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解説/文=好古学のすすめさん
1.土地と気候
コース地方(Causses)とセヴェンヌ地方(Cévennes)は、高原と渓谷、幾重にも重なる山や丘からなる変化に富んだ景勝地である。
コース地方は、マッシフ・サントラル(Massif
central、中央山塊)の南東縁を走る山脈の南西部に広がる、標高800〜1,200mのカルスト高原である。グラン・コース(Grands
Causses)とも呼ばれ、深く切り立った渓谷で隔てられた6つの高原からなる(注1)。石灰岩の層は数百メートルに及ぶ。地表のドリーネ(すりばち状の窪地)は、テラロッサ(赤土)でおおわれており、牧草地になっているものが多い。
観光の名所が多く、タルン渓谷(Gorges
du
Tarn)とその周辺のダルジラン洞窟(Grotte
de
Dargilan)や、垂直洞のアヴァン・アルマン(Aven
Armand)(注2)、地下に消えた川が再び地表に現れるブラマビヨーの淵(Abîme
de
Bramabiau)、廃墟を思わせるモンペリエ・ル・ヴュー(Montpellier-le-Vieux)の奇岩などが有名である。
セヴェンヌ地方は、コース地方の東側、山脈中央部の東西に延びる尾根が幾重にも重なる山地ないし丘陵地帯である(注3)。山地は大西洋側と地中海側の分水嶺になっている。北西斜面はすぐにコース地方の高原につづくが、南東斜面はガルドン(Gardon)川諸流の渓谷から、丘陵地帯を経てラングドック平野につづく。
最高峰のある北東部のロゼール山(Mont
Lozère、1,699m)および南西部のエグワル山(Mont
Aigoual、1,567m)は、花崗岩からなる。2つの山の間の鞍部から南東斜面の渓谷および丘陵地帯の地質は片岩である。
コース地方は西岸海洋性気候だが、冬は風が強く寒冷で雪が多い。ロゼール山は高山性気候で長い冬は雪に閉ざされる。片岩地域のセヴェンヌ(Cévennes
schisteuse)は、地中海性気候で他の2地域より温和である。
(注1)南フランスの言葉で石灰岩高原をcausseと言い、caussesはその複数形である。
(注2)アヴァン・アルマンのほか、レ・ペルル(Les
Perles)、アメリノー(Amélineau)の3件は、暫定リスト「南フランスの鍾乳洞群」の18件に含まれている。
(注3)マッシフ・サントラル南東縁の山脈全体をセヴェンヌ山脈ということもあるが、本来のセヴェンヌ地方は山脈の中央部分である。
2.セヴェンヌ国立公園
コース地方のうちメジャン高原(Causse
Méjean)と、セヴェンヌ地方の山地を中心とする地域に、1970年に「セヴェンヌ国立公園」が創設された。指定範囲はロゼール(Lozère)県南部、ガール(Gard)県北西部、アルデシュ(Ardèche)県南西部にまたがり、面積は中心区域91,270ha、周辺区域230,110ha、合計321,380haである。1985年にはユネスコの生物圏保存地域に登録された。
なお、コース地方西部の大部分は、95年指定の「グラン・コース地方自然公園」に含まれている。指定範囲はアヴェロン(Aveyron)県南部で、面積は315,640haである。
野生動物は19世紀末までに大幅に減少したが、国立公園の設置により、めざましく回復している。シロエリハゲワシ、クロハゲワシ、ビーバー、シカ、ムフロン(大型巻角の野生羊)、ライチョウ、ザリガニなどの保護増殖が行われているほか、自然に回復している種も多い。
気候、土壌、標高が多様であるため、高温乾燥の低地(〜500m)のセイヨウヒイラギカシから、寒冷高湿の高地(900m〜1,500m)のブナまで、植物相は豊かである。高山地帯(1,500m〜1,700m)であるロゼール山頂付近には、ミズゴケ、モウセンゴケ(食虫植物)なども見られる。
面積の半分以上(中心区域は63%)は森林であり、ロゼール山北斜面にはブナなどの自然林がある。エグワル山の広大な森は、19世紀末の大規模な治山目的の植林によるものである。長い年月にわたって植えられてきたクリの林やクワ畑は荒廃しているものも多いが、この地方の典型的な景観である。
セヴェンヌ国立公園の周辺区域の人口は約41,000人、中心区域はフランスの国立公園で唯一定住人口があり、約600人(主に牧畜業)が住む。
