サリャルカ ― カザフスタン北部の草原と湖沼群
Saryarka - Steppe and Lakes of Northern Kazakhstan


国名 カザフスタン
分類 自然遺産
所在地 首都アクモラの南西



審議年と結果
2003年 審議延期 ・・・委員会は申請国に対し、ヌラ川の氾濫を維持し汚染物質の堆積を抑えること、Sarykopaの「野生生物保護区」を「自然保護区」に昇格させること、ステップ回廊を保護するとともに、TersekとSypsynの両地域をNaurzum自然保護区に接続すること、などを求めた。
2008年 世界遺産登録!!


遺産詳説(執筆:収斂さん)
  カザフスタンの国土は271.73平方キロメートルで、 気候が幾分おだやかな南部から急峻な山岳地帯まで変化に富んでいるが、 国土の大部分は大陸性気候(continental climate)のため年間を通して降水量が少なく、 3〜5月にまとまって降る以外、 雨はほとんど降らない。 そのため樹木は育ちにくく、 国土の大部分に広大な草原が形成されている。 草原は細かく分けるとさまざまなステップに分類されており、 それぞれに独特の生態系が見られる。 そのため中央アジアの生物種の保護に関して、 カザフスタンの自然公園が果たす役割は大きい。 カザフスタンのステップ地域は、 面積が110.2万平方キロメートルで、 国土の約40%を占める。 こうしたステップでは、 古くから人間によって牧畜や農耕地などへの土地改良が行われてきたが、 ソビエト連邦時代の1954年から1960年代にかけてもっとも大規模な国土開発が行われた。 この開発は、 温暖で耕作地に適した南部の草原から開始され、 現在では38万平方キロメートル以上が、 小麦を主体とする農地に変貌している。 しかしこの巨大土木工事は生態系を無視したものであったため、 近年、塩害などの土壌の劣化が深刻な問題になっている。 また丘陵地帯の谷間に開けた盆地や低地では、 動植物の固有の生態系はほぼ完全に破壊されてしまったといわれている。

  そうした中で、 カザフスタンの北部に見られる草原は西シベリア低地ともいわれ、 気候が冷涼で開発が遅れたこともあって、 今でも自然環境は比較的良好である。 この地域のステップは、 森林性ステップ地域(forest steppe zone)に分類され、 広大な森や潅木林と草原が複合的に組み合わされたものである。 面積はおよそ7000平方キロメートルである。 この森林性ステップ地域は北緯54度以北まで続いており、 開発の拠点都市として建設されたペトロパブロフスク(Petropavlovsk)や Kokshetauのような大都市の近郊でも、 まだだいぶ残されている。 ただし降水量が少ないため、 森林性ステップは一度破壊されると森の再生が難しい。 そのため、近年、この森林性のステップの自然保護運動が活発になっており、 植生に改善が見られつつある。

  またカザフスタンの北部にはプールとよばれる湖沼や湿原が多い。 そのため降雨量が少ないにもかかわらず、 さまざまな低地性の植物が湿原周辺で生き延びることができた。 大小無数の湖沼群の数は4万8000以上とも言われている。 こうした湖沼群は、 春と秋には、 シベリアからカスピ海へ、 またアジアからアフリカへの渡り鳥たちの貴重な中継地点・交差点になっている。 そのためカザフスタン北部の湿原や湖沼は、 ユーラシア大陸のさまざまな渡り鳥が見られる貴重な場所である。 また、 こうした湿原にはきまって広大な葦原が広がっており、 夏場には地元の鳥の貴重な繁殖地となっている。

