※GMとプレイヤーが札幌でプレイしたセッションです。固有名詞が多数登場しますが、実在の人物、団体、設備とは一切無関係です。
GM:OK。では、5年前の札幌から始めよう。札幌の熱帯夜。ススキノのネオンからやや遠ざかったあたりに、地元のアマチュアミュージシャンがよく利用しているライブハウスがある。キャパは200人くらいの小さなものだ。だが、今夜はレイ・タチバナのライブだけあって、それをはるかに超える客が集まっている。ステージ上の君の息が詰まるくらいだ。
山方:熱狂とは関係なく、黙々とベースを弾いている。で、レイって?
GM:ま、札幌のロッカーやパンクスの女王、というか女神だね。日英ハーフの実力派ロックシンガー、固定のバンドメンバーは持たず、誰とでも演るし、また寝たりもする。もちろん、それには彼女に認められるほどのテクとセンスがあればだけど。
山方:認められてるのかな?
GM:そ。だから、もしかすると君ともそういう関係があったかもしれない。さて、興奮さめやらぬうちに今夜も幕が下りる。狭い楽屋でメンバーたちが缶ビールをあけている。
山方:いつもこき使っている後輩を呼び付けて「片付けておけ」と言っておく。
GM:後輩は「はいっ!」と元気に返事して、ステージへ走り去る。その後ろ姿を見送り、いつの間にか隣に来ていたレイが「いつまであんなジャリ相手にしてるの?」とばかにしたようにつぶやく。
山方:「その言葉、そっくり返すぜ。」
レイ:「…あたしは、もう終わり。あたし、ロンドンに行く。」
山方:「…?」
レイ:「前から、父に呼ばれていたんだけどね。それより、こんな小さな街で満足できなくなったの。向こうで、勝負してみたいのよ。向こうでは、日本人なんて相手にされないだろうけど、ね。…あんたも、来ない? その腕をこんな所だけにくすぶらせる気はないでしょう?」
山方:「お前さんは半分、俺は全くの日本人だけどな。」
レイ:「今、答えを出せとは言わない。その気になったら、あたしのマンションに電話して。」
山方:「出発はいつ?」
レイ:「(微笑)2週間後。」
GM:狭い札幌のこと、レイの渡英の噂は瞬く間に広まった。ラストライブのチケットは即日完売。アマチュアのシーンでは異例の早さだ。
山方:「やれやれ…」
GM:2週間はあっと言う間にたち、ラストライブの夜になる。『PENNY RAIN 24』その入り口には、リハーサルのころから、数人のロッカーやパンクスたちが集まっている。
山方:「素直なパンクスだ。俺には理解できん感性だな。」
GM:一方、メンバーやスタッフの間にも、一種のセンチメンタルな空気が流れている。ただレイだけはいつものとうり、クールでハスキーなヴォイスとアンプの調子を調べている。
山方:同じく、そんな空気に反抗するようにいつもどうり弾いている。
GM:そして、ライブが始まる。最初から最後までレイは変わらない。観客たちの熱狂、叫び、涙にもかまわないね。5度目のアンコールの後に、ようやく幕が閉じた。まだ熱のこもるホールに、観客たちは名残惜しげに残っている。
山方:楽屋で勝手にレイのドリンクを飲んでいる。
GM:すいっと、頭上から手が伸び、君の手からそれを奪う。
レイ:「終わった。」
山方:「終わったな。」
(間)
レイ:「出発は明日。」
山方:「OK。」
GM:だが、君が部屋に戻ると留守電にこんなメッセージが入っていた。
『…あ、高杉です。本当にいないのかな…。…戻ったら連絡してほしい。じゃ…』
GM:高杉とは、大学の友人。君と違い模範的な学生生活を送っている。
山方:では、いろいろと利用させてもらっているに違いない。
GM:だろうね。相性はいいけど、向きがまるで違う友人だ。
山方:では、電話をかける。
GM:電話には高杉の母が出る。
母:『あ、山方さん…? あの、瞬のことを聞いて…?』
山方:「いえ、彼から電話をいただいたようなので…。どうか…?」
母:『ご存じ、ないのですね。実は、さきほど、警察の方から連絡があって、…それで、瞬が、ビルから落ちて…即死だった、と…』
山方:「…それは、いつですか?」
母:『午後の、6時だったそうです。札幌開発会社のビルで…』
GM:高杉の就職が内定していた会社だね。君はそれを知っている。
山方:留守電は、時刻まで分かる物?
GM:いや、メッセージだけ。
山方:電話を切る。現場までバイクで行ってみる。
GM:現場には数台のパトカーが来ていて、あたりは赤い光りに包まれている。ロープで囲っている現場を遠巻きにして、帰宅途中のやじ馬も数人いるよ。
山方:一人捕まえて聞く。「何があったんだ?」
男:「え、いや何でも飛び降りらしいですよ。良くは知りませんけどね。」男は、君から恐れるようにそそくさと去る。こんなガタイの良い、こわそうな男に突然たずねられてはねえ。(笑)
山方:確かに。(笑)現場に怪しい妖気とかは?
GM:このころの君は、まだMIAの人間ではないからね。ただ、嗅覚によるものではない、血なまぐささのようなものを感じる。
山方:では、部屋に帰る。レイに電話してみるか。
GM:トゥルルッ、トゥルルッ、プツッ『ただいま留守にしております。ご用件の方は、お名前とメッセージをどうぞ。』ピーッ”
山方:「山方だが…」
GM:突然、相手の受話器が上がる。『あたしよ』
山方:「明日、何時に発つって?」
レイ:『10:34札幌発、千歳方面行。その気になったの?』
山方:「ああ、荷物はすぐにまとまる。金は無いが…」
レイ:『それはあたしが持つ。じゃ、10時にマンションに来て。』
山方:「OK」
GM:次の日の朝になった。青空が広がる良い天気だ。レイとの約束まではまだ時間がある。
山方:もう1度、現場に向かう。
GM:さすがに、皆通勤の途中で、昨日のようなやじ馬の姿はない。だが、女が一人たたずんでいる。ワンレングスの肩までのボブ、赤い口紅が似合う彼女は、君も前に紹介されたことがある、高杉の彼女だ。
山方:それだけ確認したらベースを取り出して、その音だけをバックに高杉にたむける歌を歌う。声はわりと低くて、渋い感じ。
GM:通勤中の皆様がチラチラと横目に見て行くけどね。(笑)
山方:気にしない。俺なりの弔意を表す。
GM:一曲終わると、彼女がそばまで来るよ。
山方:「残念だったな。高杉の奴。」
なおみ:「…墜落死だって。でも、墜落死の人間に、かぎ爪の跡なんてついているかしらねえ?(苦笑)」
山方:「かぎ爪?」
なおみ:「私、瞬と同じ道に入る。なぜ、彼が死んだのか…殺されたのか、納得したいの。」
山方:「…物好きな奴だ。同じ死に方はするなよ。」…と、ところでGM、高杉って…。
GM:そう。MIAの腕利き。この頃の君はまだその存在も知らないが、高杉が何か危ないことに関わっているような気はしていたかもね。
山方:なおみと別れた後、レイのマンションに向かうかな。
GM:(ピンポーン)…返事がない。郵便受けの名札も抜かれている。
山方:全然気配がない?…一応駅に向かってみる。
GM:『間もなく、3番線より10:34発、新千歳空港行き快速列車が発車致します。ドアが閉まりますのでご注意ください。』
山方:車両にそって、ホームを走りながら中をうかがう。
GM:しかし、レイの姿はなかった。プシューッ、ドアが閉まり、ゴトン、ゴトン…列車が動き出す。ホームにたたずむ君の頭上を、旅客機が音を立てて横切っていった。ゴウン、ゴウン…
《5年後》
GM:ゴウン、ゴン、ゴンゴンゴン……「山方ぁっ!」ゴン、ゴン…
山方:……目を覚ます。
GM:ドアをたたく音と、かん高い女の声で君は目を覚ました。あの声は、前にMIAの仕事で組んだ音楽雑誌記者『金子真美』の声だね。
山方:とても不機嫌にドアを開ける。
真美:「山方っ! あ、…ふ、服くらい着てきなさいよッ!」バタン!
山方:どんな格好してるかな。
GM:さあ。パジャマなんかは着てないでしょうね、きっと。
山方:そうだね。(笑)一応その辺の服を着る。
真美:「いい?」
山方:「で? こんな朝から何の用だ?(不機嫌)」
真美:「もう昼前じゃないの。ね、それよりTV見てないの?」
山方:「あれば、見ているだろうな。」
真美:「…じゃ、ラジオ聞いてないの?」
山方:「あれば、聞いているだろうな。」
真美:「ああ、もうっ! ちょっと来なさいよ!」と、手首をつかんで、強引に電気屋まで引っ張って行く。
山方:「(アンニュイに)何なんだよ。」
真美はディスプレイのTV画面の1つを指す。
ワイドショーが、成田空港から大物アーチスト上陸中継をしている。5年たち、イギリスから日本までその名声が聞こえてくるほどBIGになった、『レイ・タチバナ』の。
群がるカメラにレイがすっと近づき、サングラスをはずすと
『タカアキ、今度こそあなたを迎えに来たわ。』
真正面から言い放った。『タカアキとはいったい?』と突き出されるマイクを悠然とかいくぐり、歩み去るレイの後ろ姿で中継は終わっている。
山方:こういうことか。「派手なことを…」
真美:「山方、あんたなんでしょ? 札幌で5年前にレイとやっていたっていう…。あんたなんてマイナーだから、まだ私しか気づいてないけど、マスコミに感づかれたらえらい騒ぎよ。」
山方:とにかく部屋に帰る。
GM:ドアを開けようとすると、「あっ、山方さんですね?」と数人の男たちが走り寄ってくる。
山方:しまった…。他人のふりしたかったのに。かまわず部屋に入るぞ。
GM:バタン! 真美がドアを閉め、カギまでかけている。
山方:知らんぞ。
真美:「ね、山方とレイってどんな関係?『今度こそ…』とかって言ってたけど?」熱心に聞く彼女の顔に、『独占スクープが欲しい!』と書いてある。(笑)
山方:こいつは…。(笑)
GM:『トゥルルルッ』突然、電話のベルがなる。
山方:「はい、山方…」
声:『あの、ROCK on JAPANですが、レイ・タチバナとのことでうかがいたいのですが…』
山方:切る。
GM:(笑)『トゥルルルッ』
山方:…カチャ。
声:『あ、山方さん? MUSIC NEWSのものですが、レイの発言は…』
山方:受話器を本体の上に仰向けに置いて、放っとく。
真美:「すごいよ、どんどん人が集まってる。早いなあ。あれ、何これ?」と、玄関から戻った真美が、受話器を置く。とたんに、『トゥルルルッ!』(笑)
山方:……
真美:「……鳴ってるよ、デンワ。」(笑)
山方:仕方なく受話器を取る。
声:『指令だ。』聞き慣れた低い男の声が響く。『レイ・タチバナをマークせよ。』
MIAからの指令。それは、レイ・タチバナと妖魔の組織につながりの疑いを調べ、北海道に彼女がいる期間のマークをせよとのこと。ファクトリーホールでレイのライブがある、それまでのマーク。
声:『非常事態には戦闘も認める。後のことは我々が処理する。』
山方:「処理、ね。」
GM:外がだんだん騒がしくなってくる。だいぶ集まっているみたいだよ。
山方:ジャケットはおって、メット持って外に出る。
GM:記者たちがいっせいにマイクを向けてくるよ。
山方:強引にかき分けてバイクにまたがる。
真美:「待ってよ、どこ行くのっ?」真美がシートにまたがる。
山方:乗った?「落ちるなよ。」とだけ言って、急発進!
