登録基準の変遷

新旧、登録基準の対比




世界遺産に登録基準があることは皆さんよくご存知だと思います。しかしその基準は、今と昔とで異なることをご存知ですか?
このコーナーでは、世界遺産の登録基準の文章の移り変わりを示してあります。あまりおもしろくないコーナーですが、まあ取り敢えず。気になった方だけ読み進めてください(^^;;;

登録基準は1977年の第1回世界遺産委員会で示されました。その時から既に今と同じく、文化遺産に6つの基準、自然遺産に4つの基準、という形です。文の大意は現在と同じですが、細かい部分で結構違いが見られます。

この変遷は数年毎に行なわれる、条約施行指針の更新に伴なって生じるものです。度々変更される基準もあれば、あまり改訂されない基準もあります。各基準については以下に示した通りですが、日本語に訳しようの無い、theの挿入/削除しか行なわれなかった改訂に関しては省略しました。なお下線は原文通りです。


文化遺産の登録基準の第
1977年 創造的才能を表す独特の芸術的または美術的偉業や傑作であること
1980年 創造的才能を表す独特の芸術的偉業や傑作であること
1995年 人間の創造的才能を表す傑作であること

文化遺産の登録基準の第
1977年 ある期間、あるいは世界のある文化圏において、建築物、記念彫刻、庭園および景観設計、関連芸術、集落のその後の発展にかなりの影響を与えたこと
1978年 ある期間、あるいは世界のある文化圏において、建築物、記念彫刻、庭園および景観設計、関連芸術、集落の発展にかなりの影響を与えたこと
1980年 ある期間、あるいは世界のある文化圏において、建築物、記念芸術、都市計画、景観製作のその後の発展に大きな影響を与えたこと
1994年 ある期間、あるいは世界のある文化圏において、建築物、記念芸術、都市計画、景観設計のその後の発展に大きな影響を与えたこと
1995年 ある期間、あるいは世界のある文化圏において、建築物、記念芸術、都市計画、景観設計の発展における、人間的価値の交流を示していること
1996年 ある期間、あるいは世界のある文化圏において、建築物、技術、記念芸術、都市計画、景観設計の発展における、人間的価値の交流を示していること

文化遺産の登録基準の第
1977年 独特な、あるいは極めて稀な、あるいは重要な古代産物であること
1980年 既に消滅した文明に関する独特な、あるいは稀な証拠を示していること
1994年 既に消滅した文明や文化的伝統に関する独特な、あるいは稀な証拠を示していること
1995年 現存する、あるいは既に消滅した文化的伝統や文明に関する独特な、あるいは稀な証拠を示していること

文化遺産の登録基準の第
1977年 建築様式の最も特徴的な例、あるいは重要な文化的、社会的、芸術的、科学的、技術的、産業的発展を表す見本であること
1980年 歴史上の重要な段階を物語る建築様式の顕著な見本であること
1984年 歴史上の重要な段階を物語る建築様式、あるいは建築的集合体の顕著な見本であること
1994年 人類の歴史の重要な段階を物語る建築様式、あるいは建築的集合体、あるいは景観の顕著な見本であること
1996年 人類の歴史の重要な段階を物語る建築様式、あるいは建築的または技術的な集合体、あるいは景観の顕著な見本であること

文化遺産の登録基準の第
1977年 重要な伝統建築様式、建築方法、集落の特徴的な見本であり、自然現象によって壊れやすいものや、抗しきれない社会文明的な、または経済的な変化によってその存続が危うくなっているもの
1978年 重要な建築様式、建築方法、都市計画の姿、伝統集落の特徴的な見本であり、自然現象によって壊れやすいものや、抗しきれない社会文明的な、または経済的な変化によってその存続が危うくなっているもの
1980年 ある文化を特徴づけるような人類の伝統的集落の顕著な見本であり、また、抗しきれない歴史の流れによってその存続が危うくなっているもの
1994年 ある文化(または複数の文化)を特徴づけるような人類の伝統的集落や土地利用の顕著な見本であり、また、特に抗しきれない歴史の流れによってその存続が危うくなっているもの

文化遺産の登録基準の第
1977年 顕著な歴史的重要性や意義を持つ思想、信仰、出来事、人物と最も重要な関連があること
1980年 顕著で普遍的な重要性を持つ出来事、思想、信仰と直接または実質的関連があること
(委員会は、特別な事情がある場合もしくは、他の登録基準にも合致する場合に、この基準でリストに登録できると見なす)
1994年 顕著で普遍的な重要性を持つ出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連があること
(委員会は、特別な事情がある場合もしくは、他の登録基準にも合致する場合に、この基準でリストに登録できると見なす)
1995年 顕著で普遍的な重要性を持つ出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連があること
(委員会は、特別な事情がある場合もしくは、他の文化遺産・自然遺産の登録基準にも合致する場合に、この基準でリストに登録できると見なす)
1997年 顕著で普遍的な重要性を持つ出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連があること
(委員会は、特別な事情がある場合および、他の文化遺産・自然遺産の登録基準にも合致する場合に、この基準でリストに登録できると見なす)




