをあわせると共に作品面とカメラのフィルム面が平行になることを確認する。慣れればファインダーを除いた状態でほぼ可能であるが、精度を求めるならば水準器などを利用する。
5、撮 影
作品を設置してライトを点灯。念のためもう一度露出計を使って絞りとシャッタースピードを確認する。カメラをマニュアルモードにし、露出計で計測したシャッタースピードと絞りを設定する。ここでようやく撮影対象を設置する。作品の位置をカメラのファインダーで確認し、焦点を合わせて撮影する。
まず作品の表裏全体を撮影する。この場合、作品に装幀(額や掛軸などの装飾)がある場合はこれを全図として表裏1枚ずつと作品本体のアップ(作品自体の全体図)を撮影する。この時に使用するのは標準レンズ。これに加えて、作品の大きさや損傷程度にもよるが、作品に接近し、本体を二分の一ないし四分の一に分割して撮影する。この部分撮影はマクロレンズで行い、さらに損傷の顕著な部分を同じようにマクロレンズで撮影する。
◆マニュアルモードでの撮影
近年は高性能な露出計を内蔵し、シャッタースピードもピントも自動で瞬時にあわせられるカメラが普及している。カメラを購入した者は、包みをあけてバッテリーさえ入れれば、あとはただシャッターボタンを押すだけ。それで誰もがなかなか良好な写真を撮ることができる。今回紹介した撮影方法では、そんな高性能をあえて利用せず、マニュアルモードでの撮影を行う。はじめは戸惑うかも知れないが、ぜひトライしていただきたい。また、初めて試みる人は、カメラのオートモードをつかって同じ環境で撮影を行い、撮影した結果を比較してみるのも良い(この時、シャッターや絞り値も記録しておくこと)。この結果を見れば、露出計を使う理由は明確になるだろう。
百分は一見にしかず。写真は饒舌で雄弁である、、、。