プチ研究2
明治村・12号機関車
愛知県犬山市の「明治村」で毎日元気に走り回る蒸気機関車が2台ある。
下の写真はそのうちの1台、12号機関車だ。

三等客車3両を引いて走る陸蒸気 (2003.8.11 明治村)
この機関車、ポンポンと前に突き出たふたつの緩衝器が、まるで「機関車トーマス」みたいで、
可愛らしく親しみ深いが、決して遊園地向けの模造品ではない。
動態保存としては、まことに由緒正しき日本最古の蒸気機関車なのだ。
明治初期、文明開化真っ只中の頃、日本鉄道の黎明期にデビューした陸蒸気(おかじょうき)そのものだ。

「どっこいしょ」と人力転車台で反転 (2003.8.11 明治村)
日本における鉄道の幕開けは、明治5(1872)年9月12日(新暦の10月14日)。
(仮営業開始は、4ヶ月前の5月7日)
この12号機関車は、その鉄道開業から遅れること2年、
明治7(1874)年に英吉利(イギリス)、シャープ・スチュワート社により製造され、
増備車両として輸入された2台のうちの1台。
紛れもなく、鉄道開業まもない「横濱-新橋」間の運行に配備された蒸気機関車なのだ。

オリジナルエンブレム(博物館明治村所蔵)
(2004.2.21 中部産業遺産研究会シンポジウムにて)
イギリス製といえばまさに「機関車トーマス」の故郷だ!
・・・・ ◆ ・・・・
ところで、この機関車の「12」とはデビュー当時の番号ではない。
後年(明治44年)、尾西鉄道(現名古屋鉄道尾西線)に移籍されてから付けられた番号だ。
製造番号2421のこの機体は、横浜-新橋間に配備されたデビュー当時は「23」が附番されていた。
◆デビュー当時の23号機関車
下の写真は鉄道開業から5年ほど経った明治10年(1877)頃、新橋駅構内の転車台と扇形機関車庫。
この写真では車庫内の機関車の機体番号を読み取るのは困難だが、
中央の、車庫から一歩前へ出て気炎!を吐いている機関車は煙突に「23」と記されている。(拡大)
蒸気ドーム、シリンダ、屋根、窓の形状などはすべて160型(後期)の特徴だ!

新橋駅構内の転車台と機関車庫(明治10年ごろ)
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上の写真の左端の機関車は煙室ドア正面に「9」が見える。
これは恐らく後の190型機関車だろう。(拡大)
その隣の機関車は前面の煙室ドアが開いているようだが、
形から見て、ボイラー改造前の1号機関車(後の150型)に違いないと思う。
機関室正面の窓は、オリジナルの丸形から四角形に改造されているが、
細身のボイラーはオリジナルのままのようだ。(拡大)
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下の写真は、上の写真から2,3年後だが、上と同じ機関車庫前・転車台上の23号機関車。
この機関車に群がっている人たちは、日本の鉄道最初の日本人機関士たちだ。
鉄道開業のころ、実は機関車も"機関士も"英国からの輸入品だった。

明治12,3年ごろの新橋駅構内。 右後ろに機関車庫が、左奧には駅舎とホームが見える
日本人機関士たち皆それぞれ堂々と誇らしげな樣子が伝わってくる。
機関車までがなんとなく大きく感じられるのが不思議だ。
ところで上の写真は、
煙突(先細)や屋根後端の形(後に長い)など、現在の12号機関車とは微妙に異なるところもある。
しかし下の写真(明治後年)を見れば、ほぼ今の12号機関車であると分かる。
当時の機関車たちは、より扱いやすいようにいろいろ改修・改造など、手を加えられたようだ。
しかし性能素性のよかったこの機関車は、ほぼ原型のまま使用されたらしい。
これはもう紛れもなく明治村12号機関車の現役時代の姿そのものだ。

「日本蒸気機関車史」(交友社)から転載
鉄道開業(1872)当時、新橋-横浜間の営業用には、5種10両の機関車が配備された。
その中の第1号機関車(前述)は、現在東京「交通博物館」に鎮座しているが、
その1号機関車を含め数両の機関車はなぜか、原型を留めぬほど改造を施されている。
その点この明治村・12号機関車は、原型をよく留めていることで第一級の産業記念物と言われる。
そればかりか誕生から130年を経た現在、
「動態保存」であり、しかも「今も毎日"営業運転"されている」という点は、
まさに驚異的であり、「驚嘆!」するほかはない。
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◆12号機関車ナンバーの変遷
この23号機関車、尾西鉄道へ移籍後12が附番されたことは既述の通りだが、
身売りされる直前は23号ではなく165号だった。
実は蒸気機関車の番号体系は、鉄道開業から明治末期までに二度改められた。
最初の改番は1875(明治8)年。
このとき関東と関西の二地域で奇数・偶数を使い分ける番号体系となり、
23号と同時輸入された22号は、このとき21号に改番された。
しかし元々奇数番だった23号はそのまま23号を踏襲することになる。
二度目の改番は1909(明治42)年。
この時、Sharp Stewart製の6両(開業時の4両+増備2両)は160型と型式分類され、
21号は164号、23号は165号へと改番された。
明治村12号機関車はこの165号が現在に生き永らえたものだ。
ところで昨2003年、中部産業遺産研究会の手によって、
12号機関車のナンバープレート上に、
なんと「165」号の痕跡が遺されていることが発見された!
12号機関車のナンバープレートは、「165」の文字を削り落として、
その上に「12」をロウ付けして製作したものだったのだ!