GM:真美の悲鳴はバイクの轟音にかき消され、君たち2人は暑くなりそうな街に姿を消すのだった。
山方が向かったのは、昔の仲間が経営する『STUDIO・PAGE』だった。薄汚れたビルの地下、20畳ほどのスペースに、ステージ、機材、客席、カウンターがあり、20人も入れば満席になりそうな場所だ。
GM:まだ昼間だから営業はしていない。緑の髪がパイナップルのようなノブオが、一人カウンターで雑誌を読んでいる。
ノブオ:「よ、有名人。TV見たぜ。」
山方:「……」
ノブオ:「追われてうんざりして、雲隠れってトコか。かまわねえが、今夜は高校生の坊ちゃんバンドのライブがある。」
山方:「気にはしないさ。」フロアのベースを勝手に手に取る。
真美:「ふうん、なるほどね。」所在無げに立っている真美が、辺りを見回して、「でもさ、これからどうするのよ?」
山方:黙殺。ベース弾いて自分が作曲した曲をやってる。
真美:「ずっといる訳にいかないじゃない?」
山方:再び黙殺。(笑)
真美:無視されたので、むっとしてステージに上がる。「その曲ってさ、『Dragon fly』がやってたよね?」
山方:「奴らには、過ぎた曲さ。」
GM:そんなことをしているうちに夜になり、バンド始めてみました、って感じの少年たちと、明らかに内輪の高校生が集まり、学園祭のようなライブを始める。今は何だろうね? 『T-BOLAN』とか、『B's』とか、あと『X』のつもりらしいやつとか。(笑)
山方:「俺のほうが、もう少しましだったな。」と思いつつ、カウンターにいる。
ノブオ:「フィズでいいか?」と、ノブオがドリンクを出してくれる。「あのガキどもの中で、何人続けられると思う?」
山方:「続かない方が身のためだ。」
ノブオ:「(笑)確かに。俺もギターじゃ食えなくて、結局親父のビルを間借りしてここを開いたからな。あんときの奴らもたまに来るが、大抵はもっとましな仕事に就いて、オンガクとは別れてた。」
山方:「しょせん、札幌じゃな。」
ノブオ:「食えてんのか?」
山方:「かつかつだ。見ろよ。」と、ベースカバーを開ける。
ノブオ:にやりと笑って「かわんねえな。」
山方:「古女房さ。」
ノブオ:「…レイはビッグになって帰って来たな。」
山方:「…英国か。バッド・ジョークだ。」
GM:と、それぞれが沈黙の中にいたわけだけど、ふいにグラスを磨いていたノブオが低い声で、
ノブオ:「客じゃねえ奴が来てるぜ。」
山方:「どんな奴だ?」
ノブオ:「どう見ても、あのガキの仲間じゃねえな。こっちを見てやがる。振り向かずに後ろを見てみな。」
山方:「難しい注文だな。」グラサンをはずして、反射させて見る。
GM:スーツ着てサングラスした、怪しい男がこっちを見てる。
ノブオ:「地下でグラサンとは怪しい奴だ。おまえさんの仲間かと思ったぜ。」
山方:「ケンカ売ってんのか?」
GM:そんなやり取りをしていると、その男がこちらに来るよ。
山方:右手をグラスから離して、さりげなく戦闘準備態勢をとる。
GM:その動きを制するように、「山方さんだね?」と、穏やかな声をかけられた。
男:「メッセージだ。」と、懐から黒に金の縁取りのカードを取り出す。レイが好んで使っていたものだ。
山方:受け取って読む。
『Tomorrow Midday Rei』
山方:どこで?
GM:ここにいる君に、このカードが届いた、ということです。
男:「確かに渡したよ。レイになにか伝えることは…?」
山方:……山方にしては珍しく、一瞬素直な目をして、「『いい女になったな』と言っといてくれ。」
GM:男は君に一礼して帰る。隣の真美がそろっと息をはきだした。
山方:夜もふけたし、隅っこの堅いベンチにでも転がって寝るかな。
GM:すごい音量だよ?
山方:慣れっこ。気にせず眠る。
GM:では、ギラついた明かりも、狂ったギターの音も届かない暗闇の世界に、君は滑り込んで行く…。
GM:目を覚ましたのは、午前11時というあたりかな? ノブオはどこかに出掛けているらしい。スタジオの隅から聞こえる真美の話し声が、君を眠りから覚ましたらしい。
真美:「(ひそひそ)ええ、ですから、私が今、山方といるんです。はい、独占スクープということにもなりますね。とりあえず、そちらに初めにお知らせしようかと……」と、店の赤電話で何やら話してる。(笑)
山方:……無言で背後に回る。
真美:「え、場所は…」
山方:突然、チョークスリーパー。(笑)
真美:「はうっ!」じたばた、かくん。(笑)
山方:受話器を戻す。
真美:「けほけほ……何すんのよ!」
山方:「取材していいとは言ってないぞ。」
真美:「いいじゃない、ついでに仕事したって。今、きついんだからさ、特ダネが欲しいの!」
山方:「雑誌社、変わったのか?」
真美:「私、今フリーなの。あの雑誌社やめたから。」
山方:「何で?」
真美:「言いたいこと言ったら、首になった。」
山方:「(笑)ガキ。」
真美:「あ、あんたに言われたくないよっ!」
GM:と、そんなやり取りをしているうちに、正午になった。5年前のあの頃と同じように、15分遅れて階段を下りるハイヒールの足音が聞こえてくる。真美がカウンターの裏に隠れるのと同時に、さびたドアがきしんで開いた。やはりここは、カメラワークは階段に降りるその赤いヒールのアップから。(笑)
山方:喫っていたタバコをもみ消して顔を上げる。「よお…」
GM:ボディラインも鮮やかに、真紅のスーツをまとったレイがスタジオを見回しながら降りてきた。「Hi.」
山方:「………何の用だ。」
レイ:それには答えず、カウンターにもたれて、英国の銘柄らしいタバコに火をつける。「変わらないわね。」
山方:「英国に行っていれば、変わるところもあったかもな。」
レイ:「(微笑)自力で追っかけてくるだけの、『KONJO』があるか試していた、って言ったら、信じる?」
山方:「(にやり)さあ。なにぶん、昔のことだからな。」
レイ:「弾いてるの?」と、ステージに行き君のベースの弦を指先で遊んでいる。
山方:「ああ、そいつにはクセがつき過ぎてるぜ。」
レイ:まゆをしかめて「あたし、こいつが苦手だった。」
山方:「……お前に俺は弾きこなせないよ。」
レイ:カチリと君の視線を真っすぐに見返して、「お互い様よ。あんたにもあたしは弾きこなせない。」
(間)
レイ:「………用件に入るわ。今度、こっちでライブをやるのは知ってるね? その時に、あんたにメンバーに入って欲しいの。」
山方:「条件は? ただではやらないぜ。今、俺はプロだからな。」
レイ:「ギャラの他に、ということだけど、ツアーが終わった時に、あたしと英国に渡る機会をあげる。向こうのプロデューサーとも話をしてるわ。」
山方:「…その、プロデューサーとやらの名刺と、渡英後のスケジュール予定、それに航空チケットが必要だな。」
レイ:「疑い深いのね。」
山方:「大人になったのさ。いろいろあったからな。」
レイ:「OK、それくらい手配できると言ったら?」
山方:「やる方向で考えてもいいぜ。」
レイ:「決まりね。」
レイ:ふと、和んだ視線になった後、店内をあらためて見渡す。「ここも、だいぶボロくなったね。」
山方:「元が元だしな。」
レイ:「それに、ネズミまでいる。」と、カウンターに視線を投げる。「録音機器をもったネズミが。」
山方:「(笑)ああ。おい、ネズミ!」
真美:「ちゅう☆」
山方:「ばれてるぞ。出て来い。」
GM:真美が決まり悪そうに現れると、レイは意表をつかれたというような顔をする。「山方の女というのは、絶対なさそうだし、一体このガキは何者だろう?」という視線を真美に向けている。
真美:「フリーライターの金子真美です。よろしく。」
レイ:「フリー? この子が?」
山方:「今はこの業界も人材不足らしい。高校生を使うんだ。」
真美:「私は、ハ、タ、チ、なの! 今年で21になるのよ!」
レイ:「(あきらかに呆れて)じゃ、タカアキ、続きは後でね。連絡先は、ここ。」と、メモを渡す。きびすを返して、出て行く。
山方:その前に呼び止めて、カセットテープを放り投げる。「生じゃなくて悪いが、これが最近の俺の音だ。後で生で聞かせてやるよ。」
レイ:「楽しみにしてる。」
山方:レイが去った後、真美から録音していたテープを奪う。「これは預かっておく。」
真美:「ちょっと、返してよ!」
山方:「お互いプロだろ。取材料を払ってもらおうか。」
真美:「くっ……出世払いってことで。」
山方:腹を抱えて大笑い。(笑)「出世するのかよ?」
真美:「無礼な!」
ノブオ:「ここ始まって以来の、ビッグ・ネーム登場か。表にカメラ持った連中が張ってるぜ。」と、補充のドリンク類や、請求書などを抱えて降りてくる。「レイは?」
山方:「帰った。会わなかったか。」
ノブオ:「ああ。」と、奥に入って、なにか帳簿をつけ始めている。
山方:冷蔵庫を開けて、適当に食事にする。
GM:すると、ノブオが「おい、居候のぶんにはかまわねえが、食った分は払えよ。」と、奥から声をかける。
山方:「出世払いだ。」
GM:向こうで大笑いしてますね。「わかった。月末までに出世しろよ。」(笑)
真美:「じゃあ、山方はマスコミにマークされているし、私がレイのことを調べてみるね。」
山方:「ああ。ところで、レイのことについて詳しい奴はいなかったか?」と、ノブオに聞いてみる。
ノブオ:「レイの大ファンがいたな。確か、アキラだったと思うが…。6月のライブのとき、ギター弾いてた高校生だが、覚えてるか?」
山方:「…ああ。連絡先わかるか?」
ノブオ:「そこの帳簿にあるぜ。」
GM:アキラが帰宅したのは、6時頃だね。電話を受けると、すぐに駆けつけてくれたよ。
アキラ:「山方さん、TV見ましたよ! すごいッスね! あのレイ・タチバナに指名されるなんて…」
山方:それをさえぎって「レイ・タチバナについて詳しいんだって?」
アキラ:「一応、切り抜き持ってきたけど…」と、抱えていたファイルを渡す。
山方:それを受け取って見る。
GM:札幌のインディーズのころから、英国での活動まで、インタビューやレポートなど細かく切り抜きがファイルされている。それを見ていくと、レイの言動に渡英後1年くらいから変化があることに気が付くね。
山方:どんな?
