カヤック一人旅〜江の川編〜

〜粕淵−明神岩−桜江〜
 
野営地点をゆっくりと離れ、川の中央部へとバウを向ける。
のんびりビールを飲みながら・・・と行きたいところだが、そうもいかない。
出発してすぐの下流に級数も付けられないほどの瀬がある。
瀬とは川が流れていく中で底にある岩や地形などにより、流れが速くなっているトコロ、とでも言えばいいか。
その規模により1級から6級までランク付けされるのだが、川を下っていると「ザァー」と言う瀬独特の音が、
随分前から聞こえてくるので、ある種緊張感を覚える瞬間でもある。
リバーツーリングの醍醐味のヒトツとも言える瀬だが、超初心者である僕の心拍数は一気に跳ね上がる。
大したこと無い、錦川ではもっと大きな瀬に突入した・・・あの時はガイドもいてくれたけど。
沈だけはしたくない。カヤックの底をすって万が一穴が開いたら・・・。
大したことのない瀬なのは分かっているのだが、いろいろなことを考えてしまう。
瀬の手前でパドルをリバースに入れ、しばらく止まったままアレコレ思案する。
 
分かりにくいがこの写真の中央辺りに目指す瀬がある。
 
え〜い!!ままよっ!!!
 
勢いを付け一気に瀬の中央部へフネを突っ込む。
水の流れる音がひときわ大きくなっていき、大人しく進んでいたバウが上下に軽く揺れ始める。
バランスをとりながらパドルを左右に入れつつ、基本的には何もしない。

コレはお世話になっているカヤックショップ「パドルパーク」のKさんから教えて貰ったコト。
ツーリングに出る数日前のことだ。

オレ 「初めて一人で川下るんですけど、瀬にはいる時ってどうすればいいんでしょね?」
Kさん「瀬の一番波のあるところへ入ってからね」
オレ 「入ってから?」
Kさん「何もしない!」
オレ 「・・・へ?」
Kさん「下手にパドル入れちゃうとバランス崩すし、沈するよ」
オレ 「・・・え〜と、もしバランス崩した時は?」
Kさん「素直に諦めて沈して流される!
オレ 「・・・・・」
 
そんな会話を交わした。
爽やかな笑顔で思いっきしびびらせてくれたKさんのアドバイスを思い出しているウチに、
時間にすれば数秒のコトだったんだろうが、あっという間に瀬を抜けた。
飛沫が顔に体に散ってくるが、非常に気持ちいい。
 
大したことのない瀬だが無事クリアしたことでどことなく自分に余裕が出来た。
地図を見ると1キロほど先に川幅が狭くなっているところがある。
きっとココも流れが速くなっているに違いない。

今回事前に準備した地図は3枚。
国土地理院が発行している2万5千分の一の地形図で、名前で言うと「川戸」「川本」「石見小原」の3枚だ。
この地図を台所用のフリーザーパックに入れ、簡易防水してある。
地形図をじっくり眺めるのも小学生か中学生の頃以来なんじゃないだろうか。
 
その地図を見て川幅が狭いので流れが速いのでは、と思っていた箇所もなんなく通り抜けた。
そのすぐ下流辺り、JR三江線明塚駅辺りで、上流にあるダムからの放流水が合流する。
本流へ左斜め後ろから速い流れが合流してくる形なので、ちょっと注意が必要だ。
しかもこの辺りは随分と浅瀬になっている。水中を覗けば岩の形がハッキリと見えるほど。
 

バランスをとり難なくクリアしようとした瞬間、目の前の景色がぐる〜と横方向に回転していく。
どうやら岩にカヤックの底が引っかかったらしい。
やべっ!!と思ったが、左側にスィープストロークを入れ何とか体勢を立て直す。
今のはほんとにやばかった。一瞬「素直に諦めて沈・・・」と思ったほどだ。
ま、こんなところで沈すれば「祖沈」と言われ、いつまでもネタにされること間違いないのだが・・・つっても誰も見てないか。
 
石見簗瀬の駅を過ぎ、橋を越えたところでちょっと大きめの瀬がある。
本流の右側を通っていくのだが、その流れが途中で2本に分かれているという初心者泣かせの瀬なのだ。
ここは昨日岸に車を止めて一応下見をした場所だが、上から見る瀬と実際目の前にする瀬は迫力が違う。
あたふたしながらも本流と思わしき流れをトレースする。
バウが大きく上下に揺れ水しぶきが顔にかかる。
ちょっと気を抜くと右側の護岸に吸い込まれそうな流れをバランスをとりながら進む。
端から見ればきっと必死の形相だったに違いない。
長めの瀬をクリアした後は穏やかな川面が再びやってきた。
振り返ると今下ってきたばかりの瀬がザワザワと音を立てている。
瀬にもまれてる最中はとてつもなく大きな瀬だと思っていたが、過ぎてみれば、なぁんだこんなもんか、と・・・。
 