この地域の集落は牧畜を主体とする山村で、肉やチーズが特産品である。伝統的にロゼール山は牛、コース地方は羊、セヴェンヌ渓谷は山羊が飼われてきた。夏期には北部の山地、冬期には地中海側へと、季節により放牧地を移動する移牧が見られる。養蚕業は19世紀前半が最盛期だったが、現在は衰えている。典型的な過疎地域だが、観光業の発展などにより、1970年代半ばから人口は微増に転じている。なお、周辺区域の外側に隣接する山麓の工業都市アレス(Alès)は、かつては炭鉱町だった。
3.エコミュゼ
セヴェンヌ国立公園には3つのエコミュゼ(écomusée、エコミュージアム)が設けられている。エコミュゼは地域全体を博物館と見立て、建築物、自然景観、歴史のほか、地域の産業や住民の生活そのものまで含めた有形、無形の遺産を対象としている(注4)。
3つのエコミュゼのテリトリー(対象地域)は、異なる自然環境とそれとの関わりによって生み出された文化に、ほぼ対応している。たとえば伝統的な家屋は、コース地方は石灰岩、ロゼール山は花崗岩、セヴェンヌ渓谷地方は片岩と、その土地の石材を用いたものであり、地形や気候に対応して構造も異なる。
(1)ロゼール山エコミュゼ(Écomusée
du
Mont-Lozère)
コア・ミュージアムとして、ロゼール山南麓のル・ポン・ドゥ・モンヴェール(le
Pont-de-Montvert)にロゼール山博物館がある。また、サテライト・ミュージアムとして、花崗岩でできた母屋や牛小屋、脱穀場などが修復保存されているトルーバ(Troubat)の農場と、牧草地・耕作地や、水路・貯水池、母屋・水車小屋など、広大な農場景観が修復保存されているマス・カマルグ(Mas
Camargues)がある。また、聖ヨハネ騎士団によるマルタ十字の道標や、雪嵐の中で唯一の頼りとなっていた鐘楼などが各所に残されている。
このほか、レ・ボンドン(les
Bondons)のメンヒル、ラニェジョル(Lanuéjols)のガロ・ローマ時代の墓、トゥルネル(Tournel)の城跡、塔やロマネスク教会があるラ・ガルド・ゲラン(la
Garde-Guérin)の村など、6件がエコミュゼのパートナーになっている。
これらのコア、サテライト、パートナーを中心に、いくつかのテーマによるトレイル(巡回コース)が設定されている。
(2)セヴェンヌ・エコミュゼ(Écomusee
de
la
Cévenne)
片岩地域のセヴェンヌでは、フランス渓谷(la
Vallée
française)を中心に、国立公園によってロケット(Roquette)の農場の道、カヌルグ(Canourgue)の塔のある中世の道、ロック(Roque)の養蚕所、バール・デ・セヴェンヌ(Barre-des-Cévennes)の村の風景の道、サン・ローラン・ドゥ・トレヴェ(Saint-Laurent-de-Tréves)の「時の刻印」(恐竜の足跡の化石)、の5件のトレイルやサイトが設定されている。
また、渓谷中流から山麓には、荒野時代の新教徒(後述)、生活様式、農業景観、栗、養蚕と絹製品、鉱山など、この地域の特徴をテーマとする10のミュージアムやサイトがあり、国立公園とあわせて11のパートナーによってエコミュージアムが構成されている。
(3)コース・エコミュゼ(Écomusée
du
Causse)
タルン渓谷の入り口に近いフロラック(Florac)城の中のセヴェンヌ国立公園事務所の展示がコアとなり、ニーム・ル・ヴュー(Nîmes-le-Vieux)の奇岩、ドルメンが立てられた先史時代から現在の農場までの景観を望むプラダル(Pradal)、ペシェの泉(Source
du
Pêcher)が生んだフロラックの自然と文化、の3件のトレイルが設定されている。
またイェルザ(Hyelzas)に保存されているコース地方の昔の農家(la
ferme
caussenarde
d'autrefois)や、タルン渓谷の川下り、地下ケーブルカーで鍾乳洞に降りることができるアヴァン・アルマン、サンテニミ(Sainte-Énimie)の旧修道院内の地下カルストの展示など、5件がエコミュージアムのパートナーになっている。
(注4)エコミュージアムの概念は1960年代後半に、
フランスの博物館学者ジョルジュ・アンリ・リヴィエール(G.