GM:うん、レイは英国でもしばらくは『わかる奴にわかればいい』という、我の強さというか、意地っ張りな姿勢があったけど、徐々に『多くの人に聞いて欲しい』という、メジャー志向の発言が聞かれるようになる。そのころから、レイは認められ始めているんだけどね。
山方:「アキラ、レイの最近のCDをもってるか?」
アキラ:「あ、今ダチに貸してるから、手元にはちょっと…」
山方:「そうか。」
アキラ:「じゃ、オレ練習があるから、これで…」と、一礼して帰りかけ「あ、今度サインくださいね!」と言い残してく。
山方:「……」あっけに取られてその後ろ姿を見送る。
GM:奥からノブオの笑い声が聞こえてくる。「出世したじゃないか。(笑)」
山方:「サインしてやるよ!」と、冷蔵庫やグラスにその辺のペンで書きなぐる。
ノブオ:「やめろ〜っ!」
山方:冷蔵庫にくっついてた、ホワイトボード用のペンだから拭けば消えるが。(笑)
山方:真美がまだ戻らない?待つ柄でもないし…。では、さっきのメモのところに電話を入れる。
GM:直通でレイの元につながるよ。コールが3回なって、「Hello,This is Rei Tachibana.」と、彼女の声が響く。
山方:「俺だ。」
レイ:「今、テープを聞いていたところよ。音響が最低ね。よく聞こえない。」
山方:「すぐに生で聞けるさ。」
レイ:「でも、相変わらずわがままな音ね。それに、バンド自体があなたの音楽と合ってない。あたしとなら、もっとあなたの魅力を引き出せるのに、残念ね。」
山方:「ついてきたい奴はついて来るさ。」
レイ:「タカアキ、それはアマチュアの意見よ。Rockは芸術じゃない。自分の持つソウルをオンガクにして伝えるけど、それをどう受け取るかは受け手に任される。あたしたちはただの素材よ。……ま、それはともかく、メンバーにタカアキを紹介するわ。今から出て来られる?」
山方:「場所は?」
レイ:「プリンスホテル。ロビーに迎えが出る。」
山方:無理やり表に出て、バイクでむかう。むかいながら、あいつはあんなに音楽を理論で語る奴だったかな、と思い返す。
GM:そうだね、どちらかというと直感的で、レイと音楽理論を語ったのは初めてじゃないかな。
山方:大人になったのかな? ちょっと物寂しい。
GM:ホテルにつくと、昨夜君にカードを渡した黒服の男がロビーで待っていた。無言でレイの部屋まで案内される。部屋ナンバーは913。(笑)
山方:縁起の良い部屋だ。
GM:部屋のドアを開けると、デッキから流れているらしいBGMが大きめの音量で聞こえてくる。どうやら、レイの音楽のようだね。
山方:部屋の入り口で、その曲が終わるまで黙って聞いている。
GM:レイはベッドに腰掛けて、君に視線を向けた後、再びデッキに集中している。
山方:どんな感じの音楽?
GM:札幌時代よりパンクの要素が消えて、正統派のスタイルになっている。曲は…そうだな、昔のロックのアレンジのアルバムということにしよう。『HIGHWAY STAR』とか、そういうの。レイのヴォーカルは、以前のつぶすような歌い方をやめて、ハスキーなんだけど伸びやかな歌い方をしている。
山方:ベースのラインを自分ならこうすると考えつつ最後まで聞く。
GM:曲が終わり、部屋に沈黙が流れる。
山方:「レイ、今さら俺に何の用だ?」
レイ:「わからない? ベースの音がおとなしすぎるのよ。あたしのヴォイスにはもっとアクが強い方がいい。あたしの歌い方まで、おとなしくなってしまう。」
山方:「俺とケンカしたいってことか?」
レイ:「そうね。(笑)ほかのメンバーには明日紹介する。」
山方:「明日?」
GM:レイは、紅い唇にほほ笑みを浮かべて、君の前に歩み寄ると、素早く首に腕を回してキスする。そして挑戦的に見上げて、
レイ:「今さら、スキャンダルがこわいって事もないでしょう?」と、ささやく。
山方:「…お前はこわいよ。」
(暗転)
GM:レイの身体を横たえた山方は、背後に視線を感じた。振り返ると、一瞬、光る巨大な猫科の猛獣の瞳と目が合ったが、それは瞬きのうちに幻のようにかき消えた。
レイ:「どうしたの、タカアキ?」
山方:「いや、何でもない。」
GM:翌日、君はバンドメンバーに紹介される。メンバーはレイ以外皆英語圏の人のようですが、山方くん英語の腕前は?
山方:スラングは少々、だけど、文法は弱いかな。
GM:メンバーが君を見る目は、興味と、嫉妬、あるいは侮蔑。レイが一人一人紹介していく。
山方:ふてぶてしく構えていよう。ところで、妖気の類いは?
GM:感じられない。レイからは少し反応があるけど。さて、紹介がすむと、それぞれチューニングを始める。
山方:レイの準備ができているなら、昨日聞いたレイの新曲のベースラインをおもむろに弾きだす。
GM:すぐに反応を示したのは、ドラムの黒人の男、それを追ってギター、サックスが入る。音量のバランスがおかしい。ベースが高めに設定されている。
山方:試されてるのか。
GM:そう。レイのヴォーカルはアルバムよりラフな、札幌時代に近いクセのある歌い方をしている。
山方:レイのアクセントに合わせてたたきつけるような、弾き方をする。張り合えそうなのはドラムかな?
GM:リズムセクション同士の激しい戦い。(笑)周りもつられてヒートアップする。その1曲が終わると、メンバーの中から君を侮る態度が消え、ライバルとして闘志を燃やされているという緊張感が感じられる。そして、それから3時間後には、『悔しいが認めざるを得ない』という事になったようだね。スタジオにはレイと君だけが残っている。
レイ:スポーツドリンクを渡す。「御感想は?」
山方:「ケンカするならドラムの奴だな。」
レイ:「後1週間で、まとまりそう?」
山方:「まとまる?(にやり)……どこまでのものを期待している?」
レイ:「あなたの持っているものすべて。このツアーは日本初上陸で注目度は高い。チケットの10倍の価値を魅せられなければOUTよ。」
山方:「俺にとっても正念場と言いたいのか?」
レイ:「もちろん。あなたも、マスコミにかつてない注目を浴びている。ここで見くびられたら、以前の状態にも戻れないでしょうね。」
GM:レイの部屋には微かに残り香のような妖気を感じる。
山方:オーディオでCDをぶっ通しで聴く。
GM:レイは今日は来客があるとかで、君は夕方までしか部屋にいられない。黒服の男が君を送り出す。
山方:「あんた、名前は?」
男:「私の名前など、知る必要のないことです。」
山方:ホテルを出たところでバイクのエンジンをふかし、妖気感知。
GM:レイと同じように微かに感じる。男は目を上げ、グラサンの向こうの視線とカチリと合う。そして、再び礼。
山方:軽くヘルに手をやって発進。
GM:『STUDIO・PAGE』に君が戻ると、カウンターに女が一人待っていた。5年前と変わらぬボブカットのシルエット、高杉の恋人『小林なおみ』だ。
山方:「……ノブオは?」
なおみ:「さっき買い出しに出て行った。……金子真美に連絡を受けて来たんだけど…。」
山方:「あいつはどうした?」
なおみ:「ここに来るように言ってたけど、来てないの?(眉根を寄せて)何かあったのかな?」
なおみ:「あなたに指令が来たんですってね。」
山方:「俺たち、にな。」
なおみ:「正直言って、こたえた。この件はどうしても私が受けたかった。」
山方:「以前から調べていたような口ぶりだな。」
なおみ:「そうよ。5年間、高杉が死んだときから…。知っているでしょう? 私は、そのためにこの道に入ったのよ。」
山方:ドアのカギをかけてから、妖気感知。
GM:なおみの胸元から強い反応がある。外には感じられない。
山方:対妖魔神具かな。カウンターに戻り、座ってからタバコの火を点けて吸う。煙をはいて「知っていることを全部話してもらおうか。」
なおみ:同じようにタバコに火を点け、煙をはく。「どこから話そうか?」
山方:「高杉は、女がタバコを吸うのを嫌っていたな。」
なおみ:微妙な視線でにらんでから、「5年前、高杉は危険な任務についていたの。」と語り始める。
なおみの話では、高杉はある妖魔教団の調査に潜入し、重要なものを盗み出した。だが、なおみにそれを預けた直後に、命を落としている。そして、その妖魔教団は英国に本拠地を構えているという。
なおみ:「なぜ、レイ・タチバナが5年前にあなたを置いて、予定より早く発ったと思う? ただの気まぐれ?」
山方:「あいつならやりかねない、と思っていたさ。」
なおみ:「高杉とレイの間には、何かの線がある。それが何かは推論になるから控えるけれど…。」
山方:「事実だけ言ってくれ。」
なおみ:「高杉が死に、レイが渡英した時期にあわせるように妖魔教団の影が引いた。そして、5年たち、レイが戻って来るこの時期に、再び連中の影が動き始めた。おそらく、狙いはこれでしょうね。」
GM:と、なおみは、銀のカギのペンダントを、胸元から引き出した。良く見かけるデザインだけど、さっきの反応の元はこれのようだね。
なおみ:「これそのものがそうなのか、それとも何かが封じられているのか、わからないけれど…。」
山方:「見せてくれるか。」手にとって見る。文字とかはない?
GM:ない。狸小路の路上でも売っていそうなもの。山方君は覚えているかな? 真美が同じようなものを着けていたことを。
山方:いつも着けてる? なら覚えてる。「連絡を受けたと言ったな。金子真美とは、どういう関係なんだ?」
なおみ:「知らないの? 彼女がMIAに入ったばかりのときは、わたしのセクションにいたの。」
山方:「(にやり)先輩が手をかけ過ぎて、ああなったのか。」
なおみ:「(むっとして)痛い目みて覚えるって訳にもいかないでしょう。覚えるより先に、高杉のようになることだって…」
山方:「いろいろ大変だな。」
なおみ:「いいわね、気楽そうで。」
山方:「……高杉のようにはなるなよ。」と、珍しく優しい声で言う。
なおみ:視線を落として、「あなたはどうしてMIAに入ったの?」
山方:「金、かな。」
なおみ:「…そう。……真美、遅いわね。心配だな、あの娘はむちゃをするから…。」
GM:そのころ、階段を下りる足音が聞こえたかと思うと、ノブオが帰って来た。
なおみ:「じゃ、私はそろそろ仕事に戻る。」
山方:「仕事、何してるんだ?」
なおみ:ちょっと笑って、名刺を渡す。「真美が戻ったら、ここに連絡ちょうだい。」
山方:「『ピエロの占星術師・神無朱璃』(笑)占い師か。」
なおみ:「10時以降は、マンションの方にかけて。」
山方:「わかった。」
なおみ:「じゃあ…」と、帰りかけて「高杉のようにならないでね。」とつぶやく。
次の日になっても、真美は戻らない。
山方は一応、なおみに連絡を入れておく。なおみはすぐに駆けつけた。
真美の行くところ、音楽関係、雑誌社、それに、MIAに連絡をとる。MIAのオペレーターは、真美からの連絡は一切無かったと答える。
真美が以前務めていた雑誌社は、先月退社し、その後は連絡は無いという。山方は、相手になおみの電話番号を教え、何かあった時の連絡先とした。
山方:ファクトリーホール、レイのホテル、とまわってみる。
GM:ファクトリーホールはファッションショーの準備中。レイのライブのポスターも見かける。
山方:では、ホテルに行く。屋上まで上がって、妖気感知。
GM:レイの部屋からは感じるが、他には無し。
山方:屋上から部屋までどれくらい?
