『この地球を受け継ぐ者へ』(石川直樹・著 講談社)

なぜか我が家に突然「冒険家・登山家の本ブーム」が訪れている。
で、手持ちのものや新しく買ったものなど、いろいろ読んでみて一家で辿り着いた意見、

「名クライマー(大冒険家)必ずしも名文家ならず。」

ひでえ、なんつう結論だ。でもそうなんです。
確かに彼らの成したエクスペディションは素晴らしく、
私たちにとっては未知の世界を体験した経験から発せられる言葉は、時として示唆に満ちている。
しかし、しかしですよ、読み物として考えた場合、やっぱり喰い足りないのだ。
文章を生業としてるわけではないのだから当然かもしれないけれど、
星野道夫さんなどという美しい例外を除いては(彼は冒険家ではないけれど)
もう一歩味わいのない文章が多いのだった。

この本の著者、石川さんも冒険家、登山家といってもおかしくない経歴の持ち主だ。
高校生の頃からカヌーイスト野田知佑さんに弟子入り(これうらやましすぎ)、
ユーコン川の単独行や、各国への旅、登山を繰り返し、
つい最近は世界七大陸最高峰の最年少登頂を成し遂げた。
この本の題材となっている旅、Pole to Poleも、世界各国から集まった若者八人が、
人力で北極から南極までの地球半周をするというスケールの大きなものだ。
彼のウェブサイトに連載された日記がもとになっている。

で、この本が先の結論にあてはまるかどうか。
文章表現としても、内容から受ける感情の動きという面でも、
私はよい意味の方で例外に入る作品だと思った。
この旅自体が、著者の石川さんも書いているように、単なる肉体的な冒険ではなく、
行く先々での講演、ボランティア活動等を通して、
人々と意見を交換し合うことに主眼がおかれたプロジェクトだったということもあると思うけれど、
どこ行って何したというだけの日記ではなくて、
出会った人々との交流や共に旅する若者たちとの関わりを通しての石川氏自身の感じ方の変化や、
環境、ひいては地球と人間とのつながりについて巡らせる思いを活き活きと描いて飽きさせない。
本人の外見と同じように淡々とした(余計なお世話か)文章の中に、
ちらりと詩的な表現が出てくるのもなかなか。
周りの文のシンプルさがいっそうそういった部分を引き立てている感じだ。
文章だけでなく、異文化を尊重し、自然と共生していこうという石川さん自身の考えにも好感を持った。
ついでに書いておくと、あくまで自分のしていることは冒険ではない、というのが石川氏の持論。
ただ気持ちの赴くままに旅をしている、とのこと。
だから「冒険家(クライマー)の本らしからぬ」というくくり自体、
あまり正確じゃないのかもしれないけど。

あとがきにある、
「旅の経験をどのように人々と分かち合うか、あえていうならそれがぼくにとっての『冒険』である。」
との一文が印象深い。
彼の「自分の体験を人とシェアしたい」という気持ちは、
私自身に関していえば、この本を通して確実に届いている。
読んでいる間、私はP2P(Pole to Poleの略称)に参加した若者たちと一緒に旅をし、
私たちを取り巻く社会や自然、地球のことを思う時間を持てた。
そして読み終わった時に感じたのは
「ああ、私も旅に出たい! ここに留まって考えてるだけじゃなくて、
自分自身で体験していろいろなことを感じたい!」という嫉妬……。
本を読んで、中に描かれた体験に自分が加わってないことに対してのジェラシー、
めったにあることじゃないと思うのですが。それだけ印象深い本だったということだろう。
ブルーを基調にした装幀もさわやかで美しい。手許におくのをお勧めしたい。

なんか褒めてばっかりですが、ちょっと意地悪を書くとすればやはりタイトルについてでしょう。
この題名を照れずにすらっと発音するには、相当の胆力が必要な気がするんですけど。

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