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©Toshio Koide 2001 (August, 8th)

次世代マルチホップ無線ネットワークの構築へ向けて

小出 俊夫 (創価大学大学院 工学研究科)

 

1. はじめに

近年の携帯電話の普及をみても明らかなように,コミュニケーションは場所に制約されずにいつでもどこでも行いたいということが,世界の人々の欲求といっても過言ではない.しかし,電話を基本とする無線通信は,電話と基地局の間だけが無線化されているだけで,その他は基本的に有線であり,その有線インフラを整備には莫大なコストがかかる.さらに通信の内容は,日本国内においても音声よりもデータの割合の増加が著しくなってきており,電話のような回線交換型ではない,データ通信を行うことに最適化された無線インフラの構築を行う時期がきていることは否定できない.

そのネットワークの形態として,マルチホップ無線ネットワークが注目を浴びてきている.本ページでは現在の製品による「アドホックネットワーク」の構築を紹介し,次世代のマルチホップ無線ネットワークの概念と,現在行われているシステム技術としての研究を紹介し,今後の課題を述べる.(あくまで本論文はこれからの研究のための小出俊夫個人のメモ的存在であり,学会に発表できるようなすばらしいものではありませんのであしからず)

2. マルチホップ無線ネットワークとは

まず,マルチホップ無線ネットワークは,普通のネットワークと比べて何が違うのか,特に何が利点なのかを述べたい.実は「マルチホップ無線ネットワーク」という言葉は,一般に広く使われている言葉ではない.かといって,これから説明しようとしているネットワークの形態を一言で表す広く認知された言葉が存在しているわけでもない.しかし,ここでこのネットワークの形態を定義する言葉をはっきりと決めておかなければ,今後の議論がスムーズに進まないので,本文中では,「マルチホップ無線ネットワーク」と呼ぶこととする.

通常,インターネットやイントラネットなどの,主に有線で構築されるネットワークと比べ,マルチホップ無線ネットワークはその名の通りネットワークを接続する線がなく,ケーブルの配線などの問題から開放されるため,非常に柔軟性の高い,しかも設置の容易なネットワーク構築が可能となる.

3. 現在の無線LAN製品におけるアドホックネットワーク

マルチホップ無線ネットワークの一形態としての「アドホックネットワーク」は,すでに多く出回っている無線LANの標準規格であるIEEE 802.11, 802.11bに準拠した製品を使用して構築することが可能である.

最近は非常に安価になってきており,11Mbps(IEEE802.11b)対応のPCカードが1万円程度で購入でき,一時期の10万円以上していた頃のものと比べても,柔軟で高速な無線ネットワークを構築することが可能となっている.

現在の標準的な無線LANの製品では,「アクセスポイント」と呼ばれる中継局を中心として,無線LANのネットワークカードとが一対一で通信してネットワークを構築する,インフラストラクチャモードを基本としているが,そのような中継局を持たない,無線LANカードのみでネットワークを構築する,アドホックモードも利用可能である.アドホックモードでネットワークを構築すれば,今までネットワークに対して魚と水のような関係であったケーブルから開放され,まったくケーブルを使わないネットワークが構築できるようになるのである.

しかし,このように構築されるネットワークでは,その最大半径が限られていたり,ネットワークの利用効率が極端に落ちる問題など,現実にはいろいろな問題が山積している.

4. 次世代のマルチホップ無線ネットワークの概念

次世代のマルチホップ無線ネットワークでは,現在のインターネットの枠組みにとらわれることない,抜本的な改革が迫られている.特に,以下に挙げるものはぜひとも実現したい概念として提案したい.

  • 基地局を必要としない
    すべての端末が一つの基地局によって管理される形態ではなく,それぞれの端末によって自律的にネットワークが構築されるべきである.
  • 移動が可能である
    無線であるメリットは,ネットワークの構築が容易性よりもむしろ,移動が可能であることである.そのため,ネットワークアーキテクチャは端末の移動も考慮したものでなければならない.
  • ネットワーク半径が制限されていない
    現在のネットワーク半径の制限の問題は,アドホックモードであっても,実質的には一つの端末が基地局のような役割を果たしていることに由来する.電波の届かない端末同士も,その間にいる端末がデータを転送することによって通信を可能とするべきである.
  • IPによらない端末の識別,通信を行う
    IPアドレスは,ルーティングの仕組みやサブネットの切り分けの方法など,端末の移動にそぐわない概念があまりにも多すぎるため,マルチホップ無線ネットワークで利用することは適切ではない.ただし,利用できる概念と思想は受け継ぐことが望ましい.