GM:4階分。風も強めで、降りるのには不向き。
山方:だろうね。さて…、では『STUDIO・PAGE』に、戻ってみるか。
GM:ノブオは外出中らしく、ドアにはカギがかかっている。
山方:真美の自宅、は知らないか。なおみなら知っているかな。
GM:では、なおみから真美のマンションを聞き、琴似に向かうね。マンションはオートロック、インターホンは応答無し。
GM:管理人の話では、真美はおとついの夜以来帰っていないらしい。部屋には、雑誌のスクラップなどが散らばっている。留守録は一件、なおみからの確認のもののみ。
山方:それでは、何のヒントにもならないな。スクラップは?
GM:アキラに見せてもらったものと、ほぼ同じ。いや、ひとつだけ新聞のコピーがある。
山方:新聞?
GM:五年前、高杉の死んだ事件。
山方:…なおみから話を聞いていれば、そこに行き着くか。高杉の死んだ場所に行ってみるか。
GM:今はその跡にはファクトリーができている。
山方:ファクトリーか…。
GM:現在、時刻は6時。
山方:いったん帰るか。なおみの部屋に戻る。
GM:留守録にも伝言は無し。
山方:ベッドに横になって、電話を待つが、はっきり言って当てにしていない。
GM:では、君は眠りの世界に引き込まれる。
山方:熟睡している。
GM:突然、君は喉に強い圧迫感と、体に重圧を感じて目が覚める。闇の中に鳥のような緑の瞳が光り、君を見下ろしている。そのとがった爪もつ二本の腕が、君の首を締め付けている。
山方:妖気は?
GM:反応あり。下級妖魔の一種らしい。
山方:では、遠慮なく。手首をつかんでもぎ離す。胴体を下から足をそろえて蹴り上げる。
GM:案外、小型の影は吹っ飛ぶ。それを中央に計3体、ガーゴイルのようなシルエットが見てとれる。
山方:『闘気法』自分の左腕に、シールドを作る。
GM:右手の一体が、かん高い声を上げて飛びかかって来た。
山方:『気功法』右手に気をまとわせて、フック。
GM:ぼこぉっ! キッチンに激突して、華々しい音を立てる。あとの2頭はうろたえている。『ナンダコイツハ!』と妖魔語で、ささやきあっているらしい。
山方:部屋の隅に移動。3対1では分が悪い。
GM:用心深く、3体が君を囲む。アイ・コンタクトを交わして、(笑)1体が足元にスラディング。
山方:カウンターでヤクザキック。
GM:ひでえ。(笑)顔面つぶれた。2体が上から飛びかかる。
山方:その倒れた奴の背を踏み越える。
GM:『グギャッ!』1体戦闘不能。
山方:振り向きざまに、左手方向の奴を捕まえて、頭を押し下げ、膝蹴り。
GM:残った1体が君の右後方から、首筋を狙って鉤爪を一閃!
山方:この体勢ではかわせないな。相打ち覚悟で、『気功法』のかかっている右腕をふるい、裏拳を入れる。
GM:そいつは、裏拳を右顔面にまともに食らってふっとんだ。しかし、その鉤爪に君の首筋の肉も一緒にえぐられた。
山方:首筋に手を当てて『軟気法』、回復をはかる。
GM:幸い傷は動脈には達していなかったようだ。あてた手のひらからの流血がやや勢いをゆるめる。ドアの方で、カギを開ける音がする。その音をきっかけに、戦意を無くした妖魔たちが割れた窓から逃げようとする。
山方:逃げるに任せる。
GM:玄関からかけこんで来たなおみが、『風切り羽』を飛ばす。気絶した仲間を連れ去ろうとしていて奴の手に命中。あわてて逃げて行くね。気絶した1体を残して…。
なおみ:「大丈夫?」と、明かりをつける。
山方:「ああ。」と言いつつ、押さえた首から血がだらだら。『軟気法』で回復中。
なおみ:「あなた、『気功師』だったの。」
山方:うなずく。なおみは『風喚師』か。真美は『焔法師』だったな。
なおみ:「ここが襲われたことは無かったのに…。」と厳しい表情でつぶやく。
山方:「ここは、真美も知っているんだろう? 真美が奴らの手中にあると見るべきだろう。」
なおみ:「…そうね。」
山方:さて、妖気感知は継続中だよね?ここは任せて、バイクで反応の後を追う。
GM:2つの反応は南へ向かう。街の方だね。札幌駅付近で効果時間が切れ、反応を見失った。ここから、レイのホテルまで300m、ファクトリーまで500mくらいかな。
山方:……では、ファクトリーに向かう。
GM:10時近くのファクトリーはさすがに人影もまばら。アトリウムももう閉まる直前と言ったところだね。
山方:『妖気感知』をしなおす。
GM:ファクトリーからは感じないが、その向こう100mくらいのあたりから、1つの大きな反応がある。
山方:そちらに行ってみる。
GM:反応があったところは、近くの記念公園からだ。木のおとす濃い影のせいで、視覚には異常が認められない。ざわり、と生暖かな風に、木の葉や茂みが揺れている。反応まで約50m。
山方:バイクを降りて、警戒しながら近づく。20m位のところで、茂みに入って様子をうかがう。
GM:風が止む。妖気を感じたその茂みが、わずかに揺れている。だが、不意にその動きが止まり、金の瞳の獣の大きな影が飛び出し、君のほうへ向かって来た!
山方:『気功法』さっきと同じで、右拳にかけて構える。
GM:影は四つ足、体長2mはありそうな、妖獣だ。君の首筋に狙いをつけて跳躍する。
山方:顔面にフックを入れて、かわす。
GM:その打撃で首筋からは牙がそれたが、勢いで君の体はつき転がされる。
山方:「ちぃっ!」地面を転がって起き上がる。
GM:間一髪、転がった直後に、地面に妖獣の爪が突き立った。その合間に君は起き上がる。相手も体勢を立て直し睨み合う。
山方:逃げられるかな? きびすを返して、ダッシュ!
GM:追って来ます。妖獣の方が速い。アキレス腱を狙ってくるよ。
山方:茂みに飛び込んで、かわす。相手が顔を出して来たら、気をまとった拳をたたきつける。
GM:光る瞳の間にクリーンヒット! だが、あまり効いた様子がない。茂みを抜けて襲いかかって来た爪が、革ジャケットの堅い布地を裂く。
山方:バイクのところまで逃げる。勝てないな、これは。
GM:バイクに乗ろうとした時、妖獣が飛びかかり、バイクもろとも体当たりで君を押し倒した。破壊音の後、エンジン音が異常なものにかわる。
山方:体勢を低くして、身構える。
GM:と、通りのほうから人の声、酔っている若者達らしき声が聞こえてくる。その声に、一瞬、妖獣の気がそれた。体にためをつくり、声の方向に今にもかけださんとしている。
山方:やっかいだな。壊れかけたバイクごと、前に立ち塞がる。
GM:妖獣が、猫科の猛獣のようなその身体に殺気をみなぎらせる。だが、ふとその耳があさってのほうを向き、妖獣の目が何かを理解した色になるや、突然身をひるがえして、公園の方向にかけだした。
山方:妖気感知のレーダーの反応は?
GM:公園の奥で反転して下に降りて行き、君の立つ地点を通り過ぎてファクトリーのほうに向かい、そこで反応が消えた。
山方:公園の奥に行ってみる、もちろん警戒しながらね。
GM:妖獣が消えたあたりに、古い地下横断通路の入り口がある。地下に降りる階段には、チェーンが巻かれていて『危険、立ち入り禁止』のプレートが揺れている。
山方:一人で潜入するには危険すぎるな。なおみに電話をかけて協力を頼むか。
GM:まず、留守電の応答メッセージが出る。発信音。
山方:「俺だ。」
GM:すぐになおみ本人が受話器を取り上げた。
なおみ:「山方? 今、どこにいるの?」
山方:「ファクトリーの近くだ。」と、かくかくしかじか。「と、いうことで後方支援要員が要る。」
なおみ:「わかった、すぐに行く。ついさっき、真美から電話があったの。」
山方:「なに?」
なおみ:「ひどく焦っていた、自分の居場所も言えないくらい。『レイ・タチバナのライブを中止させて。』とあなたへの伝言を言って、すぐに切れた。」
山方:「…少なくとも、生きてはいるということか。」
なおみ:「生きてはいた、というべきかもしれない。私にかけてくるまでは、と。」
山方:「ああ見えてしぶといから大丈夫だろう。」
なおみ:「北側の3条通にいて。すぐ行く。」
GM:なおみが到着した時刻は、午後11時。アトリウムのライトも消えて、あたりは閑散としている。なおみは緋色のライダースーツに身を包み、バイクで駆けつけた。
山方:地下通路の入り口を示す。「ここだ。」
なおみ:「妖気を感じる?」
山方:「いや、この辺りにはないな。」チェーンをくぐり降りて行く。
GM:通路は地下2階くらいの深さをファクトリーの方へ続いている。通路は古く湿気がこもっている。途中、その真ん中ほどで突然、空気圧が変わったような感覚を感じた。
山方:なに?
GM:その感覚はすぐに消え、妖気感知のレーダーから、すぐ後ろのなおみのペンダントの反応が感じられなくなった。そのかわり、前方から、ちらほらと数個の反応が感じられる。
山方:立ち止まって、振り返る。
なおみ:足を止めた君に近づき首をかしげる。「いま、何か…?」すぐそばのなおみの気配を再び感じる。
山方:「何か、あるな。」なおみを少し下がらせる。
GM:3歩ほどで、彼女の反応が消える。なおみが来ると再び反応が感じられるようになった。
山方:結界、か。試しに自分も下がってみる。
GM:圧力の壁をくぐると、ファクトリー側の妖気が全て消える。
山方:了解。「結界があるようだな。」
なおみ:「そう。真美もここにいるのかしら。」
山方:「さあな。」警戒しつつ先に進む。
GM:通路の先はドアがあり行き止まりになっている。妖気反応は、前方50mに1つ、右前方と左前方200mに各1つずつ、左のもう少し離れた場所にも1つ感じる。いずれも動きはなし。
山方:ガーディアンか。ドアは押し戸? なら、ゆっくりと中を伺いながら開ける。
GM:通路が左側に続いている。目の前はコンクリートの壁、左は少し行くと右手にダンボール箱が積み上げられている。
山方:では、中に入り、先に進む。
GM:ダンボール箱の壁は1m程のすきまがある。その向こうは業者用の搬入口、駐車場のようなスペースがある。どうやら、ファクトリーの地下のようだね。来たほうから見て前方右にドア、右壁の奥に通路、左側奥に通路がある。
山方:人の気配は無し。右奥の通路に入ってみる。
GM:通路はすぐにT字路にあたる。前方は壁、左右に通路があるが、右手の突き当たりには警備室があり、こちらの通路をガラス窓の向こうから一目で見ることが出来る。
山方:頭を引っ込める。なおみはあの赤いライダースーツ?