中央チョイ右に花が咲いてるのわかるかなぁ
 
落ち着いたところで岸に目をやると菜の花が一輪だけ咲いていた。
妙に穏やかな気分になると、緊張感から解放されたせいか腹が減ってきた。
ここらでビールでも飲みつつ昼飯にするかぁ・・・今日何本目だよ。

インスタントラーメンに野菜炒め、そしてビールという昼食を済ませ荷物を積み直し再び川へ漕ぎ出す

この先のその名も「港」という地名の辺りに「明神岩」がある。
川の右岸側に(川の場合下流に向かって右岸、左岸という)ニョキっと突き出た岩がある。
この岩の頂上に小さな鳥居と祠があるのだ。
 

 
港という地名といい、川の真ん中にある祠といい、この川が昔からこの流域の人たちにとって身近な存在であったことを伺わせる。
ただ、身近というだけではなく「中国太郎」というくらいの暴れ川であるから、畏怖の対象でもあるのかもね。
なんせ途中の橋桁には12mもの目盛りがついているのだから。
 

 
この目盛りの一番上まで水面が行くなんてことは信じられないが、昭和47年、昭和58年のどちらも7月に江の川流域で、
洪水により甚大な被害が起きている。
川と密接な関係であればあるほど、影響を受けやすいのもまた事実。
明神岩に手を合わせここでも旅の無事を祈った。
 
中流域最大の町であろう川本町を過ぎると江の川は一気に大河の様相を呈してくる。
川幅もぐっと広がり、水深も深くなってくる。
 

 
夕刻が近いせいか下流からの向かい風が凄い。波も若干立ってくる。
川であるはずなのに瀬戸内海を漕いでいるような気分になってきた。
あまりにも一生懸命漕ぐのもバカバカしいし飽きてきたので、シート横のバーボンをぐっとラッパ飲み。
パドルを漕ぐ手を止めて川の流れにまかせたまま流されることにした。
 
空は晴れ、水面も落ち着いてき、ときたま魚が跳ね、小鳥がさえずる。
あまりにも気持ちがいいのでハーモニカなんぞ奏でてみた。
でたらめに適当に吹いているだけでも妙にこの自然とシンクロしてるような気になる。
・・・誰も聞いてる人間がいないので真偽は定かではない。
ただ、岩の上で甲羅干ししていた亀が、ハーモニカを吹き始めた途端に水音を残し水中へ姿を消していったが、なんか関係あったんだろうか。
 
この辺りまでくると川沿いの道の交通量も随分増えてきた。
トラック、営業車、自家用車、ダンプ、トラック、トラック・・・・。
みんな一生懸命働いてるなぁ。
なんだか申し訳ない気分になってきたので、自分も少し働こうと思い今夜の焚き火用の流木を集める。
つってもちょっと漕いで岸に近寄り、めぼしい流木を集めるだけなんだが。
労せずしてあっという間に十分すぎるほどの流木を集めた。
 

ランニングハイ、ライディングハイという現象と同じようにパドリングハイになっていた僕は、
今夜の野営地をなかなか決められないでいた。
「あの橋を越えるまで」「次の橋を越えるまで」「あの瀬を通り過ぎてから」
そう思ってるウチにいつの間にか桜江町へ入っていた。
太陽も山陰へと姿を消していきそうだ。
川越大橋を超えた先にある河原を今日の野営地にすることにした。

荷物を下ろし、テントを張り、カヤックを河原に引き上げ裏返しておく。
着替えがすんだら宴の準備だ。
まずは焚き火を興す。流木は良く乾いていたのであっという間に火がつく。
クーラーから冷凍ハンバーグと餃子の残りを取り出し、バーナーに火を付けフライパンで焼いていく。
今日何本目かのビールを飲みながらつまみにしてる間に米を炊く。
晩飯を食べ終えコップの中身がバーボンに移り日記を書き終えたところで、焚き火を消しテントに入りシュラフにくるまる。
数メートル先を流れる川音が心地いい。
今日の行程を思い返す暇もなく、深い眠りへと落ちていった。
 
 
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