8/23


午前7時起床。
普段は8時30分まで寝ているのに、やはりこういう日の目覚めはいい。外は快晴。
昨日の内に準備して置いた荷物をまとめ、単車にくくりつける。荷物といっても必要最低限のモノしか持たないことにしたので、長旅の割にはとても少ない。大体キャンプとかそういうのに興味はないので、着替えとデジカメとMDさえあれば、気楽なひとり旅なのだ。
単車は先週末洗車して置いたので、綺麗な顔をしてオレを待っている。タンクバッグとサイドバッグをくくりつけて、家のすぐ近くの駐車場まで押してゆく。
始動。
暖気。煙草を一本喫って、いざ、出発。
家のすぐ近くのGSでいつもどおりにハイオク満タンに給油し、ついでにタイアの空気圧もチェック。実はリアタイアが結構摩耗していて(たった一月しか走ってないのに…)、ちょっと心配ではあるが、今回はジェントルな大人の走りを目指しているので、まぁ大丈夫でしょう。


とりあえずは静岡県清水市の実家に向かい、昼御飯を食べることとする。
走りながら、今日のルートを組み立てる。
清水までは東名で一気に行ってしまおう。そしてそこで昼食を食べ、一般道で愛知県一宮市のハンドルネーム・ペロさん宅まで走ることにする。
平日水曜の東名はガラガラで、快調に走る。東京から東名に乗ったときは必ず御殿場手前の鮎沢SAで休憩することにしているので、まるで儀式のように立ち寄る。
オートバイ専用の駐車スペースに車体を傾げると、オレのすぐ後にでかいハーレーに乗ったおっさんが入ってきた。目尻の深い皺と、ごま塩の坊主頭。ちょっとした個性派俳優のようなハンサムな男だ。互いに会釈を交わし、来し方と行き先を訪ね会う。
しばらく彼と談笑をし、そしてオレは再び単車にまたがる。


清水までもアッという間に着いてしまう。やはり高速道路というのは偉大だ。ハードなワインディグを好む人は、この単調な道を嫌うことが多いけど、長距離を走るツアラーとしては信号がないこの道はこの上もなく快適だ。
実家で夕べの残り物の飯をもらい、一度給油。明日宿泊する予定の京都のTaaさんのところに宅急便で荷物を送り、再び旅を続ける。

走り慣れた清水の道。
駿河湾を横目で見ながら、国道150号を西進する。駿河湾は綺麗なブルーグリーンで輝いて、穏やかな様相。オートバイで様々な海を見に走ってきたけど、やはり自分のホームウグラウンドはここなのだ、という思いがする。
静岡市内に入り、安倍川をまたいで、R1に入る。二年ほど前に静岡の牧ノ原の方からR1沿いに実家に帰った記憶から、何カ所かのバイパスを通れば苦もなく静岡を抜けていけることを知っていたので、『浜松』という道路標識に向けて走ってゆく。

途中、山の中のバイパスで、工事のため車線規制が行われており、対面通行の道路が片方ふさがっていた。小さな街を見下ろす山の中で10分近く、自分の車線が走れるようになるまで待つ。周りはうるさいほどの蝉の声。抜けるような空。肌を焦がし、刺すような日射し。しかし、東京にいるときのように息苦しくないのは何故だろう?
係の人が白旗を振り、オレと単車は風を求めて走り出す。今春に新調したヘルメットは通風機構が優れているので、スピードに乗れば気持ちよく風が流れる。薄ら寒いトンネルをくぐり抜け、穏やかな牧ノ原の丘陵を走ってゆく。

道路標識が浜松になり、道が混み始める。一度遠州灘沿いに走ってみたかったので、『豊橋・名古屋』の標識を頼りに、浜名湖南端の浜名バイパスを走る。背の低い松の防風林に阻まれて眺望は効かないが、風ははっきりと潮の香りを含んでいる。アクセルを開けて、長い上り坂を上がってゆく。視界の左端で防風林が徐々に途切れ始め、その向こうにエメラルドの遠州灘が見え始める。
東京湾、相模湾、駿河湾と、どれも半島に囲まれた内海であるため、ここのように外洋と直結していない。だからパノラマの風景の左右端は必ず半島が見えているものだが、ここでは行けども行けども白い砂浜とエメラルドの海が続いているだけ。本当に綺麗だ。
浜名バイパスは、浜名湖の河口を高架で越えるためその標高をどんどん上げてゆき、世界は一面の海になってゆく。思わず路肩に単車を停め、夢中でシャッターを切った。