GM:いや、それはバイクを停めたところに脱いでおいて来ている。今は黒いジップアップのカットソーと細身のパンツという格好。
山方:ならいい。引き返して右奥のドアを開ける。
GM:そこは薄暗く非常口の案内の明かりのみに照らされたロッカールームだ。右の壁にドアがあり、左は30m程奥までロッカーの列がが連なっている。
山方:そのドアを開ける。
GM:通路が前方と左手に伸びている。前方は15mくらいで右に折れている。警備室に通じる方向だね。その真ん中の左壁に事務所のドアがあり、人の気配もする。左側はすぐにまた左に折れているが、その角の天井から監視カメラ下がっている。
山方:カメラの向いている方向は?
GM:折れて行く先を見ている。
山方:そっと、その角までカメラの死角の場所まで動く。曲がっている通路の先は?
GM:少し行って行き止まり。君から見て右側の奥に大きな両開きの扉があって、カメラはそこを見張っている。
山方:ふむ。妖気反応は?
GM:その両開きの扉の向こう、それから事務所の方から感じる。一番近いのは事務所のものだ。
なおみ:「ひとつ聞くけど、あなたが戦った妖獣とは、二人なら渡り合える?」
山方:「……いや、無理だろうな。」ここは、引き上げよう。
GM:なおみのバイクに二人乗りして彼女のマンションに戻ったのが、夜半過ぎ。キッチンが先程の襲撃で破壊されたままになっている。
山方:俺のせいじゃねえ。と、思っている。
GM:なおみはテーブルの上にあった小さなカセットを手に取り、留守電にセットする。回り出したテープからは真美の切羽詰まった声が流れる。
真美:「あ、なおみさん! 真美です。」
なおみ:「真美! 今どこにいるの?」
真美:「や、山方に伝えてください! レイ・タチバナのライブを中止させろって!」
なおみ:「わかった。真美、今どこにいるの?」
真美:「いま……」
GM:そこで、不意に声が途切れ、衝撃音と真美の悲鳴が遠く聞こえる。なおみが真美の名を叫ぶが、荒々しく電話が切られ電子音が空しく響く。
山方:「……生きていりゃまた連絡があるさ。」
なおみ:「そうね。でも…」
山方:「あいつの他にも助っ人のアテはあるだろう。」と、MIAに電話をかける。
GM:オペレーターが答えるには、現在他の面から調査が行われており、山方サイドにまわす人員を増やすことは難しいということだった。
山方:今までに分かったことを報告しておく。他の奴がからんでくるかもしれない。
GM:直接のコンタクトは控えてほしいようだしね。君がMIAの人間だと悟られないようにしてほしい、と念を押される。
山方:「それはうまくやる。それよりファクトリーの警備状況をFAXで送ってくれ。」
GM:なおみの部屋にはないよ?
山方:じゃあ、真美のところに送ってもらう。
GM:真美のマンションはもう管理人も休んでいるとみえ、オートロックの玄関も開かない状態だよ。
山方:真美の部屋は2階? なら、1階の手摺りを利用してよじ登り、窓から侵入する。
GM:そういえば、山方って『ハードクライミング』の技能をもっていたっけ。(笑)OK、君は真美の部屋に侵入した。
山方:まず、なおみを玄関を開けて入れる。FAXは来ている?
GM:来ている。ファクトリーの従業員通路なども含めた完全見取り図、警備の状況のデータが記されている。
山方:自分たちのいたあたりの地図を見る。あのカメラの見張っていたあたりと妖気の場所を知りたい。
GM:まず、あのドアの向こうはファクトリーの目玉、屋内公園(アトリウム)だ。つまり、アトリウムから一番奥の従業員出入り口にいたわけ。妖気はアトリウムのあたり、天体工房と呼ばれるアミューズメント・スポットの地下、ブティック街の地下で何も通路がないはずのあたり、それから事務所、だ。
山方:ふむ。それだけ見たら今日は休むことにしよう。ベッドにもぐりこんでさっさと寝る。
GM:君は一直線に眠りに落ちる。隣になおみが横たわる気配も気が付かないほど…。
GM:翌日、君が目を覚ますと既になおみは起き出していて、FAXの資料とにらめっこしている。その手元には電話とメモがあり、そのメモには字がびっしりと書き込まれている。
なおみ:「起きた? テーブルにハムエッグとフレンチトーストあるから。」
山方:「ああ。」のそりと起き出す。「何かわかったのか?」
なおみ:「妖魔教団のことだけど…あなたが闘った妖獣は銀の狼ではなかった?」
山方:「いや、猫科の猛獣に似ていた。金の瞳をもつ2m程の獣だ。」
なおみ:「そう。英国に拠点をもつ妖魔教団に、銀の狼を聖獣としてあがめる『ARGENT FANG』というものがあるの。およそ300年の歴史を誇る妖獣崇拝教団の一派。」
山方:「その目的は?」
なおみ:「わからない。あまり知られていない教団なの。ただ、私はレイが関係する教団はここだと思っている。」
山方:なおみの説明を聞きながら、朝食を食べる。食べ終えると「じゃ、練習に行ってくる。」と出掛ける。
なおみ:「私はここにいる。自分の部屋はもう危険のようね。」
GM:スタジオにはレイのきつめのローズコロンの香りが充満している。メンバーは集合済みで各々楽器の調整をしている。
レイ:「遅かったじゃない。逃げたかと思ったわ。」
山方:そばを通ったときに「臭えぞ。」とつぶやく。さっさとアンプの側に座り、ベースのチューンを整える。
レイ:少し山方を睨んでから「フン」と肩をひるがえす。
GM:練習は遅くまで続いた。ライブで演奏する曲は15曲、その流れをすべてていねいにたどっていく。レイの歌い方の変化にバンド全体のアンサンブルがなじんだ頃に、ようやくその日の練習が終わった。練習が終わるとレイは君を夕食に誘うよ?
山方:タダなら断る理由はない。
GM:レストランで食事を取った後、プリンスホテルの最上階のバーに移動。カウンターで隣に座るレイのコロンの香りは酔いそうなほどの強さだが、肩を寄せた君の嗅覚には別の匂いが交ざっていることに気が付く。雨に濡れた猫の毛のような匂いが、ね。
レイ:「本番まで、あと四日ね。あしたは今日と同じ練習、そして明後日にクラブの会員のみ参加のレセプションがあるけど、そこで何曲か披露する予定。間に合う?」
山方:「大丈夫だ。」
レイ:「場所は当日と同じファクトリーホール。この日から本番まで、リハーサルをはさんで三日間押さえてある。」
GM:ここで、他にレイに聞いておきたいことや、話しておきたいこととかある?
山方:そうだな。ついでだから、レイの経歴みたいな昔話を聞いておくか。
GM:レイ・タチバナは日本人の外交官を父に、英国人の女性を母に、27年前に英国で生まれた。5、6歳頃に家族と日本に移り、札幌の町で育った。14歳でロックと出会いのめり込んで、少女時代はほとんど家に帰らないほどだったという。17歳の頃、父の仕事が再び英国勤務になり、両親は英国に移るが彼女は札幌に留まった。その後は君も知るところだね。
山方:なるほど…。あとは、レイの歌い方のスタイルが変わったことについて聞いてみるかな。「どういう心境の変化だ?」と。
レイ:「はっきり言えば、昔の歌い方では一部の人間には評価されたかもしれないけど、メジャーには通用しない。」
山方:「インディーズ向き、か。」
レイ:「あたしはどちらのスタイルでもできたからね、世界を相手にできるならそのほうを選んだ、ってこと。いじましいと思うかもしれないけどね、より多くの人間に聞いてほしかったの。」と少しほほ笑む。
山方:「たいした自信だな。」
レイ:「世界を相手にするならね、自信と才能は大きいほうがいい。」と、今度は自信も含んで挑戦的な笑みを浮かべる。「タカアキ、あんたはどうかしらね?」
GM:「練習に差し支えなければ」という条件付きで、君はレイの部屋に泊まることを許された。レイはさっさとシャワールームに入っている。
山方:レイの部屋に金色の獣の毛とかは落ちてる?
GM:調べれば見つかる。ネコの毛に似たふわふわした体毛がちらほら落ちている。
山方:そうか…。部屋の中に獣の匂いみたいなものは?
GM:注意すれば、わずかに感じるかな。そんなことをしていると、レイがバスルームから出てくる。ナイトブルーのバスローブに身を包み、長い金髪の水気をふきながら冷蔵庫からバドワイザーを取り出し開ける。
山方:シャワールームに入る。ここにはあの匂いや獣毛は無い?
GM:匂いはシャンプーなどの匂いでわからない。獣毛はあるとしても流されているだろうね。
山方:そうだな。じゃあ、シャワーを使う。
GM:君がシャワーから上がると、レイはソファに腰掛けたまま「飲む?」と冷えたバドワイザーを差し出す。
山方:「ああ。」受け取ってプルを開ける。
レイ:「あなた、最近どこに寝ているの? 連絡がつかないけど。」
山方:「ダチのところさ。マスコミがうるさくてな。」
レイ:「覚悟しなさい。向こうに行けば逃れられないことよ。」
山方:「英国のマスコミはもっと紳士的かと思っていたが?」
レイ:「甘いわね。王室のスキャンダルは日本にまで伝わっているじゃない。で、そのマスコミ嫌いのあんたが近づけていた、あの娘はどこの記者なの?」
山方:「フリーさ。言っただろう?」
レイ:「種類を聞いてるのよ。」
山方:「音楽だ。なぜ、こだわる?」
レイ:「別に。英国に行く前に別れを言っておく相手かと思ったのよ。」
山方:片頬を引きつらせている。(笑)「おい、レイ、何を考えている?」
レイ:「マスコミ嫌いのあんたが、彼女を側においている理由よ。」
山方:タバコに火を点けて、深く吸って、煙を大きく吐き出して、「くっ、くっ、くっ」と肩を震わし、しまいに大笑い。
レイ:カッとほおを赤くする。「わからないね、あんたは。『女』というふうにも見えないほどのガキだし…。」
山方:「あいつも上とケンカしてクビになって、今は野良犬みたいなものだからな。ま、いいおもちゃさ。」
レイ:「そう。どこで知り合ったの?」
山方:「レイ、らしくないな。こんな時に他の女の話をするような女だったか?」と、得意のにやり笑いをして彼女の金髪に指をからめる。
レイ:「妬いてる、なんて思い上がるんじゃないわよ。」
(暗転)
GM:あの晩と同じように君はまたも視線を感じる。
山方:窓のほうから?
GM:いや、暗闇のあちこちから。視線が闇に、闇が視線となり君とレイを凝視している。
山方:いいさ、見せつけてやる。
GM:昼近くになって君は目を覚ました。
山方:サイドテーブルからタバコを引き寄せ火を点ける。朝メシはタバコ。(笑)
GM:不健康だね。隣のレイが身じろぎして目を覚ます。同じくけだるげにタバコに火を点けながら時計を見る。練習まで1時間ほどあることを確認すると、起き出してシャワールームに入る。30分は出て来ないよ。
山方:次のタバコをくわえ、ベランダに出て金色の毛が落ちていないか調べる。
GM:ほこりにまみれたもの、抜け落ちたばかりのようなもの、そういった金の毛が散らばっている。それから、かき傷も見つかるね。
山方:……タバコに火を点ける。昨夜からあの獣の匂いは感じた?