  主な鳥類としては、 カスピ海から飛来するサンドパイパー(sandpipers:海辺に生息するシギ科の数種の鳥類の総称)、 海カモメ(sea-gull)、 アジサシ(tern:カモメ科アジサシ属の中型の海鳥の総称)が一般的である。 またテンギス湖(Tengiz lake)には珍しいピンク・フラミンゴ(pink flamingo)も生息している。 またKurzhalgino自然保護区は、Astanaからわずか135キロメートル南西であるが、 ステップと湖沼群が共存しており、 多くの鳥類が見られることで知られる。 この自然保護区では、 シロハネヒバリ(white winged lark)、 クロヒバリ(black lark)、 チドリ(plover)、 スカイラーク(sky lark:ヒバリの仲間)、 ヒタキ(wheatear)、 チュウヒ(harrier)、 マーリン(merlin:小型のハヤブサの一種で、pigeon hawkと呼ばれることがある)が一般的である。 また世界で最も北で繁殖するグレーター・フラミンゴ(Greater Flamingos)も生息している。 ほかにも ペリカンの仲間のダルマチアン・ペリカン(dalmatian pelican)や、 カイツブリの仲間のアカエリカイツブリ(red-necked grebe)や ハジロカイツブリ(black-necked grebe)、 オオハクチョウ(whooper swan)をはじめ、 ガンカモ科の仲間のカオジロオタテガモ(white-headed duck)、 カスピ海チドリ(caspian plover)、 ツバメチドリ(pratincole)、 カモメの仲間のハシボソカモメ(slender-billed gull)や オオズグロカモメ(pallas's gull)、 アジサシの仲間(black ternやwhite-winged tern)、 スラッシュ(thrush:主にツグミ科の小鳴鳥の総称だが、ツグミ科以外の小鳥も含まれる)、 ツメナガホオジロの仲間(longspur:ツンドラ地帯から中央アジアの草原地帯に生息するツメナガホオジロ属の小鳥の総称)、 ラップランド・ロングスパー(lapland longspur)なども見られる。
  また、
カザフスタン北部の湿原には猛禽類の種類や数も多く、 ヘン・ハリアー(hen harrier:ユーラシア大陸産ハイイロチュウヒ)、 オオタカ(goshawk:ワシタカ科ハイタカ属のタカの総称)や カタジロワシ(imperial eagle:南ヨーロッパからアジアにもっとも一般的に分布するワシの仲間)、 ステップ・イーグル(steppe eagle)などが知られている。 このことは豊かな生態系が維持されていることの証拠とされている。 その他の渡り鳥としてはガチョウの仲間のwhile amongst the flocks of geese、 red-breasted geeseが飛来する。 またカモの仲間も多く飛来し、 南に向かう途中の重要な中継地として利用している。
  カザフスタン北部の湿原のIrgiz湖とTurgai湖は、
1971年に、 カザフスタン中央部にあるKurgaldzhinskye湖とともにラムサール条約に登録されている。

<そのほかの貴重な自然>
  カザフスタンの山岳地域の面積は国土の約7%(19万平方キロメートル)で、
主に、西天山山脈(Western-Tien Shan (the mountains of Karatau and Western Tien Shan))、 北天山山脈(Northern Tien Shan)、 Kazakhstan-Dzhungar、 アルタイ山脈(the Altai ranges)4つの山脈で構成されている。 こうした山脈とステップの境界周辺には独特の進化した植物が見られる。 特に西天山山脈(Western Tien-Shan mountains)と Karatay山脈(Karatay mountains)に囲まれた場所では多くの貴重な植物が見られる。 ただしこうした植物は短命なものが多く、 小さな群落を形成して過酷な自然に耐えているものが多い。 こうした群落はアフリカのサバンナでも見られることから、 savannahoidesとよばれている。 ただし山間部では、 農地や道路、 鉄道などの交通網の発達による人間活動の影響(anthropogenic effect)を強く受けている場所も多く、 森林性ステップ同様に保護が叫ばれている。

<現在の問題点>
  大河の周辺に広がる平原や氾濫原(flood land)は、
約6万平方キロメートルもあるとされているが、 土地の表土が川の流れで削られているため、 subsoil(表土と基岩の中間に位置する土層)というやせた土地であった。 こうした土地の多くはもともと塩分を多く含んでおり、 少ない降水量で乾地化すると塩を噴出することが多いとされている。 そのため植物の種類はもともと少なかったが、 こうした土地までも農地の拡大は行われた。 その結果、 河川の増水によって流されていた塩分がそのまま地表に噴出し、 深刻な塩害を引き起こしている。 特にイリ川(the Ili)、 シルダリア川(the SyrDarya)、 チュー川(the Chu)等の氾濫原では被害が特に深刻で、 河岸の葦原のほとんどが失われてしまった。 現在、 塩害は徐々に拡大しており、 固有の魚類動物群(ichthyo-fauna)が絶滅寸前になっている川も少なくない。 こうした川ではプランクトン(plankton)、 藻類(alga:下等隠下植物中で菌類に対し光合成能力のある藻類の総称)、 ベントス(benthos:水底に群生する底生生物のこと) が直接的に影響を受けているため生態系の回復は非常に難しい。 また近年の地球の気候変動(温暖化)が乾地化を引き起こし、 塩害地域の拡大に拍車をかけているという説もある。





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