さっそくリクシャが寄ってきて、ボードガヤまで50ルピー、バスは出ていないなどと言う。ウソに決まっているが、まあリクシャに揺られていくのも悪くないと思う。
ガヤの街を抜けると、左手に干上がった尼蓮禅河の広い河原が見えてくる。やせた白い頭のおじいさんがシャツに汗をにじませながらペダルを踏むのを、ぼくは風に吹かれながら見ている。オートリクシャやバスが脇を追い抜いていく。
1時間ほどでボードガヤに着く。緑の多い涼しげなバザールだ。紅い花をつけた木々の上にマハボデー寺の大塔が見える。
若い男が2人寄ってくる。一人は宝石屋で、日本語ぺらぺら。デリーの大学を出たインテリらしい。もう一人はみやげものやで、こっちは日本語は片言だ。
安い宿はないか聞くと、チベット寺の宿坊を紹介してくれた。50ルピー(350円)。広くていい部屋だ。
シャワー浴びたあと、みやげやがバイクで来る。腹が減っているというと、寺のうらの長屋みたいなところに連れていってくれ、そこのおばさんが焼きメシをつくってくれた。見てくれは悪いがうまい。15ルピー。冷たい水もうまい。
次は銀行だ。100ドル換金する。1950ルピー。宝石屋が合流し、バイクに3人乗りして、尼蓮禅河原へ。 あれが前正覚山、あれがスジャータの村などと教えてくれる。
マハボデー寺へ行く。寺の裏にまわると、お釈迦様がその下で悟りをひらかれたという、大きな菩提樹がある。柵で囲ってあるが、二人の口ききで中に入れてもらい、金剛座に座ってご挨拶をする。もったいないことである。
塔の中にも入ってみる。仏像がまつってある。穏やかな気に満ちた、母親の胎内もこのようなところではないかと思うような空間であった。
外のわらぶき小屋で冷たい水をもらう。夕方涼しくなったらまた案内してあげる、ということで二人と別れる。
5時ふたりが来て、干上がって砂漠のような尼蓮禅河を歩いて渡る。
30分ほどかかったか、スジャータのいた村は貧しい農村である。
子供がねずみを追っかけている。あれは食べるんですよと宝石屋が言う。
小高い丘にのぼる。ここがスジャータの家の跡だと言う。ほんとかよ。お釈迦様があの前正覚山からおりていらっしゃると、あそこの岸のところでスジャータが乳がゆをささげたのですと、昨日のことのように言う。
また河原を歩いてもどり、何か食べようということで、バイクに3人乗りして、二人の行きつけらしい家へ。粗末な土の家で、うまいものが出てきそうな雰囲気ではない。
うらの庭に竹で編んだムシロを敷き待っていると、おやじさんが壷を2つ持ってくる。ヤシの一種らしい実の汁が入っていて、ビールに似た味がする。まあまあいける。カレーとチャパティも出る。
日が暮れて星が出て、村人たちの声がとび交い、村はずれの河のほとりのこの辺りは、まさにインドの農村の正しい夕景というやつであろう。みやげやはおとなしかったが、宝石屋とはいろいろ世間話をする。
帰りにはみやげやの店に連れて行かれて、いろいろ見せられた。あとでいくらかは買ってあげなければなるまい。インドにはチップのない友情はないのか。
チベット寺のぼくの部屋は、西日がしっかり当たったせいで、ベッドが熱を持ってとても寝ていられない。外は少し涼しいので表をうろついてみる。茶店のおじさんに水を飲ませてもらう。野犬がたくさんいてこわい。
バスの屋根の上で寝ている人がいてぼくも上がらせてもらう。夜空がすぐ目の前にあって吸い込まれそうだ。蚊が寄ってきて、やはり寝られない。座禅を組んでみると、今度は眠くて屋根から落ちそうになる。そのうち寒くなってきたので、部屋にもどると相変わらず暑い…。
まあそんなわけで、ひどい夜であった。
着いたのは温泉のバザールだ。寺の前には市が立っていて、染料?が山積みされている。女の人が頭や額にぬるものらしい。温泉では善男善女が沐浴している。
若い男がひげそりはどうかと言うので、やってもらう。続いてマッサージ。芝生の上で頭から足までやってもらう。100ルピー。さっき50と言ったじゃないかと言うと、それは30分コースで、今のは1時間コースだなどと、へこまないやつらばかりである、インド人は。
ここから霊鷲山へはタンガ(馬車)で行く。3ルピー。入り口には大きな門があり「常在霊鷲山」と漢字で書いてある。そこからさらに2kmほど入ると、バザールがある。
それにしてもこの炎天下、特別な日でもあるまいに、すごい人出だ。大半の人はリフトで、左手の日本山の山頂を目指しているようだ。ぼくは右手、霊鷲山(りょうじゅせん)への道を行く。
暑くてふらふらになりながら30分ほど歩いたか、あれだけ人がいながら、霊鷲山山頂はなんとぼく一人だった。お釈迦様が法華経を説かれたという場所に座ってお参りをする。床が焼けて、熱くて10秒と座っていられない。
しばらく景色をながめたあと下山。これがまたしんどくて、ちょっと気をゆるめるとスーッと意識が引いていく。裸足で歩いている人もいて目を疑う。バザールの木陰の茶店で、チャイからマンゴジュースから、ガブ飲みして生き返る。
温泉バザールまでタンガでもどり、ガヤ行きらしいバスに乗り込む。
いつ発車するか分からないので、蒸し風呂のようなバスの中で待つこと1時間。ようやく動き出したと思ったら、窓からは熱風が吹き込み、外も灼熱地獄のような風景が続く。道の凸凹では、ことごとく跳ね上げられ、居眠りもできない。再び2時間のつらい旅であった。
ガヤでオートリクショーに乗り継ぎ、ようやく7時すぎボードガヤにもどる。
パイナップルジュースを立て続けに4杯。うまい!こうしてみると緑が多く静かなボードガヤは天国のようである。
宝石屋とみやげやがぼくを見つけてほっとしている。
シャワーを浴びたあと、ふたりにビールのある店に連れていってもらい飲む。そのあとはお約束のみやげもの。2日分のサービスの元を取ろうとするのか、あれも買えこれも買えで相当しつこかった。菩提樹の実で作った数珠など1000ルピーほど買う。義理は果たしたぞ。握手して別れる。