GM:感じない。コロンの香りと女の匂い以外はね。
山方:じゃあ……
GM:突然、部屋で電話がなる。
山方:歩み寄って、受話器を取る。
GM:え、取るの?(笑)男の早口の英語が受話器から流れる。
山方:「……Please more slowly.」
GM:男は不意をつかれたように沈黙する。「Who are you?」
山方:「…One of her Lovers.」
GM:男は鼻で笑ったようだ。レイに電話があったことを伝えろとかさにかかった言い方をして、一方的に電話を切る。ちょうどその時、レイがバスルームから出てくる音がした。
山方:いれちがいにシャワールームに入りざま、「電話があったぜ。」
GM:レイは目を見開いて振り返る。「出たの?」
山方:「英語をしゃべる男からだ。伝えたぞ。」と、ドアを閉める。あの電話の声は、バンドメンバーじゃないよね? 最初の英語で聞き取れたことはある?
GM:『Tomorrow』、『Reception』、『Reserve』、はわかるね。バンドメンバーではない。
山方:熱めのシャワーを浴びる。
GM:君がシャワールームから出ると、レイの姿はなかった。時計は練習まで30分の時間があることを示している。
山方:ここから練習場所までどのくらい?
GM:歩いて5分。
山方:ファクトリーまでは15分か…。ギリギリだが、ファクトリーまで行く。
山方はファクトリー近辺を歩いてみたが、特に得るものはなかった。練習開始の時刻が迫り、スタジオにむかう。
GM:君より遅れて来たレイは悪びれた様子も無い。他のメンバーもいつものことだと思っている。練習はだいぶまとまりを見せている。明日の披露にはそこそこのものが期待できそうだ。レイがメンバーに明日のレセプションの集合時間と場所を伝え、練習を終わる。ドラムの男が出るときに君の肩をこづいて、「明日はびびるなよ。」と英語でからかう。
山方:にやりと笑って「当日、びびるのはお前だよ。」と日本語で返す。
GM:相手は日本語はわからないが、その君の態度に笑いを深くする。
GM:五日ぶりの君の部屋の周りは、相変わらず記者連中が張り込んでいる。留守録にも記者からのものがたくさん入っているね。
山方:聞き流しながらタバコを吸っている。
GM:途中、真美からのメッセージがある。
真美:「山方、いないの? 本当に、いないの?(舌打ち)」
GM:それから、最後のほうになおみからのメッセージ。
なおみ:「もしもし、いないのね? …もどったなら、連絡をちょうだい。」
GM:後は特に意味のあるものは無い。
山方:では、一眠りしてから『ピエロの占星術師』に電話をかける。
GM:喫茶店では、なおみがいらだった表情で君を迎える。さすがに40分も遅刻しては、ね。
なおみ:「遅かったじゃない。私、まだ仕事中なのよ。」と、きつい目でにらむ。
山方:「用件は何だ。」
なおみ:「時間が足りない。すぐに戻らなきゃ…。私の部屋に行っていてちょうだい。」と、キーを渡す。「10時に終わるから…」
GM:なおみの部屋は、麻薬取締官が調べた後のような状態になっている。ものは引っ張り出され、引っ繰り返され、ズタズタにされている。妖気の気配は残り香程度にしか感じない。
山方:しょうがないな。床のものをかき分けて、スペースをつくって、寝タバコしながらもう一眠りする。
GM:危ないなあ。少しして、ドアの開く音がしてなおみが入ってくる。頭上で水道を使う音がしたかと思うと、コップ一杯分の水が唐突に君の眠りを覚ます。
なおみ:「何してるの。」ときつい口調。
山方:「……」ゆっくり起き上がって、髪を払う。「で、何かわかったのか?」
なおみ:「あきれた。」
なおみの話を要約するとこういうことだ。
妖魔教団『ARGENT FANG』は、その長い歴史のなかで暗殺教団としての一面をもっていた。その殺人の手口には、決して人間の技に見えないという特徴がある。
10年前に札幌で初めてその犯行が行われ、MIAの調査が入った。被害者は珍しくも民間人で、妖魔との関わりもない企業人だった。調査の末MIAは犯行の手引きをした『A・F』の人間を捕まえた。
それが、レイの父の親戚筋に当たる人間だった。
山方:「父の? 日本人のか?」
なおみ:「ええ、奇妙にもその男も日本人だった。」
山方:「その男はどうした?」
なおみ:「MIAの管理する精神病院に入れられた。今は本当に病んでいるらしいわね。」
山方:「レイのことについて何か言っていたのか?」
なおみ:「いいえ、何も。ただ、その事件を調査していたパーティーからの情報だけど、レイがこちらに来てから、『A・F』の人間と見られる人物が続々と札幌に集まっているって。」
山方:「狙いは、それか。」と、胸元に下げられたペンダントを見る。
なおみ:「おそらくね。」と指先をペンダントにかける。
山方:「レイは暗殺の手引きをする人間かもしれないって事か。」
なおみ:「あるいは、手を下す本人かも知れない。10年前、そして5年前、殺人を犯したのは、レイ・タチバナというのが私の推論よ。」
山方:昨日からのことを、匂いの件なども含めて説明する。「変化の能力かと思ったが、その点ではシッポはつかめなかった。何か起こるとすれば、明日のレセプションからだろうな。」
なおみ:「そうね。」
(間)
なおみ:「……山方、あなた、レイを殺せる?」
山方:「…………」
なおみ:「私は、殺せる。」
山方:「勇ましいな。」
なおみ:「私が言いたいのは、もしあなたがレイを殺すことに迷って、足手まといになったりしたら、その時は容赦しない、ということよ。」
山方:「……意気込むのはいいが、死に急ぐなよ。」
(間)
なおみ:壊れた窓際に歩み寄る。緊張に張り詰めた声で「5年間、この時が来るのを待っていた。……でも、少し、……怖い。」と、最後は小さくつぶやく。
山方:「………」無言で歩み寄って、尻をポンとたたく。「お前一人の身は守ってやるさ。……高杉には借りもあるからな。」
なおみ:わずかに首を振る。「もしかしたら、高杉が望んでいたことと逆のことをしてしまうかもしれない。とんでもない間違いをしてしまうかもしれない。それが怖いの。」
山方:「高杉に言われたことだけ守ればいい。『これを預かってくれ』と言った、奴の言葉だけ守れ。その時が来るまで、預かっていればいいんだ。」
なおみ:「………」
山方:「二人で、高杉の最後の供養をしてやろう。」優しくなおみのほおをなでる。
なおみ:その手を半ばで押さえて、「らしくないわね、優しい言葉なんて。」と離す。少しほほ笑んで見せて、すっと部屋を出て行く。
GM:なおみは今夜も真美の部屋に泊まるけど、君はどうする?
山方:レイのホテルに行って、部屋をノックする。
GM:ドアチェーンの分だけドアが開き、不機嫌そうなレイが顔をのぞかせる。
山方:「俺の寝るスペースはあるか?」
GM:レイは「No.」と答えるなり、バタンとドアを閉めた。
山方:ちっ。獣の匂いは感じた?
GM:強く感じた。妖気?部屋の中から強い妖気を感じるよ。
山方:どうするかな。
GM:と考えていると、いつの間にか、背後にあの黒服サングラスの男が立っていて、「山方さん、どうなさいました?」と、口調だけはていねいに声をかける。190pはある立派な体格に、押し殺した威圧感があるけどね。
山方:「なに、泊まりを断られたところさ。今日のレイの相手は誰だい?」
男:「さあ、私には分かりませんね。地下鉄もない時間ですが、車を手配しましょうか?」
山方:「いや、いらねえよ。」と、エレベーターに乗る。
GM:男はエレベーターが閉まる瞬間に、「お気をつけて。」と低く礼をした。
山方:レイのホテルを張り込む。それから、なおみに電話をかけ、妖気を感じることを告げ、応援に来てもらおう。
GM:なおみは君の張り込み場所を聞き、すぐにバイクでこちらに駆けつけるよ。今夜も、熱帯夜になりそうだね。
GM:見覚えのある緋色のライダーがバイクを君の前につける。メットを取り髪を振り払ったなおみが、眉間にしわを寄せて首をかしげる。
なおみ:「何か変な妖気がある。」とつぶやく顔に血の気がない。
山方:「あのホテルだ。」と、レイの部屋の辺りを指し示す。なおみと交替してコンビニに入り、タバコと食料補給に行く。
GM:そういえば、昔のセッションで真美が君と張り込みをしていて、「肉まんとアンマンとどっちがいい?」と差し入れを差し出したことがあったねえ。山方は「ピザまん。」と答えて真美を激怒させたっけ。
山方:あったねえ。それをふと思い返して、ピザまんを二つ買って行く。
GM:路地に戻ると、なおみがビルの壁に背をもたせかけた格好でしゃがみこんでいた。
山方:「食うか?」と袋を差し出し、なおみの肩をたたく。
GM:肩に触れた部分から、血が逆流して吸い出されるような感覚を感じる。
山方:なおみの首の鎖を引き出して、カギを握る。
GM:その感覚が一層強くなる。軽い貧血のような違和感だ。君は貧血したこと無さそうだけど。カギは銀と紫の輝きを脈動するように放っている。
山方:手を離す。「高杉はやっかいなものを預けていったようだな。……そいつのことは任せる。」ホテルに入る妖気の感じられる人間を見張る。
GM:一時間に5人ほどそういった人間が出入りする。総じて身なりが良い30代〜40代、男性が多い。
山方:一番若くて、隙のありそうな奴をつけるつもり。
GM:ホテルから出てきて、タクシーを利用しようとしている男が一人いる。他の人はたいてい専用の車で来ていたけどね。35、6歳頃とおぼしき、よれた上着で小太りの体を包んでいるメガネをかけた男だ。キョロキョロと辺りを見回し、タクシーに乗り込む。
山方:なおみのバイクを借りて後を追う。
タクシーは深夜のビル街に入って行き、ある雑居ビルの前で止まる。
男がそそくさとそのビルに入って行く。二人は、男を追ってビルに入った。
男が入ったのは札幌のタウン紙の編集室。
山方は聞き耳を試みて、男がチーフと呼ばれていること、明日のレセプションを一人で担当することを知った。
GM:ホテルのほうへ戻る途中、後ろに乗っているなおみが君の腰に回した腕にきゅっと力を込める。腕から、力を吸い取られるような感覚がまた起こる。
山方:ちっ。ホテルを迂回して、創成川沿いの道を北上する。大きく回って桑園近くの俺の部屋まで行く。
GM:なおみはふらふらと従って、部屋に入るなり座り込む。元から色白の顔が真っ白になって、呼吸も速くなっている。
山方:座らせておいて、冷蔵庫を漁る。ひなびたニンジンとか、芽ばかりのタマネギとかを捨てると、何も食うものがない。「やれやれ。」
GM:そうしているうちに、なおみが呼吸を整え、「もう…大丈夫。」と顔を上げる。
山方:「大丈夫か。」
なおみ:「ええ、少し貧血を起こしただけ。」
山方:休むか。さっさとベッドに入って寝てしまう。ごろん。
GM:次の朝、と言っても11時頃に君は目を覚ました。レセプションの集合時間まであと2時間。なおみはベッドに頭をもたせかけて上着をはおって寝ている
山方:朝飯はタバコ。(笑)タウン誌をガサガサ見直して電話番号を探す。
GM:チーフは出ている最中らしい。名前は『田沼茂一』という。なおみが目を覚ます。「デンワ?」
山方:メモを渡す。なおみにMIAに連絡を取るのを任す。
GM:田沼は確かに組織の人間だということがわかる。もう一方のパーティーからの情報だ。ちなみに彼らもレセプションに張り込むらしい。
山方:OK.まだ少し余裕があるな。ペイジにTEL。
GM:ノブオが知っている田沼の情報はそれほどのものはない。独身で、5年前まではフリーライターだったとか、3、4年ほど前に今の仕事に就き、だいたいの構成を一手に引き受ける専制的な男らしいとか、それぐらい。
ノブオ:「アキラが最前列のチケットを手に入れたとかって、大喜びしてたぜ。」
山方:「お気楽なことだ。」
山方は田沼の部屋に窓を破って侵入した。散らかった蒸し暑い部屋を探ること30分、英語の資料が見つかる。
山方:戻って、なおみに「英語はできるか?」と問う。
なおみ:「一応は。」
山方:近くの喫茶店まで行こう。
なおみ:「これは…『ARGENT FANG』の規約ね。」
山方:「面白いな。」
なおみ:「それからこのメモ、ファクトリーの名が何度も出てくる。このころは、まだファクトリーの建設は企画の段階だけど。銀の聖獣ヴィシャスというのも出てる。あとは今すぐには読めない。」
山方:「時間だ。」と席を立つ。
なおみ:「私は…」
山方:「近くで張り込んでいろ。潜入は無しだ。また、昨夜のようになったら仇討ちどころじゃない。」
なおみ:「…わかった。」
GM:ファクトリーホールにはメンバーが全員そろっていて、レイがスタッフと打ち合わせをしている。
山方:チューニングをさっさと合わせる。4曲構成だろう? 3曲目あたりで何か仕掛けることにしよう。
GM:リハーサルが一通り終わって、メンバーと君たちは控室に待機を促される。メンバーの一人が、「レイのイベントには、おかしな客が来ることがある。下手にクチバシを入れない方が身のためだがな。」と、意味深なことを言ってる。英語で。
山方:とりあえず、『妖気感知』かけておく。
GM:六時頃レセプションが始まる。人間のもつ個体の妖気のほかに、大きく強い妖気をステージのあたりに感じる。それから、30分ほどで君たちの出番が来る。あの黒服の男が、ステージまで案内する。
山方:その強い妖気はどこから?