夢のような遠州灘を離れ、道は内陸へと進んでゆく。妙に臭い。牛馬の糞の匂いがあたりに立ちこめている。きっとたい肥として使っているのだろう。オートバイで旅をしていると、こういった匂いと温度、光と気象に非常に敏感になる。
蒲郡、岡崎、豊田を抜けて行く道は徐々に混雑の度合いを増してくる。町中を走るのは疲れる。間断なく続くすり抜けと排気ガスに頭がくらくらしてくる。
ずっとR1で走っているからその内東名の標識が出るだろうと思いつつ走るも、一向にその気配はない。灼熱の太陽に身体を灼かれ、もうダメだ休もうと思った矢先にあの懐かしいグリーンの高速道路標識が見えた。豊橋市内の中心の交差点でやっとR1と別れると思ったその信号待ちで、隣に並んだのは昔懐かしい路面電車。思わずタンクバッグからカメラを取り出し、一枚スナップした。


R1を右折し、東名に向かって北上し始めたとき、HONDA Sという古い名車とすれ違う。Sのレストアを続けている京都のTaaさんのことを思い出す。彼とはまだ2回しか会ったことがないけど、もう何年来の友人のように親しく付き合わせてもらっている、Web上の友人だ。


豊橋市内を標識に従って何度か曲がってゆくが、行けども行けども東名が見えてこない。いい加減身体がネを上げ始め、目に付いた田舎のコンビニで休むことにする。PBのジュースを買って、お金を払うのだけど、頭がボケボケで、150円の商品に一生懸命50円玉2枚(!)で買い取ろうとしていた。お店の人も当惑していた。危険な兆候。自分の過ち気づいたとき、思わず笑ってしまったが、店員はよりコンワクを深めただけだった(笑)。すいません、疲れてたんだオレ。

やっとの思いで東名に入ると、一宮のシャワーとビールを目指して一気に西進。と、ガスが心もとないことに気づいて、上郷のSAに入る。単車用のパーキングに車体を停め、煙草を喫っていると、KAWASAKI BALIUS 250cc・大阪ナンバーの女の子が入ってきた。ロングツールらしく、全身をくまなく服で覆い、スモーク入りのシールドをつけている。かたやオレは、タンクトップにジーンズ、一応ブーツ。でも休憩する度にシールドは水洗いしているから、きれいきれい。
彼女としばらく話をして、再び車上の人になる。出発前に立ち寄ったガソリンスタンドの女の子から、気温が41度(!!!)もあることを聞き、倒れそうになる。41度ってなんだ? そりゃコンビニで100円で150円のジュース買おうとするわけだよ、オレのせいじゃねえ。

いつものように名古屋までの東名は大渋滞。西日をモロに受け、視界もあまり良くない。しかしシャワー&ビールの思い裁ち切りがたく、凄いスピードですり抜けてゆく。上郷〜一宮間は50kmぐらいあったと思うのだけど、30分かからずに到達。
一宮のインターを降りて、これ又Web上の友人のペロさんのところに向かう。


彼はオレと同い年ぐらいの気楽な独身生活者で、とある売れないミュージシャンのサイトで知り合いになった。Macと車と音楽の話でいつも盛り上がっている気の置けない友達(でもよく考えてみれば会うのは2回目)。
軽く迷子になりながら何とかペロ宅に到着。とりあえずシャワー。ふぅ。気持ちよすぎ…。そして、お洗濯をさせてもらう。何しろ最低限の荷物しか持ってないものだから、いま洗っとかないと明日着るものがないのだ。
それから同じミュージシャンのサイトで知り合った、マイキー&めぐめぐ夫婦と一緒に食事ということになっていたので、ペロの車に乗って出掛けることになった。ペロは自宅前の駐車場にジムニーとレガシーを停めていて、手前にあったジムニーで出掛けようとしたのだが、「ここはやはりでっかいし金もかかっているレガシーじゃなきゃヤだ」と駄々をこね、ワガママを聞き入れてもらう。半ズボンやサンダルまで借りて、洗濯の脱水もやってもらい、そのうえ寝床も供給してもらっているのにも関わらず、お土産無しのこの無法ぶりに、笑って許してくれる彼の度量に感謝感激アメアラレ。大丈夫。その内例のソフト送るから。

