修復家の私考  〜 伝統・文化・芸術、そして文化財修復の世界 〜


◆早期発見の重要性 ─そして私達ができること─ 

私達の体も同じ。絵画や彫刻などの美術品も、古文書等の歴史資料も皆、異常や損傷等の問題は出来るだけ早期に発見したい。問題を早期に発見するほどに、あるいは処置を必要としても、きっと軽微な作業で済む。その後の管理も、利用も楽だろうし、下世話な話になるかも知れないが、もちろんお金もかからない。 『出来ることなら何もしないに越したことはありません』そういってしまえば、私達専門家の出る幕は無くなるが、これは本当の話。人も美術品も健康を保つために、まずはしっかりと日頃の管理をしたい。


 出来ることならば、こうなる前になんらかの手を打ちたかった。

みなさんは、『虫干し』と『土用干し』という言葉を聞いたことがあるだろうか? 広辞苑を調べると、『土用の頃、黴や害虫を防ぐ為に書籍や衣類を日に干したり風にさらしたりすること』とある。これは、かの正倉院でも、かつては伝統的(行事的?)に行われて来たといわれる。 実際、夏の土用の頃は比較的に湿度も高く、あまり風通しには向いているとは言えないし、絵画などは非常にデリケートだから、直射日光に当てること等は絶対に避けなければならない。けれど、秋口や、春先のちょっと湿度が下がった天気の良い日には、日陰で(必ず/光による退色や劣化の原因になります)風通しをすることは決して悪いことではない。桐箱などの収納箱もあれば、それも一緒に陰干しすると良いだろう。 そして、何より肝心なのが『目通し(観察点検すること)』。虫が食っていないか、虫がいたらその卵はないか、黴は発生していないか、絵の具が剥落していないか、、、。 虫干しも、資料や作品の長期保存に役立つ。そしてこれは、たとえ専門的な知識や技術がなくても行うことができる大きな保存処置と言えるだろう。
日本では、掛け軸や茶碗等の茶道具、種々の美術品の保管、収納に桐箱を用いる例がとても多い。実際、多くの人が周知の通り、桐材というのは耐火性(着火温度が420℃!!)に優れ、ねじれ難く、火もつき難い。加えて水にさえ浮くという特徴がある。 ただし、誤解も多いようで、桐箱にさえ入れて置けば湿気対策も万全と考える人も少なくない。確かに良く出来た収納箱は気密性が良く、外気を遮断し、内部の環境を一定に保つ性能が高いとされる。しかし、もし、ここに湿気を帯びた掛け軸や、美術品、その包み紙や袱紗(ふくさ)などを収納すれば、中はたちまち『黴の巣窟』と化すことになる。私は、箱の中に防虫剤を入れることもお勧めしていない。最も悪い例は、パラジクロルベンゼンを含む薬剤と、樟脳など、異種の薬剤を併用したりすることで、気化(ガス化)していた成分が液状化して、納めてある作品を汚損させることもあるし、ある種の薬剤(エンペントリム)は銅などに変色を来す可能性が強いので、錦糸を含んだ織物、衣服、銅成分を含む金属製の顔料が塗布された絵画などには利用を控えなければならない。まずは虫のつかない場所、環境を選び、あるいは確保して、保管することに努めて欲しい。防虫剤を利用するならば、その収納箱や容器を納める棚やタンスなどに間接的な利用をすることは良いかと思う。また、いくら桐箱とはいえども、作りが悪かったり、壊れたり変型していたりすれば、この性能を期待することは出来ない。 まずは良い材料で確かな仕上がりのの収納箱を。そして作品は湿度の低い日に、日陰の風通しの良い所で乾燥させてから収納したい。もちろん、長く展示してあったものは、埃を柔らかな刷毛でていねいに取り除く等、簡単な清掃も怠りなく。埃はカビの餌にも成るし、大敵のカビはこの空気中に二万から三万種類も存在しているといわれているから御用心。

そして、何か異常を発見した時には、是非私共まで御一報を。

020921 (050103改)


絵画・美術工芸品・文化資料の保存修復 中塚祐松堂

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