修復家の私考 〜 伝統・文化・芸術、そして文化財修復の世界 〜
◆文化財を守るために必要なこと
美術館や博物館、資料館などという名称を掲げて、さまざまな資料や美術品を収蔵、展示している施設は全国に星の数ほどある。ちょうどバブル経済華やかな頃、全国の地方自治体や企業は、自分達のステイタスや、 観光資源の意味合いからも、こぞって施設を建設した。このような施設の中には、バブルの崩壊後、経済の低迷下にある現在、集めた作品や資料を有効に活用し、あるいは保存管理することが非常に困難になっているところが少なく無い。ハッキリと感じることは、やはり文化財を保管し、展示活用するための認識不足、情報不足(これが一番大きいと思う)による失策があったのではないかということ。そして長い将来に向けての運営計画の誤算(無計画?)。結果的に施設は建てたら建てっぱなし、館蔵品は購入したら購入しっぱなし? このコラムを読んでいるあなたの街にも、こんな施設がひとつやふたつはないだろうか。
私達はここ10年ほどの間に、様々な問題を抱える美術、博物館施設から依頼を受け、館蔵品の修復や調査を手掛けて来た。かつて、バブルも終演に近付いた頃に建設計画に入った観光地の資料館では、当初は資料の取扱いに慣れた者も全くいなかったため、開設準備から、資料の寄贈者や役所の人たちと共に、千点をこえる美術品、資料の整理をおこなった経験もある。ある博物館では、行政側がたくさんの絵画を購入しながらも、展示や保管する場所がないために、空調装置もなく、黴臭い地下の倉庫にすべての作品が埃にまみれて放置されていた。さらに、ここ数年は、ある人物からの要請をきっかけに、離島の博物館まで往来している(この人物の尽力で、毎年文化財の保存に経費が組まれるようになった)。ここには、学芸員はおろか、専属の管理者もいない。町の老人会の当番が二人、入館者から料金をとり、案内をしている。ここには空調装置も全く無い。資料や作品はラワンやベニヤ板でつくられ、ガラスの引き戸の付いたたケース内に展示されたまま、展示替えは数年間行われていない様子。来館した当初は、ケースの中には虫の死骸と大量のナフタリンの空の包みがあった。聴けばここは文化財指定になっており、文化庁の指示によって建物の改築が難しいという。建物の保護のためならば、とりあえずは収蔵品は傷んでも良いということなのだろうか。それとも、それを定めた彼等には、ここにある収蔵品がさして重要とも思えなかったのだろうか、、、。
美術館、博物館などと聞くと、大きくてしっかりとした施設に、必ず専門家がいて、たとえば空調も保安も完璧で、集められたモノは大切に、常に安全に保管されていると想像する人はきっと多いだろう。しかし、ここ数年の活動を通して分かったことは、実際には、そういった完全な施設があることは、全国的に見るとむしろ少ないということだった。空調などは皆無、中には警備員はもちろんのこと、セキュリティーシステムも、専属の学芸員、管理者さえいないところもある。たとえ空調設備をもっていても、開館時間だけ稼動しているところはとても多い。国や県レベルの恵まれた施設で働く人が見たら、きっと卒倒してしまうだろうと思うくらい劣悪な状態の所もある。それでも、それらの施設は列記とした美術館や博物館、資料館として(おそらく登録され)各々に細々と運営を行っている。最近、修復のために預かった絵画は、美術品などを保管する倉庫会社の管理していたもの。作品上にはほぼ全面に茶褐色の斑点(シミ)が激しく発生していた。あるいはこれも、経費を節約したために起きた事故なのだろうか?こんな状況になるまで、ずいぶんと長い時間を経たはずであるが、いったい、それまで誰も作品のチェックを行わなかったのだろうか、、、。
文化財を守るということは、専門の施設や機関のみによって行えることではない。そこで働く学芸員や、私達修復家などの専門家だけでも守りきれるものではない。もっと、たくさんの人に、自分達の住む都市、街や村の文化や歴史に関心をもって欲しい。関心がないものは決して大切にされることもないだろうし、いつか誰も知らぬ間に、朽ち果て、あるいは捨てられ、確実に消え失せるだろう。実はある意味、文化財と指名され、美術館や博物館のケースや収蔵庫に納められる物の多くは、すでに人々の関心を失っているものが少なくない。それがいま、再び危険にさらされている。私はここで、それぞれの行政や施設、関係者の悪口をいうものではないし、批判するものでもない。それはこのコラムの目的でもない。こんな状況下で、各々にできる限りの努力をしているところも多い。肝心なことは、施設や設備、専門家のみで文化財というものは守ることが出来ないということ。それは人々の関心の大きさよってこそ、確かに守ることができるのだ。
2004.04.20 良い天気、爽快な自転車通勤
絵画・美術工芸品・文化資料の保存修復 中塚祐松堂
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