H.
Rivière)によって提唱された。
日本では1986年に新井重三によって紹介され「生活・環境博物館」の訳語が与えられている。
4.「旅は驢馬をつれて」など
(1)旅は驢馬をつれて
「宝島」で有名な英国の小説家スティヴンソン(R.
L.
Stevenson、1850-94)は、1878年に、この地方を徒歩で旅行した。ル・モナスティエ(le
Monastier-sur-Gazeille)を出発し、ロゼール山を越えてセヴェンヌ渓谷地方に入り、サン・ジャン・デュ・ガール(Saint-Jean-du-Gard)に着くまでの12日間の旅行記「旅は驢馬をつれて」(原題
"Travels
with
a
Donkey
in
the
Cévennes")は、吉田健一訳で岩波文庫から出ている。
スティヴンソンの旅したルートは現在、自然歩道(GR、Grande
Randonnée)として整備されている。この地方はスティヴンソンのルート以外にもGRが充実している。
(2)「カミザールの乱」と「マキ」
スティヴンソンも詳しく書いているように、セヴェンヌ地方は新教徒によるカミザール(Camisard)の乱(1701-04)で知られる。カミザールとは、新教徒が着ていた白いシャツ(camiso)、または夜襲(camisade)に由来するといわれている。乱の指導者の一人、ロラン(Rolland)のル・マス・スーベラン(le
Mas
Soubeyran)の生家が、荒野博物館(Musée
du
Désert)になっている。「荒野」とは、ナントの勅令の廃止(1685)から寛容令の発布(1787)までの間の迫害の時代をたとえていう。
フロラックからサン・ジャン・デュ・ガールまで、セヴェンヌ地方を北西から南東に抜ける約50kmのセヴェンヌ山岳道路(Corniche
des
Cévennes)からの眺めは素晴らしいが、この道は、もとはカミザール派の追跡用にルイ14世が作らせたものである。
セヴェンヌ地方、とくにエグワル山は、第二次大戦中の対独レジスタンスの根拠地の一つとなった。地中海沿岸の森林・山岳地帯の灌木密生地帯をマキ(maquis)といい、ここにレジスタンスの運動員が潜伏したことから、その組織を「マキ(maquis)」、運動員を「マキザール(maquisard)」と呼ぶのである。
(3)「セヴェンヌ交響曲」
アルデシュ県のボフレ(Boffres)を父祖の地とする作曲家ヴァンサン・ダンディ(Vincent
D'Indy、1851-1931)が、1886年に作曲した代表作「フランス山人の歌による交響曲、作品25」(Symphonie
sur
un
chant
montagnard
français,
Op25)は、「セヴェンヌ交響曲」(Symphonie
cévenole)とも呼ばれている。この曲は、遠くセヴェンヌの山々を望む土地で耳にした牧歌に基づいて着想されたものである。
(4)「うつくしい人生」
セヴェンヌ地方は、最近では、フランソワ・デュペイロン(François
Dupeyron)監督(撮影は永田鉄男)の映画「うつくしい人生」(原題
"C'est
Quoi
la
Vie?"、1999年)の舞台となった。牧畜を営む一家の息子が主人公である。
参考ウェブサイト
(全体)
○セヴェンヌ国立公園(公式サイト)
http://www.bsi.fr/pnc/index.asp 英語は概要のみ。写真は少なく、小さい
http://cevennes.atlas.parcsnationaux.org/ 仏語のみ。写真はないが、図表や各種地図が豊富
○グラン・コース地方自然公園
http://www.parcs-naturels-regionaux.tm.fr/lesparcs/gacaa_en.html
○観光案内
http://www.mescevennes.com/ フロラック町観光案内所
http://www.france48.com/index-en.htm ロゼール県観光案内所
http://causses-cevennes.com/defaultUK.htm 非常に詳しい
○その他
http://les.cevennes.free.fr/index-an.htm 詳しくかつ、わかりやすい
http://www.cevennes.net/ 英語は一部のみ。写真集あり
http://www.naturescene.co.uk/home.htm 写真集(CD-ROMの注文ページなので数は多くない)
http://www.virtualtourist.com/m/5917f/2006e/ 趣味の旅行者の写真集
(ロゼール山地方)
○レ・ボンドンのメンヒル