GM:ステージ中央の奥にある巨大なレリーフから。たてがみをもつ狼のような妖獣が浮き彫りになっている。高さ5m、幅は10mくらいか。右の牙の部分が、ピースの足りないパズルのように、ぽっかりと空いている。
山方:1曲目、2曲目は流して普通どおり弾く。
GM:観客は一切反応がなく沈黙している。500人以上はいるようだけど、拍手ひとつ起きない。
山方:3曲目、イントロに入ったら突然アレンジを変える。札幌時代にやってたときのアレンジでやりだす。
GM:メンバーは戸惑って君を見る。ドラムの彼はさっさとパターンをつかんで君に合わせる。レイは無視して歌い続けていたが、間奏のときに君の肩をつかんで光る目でにらむ。
山方:にやりと笑ってそのまま続ける。4曲目は普通に戻す。
GM:と、今度はドラムの彼がノッてしまって、アドリブを入れてたたき始める。レイはきつい表情で歌い続ける。
GM:演奏が終わると、メンバーは袖に引き上げる。山方がステージを降りると、控えていた黒服の男がレイに近づき何事か耳に入れている。レイはそれを聞くと、はっと顔色を変える。
山方:控室に…
GM:向かおうとすると、背後から「タカアキ!」とレイに呼びかけられる。
レイ:含みのある口調で「ショーを見ていかない?」
山方:「オンガクのわからない連中のショーに興味はないね。」と、そのまま引き上げようとする。
レイ:「見ないと後悔するよ。」
山方:不機嫌な顔をして振り返り、「見ないと後悔するショーってなんだよ?」
GM:レイの耳に再び黒服がなにか英語で話す。レイはあきらめたように肩を降ろし、「いいわ。あんたの好きになさい。」とステージに向かう。他のメンバーたちはここから引き上げていくけど……?
山方:黒服の男に「見ないと後悔するショーってどういう内容なんだ?」
黒服:「ご覧になればわかることです。」
GM:と、ステージの方から強い爆発的な妖気の反応が起こった。そして、衝撃音。
山方:ちっ。ステージに上がっていく扉を開く。
ステージには、異様な銀と紫の光りが脈動していた。
その中心には、先日の妖獣がレイのかたわらに控え、体勢を低くしている。
山方から3mくらいの所に、なおみが大きく肩で息をつきながら、膝をついてレイと対峙している。
その胸元のペンダントと壁のレリーフはシンクロしているように輝いていた。
なおみは気力を振り絞るようにして、『風切り羽』を2発投げ付ける。ひとつは妖獣がかばって受けて、一つはレイの手前で弾かれるように消えた。
もう何もできなくなったなおみの前にレイが歩を進めて、あざけるように見下ろす。
レイ:「たいした精神力だね。」と、なおみのあごをつかんで上向かせ、首のチェーンに手をかける。
山方:袖から出てレイに近づく。「これは何の茶番だ?」声が苦い。
レイ:「あんたこそ、いつまで茶番を続けるつもり。」感情を抑えた声で切り返す。
山方:「こんなことをするために帰ってきたのか?」目を背ける。
レイ:「あんたはどうなのよ?! こんな風に邪魔をするために、あたしの誘いにのったの?!」
山方:毅然とした口調で「見損なうな。」とレイの目を真っ直ぐに見る。
(間)
レイ:「まさかMIAの人間になるとは、思ってもみなかったわ。」と皮肉げな笑みを浮かべる。
山方:「ちょっとした副業さ。(にやり)」革手袋をはめる。山方流の戦闘準備。
GM:君とレイの間に、妖獣が割って入る。
レイ:「この子と闘ったのは、あんただったのね。」
山方:「こいつが、5年前に高杉を殺した奴か?」
レイ:「NO,この子の姉よ。あんたがタカスギくらいの力を持っているなら、相打ちくらいはできるかもね。」と、不敵な笑みを浮かべる。「シド、GO!」
山方:『気功波』! レイに。
GM:シドが頭でそれを受ける。体勢を立て直して、飛びかかって来ます。
山方:『気功法』右手を威力上げて、殴る。
GM:その手にタックル!君は勢いで転倒した。シドはすばやくのしかかる。
山方:ガンガン殴る。
GM:その攻撃を無視して、肩口に噛み付く。なおみが「山方!」と叫んでさやにしまったままのナイフを床に滑らせる。右手の位置に巧い具合に届いた。
山方:つかんでさやを払い、左目に突き立てる。
GM:ものすごい声を上げて、シドが飛びすさる。右目の色が殺気に狂おしく輝く。
山方:なおみの首に手を伸ばしているレイに、突然『気功波』!
GM:肩口にヒット。レイが向き直る。シドが一瞬動揺するね。
山方:シドとの間合いを詰めて、左目の死角から攻撃。
GM:ほおのあたりを切り裂かれて、シドはよろめく。
山方:肩に手を当て『軟気法』。なおみの方はどうなっている?
GM:君とシドの戦闘が始まったとき、なおみは、レイのスキをついてステージ袖に走っていた。その前に黒服の男が立ち『気功波』を当てる。崩おれたなおみの体を黒服が受け止め、運び出そうとしている。そして、君がなおみに気をとられていると、シドが全力でぶち当たって来る!
山方:身を沈めてかわし、ナイフで下から払う。
GM:君は肩口を裂かれるが身を沈める。払ったナイフの威力で、シドはレリーフに叩きつけられる。
山方:起き上がって…
GM:いや、様子がおかしい。シドの体をレリーフの光が包み、シドのエネルギーを吸い上げていく。絶叫が徐々にかすれ途絶えるころには、シドの体はミイラのような有り様になっていた。群衆が息を呑む気配がホール一杯に広がる。
山方:黒服のほうに走る。
GM:黒服は楽屋に通じる通路でガーゴイルになおみの体を渡す。そして、君に向き直る。その君の後ろにレイが回り込み『前門の黒服、後門のレイ』という状態になる。
レイ:「観念なさい。さいわい、長年捜し求めていたカギが手に入ったので、あたしは今機嫌がいいの。」
山方:「いいねえ。だが、無条件という訳にはいかないぜ。」
レイ:「命が助かるだけでもLuckyだと思いなさい。」
山方:高圧的な口調に反発して「レイ、俺の性格がまだわかっていないようだな。」と挑戦的に言い放つ。
GM:と、通路の奥のほうで衝撃音と騒ぎが起きる。黒服は少し迷った後に通路のほうに引っ込んだ。
山方:突然向き直って、レイの不意をついてタックル! 押し倒して馬乗りになる。
GM:信者たちが怒号を上げ、ステージに駆け寄る。
山方:レイの喉にナイフを突き付け、にらみ回す。
GM:信者たちの動きが止まる。
山方:レイを抱き起こして、ステージ奥の壁に背をつける。
GM:レイはふてぶてしいほど落ち着いている。
山方:「いやに落ち着いているな。」
レイ:「あたしがヒロインのように泣きわめくとでも思った?」と笑い飛ばす。
山方:「俺が、殺さないとでも思っているかと思ったよ。」と、低い声で返す。ナイフに少し力を込めて、首筋から血を流させる。
GM:信者たちが君を取り巻いたまま、じりじりと移動する。
山方:威しながら通路に入る。
GM:騒ぎは戦闘の騒ぎのようだ。4人の男たちと、黒服、ガーゴイルらが戦闘中だ。その後ろ、君との間に挟まれるようになおみを抱えたガーゴイルが立ち往生している。
山方:後ろから来る信者とガーゴイルを威す。レイのステージ衣装にナイフを入れ切り裂く。
GM:レイの肩から胸にかけて露になると、信者の群れから悲鳴が起こる。一人の狂信的な信者が、突然ナイフを抜いて突進して来た。
山方:レイを自分の背後に突き飛ばす。その上でかわせるかな?
GM:相手は素人だから楽勝。ナイフは壁に弾かれ、勢い余った男は壁に衝突して倒れる。
山方:レイを再び捕らえようとする。
GM:と、レイの肩口に紫のオーラが現れ、球状に膨張する。レイが右腕を一振りし、その玉を壁にぶつけると、壁にぽっかりと異次元の穴が空く向こうに歪んだ風景が見える。レイの合図に従い、なおみを抱えたガーゴイルがその穴に飛び込む。
山方:「ちいっ!」間髪入れず穴に飛び込む。
GM:飛び込んだ? 亜空間の中を、ガーゴイルが飛んでいく。様々な色の交ざったトンネルを追いかけていくと、出口のような穴にガーゴイルは飛び出していく。
山方:すぐに飛び出す。
GM:蛍光灯が照らす白い通路に、君は降り立った。ガーゴイルはドアの向こうに消えるところ。後を追っていくと、そこは薄暗い地明かりだけついた、ファクトリーのアトリウムだ!