しばらく走って、街道沿いの大型複合店舗の敷地に入る。郊外の食料衣料カー用品に書籍CDレストランなどがひとまとめに集まった、日本の片田舎でよく見かける風景だ。
そのなかのオートバックスの店長さんが我が友、マイキーの世を忍ぶ借りの姿。丁度閉店間際に店の前に車を付けると、店長さん自らがシャッターを閉めている場面に出くわした。
店の前でいきなりハンドルネームを呼ばれて驚く彼に構わず、「初めまして」と挨拶し(そう、彼にはこの日が初対面なのだ)、握手を交わす。
妻のめぐも3人の子ども達を連れて、車でその辺にいるはずだ、との話を聞き、先に会食先のレストランに行ってるねーと手を振って、いったん彼と別れる。
だだっ広い駐車場をペロと歩いていくと、めざとく彼がめぐの車を見つけた。「きゃー」とか「わー」とか言いながら、車に近づいていき、初めましてのご挨拶。息子のともひろは小学校一年生。「おす」と言って片手をあげたら、「おす」と返事を戻してくれた元気な少年。娘のみくには幼稚園児だが、ママに似て、とてもかわいいお転婆娘。そして生後4ヶ月のハンドルネーム「ぴの」こと、あきや。
ママにも初めてなのに全然初めましての感じがしない、とても3人の子持ちとは思えない可愛らしい笑顔で迎えてもらった。
お店に入ってもママは赤ちゃんの世話が大変そうだったので、ともひろとみくにといろいろお話をする。ともひろはパパがこないので少し淋しそう。おまえんちのパパはな、仕事がマジで忙しいんであんまりお家にいられないけどな、パパがそうやって頑張って働いてくれているから、今日もお外でご飯が食べられるんだぜ。許してやれよな。
娘のみくには可愛い盛り。ソフトドリンクバーに連れていくと、コーラをねだる。オレが子どもの頃はコーラなんて炭酸のキツいものは飲めなかったけどなぁ。腰高の子供用椅子に座って、両手でコーラのグラスを持ち、一心にストローを吸うみくには本当に可愛らしかった。普段子どもとの接触がない生活を送っているから、基本的に子どもは苦手だと思いこんでいたけど、こうして手の届くところで一緒に過ごしてみると、子どものかわいらしさは他の何ものにも勝ることに気づかされる。オレも年喰ったなーと、内心思っていた。


パパのマイキーが遅れて登場して、麦のジュースで乾杯!
でも運転手のペロは一滴も飲まなかった。素晴らしい。拍手だ。オレも、ありとあらゆる交通法規を破って単車に乗っているけど、飲酒運転だけは絶対にしないようにしてる。ペロ、ごめんね。
マイキーとめぐの夫婦には、オレたち独身組はフーフ生活のリソーとゲンジツについてのキビシーレクチャーを受ける。しかしその内容は、爆笑に次ぐ爆笑。いや本人的には大まじめなんだろうけど、聞いているほうとしては笑っちゃうのね。てゆうか、笑うしかないのかも。いやあのその…。
瞬く間に時間が過ぎて、ともひろはパパの膝でオネムの状態。お開きになって、オレはみくにを抱き上げて、車まで連れていった。子どもの頬のやわらかさ、みずみずしさは、ホントに気持ちいいよね。いやー、色んな女の子と遊んでいるオレだけど、みくにの魅力にメロメロかも(笑)。

別れがたい思いを抱きながらも、最後にみんなで写真を撮って、手を振って別れた。ペロとの帰りの車中は、なんかほの淋しい思いがした。ペロ宅について、もう一本だけビールをゴチになり、布団に入る。アッという間に意識は無くなり、泥のように眠った。






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