病院二話
ちやぞは結構たくさん病院に通っているのだが、中でも強烈なのがT耳鼻科とM形成外科。
耳鼻科は腕はいいけどかなり古―い建物で、点滴する時は畳の部屋に寝かされる。
年取りめの看護婦さんが無駄、というくらい大量にいる。
形成外科も腕はいいけど、愛想皆無の看護婦さんと受付の女性(どっちもおばちゃん)が
圧倒的な存在感で鎮座ましましている。先生も怒られまくりだ。
この病院にまつわるこわーいお話。
・ 耳鼻科編
点滴部屋の横のベッドに、おじさんが寝ていた。(間についたてがあるので顔は見えない)
午後からアデノイドの手術に入る人らしい。
そこに看護婦さんがやってきて、
「はーい、最初の麻酔ですよ。」と、どうも注射をしている雰囲気だ。
おじさんは緊張気味の声で
「簡単な手術なんですよね、先生がそうおっしゃってましたけど。」と訊ねた。
当然、そうですよ、なんて返事が返ってくるかと思って聞いていたら、看護婦さんは
「いえ、術中ずっと出血が多いですからねえ、危険な手術なんですよお。
だから年取った人には出来ないの、アハハ。」と笑っている。
おじさんの返事はなかった。
ありゃー、おじさん不安だろうなあ、と思ったが、
看護婦さんは注射を終えてさっさと去って行った。
しばらくして別の看護婦さんがやってきた。
「○○さーん、手術室に行きますよーあら、お顔の色がずいぶん悪い、どうなさったんですか?」
おじさんの返事はやっぱりない。
私は心の中で(さっきの看護婦さんのせいじゃー)と思っていたけど、黙っていた。
おじさんは看護婦さんたちに脇を抱えられて出ていった。どうやら手術は延期らしい。
手術さえもぶっとばす、強烈な看護婦さんの言葉。
それにしても、患者を怖がらせてどうするっての。
しばらくして、今度は診察室から子供の泣き声が聞こえる。
耳鼻科といえば、歯科と並んで二大怖い痛い病院だ。
私が子供のころは「耳鼻科」というだけでじんわり涙が出てきたものですが、
今の子も同じらしい。治療の前から泣いている。
すると今度は先生の声が聞こえてきた。
「病院は泣く子が大好きだからねえ、そんなに泣く子はここに置いていってもらおう。」
あろうことか、お母さんも一緒になって
「そうね、こんなに泣く子は病院の子にしてもらおうかねえ。」
うわーん。
子供の泣き声はいっそう激しくなった。
そりゃそうだ。私があの子だったら、恐怖のあまりちびってしまうかもしれない。
しかし、いにしえから使われた「泣く子は駄目」じゃなくて
「泣く子は好きだからここに置いとく」というのは、なかなか斬新なオドシのパターンではある。
・ 形成外科編
前述のとおり、ここの看護婦さんはこわい。
私が手術の時も、まだ他の人の治療をしている先生に向かって、
「センセッ!もう患者さんも手術室も準備できてますよッ。まだなんですかッ。」
としかりつける。そして先生は唯々諾々と従うのだった。
ここは傷跡の形成手術で有名なところで、
普通の手術でもなるべくきれいに縫ってくれると評判だ。
だから、近所の小学校の保健の先生は、首から上とか手足とか、
とにかく見えるところに傷を作った子供は、即ここに運び込むのだといっている。
その日も、頭に怪我をした男の子が連れてこられていた。
ご存知のように頭の怪我というのは出血が多い。
男の子は血にびっくりしたのと痛いのとで大声で泣いている。
「そんなに泣いてたら治療が出来ませんよッ。」
と看護婦さんの声がした。
先生はちょっと黙っていたが、看護婦さんに和してなんか言わなきゃ、と思ったのか
「そうよ、あなた頭が割れてるんだから。泣いたらいかんよ。」
うわーん。
やっぱり子供の泣き声はいっそう激しくなった。
「割れてるのか頭―」と、私の耳には聞こえたような気がした。
この病院では、ずいぶん前に「看護婦募集」の貼り紙が貼ってあったのだが、
久しぶりに行ってみると貼り紙だけがなくなり、新しい看護婦さんはいなかった。
現在の看護婦さんのパーソナリティーに関係があるかどうか、それは謎だ。