http://www.mescevennes.com/english/discoveries/cham_bondons.htm
http://perso.wanadoo.fr/deesse-mere/g1menhir.htm
http://prehist.free.fr/bondons/ 仏語のみ。写真、地図、リンクがある
○ローマ時代の墓
http://www.france48.com/pagesgb/patrimoine/27_lanuejols.htm
○トゥルネル(Tournel)の城
http://www.france48.com/pagesgb/patrimoine/03_ch_tournel.htm
○ガルド・ゲランの村
http://la.garde48.free.fr/index-an.htm
http://jean.dif.free.fr/Chatover/Guerin.html
(セヴェンヌ渓谷地方)
○ロックの養蚕所
http://720plan.ovh.net/~mesceven/english/discoveries/magnanerie.htm
○バール・デ・セヴェンヌ
http://membres.lycos.fr/barredescevennes/ 仏語のみ。写真1枚
○荒野博物館
http://www.museedudesert.com/ 英語概要あり
○恐竜の足跡の化石
http://www.mescevennes.com/english/discoveries/dinosaures.htm
(コース地方)
○ダルジラン洞窟
http://grotte-dargilan.com/UK/default.htm
○アヴァン・アルマン
http://www.aven-armand.com/anglais/indexaven.html
http://www.funimag.com/funimag09/AVEN01.HTM 地下ケーブルカーの解説
○アメリノー洞窟
http://ferme.caussenarde.free.fr/ferme_caussenardeamelineau.htm 仏語のみ。ビデオの販売ページ
http://www.languedoc-roussillon.environnement.gouv.fr/SITES/description/lozere/4807403.htm 天然記念物指定範囲の地図。仏語のみ
○ブラマビヨーの淵
http://www.florac-tourisme.com/english/discoveries/bramabiau.htm 英語。写真2枚
http://caiffa.free.fr/bramabiau.htm 仏語のみ。写真5枚
http://www.languedoc-roussillon.environnement.gouv.fr/SITES/3029701.htm 天然記念物指定範囲の地図。仏語のみ
http://gilbert01.chez.tiscali.fr/ma_region/les_cevennes/bramabiau/bramabiau01.htm 仏語のみ、写真23枚
○モンペリエ・ル・ヴュー
http://www.aven-armand.com/anglais/index2.html
(コース・エコミュゼ)
○コース地方の昔の農家(La
Ferme
caussenarde
d'autrefois,
Hyelzas)
http://www.mescevennes.com/english/discoveries/hyelzas_farm.htm
http://ferme.caussenarde.free.fr/ 仏語のみ
○フロラック城
http://www.ville-florac.fr/english/virtualtour/castel.htm
○ニーム・ル・ヴュー
http://www.cevennes.net/parc.national.des.cevennes/sentiers/nimes-le-vieux.htm 仏語のみ
○プラダル
http://www.cevennes.net/parc.national.des.cevennes/sentiers/pradal.htm 仏語のみ
○ペシェの泉
http://www.ville-florac.fr/english/virtualtour/the-spring.htm
○タルン渓谷の川下り
http://www.gorgesdutarn.com/index.html 英語版pdfパンフレットあり
ヨーロッパ・北米の裏世界遺産目次へ
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