プロフィール
本 名 藤本朋世(ふじもと ともよ) 淡路島に出生
コピーライター(自営) 屋号「ヴァイン」
1974年 歌集「青のポジション」 1984年 歌集「ロシナンテ」 1990年 歌集「澪標」 1993年 詞集「葉桜」 2005年 歌集「扉」 現在 短歌結社誌『砂金』同人

                       作 品
  地の花                            

はろばろと夢をたがへて咲き初めし桔梗のあをに夜の匂ひあり

あさかぜに枯紫陽花の鳴りゐたり枯れゆくちからうちより来たる

けふを咲くのぞみに伸ぶる朝顔の蔓のたぐひをわれら持たざり

紺碧の空に聳ゆる朴の木に寄りゐるわが貌ひとにあらざり

幼日の記憶の尽くるうすやみにほのめくましろ十薬の花

道端にゑのころ草の揺れゐたり有為と無為にかかはりあらず

雲よりもましろき色をつらぬきてひかり零しぬアカシアのはな

にんげんの頭蓋が花であるはずなし一茎一花の向日葵のごと

八苦てふこころをはこぶ坂のみち凌霄花の黄ほとびてをりぬ

晩夏光ひらめくまひる夾竹桃のざざめきゐたりわが血脈も

夢見では辿れぬみなもとありぬべしたとへば露草そのふかき藍

ひともまた身ぬちに点す灯のあらむカンナの花のほむら揺れざり

ゆふやみに枝さしかはす猿すべり餓鬼の手足の影をなしたり

花芙蓉しほれしのちのゆふまどひあてど知らざる郷愁のごと

ひとすぢのコスモス風に吹かれをり寂しさてふもひとすぢの揺れ


※「砂金」2001.11月号・巻頭詠

 消 息
こころとはべつやも知れず陽だまりのうちに息づく個といへるもの

苦楽にはかかはりなくもわが率ゆく影のみぎりの総身なりにき

独りてふ意思もたざるも影ほそく曳きて立ちをりにんげんも樹も

よしなきは矜恃と思ふ石段をのぼりつめ来し動悸のうちに

そこひなき餓ゑといふべし眠りゐつなほ両眼のうごくてふこと

木偶ひとつただよふ夢のみぎはより目覚めきにけりけふ花祭り

現し世の風にしたがひ散る木の葉つねに消息はあらはなりけれ

われを呼ぶこゑもまぎれむ滝を落つるみづ一心のきらめきのあひ

風花のながれ追ひゐてゆくりなくはなやぐこころ 行方あてなし

そのふかく旋律のごときものあらむこの蒼空と耳そこにもまた

朱を垂れて凌霄花のひろごりぬ欲望てふもかく明るしや

まがふなく己がいのちのけはひあり土壁に映る半身のかげ

ことごとく空を向くなりおのがじし花の咲くときひとの逝くとき

円環のたぐひなりけれわれ生きつ父母の死にたまひゐしこと

歩道橋わたらむとしてかろきかな生死もろとも運ぶこの身の

われもまた草のひとすぢ川面ゆく風のかたへにたたずみをれば

木洩れ陽のひそか燿ふまひるまのこころの果てを安堵といはむ

揺るることいのちなりけり菩提寺への光ほのめく坂にゆれをり

野原ゆく歩の急かれたり光とも風ともしれぬもの受くるゆゑ

花は花のよろこびもちて揺れゐたりひたぶる覚醒かくもありなむ

※「砂金」平成十年度詩情賞受賞作品

          
CONTENTSへ