先人の知恵
もといた会社の社長は白髪はげ、まだまだ白髪部分の方が優勢とはいえ、60代半ばという年齢を考えると、
早めにシブい状態になったといっていいだろう。77歳のおじいさんに年上と間違えられてたし(社長本人には内緒)。
以前、会社を退職するFさんが挨拶まわりから帰ってきて、
「今日会ったお客さん、十何年か前に社長と会ったっていってましたよ。」と話し出した。
「おーそうかぁ?」なんて、ここまでは普通の会話だったのだが、Fさんの話はまだまだ続きがあって……。
「『あの頃は社長さんにももっとおぐしがあって』なんて言ってました、ハハハ!」
社長は黙ってしまった。肝の小さい私は「やっやばいっすFさん! もぉそこらでやめたほうが……」と叫んだ、
心の中で。
私の祈りも空しくFさんのはげ話はとどまるところを知らない。
「でもですねぇ、つやのあるうちはだいじょうぶだそうですね! 頭皮に! そのお客さんが教えてくれたんですけど、
『頭のつやにお気をつけになったがよろしくってよ。つやがなくなったら生える生えない以前に、
お体の調子が悪いってことだから』だそうです。いやぁ、社長のつやなら体の方はまだまだ心配なさそうですよね!!」
社長が口を開いた。ぎゃー、何言われんだろFさん! ひとり緊張感を高める私の耳に届いた社長の言葉は、
「……もういいよ(とっても力なく)。」
はからずも「はげは周りの人間を饒舌にし、その当人を寡黙にする」という格言が実体化した現場を目撃した私だった。
笑ワナイ営業マン
その会社に来てた取引先の営業マンTさんは面白かった。いっつもおかしいこといってるとか言うんじゃなくて、
むしろ正反対。無駄口はたたかず、用事が済めばさっさと帰る。というか、
オフィスに入ってきたとき既に体はまた出てく体勢を取っているといったような人。
なのに、というかなんというか顔は時代劇役者みたいでものすごい存在感だ。
我が社内での「時代劇キャスティング大会」において堂々“用心棒”の地位をゲットしたことからもそれはうかがいしれよう。
というわけで、私たちはさんざんTさんをネタにして(いないとこで)楽しませていただいてた。
「子供んときはどんな小学生だったんだろう? というかTさんの子供が見てエ」とか、
「街で会ったら、何メートル手前から『あ、Tさんだ』って気づくだろ? 150メーター? 300くらい?」とか、話題は尽きない。
しかし、そんな中、きっと誰しもが頭に浮かべつつ、口に出せないことがあった。
私たちはソレについては見て見ぬ振りしつつ、相変わらず本人の知らない所でTさんをいじり倒していた。
その日も、Tさんが帰っていったあとで、例によってTさんネタでうひゃうひゃ言ってたのだが、
その話がふっと途切れたとき、Sさんがぽつりとつぶやいた。
「……Tさんってさあ、カツラ?」
一瞬の沈黙のあと、その場にいた全員が「やっぱ、そうでしょう?!」の大合唱。解放された魂はとどまるところを知らず、
「なんかさあ、もうちょっと違う形もあるだろうに、ねえ」「ヅラ取ったらちょんまげ風はげ、かなあ、用心棒だけに」
と、今もまじめに働いてるはずのTさんをサカナに、さらに盛り上がっちゃう私たちだった。
←Tさん。妙に黒々な毛色、もみあげのないところからヅラ予測が発生。
※ちなみに周りの血しぶきはイメージ映像。ほんとはイイ人。
三つ子の魂
友人のM君のお父さまはヅラだそう。洗面所と脱衣場が一緒になっている彼の家では、
洗面台の横にぽこっとカツラが置いてあると、「あー、今お父さん風呂に入ってんだぁ」と分かる、
という仕組みになってたらしい。
小さいころからそんな環境で育ったM君は、「大人になったら髪は取れるようになると思ってた」と語る。
祖父母とも総入れ歯だった私は、年取ったら歯が外れて磨きやすいんだなーとうらやましかったもんで、
M君の気持ちはよく分かる。子供の浅知恵。
でもここで注目すべきはそんな“ちょっと無邪気だった私”なエピソードではなく、
「ヅラって、別洗いなんだ……」ということであろう。のっけたままの洗浄は無理なのか、やはり。
ヅラ父パート2
父がヅラだと言ってしまったばっかりに本人までもすっかりヅララー扱いされて気の毒なM君だが、
そんな彼から新たなお父さんエピソードを入手。
ほとんど毎日ヅラかハゲかについて考えている私だが、身内にはどちらもいなかったため、
特にヅラ者の日常生活については暗い。例えば、家の中でもかぶってるのか、とか、脱ぐとしたらどのタイミングで
(玄関入った途端に取るのか、夕食の前くらいまではのっかってんのか)とか、まあ悩み? は尽きない。
M君のお父さんの場合は前述のように入浴時に取って、その後はどうなさってたのか寡聞にして不明だが、
とにかく就寝時には脱いだままだったそうだ。
で、頭から離れたヅラはどうしてたかというと、枕の横に並べて置いてあったらしい。
M君は「頭が二つ並んでるような感じで。」とその場を表現。ぷっ。
やっぱり夜中に何かあっても迅速に乗っけられるようにかしらん。
そんなM父、現在はカツラをかぶってらっしゃらないとのこと。残念ー、でもまた何をきっかけにやめちゃったの? と
尋ねてみたところ、答えは「転勤」。周囲のメンバーが変わるのをしおにナチュラルな俺頭に戻ったお父さん、
づらライフの幕引きまでもなかなか素敵。
私に関する噂
30年ほどの人生、おかっぱ前髪で通してきた私だが、このごろ伸ばしはじめた。目指すは今さらワンレングス、
んでゆるゆるパーマのセンターパートにする。そぉ、気分はキャロル・キングである。
しかし、前髪に限らず伸ばしかけの髪というのはどうしてこう始末に負えないんであろう。
今回も分けてみたり、上げてみたりともう大変。そんな私の頭を見て、友人Mっちゃんが言った。
「髪、変だなー最近」。知ってるよ、もー、わざわざ言うことないじゃん、まあどうでもいいか、Mっちゃんだし、
と思っていたのだが、次のひと言は聞き捨てならんかった。
「なんか、ヅラみてー。」
念のため断っておくが、私の髪はいうまでもなくもちろん自毛だ。それどころか人並み以上に濃い、多い。
キャロル・キングを目指しているのに誤ってオノ・ヨーコになっちゃわないように気をつけなくてはならないほどだ。
こんなボーボーな私でさえ、どう考えても一生カツラの世話にはならないであろう私でさえ、ヅラよばわりされた時は、
とってもショックだった。
あまつさえ、ちょっくら薄かったり、ヅラカミングアウトをしていなかったりする男子に向かって「髪、ヅラっぽーい」
なんて言ったり、「彼、ちょっと怪しいよね!」とか噂話をしたりするのは、これはもう犯罪と言っていいのかもしれない、
私はなんて罪深い人間だったのか、と、心から反省したのだった。
……とかいいつつ、こうしてまた「はげ・づらノオト」を書いている。
せっかくのショック療法も、私の更正にはあまり役立たなかったようである。
真にハゲの恐怖と戦っていないだけに、そんなに頭に、いや身にしみなかったというところだろうか。
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