山方:おや。
GM:ガーゴイルは従業員通路を駆けて、奥のドアを開けてなおみを中に放り入れて、君に向かって来る。
山方:カウンターでヤクザキック。倒れたら、げしげしとストンピング。
GM:ひっでえ。(笑)ガーゴイル昏倒。
山方:確認したら、中に入る。
GM:「なおみさん、なおみさん!」と体を揺すっている女の子の声がする。お久しぶりの真美ちゃんだね。
山方:「何でお前ここにいるんだ。」ジト目で問う。
真美:「捕まってたのよ。」
(間)
真美:「………ごめん。」
山方:「この借りも出世払いだな。(にやり)」
山方:なおみに『軟気法』をかけ、回復させる。
GM:なおみはうっすらと意識を取り戻す。
山方:「ここは、ファクトリーの地下だ。」
なおみ:「……真、美…?」
GM:3人がアトリウムに戻ると、突然すべてのライトが灯る。そして、そのライトに照らされて橋の上にレイと黒服が立っている。
山方:手を軽く広げて「な、勝負はまだわかんねえだろう?」
レイ:「そんな体で強がりは止しなさい。」
山方:「あのレリーフに鍵をはめるとどうなるんだ?」
レイ:「鍵は問題じゃない。」
山方:「何かがこめられているのか。」
レイ:「もう、あんたには関係なくなることだね。残念だけど。」
GM:黒服の男が『月の池』の橋に飛び降りて君と対峙する。『気功法』『闘気法』をお互いに身にまとい、向かい合うね。
黒服:フェイントのジャブで様子を見る。
山方:『闘気法』で受ける。つま先踏んで横殴りエルボー。
黒服:とっさにガード。空いてる足で、踏んできた足の膝裏にトゥーキック。
山方:バックステップしてかわして、回し蹴り。
GM:タイミングが合わずに空を切った。相手は何か格闘技の心得があるらしい。君はケンカ殺法かい?
山方:ススキノ仕込みで。実戦経験だけはあるぞ。
黒服:再びジャブ。
山方:それは無視して、間合いを詰めてチョーパン(ヘッドバッド)。
GM:その攻撃は意表をついたらしく、あごにヒット。ただし、君も相手が繰り出してしフックを後頭部に受ける。二人とも『軽傷』入った。
黒服:ハイキックを側頭部にねらう。
山方:ダッキングしてかわしたうえで、下半身にタックル。
GM:おっと、男は倒れる。
山方:アルティメット状態に馬乗りになって、パンチパンチ!
GM:グラサンがふっとび、男の赤い瞳が露になる。それを見た君は突然脱力感に襲われる。黒服はものすごい腕力で君をもぎ離し、壁に放り投げる。
山方:「ぐはっ!」口の端から血を流し「バカ力め…。」よろめいて、相手の行動を誘い、突然スクラップバスター!
黒服の右ストレートが山方を襲う。かろうじて踏みとどまった山方の両腕が相手の身体にまわる。相手は投げに抵抗して、つかみ返し、二人とも「月の池」に転落。派手に水しぶきが上がる。
山方:相手が起き上がるのに合わせて、頭を急に起こし、頭突きをアゴに食らわす。
黒服:「がっ!」
山方:倒れたら、後頭部にがしがし肘を落として、首を水に押し付ける。
GM:男はじたばたともがくが、一分ほどで静かになる。
山方:「レイ!」と叫んで振り返る。
GM:滝上のなおみとレイが揉み合っている。レイがなおみを手すりに押し付けて、カギを奪おうとしている。真美は助けに入るが、吹っ飛ばされた。なおみは、君の様子に気づくと首のカギをはずして、放る。放物線を描いたカギは君の手に収まる。すると、レイはなおみを柵から突き落とす。なおみは3mほど落下してバウンドし滝の中に落ちる。
山方:駆け寄って治そうと、思うんだけど…
GM:その君の足首をつかんで、男が立ち上がる。倒れた君を今度は黒服が水に沈める。
山方:嫌な予感はしてたんだ。振りほどく。
GM:ほどけない。凄い力だ。
山方:急所をねらって掴む。ひるんだ所で両足を掴んで引っ繰り返す。池の縁に頭を2、3発叩きつけて、カギを握った手でしたたか殴る。
GM:10発も殴れば、さすがに相手も戦闘不能になる。今度は本気で白目むいている。
山方:なおみのそばによって、『軟気法』。「休んでろ。」と言い残し、階段を上る。
GM:レイは右手にナイフ型のオーラを出現させている。先程の君と同じように真美を抱えて人質に取っている。
レイ:「人質としては少々説得力に欠けるわね。」
山方:「それでも、一応相棒だからな。」
レイ:「なら、カギを渡しなさい。あなたが持っていてもしょうがないでしょう。」
山方:「あの、くだらない儀式をやめるんならな。」
レイ:「これは、昨日今日から始めたことじゃない。残念ね。あなたのベースの腕は買っていたのに。」
山方:「もし、これが目的じゃなくて、ただのアーティストとして俺に会いに来たなら…任務は放ってもよかったんだけどな。」
レイ:「あら、任務のために命をかけるほど義に厚い人間だったの?」
山方:「猫なで声はよせ。」怒りを抑えきれない口調で言う。
山方:一歩踏み出す。
GM:レイは手のエナジーナイフを真美の右胸に半分ほど埋める。真美のからだがびくんと、大きくけいれんする。
山方:「真……!」
山方:大きくため息をつき、なおみにカギを放る。「レイ、ケリをつけよう。お前があのカギを手に入れて何をするかはどうでもいい。ただ、俺になめたまねをしやがった奴はぶちのめす。」
GM:レイは真美をかたわらに投げ捨てて、向かい合う。
レイ:「言い残すことは?」
山方:「……ライブはやりたかったな。」
GM:一瞬、レイはせつなげな生の表情を見せる。だが、それは次の瞬間に消え、対決の姿勢となる。
山方:英国式にのっとって、左手袋を投げ付ける。そして階段を駆け上がり、胴を狙ってタックル。
GM:寸前でバリアのようなものに弾かれる。レイのエナジーナイフが君の左肩をかすめる。とたんに強い電流が体内を走ったようなショックを受ける。
山方:後ずさりして間合いを取る。
GM:レイは息をつかせず詰め寄って、首筋を狙ってサイドスイングする。
山方:身を沈めて擦り蹴り! 相手の膝の皿を正面から蹴る。
GM:レイはかわしきれない。足をすくわれて転倒する。
山方:すぐさま組み敷こうとする。
GM:身体をひねって、レイが君の背後をとる。次の瞬間、背から腹に熱い傷みが弾ける。
山方:転がって逃れる。勝てないかなこれは。
GM:レイは余裕の表情でエナジーナイフの長さをソ−ドくらいに伸ばす。
山方:息を整えて構え直す。左手を胸にあてて『軟気法』で回復をはかる。
GM:それを許すほど甘くないよ。レイがエナジーソードで突きかかってくる。
山方:間一髪でかわして、その手を左手で捕らえる。で、手首を捻りあげる。
GM:君が捕らえたレイの右手から、すうっとソードが消えたかと思うと左手に現れる。
山方:へ?!
GM:左手のエナジーソードが、君の右肩から胸にかけて斬りおろされる!『重傷』入ったと思いねえ。
山方:たまらず吹っ飛ぶ。身体はボロボロだ。
レイ:「『闇の娘』みずから葬ってあげる。感謝しなさい。」
山方:「てめえ、何様のつもりだ。」と立ち上がりかけて、がくりと膝をつく。
レイ:ゆっくり歩み寄る。「おとなしくしていれば、痛い目見ずに逝けるわよ。」と、勝ち誇ってソードを振りかぶる。
山方:振りかぶった? ダッシュしてネックブリーカードロップ!
GM:不意打ちになるね、それは。レイは後頭部をしたたか打ち、転がって逃れようとする。
山方:うつ伏せのときに背後からのしかかって、首を絞める。
GM:レイは首を激しく振って、振りほどく。
山方:あごが上がるね? 右腕をまわし入れてチョークスリーパーに移行する。
GM:もがくレイ、抵抗する力が徐々に弱まっていく。
山方:昨日まで抱き合っていたのに、何でこうなっちまうんだろうなあ。スリーパーを解いて立ち上がる。
GM:天を仰ぐ君の足元で、レイが喉を押さえ咳き込んでいる。
山方:背後になおみの視線を感じつつ、『殺せるか?』と自分に問う。
GM:レイが再び右手にエネルギーを集めだす。
山方:う〜ん、山方もプロだから、それは反射的に撃っちゃうよ。『気功波』を、レイの身体に撃ち込む。
GM:衝撃にレイは転がり、仰向けになる。立ち上がる力はもうない。
山方:たぶん、それを言うことは彼女のプライドを傷つけることになるだろうと思いつつ、「レイ、降伏しろ。」と勧告する。
レイ:「降伏?」精一杯の気力で笑い飛ばす。「……あんたに情けをかけられるほど落ちぶれちゃいないよ。」と目を閉じる。
(間)
山方:「楽にしてな。」胸の上に手をかざす。
GM:レイは、安らいだ微笑みを浮かべる。それは夜闇の中、君の腕の中で果てたときの表情によく似ていた。
山方:心臓に二発、『気功波』を撃つ。
GM:その瞬間、すべてのライトが一瞬にして消えた。
(暗転)
GM:君たちが外に出ると、MIAの上司と何名かが待機していて、なおみと真美を専用の救急車に乗せる。
上司:「ご苦労だった。後の処理は任せたまえ。」
山方:レイの遺体を抱えていく。
GM:MIAの人間がそれを受け取りに来る。
山方:渡さない。「報酬はもらいますよ。でも、このことは…仕事だけの問題じゃないんです。」前に一緒に組んだ奴をその中に見つけて、レイを荼毘に付すことの協力を頼む。
GM:彼はうなずいて手配してくれる。
GM:MIAの私有地、人目につかない山の中、君の仲間のおかげで、明け方にはレイの葬儀は行われた。白い煙が朝もやに昇っていく。
山方:その煙を見ながら、かつてレイのために作った歌を口ずさむ。
GM:隣の仲間が「おい、山方?」と心配そうにのぞき込む。
山方:半ば意識を失いながら歌い続ける。
そして、後日レイ・タチバナが札幌ライブの前に、突然熱狂的なファンに殺害されるという事件が、新聞の紙面にのった。
('94年10月某日)
GM:うらべっち
山方:ya!
このリプレイは、GMのうらべっちが上京する直前に、書き上げたものです。まさに、飛行機に乗る日の朝方に、プレイヤーのya!氏と電話で確認をしながらワープロのキイを打ちました。
セッションもシステムレスで「言った者勝ち」でしたが、リプレイもGMの記憶を頼りにおこしたので、相当にアフレコが入っています。そのため、3年たった今見直してみると気障なことこの上なく、赤面してしまいます。ちょっと、今はこういうセッションはできないなあ、と。
二人ともプロレスファンなので、戦闘の攻防では、マニアックな技の名前が頻発します。わかりにくかったらごめんなさい。
相手の行動を受ける、呑みにかかる、受けきってから反撃する、間を意識する、引き出しは多い方がよい等々、……即興劇のようなセッションを1対1でプレイすると、プロレスによく似ている気がします。
もっと基礎を積んで、受け身も上達して、一発逆転の大技を磨いて、観客をノセられるように、「もっと、上手くなりたい!」と思うのは、今も変わりません。タッグ・パートナーであり、ライバルのya!氏と切磋琢磨しながら、「まだ見ぬ強豪」とあたる日を待っています。
さて、次はどこで戦おうかな……。
ご感想をお待ちしております。アンケートフォーマット
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