修復家の私考  〜 伝統・文化・芸術、そして文化財修復の世界 〜


◆梱包と輸送

最近、輸送時の事故を巡るトラブルで、傷んだ作品がちょくちょくと持ち込まれる。修復を依頼された作品は、梱包の不備(知識と経験不足)と思われるものがほとんどだった。 私はこの仕事に就く前に、茶道具店でアルバイトを経験したことがある。この店の夏の恒例バーゲン期間にノ、客が買い求める商品を自宅へ配送するための梱包を、5〜6人がかりで一日100個近く(多い時はそれ以上あったかな?)の荷造りをした。梱包の中身は花器や茶器など壊れ物ばかり、アルバイトの中にはちゃらんぽらんなヤツがいて、梱包が悪くて返品などを食らうと、全員に厳しい「お叱りが下った。この時の経験は今でもけっこう役に立っていて、仕事上で取り引きのあるお店で梱包などを手伝った折には、その手早さに驚かれることも多い?自慢話はそこそこにして、今回は私の経験をもとに、梱包を中心に搬送にもすこしばかりふれながら、その考え方や方法なネどを簡単に記すことにする。

梱包や搬送にはいくつかの方法と考え方があると思う。一つはしっかりと固定して、容易に動かないようにすること。これは地震災害の時の転倒事故、落下事故対策にも通じると思う。搬送時に複数のものを運ぶならば、なおさら相互が動いて当たったり干渉しないようにすることが肝心だ。ただし、そのものが容易に色落ちしたり、脆く壊れ易いもの、ちょっとした加圧で変型するようなものにはこの方法はあてはまらない。
第二にショックの吸収。あの透明フィルムで小さな空気の粒をまとったエアーキャップ(プチプチのやつ)やウレタン素材を纏わせて、外界からの物理的な衝撃に備える。この類いの緩衝剤は、例えば、先の鋭利な針や釘のようなもののの接触、突衝撃には弱いので、場合によっては、この外周には板などで囲む必要も在る。
第三に汚損事故を防ぐためのカバーとして、段ボールや板などでナ囲む、覆うことがあげられる。冠水事故を考慮した場合はビニール素材の利用など、防水対策も必用だろう。先述したように突衝対策を必要とするならば、硬度のある素材を使う。 予断ではあるが、ビニールなど、通気性の無いもので密閉した場合は、外界の温度が急変した場合に、内部に結露を来すこともあるので、温度差の大きな地域間の輸送には注意が必用だ。こんな時は湿度を吸収する紙や布を第一層として作品を覆い、その上で利用するのも良い。移動先の温度差の大きい場合は、梱包をすぐに解かず、少しずつ時間をかけて開梱し、納めた作品に移動先の環境に『慣らす』時間を与えよう。急激な温度、湿度の変化は、作品の材料素材を急激に伸縮させ、最悪の場合、大きな破壊をもたらす結果となる。ちなみに、貴重な楽器の収納容器には、外界の温度変化や湿度変化が及ばぬように密閉制度が高く、調湿機能が備えられる事はもちろん、温度計、湿度計が備えられているものもあるようだ。
第四は先述に度重なるが、外界からの突衝や接触に備えて、梱包の周りを硬い外壁でバリアーするもの。段ボールなどは身近にある材料として、そこそこ硬く、適当に軽くて値段も手ごろ。とてもよく利用されているが、先の尖っチた鋭利なものには弱いので注意が必要。ただし、最近では、厚さもあって、かない硬度のある段ボールもあるようなので、いろいろと試してみる必要があると思う。他によく使われるのがベニヤ板などの集合材。これは厚さにもよるけれど、けっこう強いので、またよく利用される。デメリットは重量の大きい事に加えて、内包する接着剤や防腐剤からホルムアルデヒドが発生し、ある種類の顔料を変色させたり、材料素材を変質させる可能性がある。やはり直接使わないのが良いだろう。先ずは接触させないようにするか、排出される有害なガス類を排出できるようにノ密閉しないこと。また、けっして長い期間その中に作品を放置してはならない。
当たり前のことであるが、梱包に利用する材料はできるだけ清潔な材料(とくに直接対象に触れるものはよく注意する)を利用するようにしよう。作業者は手を洗うことを励行する。手袋を利用するのも燉ヌいがこの手袋が汚れていては意味がない。また、この手袋も曲者で、手先の感覚が鈍り、手袋の材質によっては滑りやすかったり、手袋の繊維が作品に引っ掛かったりするから注意をしよう。 梱包搬送する作品の中には、絵の具が乾いていなかったり、粘着性を持つ物もあるので、こういった場合は梱包素材が接触しない様にするか、シリコンなど蒸着したフィルムを利用する必要がある。
最後に積み方。絵画などの搬送は、一般に車両も飛行機も進行方向に平行するようにして平済積みはさける。平積みにすると、油彩画などはキャンバスが上下にたわんで振動ョするし、設計の悪い額や大きな額の場合はガラスが下にたわんで画面に接触する危険性が考えられる。過去には、搬送途中でガラスが画面を押しつぶされた作品も修復した。中には、車内に積む事が出来ず、車のルーフレールに破損した大きな絵画作品を縛り付けて、私の工房へ持ち込桙で来たお客さんがいたが、ちょうど厚い夏の盛りの事、積み出した時よりも破損部が拡大していた事もあった。
最近はずいぶんと良さそうな材料がでてきたが、どんな梱包材料にもメリットはあり、デメリットもあるので、先ずは作品の性質を熟知し、搬送方法に合わせた選択が必要となる。単体では不十分か問題があり、複合的に利用しなければならない時も良くある。『安全』と唄われたものが、全てに対応するわけでもなく、その効能を利用出来るわけではない。 以上はまことに大雑把ではあるが、参考知識として少しでも役立てば幸甚だ。けれど、不安でナあったり判断に困った時は、是非、専門家に御相談をされたい。 梱包も搬送も、できるだけ物(包み運ばれる物、包む物、運ぶ道具のすべて)を知り、何ができるかをよく考えることに勤めることが何より大切。もともと全てにおいて絶対的なものなど無く、私達も日々可能性を考え、実験をくり返し、またより良い方法を追求している。未経験の者には容易く実践出来るものでも無いが、例えば専門業者に頼むとしても、全く何も知らぬよりは、いささかなりとも情報を持ってのぞめば、より安全に、そして少しでも安心して梱包や輸送ができることだろうと思う。

20060412 桜が雪のように舞い散る頃、まだ肌寒い。(20080613)


絵画・美術工芸品・文化資料の保存修復 中塚祐松堂

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