この他にも電源の問題,セキュリティの問題などさまざまな問題があるが,最低限必要なものとして(最後のIPに関する問題は重要ではないかもしれないが)述べさせていただいた.

5. 現在行われている研究

上にあげたマルチホップ無線ネットワークの概念と類似するアーキテクチャを実現しようとする研究が,各研究機関や大学においてなされている.以下にその一部を取り上げる.

  • IETF Manet ワーキンググループ
    本家ではMANET(Mobile Ad hoc Networking (or Networks)) ワーキンググループにおいて,ローミングを基本とするMobile IPとは別個に,無線ノードのみによって構築されるロバストなネットワークを実現するための活動を行っている.
  • 日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所
    重要性の低い通信を行うことを前提とし,Bluetoothを用いたマルチホップ無線ネットワークを形成する仕組みとして,GinJo(Geographical interactive network for Jumping objects)を開発している.
  • ATR環境適応通信研究所
    同研究所で提案している「アダプティブアンテナ」を使い,任意の方向へ電波を飛ばすことによって電力を節約するほか,その特性を生かしたルーティングの研究などを行っている.
  • NTT未来ねっと研究所 ワイヤレスシステムイノベーション研究部
    ルートが切断されたときのために,複数のルートであらかじめデータを送信しておく,マルチルート構築法を提案している.
  • 新潟大学工学部
    次世代の無線アドホックネットワークとして「ユニバーサル・アドホックネットワーク」を提案し,そのコンセプトのもとで,さまざまな観点から研究や実験を行っている.
  • 東京大学工学系研究科
    ノードの多様性(通信半径や移動頻度,電力供給)を考慮したルーティング手法であるSARAH(Stability Adaptive Routing in Adhoc Networks of Heterogeneous Networks)を提案,研究している.

6. 研究のネタ探し(今後の課題)

無線アドホックネットワークの研究の進められ方として,現在のインターネットの延長線上のものとして考えられていることが多い.しかし,有線と無線はまったく違う性質がある.その違いを表にする.

  有線 無線
物理的コスト 端末とリンク(ケーブル) 端末のみ
ノードの移動 ほとんど移動しない 固定的な利用法もあるが,ほとんどは頻繁に移動
連結度 インフラ整備(ケーブル敷設)のためのコストがかかるため,ネットワークの連結度は低い 圏内のノードとはすべて直接通信が可能なため,ネットワーク全体の連結度は非常に高い
通信障害 ケーブルによる接続なので,接続の物理的切断は少ない.基本的に双方向の通信が可能である ノードの移動により,直接通信できるノードが時々刻々と変化し,今まで通信できたノードと通信できなくなる可能性がある.電波の強度の違いにより,片方向にしか通信できない場合もある
電源 安定していて,不足することはほとんどない 電池による供給がほとんどで,充電しなければそのうち使用ができなくなる

少し考えてみただけでも,これだけの違いがあり,この表を見ただけでも,無線アドホックネットワークを現在の有線を前提としたアーキテクチャの延長線上のものとして考えることがいかに危険なことであるかが分かるであろう.

これらの違いから,無線特有の課題,研究のネタがいくつか見えてくる.

  • 無線に特化した効率的なマルチホップのマルチキャストアルゴリズム(最短路問題を解く分散アルゴリズムの応用がつかえるかも?)
  • 電池のもち具合や電波の強度によって,動的に経路を変えたり,複数の経路を選択して同時に通信するルーティングプロトコル
  • 移動する速度と方向を物理的位置ではなく,周りのノードからの電波の強度のみで判断し,最適なルートを見つけるルーティングプロトコル
  • 有線とのゲートウェイとなるアクセスポイントとの通信の問題(と,理想的なゲートウェイの配置問題とか)
  • サブネット,コミュニティの切り分け方法と階層型ルーティングプロトコルへの応用
  • 無線アドホックネットワークのための,ロバストなネットワークアーキテクチャ

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