裏世界遺産とは何か
ちなみに「裏世界遺産」は当方の造語です
◇裏世界遺産の定義
「裏世界遺産」とは一言でいえば、世界遺産に登録推薦されたのに登録されていないものです。詳しく見ていくと、以下の6種類に分けることができます。
・ 世界遺産委員会での審議の結果、以下の各評価を下されたもの
1)情報照会……追加情報の提出を求めたうえで次回以降の審議に回すもの
2)登録延期……より綿密な調査や推薦書の本質的な改定が必要なもの。最も早くて次々回の委員会で審議を受けることができる
3)不登録……登録にふさわしくないもの。例外的な場合を除き再推薦は不可
(文化庁の発表資料より転載/一部表現変更)・ 以下の各事情により、世界遺産委員会の審議を受けなかったもの
4)書類不備……登録推薦書類の内容が不完全であるもの
5)審議対象外……ICOMOSまたはIUCNによる現地調査の遅れ、評価報告書作成の遅れなどの理由により、委員会で審議対象とならなかったもの
6)推薦の辞退……委員会の審議を待たず、推薦国自ら推薦を取り下げるもの。ICOMOSまたはIUCNの事前調査の結果「不登録とすることが望ましい」と評価され、辞退するケースが多いいずれにせよ、一度世界遺産に推薦されていながら、何らかの理由で登録が見送られているものを「裏世界遺産」と呼ばせていただいています。日本では2008年の世界遺産委員会で「登録延期」となった「平泉−浄土思想を基調とする文化的景観」が、いまのところ唯一の例です。(ちなみに、世界遺産になれないでいる場所の代表格「富士山」は、まだ正式に登録推薦されたことがないので、登録されてはいませんが裏世界遺産ということにはなりません)。
なお上記4の書類不備物件は、従来「推薦国の内部事情にかかわるため非公開」とされてきましたが、2003年および2006年以降のものについて、ユネスコ世界遺産センターのウェブ上で公開されています。ですので書類不備物件に関しては、2003、04年、および07年以降のもののみ裏世界遺産としてカウントしています。
◇登録されないからといって・・・実はこの裏世界遺産の存在が、世界遺産条約のもつ問題の一つなのです。というのは、「世界遺産に登録されなかった自然や文化はどうでもいい、価値がない」ととらえられがちであるからです。世界遺産というのは、世界的に見て顕著で普遍的な重要性をもつものですから、これに登録されないということはすなわち、価値がないと思われてしまうのです。確かに両者を比べると、保存状態や管理体制などに差が見られるものもあるでしょう。しかし世界遺産はそのガイドラインにおいて、地球上の素晴らしいものを全部登録するつもりではないことを規定しています。
(世界遺産条約履行の作業指針第52項):The Convention is not intended to ensure the protection of all properties of great interest, importance or value, but only for a select list of the most outstanding of these from an international viewpoint.
(意訳):世界遺産条約は興味深いもの、重要なもの、価値あるもの全ての保護を約束するために作られたのではない。あくまで世界的に見て、最も傑出したものの選抜リストを作ることが目的なのである。
登録された場所をモデルにして、自国の自然・文化保護の手がかりにすればいいのですし、また、世界遺産を通して他国の文化や自然に興味をもつことも大切です。ですから登録されたとかされていないとか、そういうことを考えるのは、いってみればあまり意味がないのです。そう考えれば、裏世界遺産は決して世界遺産に劣るものではなく、一つ一つがとても重要なものだということに気づくことでしょう。
※条約履行の作業指針は2005年2月に改訂されました。この箇所の記述はほとんど変更ありませんが、改訂前の表記は次のようでした:The Convention provides for the protection of those cultural and natural properties deemed to be of outstanding universal value. It is not intended to provide for the protection of all properties of great interest, importance or value, but only for a select list of the most outstanding of these from an international viewpoint.(旧作業指針第6項)
◇裏遺産は国の恥?そうはいっても裏世界遺産とは、何かしらの問題を抱えているもの。(世界遺産にも、多くの問題を抱えているものが結構ありますが……)。だから国の恥のように思えるかもしれませんが、私はそうとは思いません。落選しても問題点を改善して、次に備えればいいのではないでしょうか。裏遺産は永久に裏遺産な訳ではありません。一度落選したり、登録を保留されたりしても、後年に問題点を改善して登録された例はいくらでもあります。
日本は93年に「法隆寺地域の仏教建造物群」など4件を登録して以来、07年の「石見銀山の銀鉱とその文化的景観」まで、審議を受けた10委員会連続で「一発登録」を続けてきました。(10委員会連続の一発登録なしは、現在のところ世界記録です)。日本初の登録見送りは、08年の「平泉−浄土思想を基調とする文化的景観」。見送りは残念なことでありますが、推薦内容を見直して、再挑戦すればいいだけのこと。いや、むしろ、「われわれの推薦内容が受け入れられないのなら、世界遺産なんかいらない」というくらいの気概が欲しいものです。「浄土思想の景観に顕著な価値があるのか不明確? そんな勝手な条約、お断りだ」くらいの気概が。
世界遺産になってもならなくても、平泉の文化財は同じようにそこにあるのですし、それによって価値が変わるわけではありません。「登録されること」が唯一の目標となりつつある日本の世界遺産運動に一石を投じるという意味でも、今回の見送りは価値があったと思います。繰り返しますが、私は、平泉の登録見送りは残念なことと思っています。しかし、これを機に世界遺産とは何なのか本格的に見直していくべきではないか、と感じたまでです。
作成 2000.2.06 改訂 2000.6.10 修正 2003.5.12 改訂 2004.8.01 修正 2005.4.13 改訂 2007.9.09 改訂 2008.7.17 執筆・浦に〜と