自然遺産の登録基準の第
1977年 地球の進化の歴史の主要な段階を代表する顕著な例であること。
このカテゴリーは、地球の自然の変化を証明する中生代のような、あるいは初期人類やその環境が大きな変化を受けた氷河期のような、地質学的歴史の主要な時代を表すものを含む
1980年 地球の進化の歴史の主要な段階を代表する顕著な例であること
1994年 生命進化の記録、地形形成における重要な進行しつつある地質学的過程、あるいは重要な地形学的または自然地理学的要素を含む、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な例であること

自然遺産の登録基準の第
1977年 重要な進行しつつある地質学的過程、生物学的進化、人類と自然環境の相互作用を代表する顕著な例であること。不同の地球進化の段階であり、陸上、海洋・淡水域における動植物群集の発展において、進行しつつある過程に眼目をおけるもの。
このカテゴリーは例えば、(a)氷河や火山の作用による地質学的過程、(b)例えば熱帯雨林、砂漠、ツンドラのような生物群系における生物学的進化、(c)人類と自然環境との相互作用で、段々地の農業景観のようなもの、を含む
1980年 重要な進行しつつある地質学的過程、生物学的進化、人類と自然環境の相互作用を代表する顕著な例であること。不同の地球進化の段階であり、陸上、海洋・淡水域における動植物群集の発展において、進行しつつある過程に眼目をおけるもの
1994年 陸上、淡水域、沿岸・海洋生態系、動・植物群集の進化や発展において、重要な進行しつつある生態学的・生物学的過程を代表する顕著な例であること

自然遺産の登録基準の第
1977年 ひときわ優れた自然美をもった、独特な、あるいは稀な、あるいは至上の自然現象、組成物、地形、地域を含むこと。人類、自然地形(例えば河川、山、滝)、自然の植生に覆われた重要な動物集団や全般的眺望によって示された光景、および自然と文化のひときわすぐれた融合にとって、最も重要な生態系の至上の見本のようなもの
1980年 ひときわ優れた自然美をもった、至上の自然現象、組成物、地形、地域を含むこと。自然地形、自然の植生に覆われた重要な動物集団や全般的眺望によって示された光景、および自然と文化のひときわすぐれた融合にとって、最も重要な生態系の至上の見本のようなもの
1984年 至上の自然現象、組成物、地形を含むこと。例えば、最も重要な生態系、あるいはひときわ優れた自然美を含む地域、あるいは自然と文化のひときわすぐれた融合の顕著な見本であること
1994年 ひときわすぐれた自然美および美的要素をもった至上の自然現象、あるいは地域を含むこと

自然遺産の登録基準の第
1977年 現在まで生残る稀少な、あるいは危機にさらされている動植物の生息地であること。
このカテゴリーは、普遍的な重要性が見出される動植物集団の生態系を含む
1980年 学術上、あるいは保全上の観点から見て、顕著で普遍的な価値を持つ、現在まで生残る絶滅のおそれのある動植物を含む、最も重要な自然の生息地を含むこと
1994年 学術上、あるいは保全上の観点から見て、顕著で普遍的な価値をもつ、絶滅のおそれのある種を含む、野生状態における生物の多様性の保全にとって、最も重要な自然の生息地を含むこと



こうして並べて見ると、結構変遷が見られて興味深いです。。例えば文化(3)は、当初は失われた古代文明のみを対象にしていたのに、今では現存する文明の遺跡も対象内ですし、文化(2)は1977年に「記念彫刻」だったのが、1980年には「記念芸術」と解釈が拡大されています。原文では、前者は monumental sculpture後者は monumental arts となっており、両方とも単に「記念碑」と訳せそうですが、このコーナーでは特に区別するための直訳をしてみました。

また昔の自然遺産の登録基準の中に、人間と自然の共同作品が含まれていることも今では考えにくいことです。現在これらは文化遺産の範疇ですし(文化的景観)、なにより自然遺産はその完全性が問われますから、人の手が入ったものは自然遺産として登録しにくい気がします。また文化(2)(4)で、「技術」という文字が1996年に挿入された点も面白いと思います。


作成 2000.7.29
修正 2003.5.12
執筆・浦に〜と



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