12号ナンバープレート(オリジナル、博物館明治村所蔵)
(2004.2.21 中部産業遺産研究会シンポジウムにて)
この写真に「165」の痕跡を読み取っていただけるだろうか。
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◆鉄道開業の頃の横浜
こちらは現在の横浜・桜木町駅の南側にある「鉄道発祥記念碑」。
鉄道開業当時の初代横浜駅の位置にある。
この碑には、初代横浜駅正面外観や仮営業開始当時の時刻表などが刻まれている。
鉄道発祥の地 記念碑 (2003.8.14 横浜)
日本の鉄道営業は明治5年9月(1872年10月)の「新橋−横浜」間から開始したことはよく知られているが、
正しくはその4ヶ月前の「品川−横浜」間の仮営業開始が最初だ。
仮営業は明治5年5月7日、横浜−品川(新橋ではなく)間をノンストップ35分、1日2往復で開始した。
その最初の時刻表は朝8時横浜発から開始している。
文明開化のころ、西洋の「文明の利器」の多くが横浜港から怒涛のごとくなだれ込んできた。
鉄道機材・資材の輸入陸揚げももちろんで、
したがって、鉄道建設工事も横浜から北に向かって進んでいった。
「仮」とはいえ、「高額運賃」であれ、
実質一般庶民相手の「営業運転」を始めたのは「横浜−品川」間だったのだ。
上掲の記念碑は、国の史跡にも鉄道記念物にも指定はされていない。
しかし横浜のこの地が、「鉄道発祥の地」と誇る意味は深い。
日本の鉄道は横浜から始まったのだ。
明治初期の横浜駅
ところで最初の時刻表で面白いのは、犬の運賃二十五銭とある。
当時外人頼みの鉄道運営が、ペット好きな外人の風習に配慮したためという。
また、最後の1行には、
「吸煙車の外は煙草を許るさす」
つまり、喫煙車以外でタバコを吸ってはいけない、というわけだ。
分煙が最初からなされていたとは驚きだが、「禁煙」をメインに立てている点になお感心。
翌6月からは神奈川、川崎の途中2駅も加え、1日6往復に増便。
そしていよいよ同年9月12日(新暦10月14日)から、
横浜(現桜木町)-新橋(現汐留)間、1日9往復体勢で本営業を開始したのだ。
◆当時の様子を伝える錦絵
下の錦絵は本開業間もない頃に描かれた、横浜駅から出発しようとする陸蒸気の様子。

「濱往返鐵道蒸氣車ヨリ海上之圖」 三代広重画(明治7年)
鉄道開業当時の横浜駅は現在の桜木町駅の位置にあった。
そこは、当時海に面していた野毛山の前海を埋立てて造成した埋立地だった。
この絵の背景は当時の横浜港。 右向こうに張り出した丘は山手だ。
この絵の機関車(拡大)は明治村12号機関車ではないが、モデルチェンジ前の同型機関車を描いたもの。
(唯一明確な違いは煙突直後の蒸気ドームの有無)
12(23)号デビュー当時は文明開化最先端の寵児として、このように華々しい姿で営業運転をしていたはずだ。
因みに、この時代すでに写真機はあったが、1枚を撮るのに何分もかかる湿板式の時代だ。
外で気軽にスナップを撮れるような普及時代ではなく、記録はまだまだ浮世絵・錦絵が全盛の時代だったのだ。
◆明治村12号機関車グッズ
この時刻表は12号機関車が輸入され、デビューした明治7(1874)年6月の改正時刻表である。

「明治七年六月十五日改正 時刻表」 鉄道寮(明治村復刻版 \350)
上下とも1日12本。
新車両の導入で増便改定したものだろう。
横浜-新橋間を58分で結ぶ。現在の神奈川は「金川」と書かれている。
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チョロQもあるでよ(明治村\1200)
なお、この12号機関車については、元大井川鐵道株式会社顧問白井昭氏が、
http://www15.plala.or.jp/hidekih/12.htm
に、その存在意義、蒸気ドームの有無やボイラーのことなどについて、
興味深い事柄を述べられている。
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<参考文献>
「絵とき 横浜ものがたり」 宮野力哉(東京堂出版 2001)
「東海道線130年の歩み」 吉川文夫(グランプリ出版 2002)
「決定版 日本の蒸気機関車」 宮澤孝一(講談社 1999)
「古写真で見る 明治の鉄道」 原口隆行(世界文化社 2001)
「時刻表百年の歩み」 三宅俊彦(成山堂書店 1996)
「博物館明治村ガイドブック」 (明治村 1999)
「鉄道史録 走れ陸蒸気」 松本剛(大正出版 1972)
「日本鐵道史」(鐵道省 1921)
「日本国有鉄道百年史」(日本国有鉄道 1971)
「日本蒸気機関車史」 金田茂裕(交友社 1972)
「明治の機関車コレクション」(機芸出版社 1968)
「日本の蒸気機関車のすべて」(毎日新聞社 1997)
「汽車のえほん」 W.Awdry作/C.R.Dalby絵、桑原・清水訳(ポプラ社 1973-1987)
「日本国有鉄道百年写真史」(日本国有鉄道 1972)
「錦絵 幕末明治の歴史」 小西四郎(講談社 1977-1978)
「明治鉄道錦絵」 鈴木重三(交通協力会 1971)
「鉄道記念物の旅」 中川浩一(クオリ 1982)
「100年の国鉄車両」(日本国有鉄道 交友社 1974)
サヨナラ国鉄(毎日新聞社 1987)
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2003.8.16-2004 4.18